もう一度微分の定義を、以後で使いやすい形でまとめると、
$\underbrace{f(x+\mathrm dx)}_{変化後の量}=\underbrace{f(x)}_{元の量}+ \underbrace{f'(x)\mathrm dx}_{変化量}$
のように書くことができる。この$\mathrm dx$の前の係数$f'(x)$が「$f(x)$の導関数(微係数、または微分)」と呼ばれる量である。となる。
前回微分の性質として線形性を述べたが、今日はまず「ライプニッツ則」を述べよう。ライプニッツ則とは
${\mathrm{d} \over \mathrm dx}\left(f({x})g({x})\right)=\left({\mathrm{d} \over \mathrm dx}f({x})\right)g({x})+f({x}){\mathrm{d} \over \mathrm dx}g({x})$
または
$(f({x})g({x}))'=f'({x})g({x})+f({x})g({x})$
という式。つまり、
ということ。具体的には、
\begin{equation} \begin{array}{rl} f({x}+\mathrm dx)g({x}+\mathrm dx) =&\underbrace{(f({x})+f'({x})\mathrm dx)}_{\small f({x}+\mathrm dx)}\underbrace{(g({x})+g'({x})\mathrm dx)}_{\small g({x}+\mathrm dx)}\\ =&f({x})g({x})+f'({x})g({x})\mathrm dx+f({x})g'({x})\mathrm dx\\[3mm] =&f({x})g({x})+\underbrace{(f'({x})g({x})+f({x})g'({x}))}_{(f({x})g({x}))'}\mathrm dx\\ \end{array} \end{equation}という計算をやると、右辺の$\mathrm dx$の1次のオーダーの係数(つまり、微係数)が$f'({x})g({x})+f({x})g'({x})$であることがわかる。下の図はこの微分演算の時に行われている微小変化のイメージである。
合成関数の微分(このルールは「連鎖律(chain rule)」とも呼ばれる)を数式で表現しておこう。$g(f({x}))$という合成関数を考えて、その独立変数${x}$を${x}+\mathrm dx$と微小変化させる。
結果、$f({x})$は
\begin{equation} f({x}+\mathrm dx)= f({x})+ \underbrace{f'({x})\mathrm dx}_{\mathrm{d} (f({x}))} \end{equation}へと変化する。ここで$\mathrm{d} (f({x}))=f'({x})\mathrm dx$という記号を使った。$\mathrm{d}(なんとか)$のように$\mathrm{d} $をつけることで「(なんとか)の微小変化」という意味を持たせるこれをさらに省略して$\mathrm df({x})$、さらに$({x})$も省略して$\mathrm df$とだけ書いたりもする。。ライプニッツの記号の方を使うと、$\mathrm{d} (f({x}))={\mathrm df\over \mathrm dx}({x})\mathrm dx$と書けて、この式を「$\mathrm dx$を約分している」というイメージで捉えることができる。
$f({x})$の${x}$が微小変化すると、$g(f({x}))$は
\begin{equation} g(f({x}+\mathrm dx))= g(f({x})+\underbrace{f'({x})\mathrm dx}_{\mathrm{d}(f({x}))}) \end{equation}と微小変化する。上にも書いたように、$f'({x})\mathrm dx$の部分を$\mathrm{d} (f({x}))$と考えれば、
\begin{equation} g(f+\mathrm{d} (f({x})))= g(f)+g'(f)\mathrm{d} (f({x})) \end{equation}という展開をもう一度考えて、
\begin{equation} g(f({x}+\mathrm dx))= g(f({x}))+ g'(f({x}))\underbrace{f'({x})\mathrm dx }_{\mathrm{d} (f({x}))} \end{equation}とすることで、$g(f({x}))$の導関数が$g'(f({x}))f'({x})$だとわかる。
これを図で表現したのが右の図である。合成関数のときのように、${x}\to{y}\to{z}$(${y}=f({x}),{z}=g({y})$)という関係がある時、${x}$を微小変化させた時にそれに応じて${y}$が、そして連鎖して${z}$が変化する。
図には三つの導関数
$${\mathrm dy\over \mathrm dx}({x}),{\mathrm dz\over \mathrm dy}({y}),{\mathrm dz\over \mathrm dx}({x})$$を表す三角形(この三角形の傾きが導関数の値)が描かれている。導関数は$\mathrm dx,\mathrm dy,\mathrm dz$という三つの微小量の比でここでも計算しているのは微小変化の「比」だけであって、微小変化そのものではない。計算されるものだから、
