この自然科学のための数学I・IIでは、高校までに比べて難しい数学をたくさん使うことになります。「数学は苦手だ」とか「こんな数学なんて使いたくないのに」とか思う人はきっと多いと思う。しかし、数学は必要なのです!
高校までは、物理でも化学でも生物でも地学でも、それほど難しい数学を使わなくて済みました。しかし、今後はそうはいかないということを覚悟しておいてください。難しい概念を扱うには、数学を使った方が楽になるということもあります。
それに、数学は自然科学にとっては全世界の共通言語です。日本語をしゃべる人も英語をしゃべる人も、自然科学をする時には「数学」という言葉を使って会話する。だから、理学部の学生である以上数学を嫌うわけにはいかないのです。
そこで、皆さんに数学が得意な人になってもらうために、数学とつきあうためにどうしていかなければいけないかを書いておきます。
まず心に留めておかなくてはいけないのはこの点です。自然科学者が(いっけん難しく見える)数学を使う理由は「使った方が簡単だから」なのです。「なぜこんな式を使うんだろう?」ということを手がかりに考えていこう。「なるほど、こういう利点があるからこういう式を使うのか」ということがわかれば、難しげに見える式にも親近感が持てます。最初から毛嫌いせずに「新しく出てきたこれはどう役に立つのだろう?」という前向きな気持ちで学習していこう。
世間では「数式は頭のいい人が使うもの」と思われているようです。だが実はそうではありません。天才ならば、数式を使わずに難しい自然科学が理解できます。でもそんな天才は世界に一握りしかいません。むしろ、「天才ではない人でも自然科学がわかるための道具」が数式だと思いましょう。
数式だけ見てもイメージが湧かない、という人は多い。この講義では、できる限り数式と図形などのイメージを並列して話していくつもりです。また、数式を使うにしても計算のやり方はいろいろあります。数式でわからない人は図形で理解しよう。図形でわかりにくい人は数式で理解しよう。一つの概念を理解するには、それをいろんな方向から見ることが大切です。どういう説明がわかりやすいかには個人差があるようです。一つの方法でわからない時は他のアプローチをとろう。いろいろやっているうちに自分に適した理解方法が見つかる。
「授業に出ているからこれで大丈夫」などとは決して思わないこと。これに加えて、自己学習をみっちりしなくてはダメ。数学の力がついていく過程は、スポーツや音楽の場合と同じです。あなたたちが大天才なら別ですが、そうでないのなら「自分の手で計算し、鍛錬する」という手数を踏まなくては数学ができるようにはなりません。素振りをせずにプロ野球選手になった人も、バイエル練習曲を弾かずにピアニストになった人も(大天才を除いて)いません。「先生の話を聞いているとわかるんですが、実際に問題を解こうとするとわかりません」という人は多いです。こうなる理由は一つ、練習不足です。簡単な問題からでいいので、自分で手を動かして計算し、自分で図を書いてみよう。人の話だけ聞いてわかった気になっていると、絶対にどこかで行き詰ります。
自分があることをわかっているかどうかを判定する、もっともよい方法は、「それを人に教えられるか?」ということです。人に教えられないということは、自分の理解に何かが不足しているということです。数人で集まって自主ゼミ(一人が先生役になって教科書等を読む)などをすると、とっても効果が上がります。
自然科学の勉強は、勉強したら勉強した分わかるかというと、そうはなっていません。「勉強しても勉強してもちっとも理解が進まない」時期があるかと思えば「最近勉強してないな、と思って教科書開いてみたらあら不思議。前に読んだ時にわからなかったことがすらすらわかる」時期もあります。成果があがらないような気がしても、我慢して続けていれば「すらすらわかる」時期が必ずやってくる。あきらめるな。
自然科学の勉強は難しい。しかし、だからこそやりがいもあるし、わかった時の喜びも大きい。
自然法則を数学を使って表現しその関係を探るというのが本講義の目的であるが、この章では(今後何度となくお世話になる)「関数」の例を示し、次の章で微分を、さらにその先で積分を考えるための準備をしよう。
自然科学を探求していくとき、
