自然科学のための数学2015年度第28講

常微分と偏微分の違い(復習)

 「関数$f(x)$の微小変化」を表す量は、以下の式のように書ける。 $$ f(x+\mathrm dx)=f(x)+{\mathrm df\over\mathrm dx}(x)\mathrm dx $$ あるいはこの逆にあたる演算が $$ f(x_1)=f(x_0)+\int_{x_0}^{x_1} {\mathrm df\over\mathrm dx}(x)\mathrm dx $$ である。積分しているのは下の赤矢印の部分。

 これは$f(x_0)$を「元の値」、$\int_{x_0}^{x_1} {\mathrm df\over\mathrm dx}(x)\mathrm dx$を「変化量」と見れば、$f(x_1)$が「変化後の値」となる、という式であり、関数の変化の様子を微分と積分で表現していることになる。

 常微分(1変数)では変化は$x$が増えるか減るか、本質的には一つの方向しかない。

 「関数$f(x,y)$の微小変化」を表す量は、以下の式のように書ける。 $$ f(x+\mathrm dx,y+\mathrm dy)=f(x,y)+{\partial f(x,y)\over\partial x}\mathrm dx+{\partial f(x,y)\over\partial y}\mathrm dy $$ この${\partial f(x,y)\over\partial x}\mathrm dx+{\partial f(x,y)\over\partial y}\mathrm dy$の部分を「全微分」と呼ぶわけである。

 大事なことは偏微分には方向がある。ということである。

 さて、常微分における「微分の逆」の演算 $$ f(x_1)=f(x_0)+\int_{x_0}^{x_1} {\mathrm df\over\mathrm dx}(x)\mathrm dx $$ の偏微分バージョン(2変数バージョン)を考えてみよう。単純に、 $$ U(x_1,y_1)=U(x_0,y_0)+\underbrace{\int_{x_0}^{x_1} {\partial U(x,y_0)\over\partial x}\mathrm dx}_{積分1}+\underbrace{\int_{y_0}^{y_1} {\partial U(x_0,y)\over\partial y}\mathrm dy}_{積分2} $$ と考えるのは正しいだろうか。これはどのような「積分」を行っていることになるか、図を描いて考えてみよう。

 ここではしばらく図を描いて自由に討論しつつ考えてもらった。

というような図を描いてみると「この積分は場所$(x_1,y_1)$に届いてない!」ことがわかる(だからこの計算で$U(x_1,y_1)$になるはずがない)。

$(x_0,y_0)$から出発してちゃんと$(x_1,y_1)$に届く積分としては、式で書けば $$ U(x_1,y_1)=U(x_0,y_0)+\underbrace{\int_{x_0}^{x_1} {\partial U(x,y_0)\over\partial x}\mathrm dx}_{積分1}+\underbrace{\int_{y_0}^{y_1} {\partial U(x_1,y)\over\partial y}\mathrm dy}_{積分3} $$ 図で書けば、

 または、式で書けば、 $$ U(x_1,y_1)=U(x_0,y_0)+\underbrace{\int_{y_0}^{y_1} {\partial U(x_0,y)\over\partial y}\mathrm dy}_{積分2}+\underbrace{\int_{x_0}^{x_1} {\partial U(x,y_1)\over\partial x}\mathrm dx}_{積分4} $$ 図で書けば、

がある。

 つまりは、北東に進むために「まず東、次に北」と進んでもよいし、「まず北、次に東」と進んでもよい、ということ。実は斜めに進む方法(そういう積分のやりかた)もちゃんとある。

 このような積分は「線積分」と呼ばれる。

 この二つの積分が一致するのか?というのが気になるところである。それはつまり、


積分1+積分3   は   積分2+積分4   と一致するか?


という問題だが、これを少し変えると、


積分3ー積分2   は  積分4ー積分1    と一致するか?


という問題になる。そして、積分3ー積分2というのは、いわば積分3($y$微分)の$x$微分である。同様に積分4ー積分1は積分4($x$微分)の$y$微分であり、積分可能条件(あるいは、偏微分の交換)によればこの二つは等しい。

なお、これをさらに


積分1+積分3ー積分4ー積分2   は0か??


