自然科学のための数学2015年度第30講

偏微分方程式

 ここまで考えた微分方程式は常微分$\left({\mathrm d\over\mathrm dx},{\mathrm d\over\mathrm dt},\cdots\right)$を用いた微分方程式だったが、偏微分$\left({\partial\over \partial x},{\partial \over\partial y},{\partial\over \partial t},\cdots\right)$を用いた微分方程式もある。

 常微分方程式の場合、積分していくことで解が求められた。この時積分定数という形で解に未定のパラメータが入った。たとえば常微分方程式${\mathrm d\over\mathrm dx} f({x})={x}$の解は$f({x})={{x}^2\over 2}+C$である。これに似た偏微分方程式 \begin{equation} {\partial\over \partial x}f({x},{y})={x} \end{equation} の解は$f({x},{y})={{x}^2\over 2}+C({y})$である。

 常微分方程式なら独立変数(たとえば${x}$)の積分により解が出たから、${x}$によらない積分定数として解に現れた。$({x},{y})$の二つの独立変数を持つ偏微分方程式では${x}$の積分によって現れた積分定数は${y}$の関数であってよい(逆に${y}$の積分による積分定数は${x}$の関数であってよい)。

 「微分して0$\Rightarrow$定数」ではないことが偏微分方程式の注意点である。

 もう少しだけ複雑な例、 \begin{equation} \left({\partial\over \partial x}+a{\partial\over \partial y}\right)f({x},{y})=0 \end{equation} を考えよう。これの解の一つが$a{x}-{y}$であることはすぐに確認できるが、実は$F$を任意の1変数関数として、その引数に$a{x}-{y}$が代入された$F(a{x}-{y})$も解になる。というのは$F(a{x}-{y})$を、「${y}$を一定にして${x}$で偏微分」したものと「${x}$を一定にして${y}$で偏微分したもの」は$-a$倍違うから、 \begin{equation} \left({\partial\over \partial x}+a{\partial\over \partial y}\right)F(a{x}-{y})=0 \end{equation} が成立するからである。たとえば$\tan(a{x}-{y})$でも$\log(a{x}-{y})$でも、あるいは${(a{x}-{y})^5\over \sqrt{\sin(a{x}-{y})}}$のような複雑な関数でも、この偏微分方程式の解となる\footnote{分母が0になったりルート内が負になったりする領域が省かれるのはもちろんである。}。このような変数の組み合わせを見つけるというのも偏微分方程式の解き方である。

偏微分方程式の解き方

 ここでは、求めるべき関数を$f({x},{y})$のように二つの独立な変数${x},{y}$によって決まる2変数関数として説明する。変数が${t}$になったり${r}$になったりしても考え方は変わらないし、3変数、4変数と変数の数が増えても、基本的には同様の手順で解いていく。

変数分離による解法

\begin{equation} \left({\partial\over \partial x},{\partial\over \partial y}を含む微分演算子\right)f({x},{y})=g({x},{y}) \end{equation} のような微分方程式が与えられた時、これの解をいきなり探すのは難しい。そこで、この方程式の解が$f({x},{y})=X({x})Y({y})$のように${x}$を変数とする部分と${y}$を変数とする部分の積になるだろう、と仮定してみる。その後計算した結果、 \begin{equation} \left({\partial\over \partial x}と{x},X({x})の式\right) = \left({\partial\over \partial y}と{y},Y({y})の式\right) \end{equation} のように左辺と右辺に${x}$と${y}$が分離できたとする(これを「変数分離」と呼ぶ)。この式が成立するためには左辺も右辺も定数にならなくてはいけない\footnote{${x}$と${y}$は独立変数で、勝手に変化できるのだから、左辺が${x}$によって変化し、右辺が${y}$によって変化したら、この式は運がいい時にしか成立しない式になる。}ので、その定数を$\alpha$と置いて、 \begin{equation} \left({\partial\over \partial x}と{x},X({x})の式\right)=\alpha,~~ \left({\partial\over \partial y}と{y},Y({y})の式\right)=\alpha \end{equation} という常微分方程式二つを解けばよい、というのが「偏微分方程式の変数分離」である。なお、変数分離で答が求まるというのはあくまで「仮定」であるから、これで正しい解が出ているかどうかについては注意しなくてはいけない。