\begin{equation} {\mathrm dz\over \mathrm dy}({y}) {\mathrm dy\over \mathrm dx}({x})={\mathrm dz\over \mathrm dx}({x})~~~~ただし、{y}=f({x}) \end{equation}が成立する。
\begin{equation} {\mathrm dz\over {\mathrm dy}}{{\mathrm dy}\over \mathrm dx}={\mathrm dz\over \mathrm dx} \end{equation}という「約分」を行った、と考えてもよい。
例として$F({x})=({x}^2+{x})^3$の微分をしてみよう。これを$f({y})={y}^3,{y}=g({x})={x}^2+{x}$として、$F({x})=f(g({x}))$と考えてから微分すると、
\begin{equation} {\mathrm{d} \over \mathrm dx}F({x})=\underbrace{ {\mathrm{d} \over \mathrm dx}g({x})}_{(2{x}+1)} \underbrace{ {\mathrm{d} \over \mathrm dy}f({y})}_{3{y}^2} = 3(2{x}+1)({x}^2+{x})^2 \end{equation}となる。慣れてきたら${y}$を導入するのも省略して、
\begin{equation} \begin{array}{rrl} & ({x}^2+{x})^3+ \mathrm{d} \left(({x}^2+{x})^3\right)=& \left( {x}^2 + {x} + \mathrm{d} ({x}^2+{x}) \right)^3 \\ &\mathrm{d} \left(({x}^2+{x})^3\right)=& \left( {x}^2 + {x} + \mathrm{d} ({x}^2+{x}) \right)^3- ({x}^2+{x})^3\\ &\mathrm{d} \left(({x}^2+{x})^3\right)=&3\left( \mathrm{d} ({x}^2+{x})\right) ({x}^2+{x})^2\\ &=&3(2{x}+1)({x}^2+{x})^2\mathrm dx \end{array} \end{equation}のように計算したってよい。
${y}={1\over f({x})}$の微分の公式を出そう。
ライプニッツ則を使うなら、まず${y}f({x})=1$と直してから
\begin{equation} \begin{array}{rll} {y}f({x})=&1&{↓微分}\\ \underbrace{\mathrm dy}_{前を微分} f({x})+{y}\underbrace{f'({x})\mathrm dx}_{後を微分} =&0&{↓移項}\\[2mm] \mathrm dy f({x})=& -\overbrace{{1\over f({x})}}^{{y}}f'({x})\mathrm dx\\[4mm] {\mathrm dy\over \mathrm dx}=& -{f'({x})\over \left(f({x})\right)^2} \end{array}\label{bunsuubibunone} \end{equation}として計算することができる。
合成関数の微分を使うなら、まず$g(y)={1\over y},y=f(x)$と二段階の合成関数にしてから
\begin{equation} {\mathrm d\over \mathrm dx}g(y)=g'(y)\times f'(x)=-{1\over (f(x))^2}\times f'(x) \end{equation}とすればよい。
関数${y}=f({x})$の逆関数${x}=f^{-1}({y})$を微分するとどうなるか。導関数は${従属変数の微小変化\mathrm dy \over {独立変数の微小変化\mathrm dx} } $という比で計算される。${\mathrm dy\over \mathrm dx}=f'({x})$なのだから、${\mathrm dx\over \mathrm dy}={1\over f'({x})}$なのは当たり前である。よって、
\begin{equation} {\mathrm dx\over \mathrm dy}({y})={1\over f'({x})}\biggl|_{x=f^{-1}({y})}~~~~(f'({x})を計算したのち、xにf^{-1}({y})を代入)\label{gyakubibun} \end{equation}という結果になる。つまりは「逆関数の微分は関数の微分の逆数」である。
前にグラフで示した(しかしまだその根拠は示してない)ように、$\sin {x}$は${x}=0$付近では${x}$とほぼ同じ(傾き1)である。これは$\lim_{{\Delta x}\to0}{\sin{\Delta x}\over {\Delta x}}=1$ということである。同様に${x}$が小さいときに$\sin {x}\simeq {x}$であることは、電卓による計算で確認した。まずこれを図解で示そう。
上の図は半径1で中心角${\theta}$の扇型である。扇型の「弧」の部分の長さも${\theta}$となる(これはラジアンという角度の定義)。一方、$\sin{\theta}$というのは図に描かれた直角三角形の「高さ」に対応する。図には$\tan{\theta}$、すなわち「底辺1の直角三角形の高さ」も示した(後の都合で、「底辺」が上に来ている)。
