全微分を使った微分方程式の解法
解ける形の常微分方程式として「全微分形である場合」があるので、その場合の解き方と、全微分形でない場合に全微分形に直していく方法について考えよう。
全微分形
ある常微分方程式dydx=f(x,y)をP(x,y)dx+Q(x,y)dy=0と変形して、なんらかの計算の後にd(なんとか)=0の形にまとめ直すことができれば(すなわち、全微分=0の形に書き直すことができれば)、(なんとか)=定数、と積分ができる。
つまり、P(x,y)dx+Q(x,y)dyを(∂f(x,y)∂x)ydx+(∂f(x,y)∂y)xdyの形に直す、という方針で微分方程式を解くのである。
たとえば、dydx=x2+2xy−x2+yは、
(x2+2xy)dx+(x2−y)dy=0
と直した後に、
d(13x3+x2y−12y2)=0
とまとめられるので、
13x3+x2y−12y2=C(一定)
が解である。このような手順も一つの常微分方程式の解き方である。
この定義から、全微分形ならその常微分方程式は簡単に解ける。
全微分形でない微分方程式を全微分形にする
積分可能条件が満たされてなかったら全微分形ではない。しかし、ここでPdx+Qdy=0の右辺が0なので、両辺にある関数λ(x,y)を掛けて
λ(x,y)P(x,y)dx+λ(x,y)Q(x,y)dy=0
として、
(∂U(x,y)∂x)y=λ(x,y)P(x,y), (∂U(x,y)∂y)x=λ(x,y)Q(x,y)
を満たすことができれば全微分形ではなかった微分方程式を全微分形に直せた。この掛算したλ(x,y)のことを「積分因子(integrating factor)」と呼ぶ。積分因子は
(∂(λ(x,y)Q(x,y))∂x)y−(∂(λ(x,y)P(x,y))∂y)x=0
すなわち
(∂λ(x,y)∂x)yQ(x,y)−(∂λ(x,y)∂y)xP(x,y)=−λ(x,y)((∂Q(x,y)∂x)y−(∂P(x,y)∂y)x)
という方程式を満たせばよい。しかし、この式からλ(x,y)の形を求めるのは一般には簡単ではない(また、この方程式の解λ(x,y)は一意ではない)。たまたま、λがxのみの関数になるような場合はこの式が
dλ(x)dxQ(x,y)=−λ(x)(∂Q(x,y)∂x−∂P(x,y)∂y)
という形になるので、少し解きやすくなる。実際に解くときには、いろいろな場合を想定して試行錯誤を行う。
多変数関数の方向微分
まずはx,yという2変数の「座標」の関数の場合で話をする。f(x,y)の「微係数」は(∂f(x,y)∂x)yと(∂f(x,y)∂y)xの二つがあった。この二つは「x方向に移動した場合」「y方向に移動した場合」の微小変化の微分係数であった。
微分は「独立変数の変化に対する従属変数の変化の割合」なのだから、独立変数の変化のさせ方として「斜めに移動した場合」を考えて微分を行ってもよいではないか、と考えるのは当然である。
そこで、上の図のように傾いた方向にaだけ動いた場合の変化を考えよう。つまり、Δx=acosα,Δy=asinαと選ぶわけである。こうしておいてfの変化量を計算したのち、結果を移動量(今の場合a)で割ってから極限を取ると、
lim
となる。
この式の示すものはまさに「{x}軸と角度\alphaを持った方向に移動したときの変化の割合」であり、「方向微分」と呼ぶ。\alpha=0なら単に\left({\partial {f({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}}となって「{x}による偏微分」になる(\alpha={\pi\over 2}なら、「{y}による偏微分」になる)。関数f({x},{y})に対し、平面上の各点各点にベクトル\left(\left({\partial {f({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}},\left({\partial {f({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}}\right)が決まる。
このベクトルを「{\rm grad}~ f」または「\vec\nabla f」と表すこともある。「grad」は「グラディエント」と読み、「gradient(勾配)」の略である。{\rm grad} fを知れば全ての方向の偏微分係数がわかる。
上の式ベクトル{\rm grad} f({x},{y})とベクトル\left(\cos \alpha,\sin \alpha\right)の内積である、とも言える。方向微分の大きさは\alphaの変化により
\begin{equation}
- \sqrt{
\left({\partial {f}\over \partial x}\right)^2+
\left({\partial {f}\over \partial y}\right)^2}
\leq
\left({\partial {f}\over \partial x}\right) \cos\alpha
+\left({\partial {f}\over \partial y}\right) \sin\alpha