 $\alpha$は任意の定数だから、その定数に応じてたくさんの解が出るが、境界条件などにより実際の解がどのようになるかが決められる(このあたりは常微分方程式でもあったこと)。

「微分演算子の因数分解」による解法

 常微分方程式の時に、「微分演算子の因数分解」を行って解く方法があったことを思い出そう。同様にもし我々がたとえば偏微分方程式の微分演算子を \begin{equation} \left( \left({\partial\over \partial x}\right)^2 +(a+b){\partial^2\over \partial x\partial y} +ab\left({\partial\over \partial y}\right)^2 \right)f({x},{y}) =\left({\partial\over \partial x}+a{\partial\over \partial y}\right)\left({\partial\over \partial x}+b{\partial\over \partial y}\right)f({x},{y})=0 \end{equation} のように`因数分解'して \begin{equation} \left({\partial\over \partial x}+a{\partial\over \partial y}\right) f({x},{y})=0 ~~または~~ \left({\partial\over \partial x}+b{\partial\over \partial y}\right)f({x},{y})=0\label{delfactoring} \end{equation} のように式を分離することができれば、問題を簡単化(二階微分方程式が一階微分方程式になった!)できる。

 上の場合、第1の式の解は(任意の関数を$F$として)$F(a{x}-{y})$であり、同様にもう一つの解は(やはり任意の関数を$G$として)$G(b{x}-{y})$である。一般解は、$F(a{x}-{y})+G(b{x}-{y})$となる。

 $F(a{x}-{y})$という関数は、$a{x}-{y}=C$($C$は定数)を満たす場所(つまり直線${y}=a{x}-C$上)では一定である。上で求めた解は、「直線${y}=a{x}-C$上で一定になる関数」と「直線${y}=b{x}-C'$上で一定になる関数」の和だということになる。

 上の場合「直線」の上で解となる関数が一定となったが、 \begin{equation} \left( P({x},{y}){\partial\over \partial x} + Q({x},{y}){\partial\over \partial y} \right)f({x},{y})=0 \end{equation} のような偏微分方程式の場合、解である関数$G({x},{y})$を一つ見つけることができたなら、任意の関数$F(t)$の$t$に$G({x},{y})$を代入した$F(G({x},{y}))$もやはり解となる。この場合は、$G({x},{y})=C$(定数)であるような線(直線とは限らない)の上で$F$は一定となる。

 微分方程式 \begin{equation} \left({\partial\over \partial x}+2{x}{\partial\over \partial y}\right)F({x},{y})=0\label{tokuseihoubutsu} \end{equation} は特性曲線が文字通り曲線になる例である。この微分方程式は一つの解として${y}-{x}^2$を持つ(代入して確認せよ)。よって、$f$は任意の微分可能な関数とすれば、 \begin{equation} F({x},{y})=f({y}-{x}^2) \end{equation} が解となる。${y}-{x}^2=(定数)$を満たす線(${x}=0$を軸とする放物線になる)の上で一定であるような関数なら全て解になる。

 上の図は、$\sin({y}-{x}^2)$の3Dグラフである(放物線の上で一定になるような関数になっている)。

 このような線(上の例では放物線)を「特性曲線(characteristic curve)」と呼ぶ。特性曲線を求めるということも、偏微分方程式の解法と言える。

 「どんな関数でもよい」と言われると「解が求まってない」と心配になるかもしれないが、それは境界条件を指定していないからである。偏微分方程式も常微分方程式と同様に、方程式だけからは決まらないパラメータがあり、それを指定する必要がある。このあたりは以下でやる実例のところで説明しよう。

