前回、数式を使って、
\begin{equation} \sin ({\theta}+\mathrm{d}\theta)= \sin {\theta}+\underbrace{\cos {\theta}}_{微係数}\mathrm{d}\theta \end{equation}となる($f({x}+\mathrm{d}x)=f({x})+f'({x})\mathrm{d}x$と比較せよ)ということから、
と示した。
同じことを図で考えると、
のように、角度${\theta}$を$\mathrm d\theta$だけ変化させた時の、「三角形の高さ」である$\sin\theta$の変化を考える。図に「相似な三角形」として示している「小さい方の三角形の斜辺は曲線だから相似な三角形とは言えないぞ!」と思う人もいるかもしれないが、今$\mathrm d\theta$をどんどん小さくしているので、この曲線は限りなく直線に近いように、$\mathrm d\theta$という長さの弧を斜辺として微小な直角三角形ができていて、この直角三角形の高さにあたる部分が$\mathrm d\theta \cos{\theta}$である。つまり$\sin {\theta}$の微小変化が$\cos {\theta} \mathrm d\theta$と書けるから、微係数は$\cos \theta$である。
上の図は長さを描き込んだものである。θが変化したことによる「高さ」sinθの変化量であるd(sinθ)がdθ×cosθに等しいことが読み取れる。
右側のグラフはsinθ,cosθのグラフであるが、そちらにも、のように傾きが表示してある。この「傾き」が確かにcosθに比例していることを確認しよう。
動径の棒をドラッグして動かすことができるので、いろんな場合について確かにsinθの変化(増減)がcosθに比例していることを動かしながら実感して欲しい。
こっちはまず図で考えよう。右の図は、$\sin$の微分の時と同様、斜辺が1の直角三角形の角度を少し変えてみたものだが、今度は底辺である$\cos \theta$の変化を見ている。やはり相似な三角形ができていることを考えると、$\cos \theta$の変化量は$\sin {\theta} \mathrm d\theta$ということになりそうである。
ところがここで注意すべき点があって、それはこの$\cos \theta$は減っている(変化の方向が負の方向である)ということである。ゆえに、\wrapfigen
のように符号をつけるのが正しい。
左の単位円の部分は、前ページのグラフに比べて、90度反時計回りに回した状況になっていることに注意。
アニメーションのように、θが変化していったときにsinθとcosθがどのように変化していくかを考えると、それぞれの微分がどうなるかがわかる(はずである)。
左の図が、それぞれの長さを描き込んだもの。
右のグラフに、cosθのグラフの傾きがのように表示されている。これも動径をドラッグすることができるので、動かしながら「cosθの微分(傾き)は-sinθだな」ということを実感して欲しい。
$\sin $と同じ手順で数式で考えることもできる。三角関数の加法定理を使って、
\begin{equation} \begin{array}{rll} \cos ({\theta}+\mathrm d\theta) =&\cos {\theta} \cos \mathrm d\theta - \sin {\theta} \sin \mathrm d\theta&ここで、{\cos\mathrm d\theta=1,\sin\mathrm d\theta=\mathrm d\theta}\\ =&\cos {\theta} \underbrace{- \sin {\theta}}_{微係数} \mathrm d\theta\\ \end{array} \end{equation}を得るから、${\mathrm d \over \mathrm d\theta}(\cos {\theta})= -\sin {\theta}$となる。
この(一方にマイナス符号がつく意味)は、左の図のように、微分という操作がちょうど「90度$\left({\pi\over 2}\right)$の回転に対応していると思ってもよいだろう。
${\pi\over 2}$の回転はのように、$x$座標を$y$座標に、$y$座標を(符号を変えて)$x$座標にすることで得られる。式で書くなら$(x,y)\to(-y,x)$であるが、これが微分$(\cos \theta,\sin \theta)\to(-\sin \theta,\cos \theta)$と同じ計算になっているわけであるθが増加するという現象を原点を中心とした円運動と捉えると、微分というのは速度を計算することだから、円運動の速度は動径と垂直だ、ということを示していることになる。。
$\cos^2{\theta}+\sin^2{\theta}=1$を微分すると、
\begin{equation} \begin{array}{rl} 2\cos{\theta}{\mathrm d (\cos{\theta})} + 2\sin{\theta}{\mathrm d (\sin{\theta})} &=0 \\ {2\cos{\theta}}{\mathrm d (\cos{\theta})} + {2}\sin{\theta}{\cos{\theta}}\mathrm d\theta &=0 \\ {\mathrm d (\cos{\theta})} =&- \sin{\theta}\mathrm d\theta \end{array} \end{equation}この出し方を見ると、$\sin{\theta} $と$\cos{\theta}$の微分のどちらかにはマイナス符号が必要だったことがわかる。
のどちらも「微分する」と表現するので注意してください(高校で「微分する」というと下だけでしたが)。
まず、図解で示そう。
上の図のように、底辺1で底辺と斜辺のなす角が${\theta}$である直角三角形を描く(この直角三角形の高さが$\tan{\theta}$である)。角度が\mathrm d\theta だけ大きくなった時、この直角三角形の高さがどれだけ高くなるか、を考えれば$\tan {\theta}$の微分がわかる。
この直角三角形の斜辺の長さは${1\over \cos{\theta}}$であるこれを求めるのに、「公式$1+\tan^2{\theta}={1\over \cos^2{\theta}}$を使って…」などとやり始める人がたまにいるのだが、そんな面倒なことは全く必要ない。${底辺\over 斜辺}=\cos {\theta}$という式を思い出せばすぐに出る。から、図に書いた円弧の部分の長さは${\mathrm d\theta\over \cos{\theta}}$である。また相似な三角形ができているから、その相似の関係を使えば、高さの増加は${\mathrm d\theta\over \cos^2{\theta}}$とわかり、結果として${\mathrm d \over \mathrm d\theta}\tan{\theta}={1\over \cos^2{\theta}}$が導かれる。
アニメーションのように、θが変化していったときに縦軸の座標tanθがどのように変化していくかを考えると、微分がどうなるかがわかる。
