偏微分の注意その2


よくある誤り

 常微分の時にdzdydydx=dzdxができたのだから偏微分でも{\partial {z}\over \partial y}{\partial {y}\over \partial x}={\partial {z}\over \partial x}だろう。


 省略記法で書いているせいで「これでいい」と勘違いしてしまうことがある。誤解がないよう省略なしで書けば、常微分の{\mathrm dz\over \mathrm dy}{\mathrm dy\over \mathrm dx}={\mathrm dz\over \mathrm dx}{\mathrm dz({y})\over \mathrm dy}{\mathrm dy({x})\over \mathrm dx}={\mathrm dz(y({x}))\over \mathrm dx}である一方、偏微分の{\partial {z}\over \partial y}{\partial {y}\over \partial x}\neq{\partial {z}\over \partial x}(等式ではないことに注意) \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}}\left({\partial {y({z},{x})}\over \partial x}\right)_{{z}}\neq\left({\partial {z({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{z}} であり、本質的に違う計算である。常微分の方では三つの変数は「{x}が決まると{y}が決まり、次に{z}が決まる」という関係であり、自由度は1しかない。つまり3変数の3次元空間の中である1次元的広がり(曲線)の上でしか運動できない。一方偏微分の方は「{x}{y}が決まると{z}が決まる(あるいはこの立場入れ替え)」という関係だから自由度2で、2次元的広がり(曲面)の上を動ける(だから偏微分は方向の指定が必要になるわけだ)。


 例として、{x}^2+{y}^2+{z}^2=R^2が成り立つ、すなわち3次元の中の球面(2次元的広がり)の上に({x},{y},{z})がある)場合を考えよう。この場合{z}=\pm\sqrt{R^2-{x}^2-{y}^2}とか{y}=\pm\sqrt{R^2-{x}^2-{z}^2}のような関係式がある。複号があると考えるのが面倒なので、考える範囲を{x},{y},{z}が全て正である領域に限ろう(複号は全て正をとる)。微分を実行すると、 \begin{equation} \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}} =- {{y}\over \sqrt{R^2-{x}^2-{y}^2}},~~~~ \left({\partial {y({x},{z})}\over \partial x}\right)_{{z}} =- {{x}\over \sqrt{R^2-{x}^2-{z}^2}} \end{equation} である。この二つの掛算をし、\sqrt{R^2-{x}^2-{z}^2}={y}であることを使うと、 \begin{equation} \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}} \left({\partial {y({x},{z})}\over \partial x}\right)_{{z}} ={{y}\over \sqrt{R^2-{x}^2-{y}^2}}\times{{x}\over \sqrt{R^2-{x}^2-{z}^2}} ={{x} \over \sqrt{R^2-{x}^2-{y}^2}} \end{equation} となる。一方、 \begin{equation} \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}} =- {{x}\over \sqrt{R^2-{x}^2-{y}^2}} \end{equation} だから、この二つの式から \begin{equation} \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}} \left({\partial {y({x},{z})}\over \partial x}\right)_{{z}} = - \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}}\label{henbibunminus} \end{equation} という関係になっている(右辺のマイナス符号に注意!)。

 {x},{y},{z}の間に適当な関係式(なんでもよい)を作り、その場合の\left({\partial {z({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}}\left({\partial {y({x},{z})}\over \partial x}\right)_{{z}} = - \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}}の両辺を別個に計算し、成立することを確認してみよう。

 この式はz({x},{y})などが微分可能である限り正しいことを以下で、二通りの方法で示そう。

 {x},{y},{z}という3次元の空間を考えて、ある関係式(上の例では{x}^2+{y}^2+{z}^2=R^2であった)があることによりこのうち二つが独立であったとする。関係があるのだから、三つの変数のうち一つを他の二つで表すことができる。そこで \begin{equation} {x}=X({y},{z}),~ {y}=Y({x},{z}),~ {z}=Z({x},{y}) \end{equation} という三つの式を作ることができたものとしよう。第3の式に第2の式を代入すると、 \begin{equation} {z}=Z\left({x},Y({x},{z})\right)\label{zz} \end{equation} という式ができる。計算の結果、この式は{z}={z}という当たり前の式に戻る筈である。


 上の例の{z}=\pm\sqrt{R^2-{x}^2-{y}^2}{y}=\pm\sqrt{R^2-{x}^2-{z}^2}を代入してみると、 \begin{equation} {z}=\pm\sqrt{R^2-{x}^2-(R^2-{x}^2-{z}^2)}=\pm\sqrt{{z}^2}\label{zzkekka} \end{equation} となって、{z}={z}になる(もともと複号は{z}が正なら+、負なら-だったから、右辺は{z}にしてよい)。


 つまり、この式の右辺は{x}を含んでいるように見えるが、実は含んでいない(計算をすれば消えてしまう)。ここで、両辺を「{z}を一定として{x}で微分」する。計算するまでもなく({z}を一定としているのだから)左辺の微分は0である。一方右辺は{x}が2箇所にあることから微分の結果は二つの式の和となり、結果が0となる(二つの項が打ち消す)。すなわち、

\begin{equation} 0=\overbrace{\left( {\partial {Z({x},Y)}\over \partial x}\right)_{Y}}^{左の{x}を微分} +\overbrace{\left( {\partial {Z({x},Y)}\over \partial Y}\right)_{{x}}\left( {\partial {Y({x},{z})}\over \partial x}\right)_{{z}}}^{右の{x}を微分} \end{equation} が導かれる。

 どんなものでもよいので{x},{y},{z}の関係式{z}=Z({x},{y})を作って、これから{y}=Y({x},{z})を求めたうえで、上のZ({x},Y({x},{z}))にあたる式をつくり、その式を(簡略化せずにそのまま){z}で微分すれば1となり、{x}で微分すれば0となることを確認せよ。

 以上は計算による導出だが、次に図解を試みよう。変数の間の関係式を成立させつつ、

  1. {x}を一定として{y}を変化(連動して{z}も変化)。
  2. {y}を一定として{z}を変化(連動して{x}も変化)。
  3. {z}を一定として{x}を変化(連動して{y}も変化)。

という三つの変化を起こして元の場所に戻ってくる経路を考える。

 それぞれの過程において図に描き込んだような分数を計算し、その掛算を行うと、 \begin{equation} {{\Delta y}\over -{\Delta z}}\times {{\Delta z}\over -{\Delta x}}\times {{\Delta x}\over -{\Delta y}}=-1 \end{equation} となる(分母分子に同じものが2回ずつ現れ、分母にマイナスが3回現れる)。極限を取ればこれは \begin{equation} \left({\partial {y({x},{z})}\over \partial x}\right)_{{z}}\times \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}}\times \left({\partial {x({y},{z})}\over \partial z}\right)_{{y}}=-1 \end{equation} になる。\left({\partial {x({y},{z})}\over \partial z}\right)_{{y}}={1\over \left({\partial {z({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}} }であるこの場合は、同じ変数{y}を固定しての微分だから、逆数になってよい。