 もう一つの例として、 \begin{equation} \left( {x}{\partial\over \partial y} -{y}{\partial\over \partial x} \right)f({x},{y})=0\label{tokuseien} \end{equation} を考えてみよう。今度は$({y},-{x})$という方向への微分が0ということである。この微分方程式の図形的意味から$\theta$方向に移動しても変化しない(特性曲線が円)という意味であることがわかるから、解は$f({x},{y})=F(r({x},{y}))$である($r({x},{y})$はもちろん極座標の$r$で$r({x},{y})=\sqrt{{x}^2+{y}^2}$という関係)。この解の偏微分係数を求めてみると \begin{equation} {\partial\over \partial x}F(r({x},{y}))=\underbrace{{\partial {r}\over \partial x}}_{{{x}\over r({x},{y})}}{\mathrm d \over \mathrm dr}F(r),~~~ {\partial\over \partial y}F(r({x},{y}))=\underbrace{{\partial {r}\over \partial y}}_{{{y}\over r({x},{y})}}{\mathrm d \over \mathrm dr}F(r) \end{equation} となり、${x}{\partial \over \partial y}F-{y}{\partial \over \partial x}F$という計算をすると0になることがわかる。

 実はこの計算は(図形的意味が「${\theta}$方向に移動しても変化しない」だったことからもわかるように)、 \begin{equation} \left( {\partial\over \partial\theta}f(x({r},{\theta}),y({r},{\theta})) \right)_{{r}} = \underbrace{ \left({\partial {y({r},{\theta})}\over \partial \theta}\right)_{{r}}}_{{x}} \left({\partial {f}({x},{y})\over \partial y}\right)_{{x}} + \underbrace{ \left({\partial {x({r},{\theta})}\over \partial \theta}\right)_{{r}}}_{-{y}} \left({\partial {f({x},{y})}\over \partial x}\right)_{{y}} \end{equation} と表すこともできる。以上のことを一般化して、以下のことが言える。 \begin{equation} \left( P({x},{y}){\partial\over \partial x} + Q({x},{y}){\partial\over \partial y} \right)f({x},{y})=0\label{PdelQdel} \end{equation} のような形の微分方程式があったとき、 \begin{equation} \lambda({x},{y}) P({x},{y})={\partial {x({x},{y})}\over \partial X},~~~ \lambda({x},{y}) Q({x},{y})={\partial {y({x},{y})}\over \partial X}\label{PQlambdadel} \end{equation} となるような座標変換$({x},{y})\to({X},{Y})$を見つけることができたなら、この方程式に$\lambda({x},{y})$を掛けてから、見つけた式を使うことで、 \begin{equation} {\partial \over \partial X}f(x({X},{Y}),y({X},{Y}))= \left( {\partial {x({x},{y})}\over \partial X}{\partial \over \partial x} +{\partial {y({x},{y})}\over \partial X}{\partial \over \partial y} \right)f({x},{y}) =0 \end{equation} を得る。$f(x({X},{Y}),y({X},{Y}))$が${X}$を含まぬ${Y}$だけの関数が微分方程式の解となる。

 「偏微分には方向がある」とここまで(少々くどく)述べたが、今日述べた微分方程式の解き方は「偏微分が0になる方向を探す」という方針の解き方である。

以下で具体的な偏微分方程式の例を述べよう。

熱伝導方程式

熱伝導方程式

 次の微分方程式は、1次元的な物体(細い棒など、断面積が無視できるような物体)の温度を表す関数の満たす微分方程式である。$\tau({t},{x})$は時刻${t}$、場所${x}$における温度を表す$\tau$はギリシャ文字の t に対応する文字で、読み方は「タウ」。温度(temperature)だから$t$を使いたいところだが、$t$は時間に使っているし、$T$も別の意味で使うのでギリシャ文字に登場願う。

\begin{equation} \left({\partial \tau({t},{x})\over \partial t}\right)_{{x}} =K\left({\partial^2 \tau({t},{x})\over \partial x^2}\right)_{{t}} \end{equation}

 この式にはどんな意味があるのかを図解しておこう。右辺は${x}$に関する二階微分、すなわち${t}$を一定として考えると、${x}$-$\tau$グラフの曲がり具合であり、$\left({\partial^2 \tau({t},{x})\over \partial x^2}\right)_{{t}}$が正だということはその場所でグラフが下に凸だということである。二階微分の意味を考えると、「自分の両サイドの平均に比べて、自分の温度が低い」という状況を表している。このような時は温度は上がるだろう温度変化が線形(グラフが直線)のときは温度が時間変化しない。「温かい方から流れてくる熱と、冷たい方に奪われる熱が平衡している」状況だと考えよう。流れてくる熱量が温度差に比例すると近似して考えれば正しい。

