ここまで学んだことで、たとえば、$A,B,C$を定数、$g(x)$が既知の関数として、 $$ \left(A\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^2+B{\mathrm d\over\mathrm dx}+C\right)f(x)=g(x) $$ という微分方程式を解く方法には迷わなくなったはず(「あれ、どうするんだっけ?」と思った人は勉強が足りない)。
というのは、このような線形非斉次微分方程式は、まず線形斉次にした、 $$ \left(A\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\right)^2+B{\mathrm d\over\mathrm dx}+C\right)f(x)=0 $$ を解いて一般解を求めてから非斉次方程式の特解を足せばよい、ということを知っているし、また斉次化したこの方程式は$f(x)=\mathrm e^{\lambda x}$と置くことで、 $$ A\lambda^2+B\lambda+C=0 $$ という二次方程式を解く問題に変わることも知っている。
というわけで今日はこういう問題を具体例で考えよう。
質量$m$の物体が$F$という力を受けるとき、物体の位置座標${x}$に関する微分方程式である運動方程式$m\left({\mathrm d\over\mathrm dt}\right)^2 {x}= F$が成り立つことが力学で知られている。この$F$が$-K{\mathrm d\over\mathrm dt}{x}$($K$は比例定数)のように${x}$の時間微分に比例する場合実際、速度が遅い場合の空気抵抗はだいたいこの式であっている。、すなわち、 \begin{equation} m\left({\mathrm d\over\mathrm dt}\right)^2 {x}= -K{\mathrm d\over\mathrm dt}{x}\label{FKv} \end{equation} という微分方程式が成り立つ場合を考えよう。
この方程式に${x}=\mathrm e^{\lambda{t}}$を代入すると、
\begin{equation} m\lambda^2 \mathrm e^{\lambda{t}} = -K\lambda \mathrm e^{\lambda{t}} \end{equation} となり、特性方程式は$m\lambda^2=-K\lambda$となる。この方程式の解は$\lambda=0,-{K\over m}$なので、 \begin{equation} {x}({t})= C_1 + C_2 \mathrm e^{-{K\over m}{t}} \end{equation} が解である。グラフは右に描いたようになり、積分定数の意味は、$C_1$が${t}\to\infty$での${x}$の値、$C_1+C_2$が${t}=0$での${x}$の値である。
この微分方程式の解は、ボールなどを床に転がした時この状況であればボールは水平に動くので、重力は運動とは関係ない。にどのようにボールが運動するかを表している。
初速度=
初速度=
この微分方程式の解は \begin{equation} {\mathrm d\over\mathrm dt}{x}({t})= -{K\over m}C_2\mathrm e^{-{K\over m}{t}} \end{equation} であるから、$C_1=v_0{m\over K},C_2=-v_0{m\over K}$のとき${x}(0)=0,{{\mathrm d\over\mathrm dt}}{x}(0)=v_0$になる。初速度に比例した距離だけ移動できることがわかる。「止まるまでの時間」は$\infty$である!とはいえ、速度は指数関数で急速に0に近づくので、見た目は止まったように見えるだろう。厳密に式の通りの運動が起こるのなら、「無限に遅い速度で永遠に動き続ける」ということになる。しかしここで扱っているのは理想化した状態で、実際には式に表した以外の力も働いている。。
運動方程式に重力$F=-mg$を加えて$-mg$とマイナス符号をつけるのは、図に書いたように上向きに${x}$軸を取ったから。、線形非斉次な方程式 \begin{equation} m\left({\mathrm d\over\mathrm dt}\right)^2 {x}= -K{\mathrm d\over\mathrm dt}{x}-mg\label{Fkvmg} \end{equation} にしてみよう。方程式を非斉次にしている$-mg$を消せばさっきの式になるが、その解はすでにわかっている。つまり斉次方程式の一般解は既に知っているから、非斉次方程式の特解を一つ見つけて足せばよい。
特解を見つける方法はいろいろあるが、ここでは「できるだけ式を簡単に」ということで「両辺が0になるのはどんなときかな?」と考えてみよう。左辺(二階微分)が0になるのは$x$が$t$の1次式なとき。そこで簡単な、${x}=v{t}$を試すと、$0= -Kv -mg$となるから$v=-{mg\over K}$とすれば${x}=-{mg\over K}{t}$という特解を得る。一般解は以下の通りである。 \begin{equation} {x}= \underbrace{C_1 + C_2 \mathrm e^{-{K\over m}{t}}}_{斉次方程式の一般解} \underbrace{- {mg\over K}{t}}_{非斉次方程式の特解} \end{equation}
二階微分方程式だから未定のパラメータ二つでちょうどよい。そのため、${x}$-${t}$のグラフで一点を指定しても曲線は決まらない。一点と、「その点での傾き(微係数)」を指定すると、曲線が一つ決まる。
結果はもちろん、特解$-{mg\over K}t$が足されるという形になる。よってさっきの場合は「静止状態」になっていったが、この場合は「等速運動」に変化していく。
初速度=
解答は簡単で、すでに斉次方程式の一般解は書かれているから、非斉次方程式の特解を探せばよい。
左辺が0になるのはどんな時かと考えるのがわかりやすい。
「左辺が0」ってのはつまり、力が0、すなわち「つりあい」を探しているということ。特解を考えるときはこんなふうに「物理的に簡単じゃ状況」を思い浮かべるとよい。
$0=-kx-mg$なので、$x=-{mg\over k}$とすれば右辺が0となり、これは定数だから二階微分しても0となり、特解になっている。
斉次の一般解+非斉次の特解として、
$x=A\sin(\sqrt{k\over m}t+\alpha)-{mg\over k}$
が解である。答としては、単振動の中心がずれただけ。
別の解法として、こういうやりかたもある。
ここで右辺が$-kx-mg$と非斉次な形だから解きにくかったわけだが、これを斉次な形(1次のみの形)にするにはもう一つ「平行移動する」または「座標原点をずらす」という手がある。具体的には、$-k\left(x+{mg\over k}\right)$と変形して$X=x+{mg\over k}$を新しい座標にしてしまうのである。こうすると、 $$ {\mathrm d^2\over \mathrm dt^2}X=-kX $$ という式になる(左辺は微分しているので、$X$と$x$の違いである定数は消えてしまう)。
こうして、原点ずらしで線形斉次な式にしてから解いて、$X=A\sin(\sqrt{k\over m}t+\alpha)$としてから$x$の式に戻せばs、全く同じ答えが出てくる。
物理的には「原点はどこにしても問題の本質は変わらない」ということを使って問題を解くという方法もあるというわけ。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。