先週やっていたのは、 \begin{equation} {{\mathrm d\over\mathrm dx}}f({x})+p({x})f({x})=q({x})\label{DEpq} \end{equation} という方程式であった。
これを解く方法として、 \begin{equation} \left( {\mathrm d\over\mathrm dx} +p({x})\right)\left(\mathrm e^{-P({x})}F({x})\right) =\mathrm e^{-P({x})}{\mathrm d\over\mathrm dx} F({x}) \end{equation} を使って$f(x)$の項を消去するという方法がある。
ここで$\int \mathrm dx p({x})=P({x})+C$すなわち$P({x})$が$p({x})$の原始関数の一つであるとすれば、微分${\mathrm d\over\mathrm dx}$の結果が${\mathrm d\over\mathrm dx}\mathrm e^{-P({x})}=-p({x})\mathrm e^{-P({x})}$となって、ちょうど$p({x})$の項を打ち消す項が出てきて \begin{equation} \begin{array}{rl} \overbrace{-p({x})\mathrm e^{-P({x})}F({x})}^{\tiny\left({\mathrm d\over\mathrm dx}\mathrm e^{-P({x})}\right)F({x})} + \mathrm e^{-P({x})} {\mathrm d\over\mathrm dx} F({x}) +p({x})\mathrm e^{-P({x})}F({x}) =&q({x}) \\[3mm] \mathrm e^{-P({x})}{\mathrm d\over\mathrm dx} F({x})=&q({x}) \end{array}\label{ddxkoukan} \end{equation} が解くべき方程式となる。
ここで「積分定数はいらないのか?」という疑問が湧くかもしれない。
しかし、まだ$F({x})$は決まってない量だから、$\mathrm e^{-C}$も含めて$F({x})$に入れてあると思えばよい。${\mathrm d\over\mathrm dx} P({x})=p({x})$になる関数を(いわば代表として)一つ見つければ十分である。
こうして、$p({x})$の原始関数$P({x})$を使うことで \begin{equation}\left( {\mathrm d\over\mathrm dx} +p({x})\right)f({x})=q({x})~~~\to~~~ {\mathrm d\over\mathrm dx} F({x})=q({x})\mathrm e^{P({x})} \end{equation} と式を書き直せたので、後はこれを解く。右辺を${x}$で積分することができれば \begin{equation} F({x})= \int \mathrm dx \left(q({x})\mathrm e^{P({x})}\right) \end{equation} となり、 \begin{equation} f({x})=\mathrm e^{-P({x})}\int \mathrm dx \left(q({x})\mathrm e^{P({x})}\right) \end{equation} が一般解である。この不定積分$\int \mathrm dx \left(q({x})\mathrm e^{P({x})}\right)$の結果を$G({x})+C$($C$は積分定数)とすれば、 \begin{equation} f({x})=\underbrace{ \mathrm e^{-P({x})}G({x})}_{ f'({x})+p({x})f({x})=q({x})\atop の特解} + \underbrace{C \mathrm e^{-P({x})}}_{ f'({x})+p({x})f({x})=0\atop の一般解 } \end{equation} となる。第2項が斉次方程式の一般解になっていることに注意しよう。
この式は$P(x)\to P(x)+C$と置き換えても変わらない式になっていることに注意。
では、練習問題として、 \begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+ 2{x}{y}= {x}\label{gaussx} \end{equation} を解いてみる。$p({x})=2{x}$だから、$P({x})={x}^2$とすればよい。$f({x})=\mathrm e^{-{x}^2}F({x})$と置くことで、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \left({\mathrm d\over\mathrm dx}+2{x}\right)\mathrm e^{-{x}^2}F({x}) &={x} \\ \mathrm e^{-{x}^2}{\mathrm d\over\mathrm dx} F({x}) &={x} \end{array} \end{equation} となるが、この式を$ {\mathrm d\over\mathrm dx} F({x})={x}\mathrm e^{{x}^2}$としてから積分すれば $F({x})= {1\over 2}\mathrm e^{{x}^2}+C$ となり、 \begin{equation} f({x})={1\over 2} + C\mathrm e^{-{x}^2} \end{equation} が一般解である。