変数分離による一般解

 この式を変数分離で解く。すなわち、$\tau({t},{x})$をいきなり考えるのは難しいので、

変数分離形

\begin{equation} \tau({t},{x})=T({t})X({x}) \end{equation}

のように、$\tau({t},{x})=T({t})X({x})$と${t}$の関数の部分と${x}$の関数の部分の積で表現されていると仮定し、これを代入してみる。$\left({\partial\left(T({t})X({x})\right)\over \partial t}\right)_{{x}} =K\left({\partial^2 \left(T({t})X({x})\right)\over \partial x^2}\right)_{{t}} $の左辺の${t}$による微分は$T({t})$にだけ掛かり、右辺の${x}$による微分は$X({x})$にだけ掛かるので、

\begin{equation} \begin{array}{rll} X({x}){\mathrm dT\over \mathrm dt}({t})=&K T({t}){\mathrm d ^2 X\over \mathrm dx^2}({x})\\[3mm] {{\mathrm dT\over \mathrm dt}({t})\over T({t})}=&K {{\mathrm d ^2 X\over \mathrm dx^2}({x})\over X({x})} \end{array}\label{heatbunri} \end{equation}

となるので、左辺と右辺が定数$\alpha$になると考えて、

\begin{equation} {{\mathrm dT\over \mathrm dt}({t})\over T({t})}=\alpha,~~K {{\mathrm d ^2 X\over \mathrm dx^2}({x})\over X({x})}=\alpha \end{equation}

の二つの常微分方程式を解けばよい。どちらも定数係数の斉次線形微分方程式だから、結果は

\begin{equation} T({t})= A \mathrm e^{\alpha{t}},~~X({x})=\begin{cases}B \mathrm e^{\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} +C \mathrm e^{-\sqrt{{\alpha\over K}}{x}}&\alpha\neq0のとき\\ D{x}+E& \alpha=0のとき\end{cases} \end{equation}

であり$\alpha=0$の時に限り特性方程式が重解になるので別の解となる。、まとめると、

\begin{equation} \tau({t},{x})= \mathrm e^{\alpha{t}}\left( F \mathrm e^{\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} +G \mathrm e^{-\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} \right) \end{equation}

となる($AB=F,AC=G$と置いた)。様々な$\alpha$の値全てに対して一個ずつ解があることになる。

テキストでは$\alpha=0$の場合を特別扱いして示してますが、授業では$\alpha\neq0$の場合のみを扱って、省略しました。

定数係数線形常微分方程式の解を$\mathrm e^{\lambda x}$と置いて解く方法があったが、偏微分方程式でも定数係数で線形(今の場合そうである)ならば、$\mathrm e^{\lambda x+\alpha t}$のように置く方法でも解を出せる。

 線形微分方程式なので、実際の解はいろんな$\alpha$の解に対する和であり、

\begin{equation} \tau({t},{x})= \sum_{\alpha}\left( \mathrm e^{\alpha{t}}\left( F_\alpha \mathrm e^{\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} +G_\alpha \mathrm e^{-\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} \right)\right) \end{equation}

と書くことができる。係数$F,G$は各々の$\alpha$の値に対して別々に存在するので、$F_\alpha,G_\alpha$と添字をつけて区別することにした。

$\sum_\alpha$は「$\alpha$の取り得る値それぞれについて和を計算する」という意味でこう書いたが、状況によっては$\alpha$は連続的に変化する数となる。その場合は和$\sum_\alpha$ではなく積分$\int\mathrm dalpha$になる 。
これで境界条件を指定しない場合の解を求めることができた。

境界条件と初期条件

 $H,J,F_\alpha,G_\alpha$を決めるためには初期条件と境界条件が必要である。ここでは境界は${x}=0$と${x}=L$だとしよう。境界条件は考えている現象に応じて選ばなくてはいけない。

