電流と電荷のパラドックス(問題編)

 最後に、少し難しいパラドックスを紹介しましょう。

 磁場があるとき、電荷(電気を持った物体)が運動していると、

(電気量)×(速度)×(磁束密度)

で表される力がはたらくことが知られています
 その働く力の向きは、フレミングの左手の法則で決まります(図の「電流」の向きはプラス電荷の動く向きです)。

 ということは、「止まっている電荷」には、磁場から力がはたらくことはないわけです。

  電流が流れている導線から少し離れたところに静止したプラス電荷がいるところを考えましょう。導線には流れている自由電子(−電荷)がいるが、静止している金属イオン(+電荷)もいて、全体として電荷は中和してます。ゆえに導線のまわりに電場はありません。電流があるから磁場はあるが、磁場は止まっているプラス電荷に力を及ぼすことはないので、このプラス電荷は力を受けません。

 ここで、流れている電子と同じ速度で移動しながらこの現象を見たとしましょう。電子は止まってしまうが、金属イオンは逆に動き出すので、やはり電流は流れている。故に磁場はやはり発生している。今度は外においてあるプラス電荷は動いている。磁場中を動く電荷は力を受けるので、この立場で考えるとプラス電荷には力が働く。

 しかしこれはおかしい。導線にプラス電荷が近づくのか、そうじゃないのかは、見る人の立場によって変わったりはしないはずだ。

ローレンツ変換でなんとかならないの?と思う人がいるかもしれないが、ローレンツ変換は運動方向に起こるものだが、ここでは発生するかもしれないと心配している力は、運動と垂直な方向だ!

 さて、はたして電子に力は発生するのか、しないのか??

 余談ながら。電流の中の電子と同じ速さで走ることってできるの??と思う人もいるかもしれませんが、実は電流の中の電子の速さは秒速1ミリ以下ですので、簡単すぎるぐらい簡単です。

 解答は、次のページにあります。