今週は微分方程式の例について(前回やったものも含めて)説明していこう。

 燃料を噴射して飛ぶロケットの噴射した燃料の量と速度変化の関係は微分方程式から求めることができる。もし、我々が微分方程式というものを知らずにいいかげんな考え方をすると、次の動画のように考えてしまう。


右のボタンを押すと噴射が行われる→

噴射!
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 噴射!ボタンを押すといっきに燃料が噴射され、ロケットが加速する。どれだけの燃料を噴射するかはスライダーで変えられるので、変えて噴射して、を繰り返してみよう。
 下のグラフは速度変化だが、燃料の量を大きくすればどんどん噴射後の速度も大きくなることがわかる。

 ↑このプロセスを数式で考えると、「静止していた質量m0のロケットが質量m'の推進剤(燃料を燃焼させた結果であるガスなど)を速さwで後方に噴射した。噴射後のロケットが速さVになる」という場合の運動量保存則から、

\begin{equation} 0=(m_0-m')V +m'\times (-w) \end{equation}

が成り立つ。結果として、V={m'\over m_0-m'}wとなるが、これは「大間違い」なのだ。

 上の「大間違い」は何が間違いなのかというと、ロケットの質量も速度も連続的に少しずつ変化していく量なのに、まるで一気に変わったかのように考えてしまったことである

 次の動画で、10段階に分けて噴射した場合を実感しよう。


噴射した量は、ロケット本体の何倍か?を、↓のスライダで決定する。

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 ここで、「どうして10分割して噴射すると、いっきに噴射したときより遅くなるのか?」という点を考えてもらった。
噴射する燃料が少なくなるから力も弱くなるのでは?
確かにそうなんだけど、それだと「{1\over 10}の質量を噴射したから力が{1\over10}になったんだとすると、10回噴射すれば{1\over 10}\times 10=1で元と同じでは??」と反論されそう。
空気抵抗とか考えると、加速が終わるまでに走る距離が短いほうがいいのでは?
これも一理ある意見で、実際にロケット打ち上げの時には周りに空気あるから考える必要は大ありなのだけど、ここでは空気抵抗なしで考えよう。
最初に噴射するときは、後で噴射する燃料も一緒に加速しなくちゃいけないからでは??
そう、それが遅くなっちゃう大きな理由です。

ちなみに授業では触れなかったが、もう一つの理由は(後で出てくるように)「後から噴射する推進剤は速さwで後に噴射されるわけではない」という点があります。

 なお、現実的状況に近いのは10段階に分けた方で、いっきに噴射は現実にはできない。

微分方程式のありがたいところは、上に書いたような「どうしてこうなるのか」というややこしい考察をしなくても「狭い範囲の(localな)現象を考えて式をつくり、後は積分する」という方法で答えが出るところである。「localな式」を作るのは上のような考察をえんえんやるよりかなり楽である。

 そこで、(全体の変化を一気に考えるのではなくそのうちの一部を取り出して)微小変化について絵を描くと以下のようになる。

 図はすでにある程度噴射した途中の状態で、すでに速度{V}を持っている。この時の質量は最初のm_0に比べて少ない{m}(←変数!)になっている。微小時間後に、ロケットは質量{m}+\mathrm dmで速度{V}+\mathrm dVになっている。噴射された推進剤はwの速度で後方へ進むのではなく、速度w-{V}で後方へ進む(または「速度{V}-wで前方へ進む」)。既に速度{V}を持っているロケット見て「wの速さ」で後方に噴射されたのだから、wではなく{速度w-{V}}になる、と考えればよい。w-{V}<0の時、噴射剤は前方(!?)に進む。w={V}のとき、噴射された推進剤はその場に静止する(ロケットから見たら後方に動いている)。

ここで、\mathrm dmは「質量の変化量」であるから、今質量が減っていくという状況においては負の量であることに注意しよう---だからといって(気を利かせたつもりで)噴射後の質量を\textcolor[rgb]{1,0,0}{{m}-\mathrm dm}としてしまうのはよくある間違いで、やってはいけない。\mathrm dmなど\mathrm dのついた量はあくまで「変化量」であり、減る時は\mathrm dm<0であると考えていかないと、積分結果がおかしなことなってしまう。というより、変化量を+\mathrm dmとすることで、増えるなら\mathrm dm>0(減るなら\mathrm dm<0)になるように計算ができるようになっている。よって、噴射された推進剤は質量が-\mathrm dm>0なのだ。

 運動量保存則を考えると、

\begin{equation} {m} {V} = ({m}+\mathrm dm)({V}+\mathrm dV) -\mathrm dm ({V}-w) \end{equation}

となる。

↑これが「localな情報から得られる式」

この式を整理すると、

\begin{equation} \begin{array}{rl} \underbrace{{m}{V}}_{相殺→}=&\underbrace{{m}{V}}_{←相殺} + \underbrace{\mathrm dm {V}}_{相殺\atop →}+ {m}\mathrm dV +\underbrace{\mathrm dm\mathrm dV}_{高次の微小量} \underbrace{-\mathrm dm {V}}_{相殺\atop ←}+ \mathrm dm w \\ -{m}\mathrm dV=&\mathrm dm w \\ \mathrm dV=& -w {\mathrm dm \over {m}} \end{array} \end{equation}

となる。この積分結果は{V}=-w\log {m} +Cである。

 {m}=m_0(初期値)の時に{V}=V_0という初期条件を使うと、C=w\log m_0+V_0となるので、

\begin{equation} {V}=-w\log {m} +\overbrace{w\log m_0+V_0}^C = w\log\left({m_0\over {m}}\right)+V_0 \end{equation}

となり、速度変化{\Delta V}に関して

\begin{equation} \underbrace{{V}-V_0}_{{\Delta V}}=w\log\left({m_0\over {m}}\right) \end{equation}

が成立する。最終的にロケット全体の質量がm_1になったところで推進剤が尽きたとすると、最終的な速度変化は\Delta V=w\log\left({m_0\over m_1}\right)となる。

というような式を、積分さえ頑張れば得られるのが、微分方程式というもののありがたさなのだ。

 \delta=\left({m_0\over m_1}\right)という量この\deltaは変化量を表す\deltaではなく、「\delta」1文字で一つの数。は「質量比」と呼ばれる(文字通り、噴射前と噴射後の質量の比である)。グラフで分かるように、\deltaを大きくしても{\Delta V}はどんどん増えるというわけにはいかない(\log xという関数は傾き{1\over x}だから、傾きがどんどん緩くなっていく)。ロケットの性能を上げるには噴射速度w(これは燃料の質に大きく左右される)を大きくすることが大事であることがわかる。