 テキストでは三つの境界条件を示しているが、授業ではそのうち一つの例だけをやりました。

 簡単な例として、$\tau(t,0)=\tau(t,L)=0$という境界条件(つまり、両端で温度が0になる)場合について解いてみよう。

 まず$\tau({t},{x}=0)=0$という条件は$J=0$かつ全ての$\alpha$に対して$F_\alpha+G_\alpha=0$を意味する$\sum\mathrm e^{\alpha t}(F_\alpha+G_\alpha)=0$ではないのか?---と思う人がいるかもしれないが、任意の時間でこの和が0になるためには、係数$(F_\alpha+G_\alpha)$が全ての$\alpha$に対して0にならなくてはいけない。。そこで$J=0,G_\alpha=-F_\alpha$として、

\begin{equation} \tau({t},{x})=\sum_\alpha F_\alpha\mathrm e^{\alpha{t}}\left( \mathrm e^{\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} -\mathrm e^{-\sqrt{{\alpha\over K}}{x}} \right) \end{equation}

という形になる。次に${x}=L$での条件を考えると、

\begin{equation} \tau({t},{x}=L)=\sum_\alpha F_\alpha\mathrm e^{\alpha{t}}\left( \mathrm e^{\sqrt{{\alpha\over K}}L} -\mathrm e^{-\sqrt{{\alpha\over K}}L} \right)=0 \end{equation}

となるが、任意の時刻で0になるためには、全ての$\alpha$に対して

\begin{equation} \mathrm e^{\sqrt{{\alpha\over K}}L} -\mathrm e^{-\sqrt{{\alpha\over K}}L}=0 \end{equation}

となる必要がある。上の式を変形すると$\mathrm e^{2\sqrt{{\alpha\over K}}L}=1$だが、「$\mathrm e^0=1$だから$2\sqrt{{\alpha\over K}}L=0$」と考えてしまうと$\alpha=0$になる。

 気をつけなくてはいけないのは$\mathrm e^{2\pi\mathrm i}=1$(あるいは、これを$n$乗して($n$は整数)、$\mathrm e^{2n\pi\mathrm i}=1$)ということで、これから、

\begin{equation} 2\sqrt{{\alpha\over K}}L=2n\pi\mathrm i~~~すなわち、\alpha=-{n^2\pi^2 K\over L} \end{equation}

を解として採用できる$\alpha$は連続的な量ではなく離散的な量である。こうなることを知っていたので、$\sum_\alpha$のように和を書いた。。この条件から$\sqrt{{\alpha\over K}}= \mathrm i{n\pi\over L}$として代入すると、

\begin{equation} \tau({t},{x}) =\sum_{n>0}\tilde F_n \mathrm e^{-{n^2\pi^2K\over L}{t}}\left( \mathrm e^{\mathrm i{n\pi\over L}{x}} -\mathrm e^{-\mathrm i{n\pi\over L}{x}} \right) =\sum_{n>0}(2\mathrm i \tilde F_n) \mathrm e^{-{n^2\pi^2 K\over L}{t}}\sin {n\pi\over L}{x} \end{equation}

が境界条件を満たす一般解である。ここで、$\alpha$が$n^2\times(定数係数)$という形になったので、$F_\alpha$を$\tilde F_n$と書きなおした。解が実数であるためには、$\tilde F_n$は純虚数($2\mathrm i \tilde F_n$が実数)である。以下は$2\mathrm i \tilde F_n=\tau_n$と書こう。また、上の式を見ると$n\to -n$と置き換えても結果は本質的に同じであることがわかるので、$n$の和は正の部分だけを取れば十分であるので、$\sum_{n>0}$とした。

 微分方程式の解としては、初期条件今考えている微分方程式は時間に関しては一階だから、初期条件は${x}$の一つの値に対して一つでよい。も満たさなくてはいけない。$\tau({t}=0,{x})=\tau_初({x})$を初期条件とする($\tau_初({x})$は与えられた関数である)と、

\begin{equation} \tau_初({x})=\sum_{n>0}\tau_n\sin{n\pi\over L}{x} \end{equation}

になるように係数$\tau_n$を決めればよい。

「係数$\tau_n$を選ぶことで任意の関数$\tau_初({x})$が表現できるのか?」というのは数学的には証明が必要なことである。もちろん証明はあり、今の境界条件(${x}=0$と${x}=L$で0)を満たす関数は上のように$\sin$の和で書くことができる。境界条件が違う時はまた別の関数($\cos$など)も使う。最初に「任意の関数は三角関数の和で表せる」と主張したのはフーリエで、ここで述べた熱伝導の方程式を考えていくうちに彼はこの結論に達した。この考え方が「フーリエ解析」という重要なテクニックへと発展する。