と読み替えると、これは「一周積分は0か?」を意味する。$U(x,y)$という関数が存在すれば、一周戻ってくれば$U(x,y)$も元の値に戻っている、ということを意味している。

 これはベクトル解析で言う「rot」である。

 これは位置エネルギーなどの「保存力の場」が満たすべき条件になっている

偏微分に関する注意その1

偏微分に関する注意その1

  偏微分の計算を行うときに有用な公式と、誤りやすい注意点を述べておく。


よくある誤り

 極座標の計算で「${x}={r}\cos {\theta}$より${\partial {x}\over \partial r}=\cos{\theta}$と計算できる。ゆえに${\partial {r}\over \partial x}={1\over \cos{\theta}}$だろう」と考えてしまう。


 これに限らず、常微分であれば成立する${\mathrm dy\over \mathrm dx}={1\over {\mathrm dx\over \mathrm dy}}$との類推で、偏微分でも「分母」と「分子」を入れ替える$\left({\partial a\over \partial b}\to {\partial b\over \partial a}\right)$と逆数になると勘違いしてしまいがちである。

 実際に${x},{y}$を独立変数として$r$を\文中式{$r({x},{y})=\sqrt{{x}^2+{y}^2}$}としてこれから${\partial {r}\over \partial x}$を計算すると、 \begin{equation} {\partial {\left(\sqrt{{x}^2+{y}^2}\right)}\over \partial x} = {1\over 2\sqrt{{x}^2+{y}^2}}\times 2{x}={{x}\over \sqrt{{x}^2+{y}^2}}=\cos\theta \end{equation} となる。一方で、${r},{\theta}$を独立変数とすれば$x({r},{\theta})={r}\cos{\theta}$なので、 \begin{equation} {\partial {x}\over \partial r}= {\partial {\left({r}\cos{\theta}\right)}\over \partial r}=\cos{\theta} \end{equation} となる。つまりこの場合${\partial {r}\over \partial x}={\partial {x}\over \partial r}$なのだ。${\partial {x}\over \partial r}={1\over {\partial {r}\over \partial x}}$と誤解してしまうのは、省略記法を使っているからである。省略せずに書くと、${\partial {x}\over \partial r}$は$\left({\partial {x}({r},{\theta})\over \partial r}\right)_{{\theta}}$、${\partial {r}\over \partial x}$は$\left({\partial {r}({x},{y})\over \partial x}\right)_{{y}}$である。${}_{{\theta}}$と${}_{{y}}$に注意。「どの変数を固定しているか」は大事なのである。

 逆に「どの変数を固定しているのか」が同じであれば、常微分のときと同様に \begin{equation} \left( {\partial {r}\over \partial x}\right)_{{y}} = {1\over \left( {\partial {x}\over \partial r}\right)_{{y}}}\label{koteionaji} \end{equation} である(両辺ともに${y}$を一定とすることにした)。実例を一つ確認しよう。左辺は \begin{equation} \left({\partial {r({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}}= \left( {\partial {\sqrt{{x}^2+{y}^2}}\over \partial x}\right)_{{y}} ={{x}\over \sqrt{{x}^2+{y}^2}}={{x}\over {r}} \end{equation} 右辺の分母は、${r}$と${y}$を変数と考えての微分だから、${x}=\pm\sqrt{{r}^2-{y}^2}$として、 \begin{equation}\left( {\partial {x({r},{y})}\over \partial r}\right)_{{y}}= \pm\left({\partial {\sqrt{{r}^2-{y}^2}}\over \partial r}\right)_{{y}} =\pm{{r}\over\sqrt{{r}^2-{y}^2} }={{r}\over {x}} \end{equation} となり、この二つは逆数である。

 この二つの微分が同じになることを図解で示すと以下のようになる。

 左の図では${\Delta r\over \Delta x}=\cos\theta$で、右の図では${\Delta x\over \Delta r}=\cos\theta$になっていることを確認しよう。

常微分と偏微分の違い 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

今日は、考えていたのがことごとく誤りの例だったのでひっかかったぁと思ってしまった。考えがあたっていたときは嬉しかったです。
次からはひっかからないように。

自分で最初考えたときも誤りの方法を考えついたので気をつけたい。
間違えやすいポイントです、気をつけて。

偏微分の方向、何を一定にするかということで結果が大きく変わるということを計算するときは意識したい。
うっかりしないようにしましょう。

何を固定して微分しているのか、偏微分の逆の(誤)や(正)などの違いを理解できた。
意味を考えて微分をしていきましょう。

偏微分において何を固定するかが重要なことがわかりました。もっとたくさん偏微分したいと思います。
練習していきましょう。

理解できた。
それはよかった。

θを固定するかyを固定するかで答が変わることに驚きました。間違えそうで怖いです。
「何を計算しているか」をしっかり理解してやってれば間違えません。

xやらyやらrやらで頭の中がぐるんぐるんしている(笑)。復習してがんばります。
じっくり計算したらぐるぐるするほど複雑ではないことがわかると思います。

$\theta$を固定して${\partial r\over\partial x}$と${\partial x\over\partial r}$を比べても$r={x\over\cos\theta}$から${\partial r\over\partial x}={1\over\cos\theta}$で逆数になるので、同じ変数を固定したら逆数になるのはなるほどと思いました。
そうやっていろいろ試して見るのは大事ですね。