\leq
\sqrt{
\left({\partial {f}\over \partial x}\right)^2+
\left({\partial {f}\over \partial y}\right)^2}
\end{equation}
の範囲で変化する(長くなるので({x},{y})等を省略)。
右のような二つの特別な場合を考えよう。
方向微分が0になる場合の\left(\cos \alpha,\sin \alpha\right)と、方向微分が最大となる場合の\left(\cos \alpha,\sin \alpha\right)は直交している。山の斜面に立ったとき「傾きがない方向(等高線に沿って移動する方向)」と「傾きが最大の方向(山を登る方向)」は常に直交している、ということになる。
たとえば前に考えたf({x},{y})=\sqrt{{x}^2+{y}^2}という関数の場合、偏微分係数の作るベクトルは
\begin{equation}
\begin{array}{rl}
\left(\left({\partial {f({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}},\left({\partial {f({x},{y})}\over \partial y}\right)_{{x}}
\right)
=\left(
{{x}\over\sqrt{{x}^2+{y}^2} }
,
{{y}\over\sqrt{{x}^2+{y}^2} }
\right)
\end{array}
\end{equation}
である(\式{Rzenbibun}を見よ)。図に示した黒矢印がこの偏微分係数のベクトルである(各点ごとに違う方向を向く)。このベクトルの長さは、\sqrt{\bigl({{x}\over\sqrt{{x}^2+{y}^2} }\bigr)^2+\bigl({{y}\over\sqrt{{x}^2+{y}^2} } \bigr)^2 }=1になる。 一方、これに垂直なベクトルを白矢印で示した。白矢印の方向は「\sqrt{{x}^2+{y}^2}のこの方向への微分が0になる方向」すなわち、「\sqrt{{x}^2+{y}^2}が変化しない方向」である(今の場合は\sqrt{{x}^2+{y}^2}が原点からの距離であることを思えば自明)。
r方向の方向微分
2次元の位置を表現するのによく使われるのは直交座標(デカルト座標)で、{x},{y}の二つを使って位置を表現する。もう一つよく使われるのが極座標で、これは原点からの距離{r}=\sqrt{{x}^2+{y}^2}と、どの方向に原点から離れているかを意味する{\theta}で位置を表現する。図からわかるように以下のような関係がある。
\begin{equation}
\begin{array}{ccccc}
{x}={r}\cos {\theta}&,&{y}={r}\sin {\theta}&,&\\[2mm]
\cos{\theta}={{x}\over \sqrt{{x}^2+{y}^2}}&,&\sin{\theta}={{y}\over \sqrt{{x}^2+{y}^2}}&,&
{r}=\sqrt{{x}^2+{y}^2}~~~~~~~~~~~~~~
\end{array}
\end{equation}
{r}方向の方向ベクトルは(\cos\theta,\sin\theta)なので、その方向微分は
\begin{equation}
{\partial f\over\partial r}=\cos {\theta}{\partial {f}\over \partial x}+\sin {\theta}{\partial {f}\over \partial y}\label{rhoukou}
\end{equation}
となる。
この式は、
\begin{equation}
{\partial {f\bigl(x({r},{\theta}),y({r},{\theta})\bigr)}\over \partial r}
={\partial {f({x},{y})}\over \partial x}{\partial
{x({r},{\theta})}\over \partial r}
+{\partial {f({x},{y})}\over \partial y}{\partial {y({r},{\theta})}\over \partial r}\label{delfdelrkekka}
\end{equation}
と考えても出てくる。
ここで、x({r},{\theta})={r}\cos {\theta},y({r},{\theta})={r}\sin {\theta}であることから、
\begin{equation}
{\partial {x({r},{\theta})}\over \partial r}=\cos{\theta},~~
{\partial {y({r},{\theta})}\over \partial r}=\sin{\theta}\label{delxdelr}
\end{equation}
である。これが偏微分の場合のchain ruleに対応する。