 ここで、

\begin{equation} \tau({t},{x})=\sum_{n>0}\tau_n \mathrm e^{-{n^2\pi^2 K\over L}{t}}\sin{n\pi\over L}{x} \end{equation}

という式の物理的意味について考えておこう。この式には$\mathrm e^{-{n^2\pi^2K\over L}{t}}$がついている(しかも$n>0$)から、時間が立てば立つほど、温度は0に近づいていくことになる。今考えている状況は両端が温度0で、他に熱源はないのだから、十分に時間経過すれば全体の温度が0になるというのは「もっとも」なことである。$n$の違いはグラフで書いた時の「波の数」なので、より短い波長の温度分布(つまり頻繁に寒暖が入れ替わっている)ときに「早く冷める」というのは感覚的にも納得できるだろう。

では、以下のアニメーションで温度変化の様子を確認しよう。


偏微分方程式の解き方 波動方程式

波動方程式

テキストは波動方程式を解くところを作っておいたが、実際の授業ではそこまできっちりできなかった。というわけでアニメーションのみを上げる。
\begin{equation} \left({\partial^2 u({t},{x})\over \partial t^2}\right)_{{x}} =v^2\left({\partial^2 u({t},{x})\over \partial x^2}\right)_{{t}} \end{equation}

という微分方程式を解いてみよう。

 実はこれは音などの「波」の方程式である。左辺は時間の二階微分だから加速度で、それは波の媒質(考えている波が音ならば空気、海の波なら海水)に働く力に比例する。右辺も力に比例するのだが、それが${x}$に関する二階微分になっている。二階微分は「曲がり具合」を意味するのであった。ここで海にできる波をイメージして、$u({t},{x})$はある時刻におけるある場所の海面の高さだとしよう。右辺の${x}$による二階微分は「海面の曲がり具合」を意味する。それが正なら海面は「谷」になり、負なら「山」になっていると思えばよい。海の波においては「山」なら下向きの、「谷」なら上向きの力が働くだろう、と考えると上の式の意味がわかるもちろん、海水に働く力をちゃんと計算して式にしていくと(適切な近似を行う必要はあるが)上の式が出てくる。ここではこの式の意味を解釈するだけでよしとしよう。。熱伝導方程式では${x}$の二階微分がそのまま温度の時間変化になったが、波の方程式の場合は${x}$による二階微分は「時間変化の時間変化」(すなわち加速度)になる。

 以下が、その解のアニメーションである。熱伝導の場合と違って、運動が「慣性」を持って行きすぎる(それによって振動がいつまでも続く)ことに注意しよう。

↓波のグラフ

↓速度のグラフ

初期状態を

初速度を




 来週はテストです。テストでは、A4一枚の「自作カンニングペーパー」を持込可とします。点数は100点満点で、
  • 試験の点数
  • 試験の点数×0.7+小テストの平均点×0.3
のうち点数の高い方で評価します。評価は
  • 90点以上:A
  • 80点以上:B
  • 70点以上:C
  • 60点以上:D
  • 60点未満:F
です。
熱伝導方程式 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

アンドロイドで熱伝導方程式の形を確認することができてよかった。
計算と、実際に起こる変化を結びつけておきましょう。

偏微分方程式の特徴がわかって楽しかった。
楽しんでもらえて何より。

偏微分方程式で積分定数がCではなくC(変数)になることが予想外だったけど、ちょっと考えてみるとちゃんとそうなることがわかりました。テスト頑張ります。
納得していくことが大事ですね。

今までのまとめを通して頭の中で少し整理できた。
整理しておきましょう。

偏微分方程式の解き方がわかった。
それはよかった。

偏微分方程式も結局は常微分方程式と同じように解くんだなぁと思いました。
基本的な考え方は同じです。応用がたくさんある。

熱伝導方程式について、もう少し初期条件などとの結びつきも考えて確かめていきたい。
テキストには今日話したことよりもう少し書いてあるので、読んでおいてください。

難しい。
最後まで来ましたから、多少難しいこともやらないと。

偏微分方程式は常微分方程式をする回数が増えただけで、そこまで難しくなかったが、解を仮定するところは、もう少し演習で身につけようと思った。
自分で計算しないと身につかないので、是非やってください。