偏微分では「何を一定にして微分するか」がとても大事だということが分かりました。
とっても大事です。

偏微分ではどの変数を固定するかが重要だと思った。${\partial r\over\partial x}={\partail x\over\partial r}$だったのにはおどろいた。
偏微分という計算の意味をつかんでおきましょう。

ずっと気になっていた偏微分の積分を知れてよかった。
今日やったのは「線積分」というやつになります。

偏微分の逆の計算についてしっかり理解できた。偏微分の注意点では、固定する値を統一することを忘れないということを学んだ。
実際のところ、統一しなくてもよいです。自分が何を計算しているかを把握してさえいれば。

復讐せねばやばい…。
しましょう。あと2回でこの授業も終わりです。

目標に達するために、図で考えるのはすごく理解しやすい。変化量と変化方向、変化量の総合的な考えは習得しました。
図形的に計算の中身を理解しておきましょう。

誤りの解き方と正しい解き方を比較して、誤りはどこが間違っているのかを見つけるのが楽しかった。
どう考えれば正しくなるか、いろいろ考えてみてください。

積分の経路が一周するとゼロになるという図の解説がとてもわかりやすくて納得できました。偏微分のどの変数を固定するのかをこれから気をつけます。
図でイメージするのは大事です。

後期もあとすこしですね。
この授業もあと2回です。

偏微分に方向があったように偏微分の逆を行なうときも方向には注目するとわかった。また、何を固定して計算するかが重要だとわかった。
はい、重要です。

偏微分は何を一定にして微分しているかで求まる値が全然違ってくることがわかった。
考えてみれば、それは当然、と思いませんか。

偏微分はある方向について微分するものと考えるだけでなく何を一定にするかで答が変わるということがわかった。
何を一定にするかを決めると方向も決まっていく、と考えてもよいです。

偏微分の注意すべき点がわかった。偏微分するときに意識してやりたい。
注意しましょう。

どの変数を固定しているかで答が違ってくるということだったので、注意深く見極めます。
変数を意識していくようにしましょう。

各微分の逆や極方程式の微分をやった。間違えたけど、講義の解説を聞いて納得できた。極方程式($r=x\cos\theta$)の${\partial x\over\partial r}$と${\partial r\over\partial x}$が同じになる仕組みも図を通してわかった。
図のイメージで理解しておきましょう。

偏微分するときに逆数の偏微分はそれぞれの偏微分の方向が違うために値は同じにならないことがわかった。
注意しておきましょう。

ようやく積分可能条件の意味がわかりました。$x=r\cos\theta$は積分可能条件を満たさないんですね。
最後にやった計算で答がずれるのは、積分可能条件を満たしてないからじゃなく、そもそも積分の方向が違うからです。

偏微分の注意点が固定するものが違うとき${\partial r\over\partial x}$で出てきた答の逆数を${\partial x\over\partial r}$にしてはいけないことがわかった。
今日はやりませんでしたが、実は逆数でなく「逆行列」にするなら大丈夫です。

偏微分には方向がある! 北東に行きたかったら東にいって、北にいけ。
「微分の方向」というイメージを持っておいてください。

どれを固定して偏微分するのかが大事!! それによって目的の値がちゃんと出せるのかが変わってくることがわかった。常微分とここが違う。
変数が多いと違いが出ます。

爆すいしてしまいました。
気をつけましょう。寝ている間も授業は進む。

偏微分には方向があるということがよく分かりました。積分するときに何の変数を固定するかを間違えないようにします。
どういう計算をしているかを常に意識しましょう。

偏微分行けそう、と思いきや何を一定にするかがあったのですね!! ちょっとややこしいです。
変数が多くなった分ややこしくなるのは仕方ありません。「今計算しているのは何か」をしっかりわかっていれば、そんなに間違えないはず。

何年かぶりに風邪をひいています。先生を気をつけてください。
お大事に。

どれを固定するのかって大事ですね。最近、髪を切ったのですが、前髪を切られすぎました。
それは残念でした。

偏微分について、固定する変数が異なると違う値がでいることがわかった。
気をつけよう。

寒いですね。体調に気をつけます。
気をつけて。

今日はとても眠かったです。途中眠たすぎて授業内容が全然頭に入ってこなかった。しっかり睡眠をとりたいと思います。
体調は整えないとね。

最後の偏微分の注意が難しかった。変数が4つでてきて、何が一定で何が変わるのか、$\left({\partial r(x,y)\over\partial x}\right)_y$などではθがでてきてないけどθはどう考えるのか、色々新しいことを習ったので復習して整理したい。
θが出てこないなら忘れてればいいです。もちろんなくなるわけではないけど。

積分可能条件