結果を見ると、${1\over 2}$の部分は非斉次方程式${\mathrm d\over\mathrm dx} f({x})+ 2{x}f({x})= {x}$の特解であり(代入してみよう)、$C\mathrm e^{-{x}^2}$の部分は斉次方程式${\mathrm d\over\mathrm dx} f({x})+ 2{x}f({x})= 0$の一般解である(これも実際に解いてみればわかる)。つまりこの場合は「斉次方程式の一般解と非斉次方程式の特解を足す」という解き方でも解ける。
ここで、前節での微分方程式の解き方を見直してみる。解を$y({x})= \left( G({x})+C \right) \mathrm e^{-P({x})}$と同類項でくくって考えてみると、${\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=0$の一般解である$y({x})=C \mathrm e^{-P({x})}$のパラメータである定数$C$が、$C\to G({x})+C$のように置き換えられた形になっている。従ってこの方程式は、以下の手順で解くこともできる。
まず${\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=q({x})$の右辺を0に置き換えた $ {\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=0 $を解いて${y}=C \mathrm e^{-P({x})}$という解をみつけたのち、定数$C$を$C({x})$のように変数に換えると、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \left( {{\mathrm d\over\mathrm dx}}+p({x}) \right)\left( C({x})\mathrm e^{-P({x})} \right) =q({x}) \\ \mathrm e^{-P({x})}{\mathrm d\over\mathrm dx} C({x})= &q({x}) \\ \end{array} \end{equation} という式が出るから、後はこれを解いて$C({x})$を求める。
定数なのに変化させるとはおかしな名前であるが、ここで説明した計算法は、
以下の微分方程式を解け。解き方は
のどれでも構わない(もちろんこれ以外でもいいが)。
解答の前に「どのやり方で解いた?」と聞いてみた。1.については「非斉次の特解:$P(x)$:定数変化」が1:1:3ぐらい。2.については0:1:3ぐらい、と定数変化法で解いていたのが多かった。
答は以下の通り。
${\mathrm dy\over \mathrm dx}-y=1$は、特解を求めるのが楽であろう。というのは、$y=-1$という定数が解になるからである。斉次にした方程式${\mathrm dy\over \mathrm dx}-y=0$も、これまでも解いてきた式だから$y=C\mathrm e^x$とすぐにわかる。よって解は、 $$ y=C\mathrm e^x-1 $$ である。
定数変化法で解くと、$y=C\mathrm e^x$と解いた後に定数$C$を置き換えて$y=C(x)\mathrm e^x$として、 $$ \begin{array}{rl} {\mathrm d\over \mathrm dx}\left(C(x)\mathrm e^x\right)-C(x)\mathrm e^x=&1\\ {\mathrm dC(x)\over \mathrm dx}\mathrm e^x+C(x)\mathrm e^x-C(x)\mathrm e^x=&1\\ {\mathrm dC(x)\over \mathrm dx}\mathrm e^x=&1\\ {\mathrm dC(x)\over \mathrm dx}=&\mathrm e^{-x}\\ C(x)=&-\mathrm e^{-x}+D\\ \end{array} $$ となるので、答は$y=-1+D\mathrm e^x$。
$p(x)=-1$と考えれば$P(x)=-x$であるから、解は$y=\mathrm e^{-x}F(x)$となる。これを代入して計算する(この後の計算方法は定数変化法と同じ)。