ここでこの${\theta}$をどんどん小さくしていくところを想像して欲しい。当然、$\sin {\theta}$と$\tan{\theta}$も小さくなる(${\theta}\to0$の極限で全て0になるだろう)。
このとき、$\sin {\theta}<{\theta}<\tan{\theta}$という関係がある。それを示すには、$\sin{\theta},{\theta},\tan {\theta}$の三つは、図に示した三つの経路を伝わって点${\rm P}$から点${\rm Q}$、点${\rm Q'}$、点${\rm Q''}$へと向かう線(真ん中のだけは曲線で、残り2本は直線)の長さであることを使う。この三つの経路の中で、一番「まっすぐ」進んでいる${\rm P}\to {\rm Q}$が一番短く、もっとも「遠回り」している${\rm P}\to{\rm Q''}$が一番長い。
こうして得られた式$\sin {\theta}<{\theta}<\tan{\theta}$を${\theta}$で割ることで、
\begin{equation} {\sin {\theta}\over {\theta}}< 1 < \underbrace{{\sin {\theta}\over {\theta}}\times {1\over \cos {\theta}}}_{{\tan {\theta}\over {\theta}}} \end{equation}という式を作ることができて、さらにこの式の右側の部分である$1 < {\sin {\theta}\over {\theta}}\times {1\over \cos {\theta}}$に$\cos{\theta}$を掛けると$\cos {\theta}<{\sin {\theta}\over {\theta}}$が得られるから、
\begin{equation} \cos {\theta}< {\sin {\theta}\over {\theta}}< 1 \end{equation}が結論できる。この式を作ってから${\theta}\to0$という極限を取ると、$\cos {\theta}\to1$だから、間に挟まれた${\sin {\theta}\over {\theta}}$も1に近づく。これで$\lim_{{\theta}\to0}{\sin {\theta}\over {\theta}}=1$がわかった。
まず数式で考えていく。
三角関数の加法定理
\begin{equation} \sin (A+B)=\cos A\sin B+\sin A\cos B,~~ \cos (A+B)=\cos A\cos B-\sin A\sin B \end{equation}を使って
\begin{equation} \sin ({\theta}+\mathrm{d}\theta)=\cos {\theta} \sin \mathrm{d}\theta + \sin {\theta} \cos \mathrm{d}\theta \end{equation}という式を出す。ここで$\mathrm{d}\theta$は0に近づけるのだから${\cal O}(\mathrm{d}\theta^2)$は書かないことにすると、$\sin \mathrm{d}\theta =\mathrm{d}\theta$であり、$\cos\mathrm{d}\theta=1$であるから、
\begin{equation} \sin ({\theta}+\mathrm{d}\theta)= \sin {\theta}+\underbrace{\cos {\theta}}_{微係数}\mathrm{d}\theta \end{equation}となる($f({x}+\mathrm{d}x)=f({x})+f'({x})\mathrm{d}x$と比較せよ)。これから、
である。
次に、同じことを図で考えよう。
上のように、角度${\theta}$を$\mathrm d\theta$だけ変化させた時の、「三角形の高さ」である$\sin\theta$の変化を考える。図に「相似な三角形」として示している「小さい方の三角形の斜辺は曲線だから相似な三角形とは言えないぞ!」と思う人もいるかもしれないが、今$\mathrm d\theta$をどんどん小さくしているので、この曲線は限りなく直線に近いように、$\mathrm d\theta$という長さの弧を斜辺として微小な直角三角形ができていて、この直角三角形の高さにあたる部分が$\mathrm d\theta \cos{\theta}$である。つまり$\sin {\theta}$の微小変化が$\cos {\theta} \mathrm d\theta$と書けるから、微係数は$\cos \theta$である。
上の図は長さを描き込んだものである。θが変化したことによる「高さ」sinθの変化量であるd(sinθ)がdθ×cosθに等しいことが読み取れる。
右側のグラフはsinθ,cosθのグラフであるが、そちらにも、のように傾きが表示してある。この「傾き」が確かにcosθに比例していることを確認しよう。
動径の棒をドラッグして動かすことができるので、いろんな場合について確かにsinθの変化(増減)がcosθに比例していることを動かしながら実感して欲しい。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。