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いろもの書評・感想:架空戦記

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伊吹秀明「冥海の鋼鉄葬」

2002年4月10日初版発行 歴史群像新書 ISBN4-05-411641-3

 「これってSFか?」とか「これって架空戦記か?」とか言われるとちょっと迷う。平たくいえば「オカルト架空戦記」ですか。いやそれじゃ「帝都物語」みたいか。

 小説のリアリティというのは当然現実のリアリティとは違うわけで、うまい作者がうまく書くと、「消滅したはずの艦隊が太平洋にその不気味な姿を現し、その砲口を米艦隊に向けた。」(腰巻より引用)なんて話でもちゃんとその世界の中でのリアリティというものを獲得する。この本は、小説世界の設定が幻想的なその分、登場人物がみんな「普通の人々」なのがいい。その普通の人々のいろんな想い(たとえば終戦直後の日本人のやりきれない気持ちだったり、スプレイグ少将の恐怖の記憶だったり)がちゃんと書き込まれていてこそ、読者は非現実が起きてもいいような気持ちになれる。と言うよりむしろ、作中の淡々と描かれていく陰鬱な現実より、それに平行して出現していく非現実の方が、読者にとってはより実現して欲しいと思わせてしまう、作者の持っていき方がうまいのかな。そういえば、架空歴史ものと分類されながら中身は全然そうじゃない「高い城の男」(P・K・ディック)もまた、普通の人々が非現実の中に住んでいる話でした。持っていき方は全然違うんだけど。

 一つの情景画が書き終えられるように静かに終わるので「え、もう終わり?」という感じはちょっと残ったが、そこまででこの作品世界に乗せられてしまっていたので、この静かな終わりもまたよし、と思えた。そんなふうに乗せられやすい人にはお勧め。

 「ゴジラは戦没者の残留思念が具現化したものだ」と台詞で言わせただけに終って、映画のリアリティを構築するという作業をちゃんとしてなかったあの映画にはぜひ見習って欲しいものだ…なんて書くのはこの本に対する感想としては蛇足だな(と言いながら書いちゃったけど)。


林譲治「太平洋決戦1942 修羅の珊瑚海海戦」

2002年3月29日初版発行 経済界 ISBN4-7667-3069-0

 「本書の珊瑚海海戦で史実と変えてあるのは一点、飛行艇から送信された米艦隊の情報をMO機動部隊は正しく迅速に受信したというところだけだ」と後書きには書いてあるんだけど、なんのなんの、実に怪しい参謀を第五航空戦隊にもぐりこましているじゃないか。

 お話はこの珊瑚海海戦が上に書いた改変および怪しい参謀小早川毅(と書くとどうしても野球解説者の小早川毅彦を思い出してしまうな)の力で大勝利に終わり、あっさりとポートモレスビー攻略が成功してしまうところまで。次のミッドウェー海戦も普通には済みそうにありませんな。GFにも脇坂なる怪しい参謀がいて、この二人、その妙な知識の持ち方からするとなんらかの形で実際にはどういうふうにこの戦争が進んだかを知っている様子。戦闘の部分よりも、その前にどう情報を得るか、また敵にどのような情報を与えるかという部分により彼らによる歴史改変(なのかな?)の力が入れられているのが、この作者の持ち味がよく出ている。しかし次のミッドウェー海戦は彼らが知っている実際の状況とは違う状況で戦われるはずなので、はたして小早川や脇坂はその状況でもよいプランナーたり得るのか、そこが次の巻どうなるか、楽しみである。もっともこの二人の目的が何なのかはまだ全然わからない。あるいはこの二人が別々の目的を持っているということもありそうだ。

 ところで第五航空戦隊と連合艦隊の間の通信が平文になっていて、アメリカ軍はこれを日本軍のたるみと判断し、小早川はGFの罠と判断する、というところがあるが、この平文通信の方向、小早川に言わせるとGF→五航戦、アメリカ軍に言わせると五航戦→GFとなっている。これは小早川が嘘ついて原司令官をその気にさせたということですな。さてこの辺の悪巧みがうまく効を奏するのかどうか。

 まぁ、1作めではまだまだ話が始まっていないような感じ。作者の意図するテーマがどんなふうに描かれていくかは、この後のお楽しみの部分が多いのかな。


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