${\mathrm dy\over \mathrm dx}+y=\mathrm e^{-x}$は、まず斉次化すると、${\mathrm dy\over \mathrm dx}+y=0$となって、解は$y=C\mathrm e^{-x}$となる。定数を変数に置き換えて、 $$ \begin{array}{rl} {\mathrm d\over \mathrm dx}\left(C(x)\mathrm e^{-x}\right)+C(x)\mathrm e^{-x}=&\mathrm e^{-x}\\ {\mathrm dC(x)\over \mathrm dx}\mathrm e^{-x}-C(x)\mathrm e^{-x}+C(x)\mathrm e^{-x}=&\mathrm e^{-x}\\ {\mathrm dC(x)\over \mathrm dx}\mathrm e^{-x}=&\mathrm e^{-x}\\ {\mathrm dC(x)\over \mathrm dx}=&1\\ C(x)&=x+D \end{array} $$ となるので、答は$y=(x+D)\mathrm e^{-x}$。
半分ぐらいの人はスイスイと解けていたが、手が止まってしまっている人もいた。このあたりは基本中の基本なので、手が動かない人は訓練不足である。
こういうのは経験値の差というか「慣れ」です。ある程度訓練すると、手も動くようになるし、自動的に解けていくようになります(まるで「紙と鉛筆が考えてくれる」ように)。練習しましょう。
\begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dx}+p({x}){y}=q({x}){y}^n\label{BDE} \end{equation} という一階微分方程式は、${y}^n$を含むから非線形であるが、変数を変えることで線形な方程式に直すことができる。まず両辺を${y}^n$で割ると、 \begin{equation} {y}^{-n} {{\mathrm dy\over \mathrm dx}}+p({x}){y}^{1-n}=q({x}) \end{equation} となる。これを見て、${z}={y}^{1-n}$を新しい変数にすればいい のでは、と気づく。というのは、${z}$を${x}$で微分してみると、 \begin{equation} {\mathrm dz\over \mathrm dx}= {\mathrm d\over\mathrm dx} {y}^{1-n}=(1-n){y}^{-n}{\mathrm dy\over \mathrm dx} \end{equation} となることから\式{BDE}の第1項は${\mathrm dz\over \mathrm dx}$に比例している。こうして\式{BDE}を \begin{equation} {1\over 1-n} {\mathrm dz\over \mathrm dx} +p({x}){z}=q({x}) \end{equation} と書き換えることができてこの計算は$n=1$ではできないが、その場合は線形微分方程式なのだからこんなことをしなくてもよい。、${z}$を従属変数として解けばよい。
前に考えた流行の方程式 \begin{equation} {\mathrm dy\over \mathrm dt}=k{y}(1-{y}) \end{equation} は$p({x})=-k,q({x})=-k$で$n=2$の場合のベルヌーイ型微分方程式なので、${z}={1\over {y}}$とすることで、 \begin{equation} -{\mathrm dz\over \mathrm dt}-k{z}=-k \end{equation} という式に直すことができる(逆にこの式に${z}={1\over {y}}$を代入すれば元に戻る)。
もちろんこの方法は\式{BDE}という特定の形の微分方程式(あるいは整理してこの形に直せる式)の時にだけしか使えない。
どうしても線形に直すことができないような微分方程式は、近似を使って解く場合もある。
一般的に、 \begin{equation} \left({\mathrm d\over\mathrm dt}\right)^2 x(t)=F({x}) \end{equation} のような式で、$F({x})$がある点$x_0$で0を取っているとすると、$F({x})$を \begin{equation} \underbrace{F(x_0)}_{0}+F'(x_0)(x-x_0)+\underbrace{{1\over 2}F''(x_0)(x-x_0)^2+\cdots}_{無視する部分} \end{equation} のようにテイラー展開を使って線形な式に直してしまうことができる(もちろん、$F''(x_0)$以降の項が無視できるほど小さいかどうかは吟味する必要がある)。
例として、振り子の運動方程式は \begin{equation} mL\left({{\mathrm d\over\mathrm dt}}\right)^2 {\theta}= mg \sin{\theta} \end{equation} である。右辺の$\sin{\theta}$はもちろん非線形であり、このまま解くのはたいへん難しい。そこで、${\theta}-{{\theta}^3\over3!}+\cdots$のようにテイラー展開して考えて1次の項のみを取る。 \begin{equation} mL\left({{\mathrm d\over\mathrm dt}}\right)^2 {\theta}= mg {\theta} \end{equation} として解けば、後は${\theta}$に関する線形微分方程式である。もちろん、振幅が大きい場合にはこの近似は使えない。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。