を調べていかなくてはいけないことがよくある。この「AからBへの関係」(A→B)のことを「関数(function)」英語のfunctionは「機能」とか「作用」のような意味を持っている。と呼ぶ。「数」に限らず「何かを入力(インプット)したら何かが出力(アウトプット)される」働きを持っていればそれは「function(関数)」と呼んでも良いコンピュータ言語においても「関数(function)」という言葉があるが、コンピュータ言語における関数には「出力(アウトプット)がない関数(void関数)」もある。。数学的な意味で「関数」と言う時は数(もしくは数で表現できる量)を相手にしていることが多いが、数学だからと言って「数」を扱っているとは限らない。
この変化させる数を「変数(variable)variableという言葉は「変化させることができるもの」という意味になる。」と呼ぼう。まず最初に変化させるある量Aは「独立変数(independent variable)」、それに応じて変化するある量Bは「従属変数(dependent variable)」と呼ぶ英語の「depend」は「依存する」だから、「従属変数(dependent variable)は何かに依存して変化する量、という意味を持つ。independentはその反対。。独立変数は文字通り独立に、好きに選ぶことができて、それに応じて従属変数の値が決まる、という意味を持たせたネーミングである実はある量が独立変数なのか従属変数なのかは、状況によって違う。たとえば実験する時には、1つの量を変化させつつもう1つの量を測る、ということを行うが、どの量を変化させるかは実験の状況に応じて変わる(変えることができる)。。
互いに関係のある量を計測する実験を何度も行うことによってし、それぞれの間にどのような法則があるかを求めていこうとすること、それが自然科学の始まりである。自然科学で計測するものは数であることが多いので、「ある数→また別のある数」という対応関係(「関数」)を調べていくことが多くなるのは必然的である。
高校までの数学では独立変数にx、従属変数にyを使うことが多いが、これは別にそうでなくてはいけないというものではない。文字に何を使うかというのは全く本質ではない。
xとyに「xを1つ決めればyが1つ決まる」という関係があるとき、「yはxの関数だ」と言う。下のプログラムでその実例を見よう。
例を述べよう。
2番めの圧力と体積の例などは、圧力(独立変数)→体積(従属変数)と考える場合も、体積(独立変数)→圧力(従属変数)と考える場合もある(どちらを“独立に”コントロールできるかは気体の置かれた状況によるだろう)。
互いに関係のある量を計測する実験を何度も行うことによってそれぞれの間にどのような法則があるかを求めていこうとすること、それが自然科学の始まりだ。自然科学で計測するものは数であることが多いので、ある数→また別のある数という対応関係(「関数」)を調べていくことが多くなるのは必然的である。
高校までの数学では独立変数に${x}$、従属変数に${y}$を使うことが多いが、これは別にそうでなくてはいけないというものではない。文字に何を使うかというのは全く本質ではない。
では、以下のページでアニメーションを使って「関数」を勉強していこう。
ここで、いろんな関数の場合で「$x$を変えると$y$がどう変わるか」ということと、「パラメータaを変化させると関数がどう変わるか」を実感してもらった。
たとえば、y=axでaを変えると傾きが変わる。y=ax2でaを変えると曲がり具合が変わる。このようなパラメータと「線の形」の関係は、この後でも重要。
それぞれの関数の雰囲気を見ておこう。理学部の学生なら「指数関数で増える(減る)」とか言われたらここにあるexp(ax)のグラフが思い浮かぶようでないとダメである。「この授業の出席者は指数関数で減少する」のように使う。
逆関数のグラフは互いにどういう関係にあるか、を見よう。
このページでは、$y=x^n$の形(冪乗)の関数のグラフを見よう。
このことから、変数$x$が1より小さい範囲では、$n$が大きい項は重要度が低い(計算に大きく寄与しない可能性が高い)ということになる。これは自然科学でいろんな量を考える時、とても大事。
もちろん、逆に変数$x$が1より大きい範囲では、$n$が大きい項の方が重要になる。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。