熱で三角関数が出てきたので驚きました。しかし$\mathrm e^{\mathrm i\theta}$について忘れてしまっていたのでしっかり出せるようにしたいです。
そのうち三角関数の応用として、「フーリエ変換」というのを習うと思いますが、フーリエさんがフーリエ変換を作ったのは熱の理論を考えているときです。

熱伝導の方程式がわかったのでおもしろかった。
今日やれなかった、次の波動方程式も面白いです。

熱伝導方程式の計算は量が多くてとても難しかった。
じっくりやってみてください。慣れてくるとそれほどたいへんでもないです。

変数がたくさん出てきて混乱しました。テストまで一つ一つの変数が何なのかを理解します。
今日は2変数までしかやってなくて、時間と空間なので「何なのか」はわかりやすいと思います。

やはり基礎な公式は弱い点であって、そこを復習しなければならない。また、今日は変数分離の考え方を強めにした。
基礎的なところから積み上げていきましょう。

偏微分も練習をつまなければいけない。
何事も練習は大事です。

変数分離を使って偏微分方程式を解いた。
この解き方はいろんなところで使いますので、練習してものにしましょう。

偏微分方程式の解き方の本質は常微分方程式と変わらないということで、安心しました。
とはいえ難しいことには違いないので安心していいかはどうかな?

$\mathrm e^{\mathrm i\theta}-\mathrm e^{-\mathrm i\theta}=2\mathrm i\sin\theta$が思い出せなかったのはくやしかったです。もう一度復習をしてしっかりと力にして試験にのぞみたいと思います。
では、しっかり復習して試験を。

めっちゃ難しいです。昨日はずっと自然科学をやっていたけど、もっと理解できるように頑張りたいと思いました。テスト頑張ります。
授業でやったことは、この後も使うことばかりなので、しっかり身につけていきましょう。

熱伝導方程式がわかりやすかったです。後期の半年間ありがとうございました。テストはお手柔らかにおねがいします。
テストは、こちらがお手柔らかにしているつもりでもなかなかそう感じてもらえない。

仮定して解くところが少しわかりました。熱伝導方程式は難しかったです。
練習しましょう。手を動かしてやってみれば、そんなに難しくはありません。

オイラーの公式がいろんなところで活躍している。
ええ、あれはいろんなところで出てきます。

虚数の知識がまるでないので、これから身につけていこうと思った。自然科学(今日の熱伝導)で虚数が出てきた事に驚いた。
虚数ってのは役に立つものなんですよ。

偏微分を変数分離して、常微分のように計算するやり方が面白かったです。
身につけておいてください(きっと今後も使うので)。

熱が流れる、という考え方をしたことがなかった。もし左側が高温で右側が低温で持つところが必ず平均値になるなら温度の変化を感じないのかなと思った。
もし実際に温度が変化しないなら、もちろん変化は感じません(でも左が熱い、右は冷たい、は感じる)。

熱伝導の様子を微分方程式で考えることができた。
いろんな現象を微分方程式で考えることができます。

タブレットの反応が悪く、しっかりグラフが見れなかった。
今日は人が少なくてタブレットもたくさん余っていたので、交換してくれてよかったのに。

I、IIと御世話になりました。来年またこの授業で前野先生と会うことがないよう、テストがんばります。
はい、がんばってください。

難しいです。テスト勉強きちんとして頑張りたいです。
頑張ってください。

テストをがんばりたい。
がんばろう。

テスト…。
がんばってね。

単位とります。
はい、とっていってください。

来週テストということで、単位を取れるように勉強したいと思います。
勉強しましょう(テスト前だけでなく)。

来週試験頑張るぞ、おーーー!。
がんばれ〜〜。

テストがんばる。
がんばれ。

来週のテスト、がんばります!
がんばろう!

テストがんばりたい。
がんばりましょう。

来週テストなんで頑張りたい。
はい、頑張っていこう。

テスト頑張ります。
頑張ってください。

偏微分の応用