左の図は上のグラフに長さを描き込んだものである。この場合、底辺が1なので、高さが(1/cosθ)であることに注意しよう。
動径の棒をドラッグして動かすことができるので、いろんな場合について確かにtanθの変化(増減)が(1/cos2θ)に比例していることを動かしながら実感して欲しい。
${y}=\tan{\theta}$の微分を数式を用いて行うには、$\tan {\theta}={{\sin {\theta}\over \cos{\theta}}}$としてから、以下のように行う(もちろん分数関数の微分の式に代入して考えていってもよい)。
\begin{equation} \begin{array}{crll} &\cos{\theta}\times{y} =&\sin {\theta}&ここで両辺を微分\\ -\sin{\theta} \mathrm d\theta\times{y} +&\cos{\theta}\times \mathrm dy =&\cos {\theta} \mathrm d\theta &y={\sin\theta\over\cos {\theta}}を代入\\ &- {\sin^2{\theta} \over \cos{\theta}} \mathrm d\theta +\cos\theta\mathrm dy =&\cos\theta\mathrm d\theta &両辺に\cos\thetaを掛け、左辺第1項を移項\\ &\cos^2\theta\mathrm dy =&\underbrace{(\sin^2\theta+\cos^2 {\theta})}_{1}\mathrm d\theta \\ &\mathrm dy=&{1\over\cos^2\theta}\mathrm d\theta\\ \end{array} \end{equation}となって、
がわかった。
指数関数${y}=a^{{x}}$を微分することを考えよう。まずは数式で「微分の定義」までちゃんと戻って考える。実は$a=\mathrm e$の時が一番簡単なので、まずはその場合を考えよう。
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\left(\mathrm e^{x}\right)= \lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{{x}+{\Delta x}}-\mathrm e^{x}\over {\Delta x}} =\mathrm e^{x} \times\lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{{\Delta x}}-1\over {\Delta x}} \end{equation}のように、極限の式から$\mathrm e^x$を外に出してしまう。こんなふうに外に出てしまうのは、指数関数という関数が「${x}$が${\Delta x}$増加すると「元の値」の$\mathrm e^{{\Delta x}}$倍になる」という性質を持っている(ということはつまり、増加量も元の関数の値に比例する)ということの顕れである。
残った部分$\lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{{\Delta x}}-1\over {\Delta x}}$はよく見ると${x}$によらない定数になっている。そしてこれは、${y}=\mathrm e^{x}$の${x}=0$での傾きそのものである(右のグラフ参照)。そしてそれは$\mathrm e$の定義により1である。つまり、
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\left( \mathrm e^{{x}}\right)=\mathrm e^{x}\label{expbibun} \end{equation}なのである。$\mathrm e^x$という関数は「微分しても変わらない関数」であった、ということがわかる(だから$\mathrm e$は重要なのである)。
「微分しても変わらない関数ってどんなもの?」という視点から、指数関数を「導いて」みよう。まず我々は$\mathrm e^{{x}}$の${x}=0$での値が1で傾きが1であること、つまり${x}=0$の近傍では$\mathrm e^{x}=1+{x}$であることを知っている。しかし、$1+{x}$を微分すると
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\left(1+{x}\right)\stackrel{?}{=}1 \end{equation}となって元に戻らない。微分した後に${x}$がいるためには、関数に${1\over 2}{x}^2$を加えておくとよいだろう。しかし、
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\left(1+{x}+{1\over 2}{x}^2\right)\stackrel{?}{=}1+{x} \end{equation}であるからこれでは微分すると(右辺に${1\over 2}{x}^2$が足りない分)元に戻らない。ではということでさらに${1\over 2\times3}{x}^3$を加える。すると、
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\left(1+{x}+{1\over 2}{x}^2+{1\over 2\times3}{x}^3\right)\stackrel{?}{=}1+{x}+{1\over 2}{x}^2 \end{equation}となる。この手順を繰り返していくと考えれば、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \mathrm e^{{x}}=&1+{x}+{1\over 2}{x}^2+{1\over 2\times3}{x}^3 +{1\over 2\times 3\times 4}{x}^4+{1\over 2\times 3\times 4\times 5}{x}^5 +\cdots\\ =&\sum_{n=0}^\infty {1\over n!}{x}^n \end{array} \end{equation}という無限につづく項の和で書ける、ということになる。前に$1+1+{1\over2}+{1\over 2\times3}+{1\over 2\times 3\times 4}+{1\over 2\times 3\times4\times 5}+\cdot$という計算で$\mathrm e$が出せる、という話をしたが、その理由はこれである。
次に$\mathrm e^{kx}$のように指数が定数$k$倍されている場合を考えると、
\begin{equation} {\mathrm d (\mathrm e^{kx})\over \mathrm dx }= \lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{kx+k{\Delta x}}-\mathrm e^{kx}\over {\Delta x}} =\mathrm e^{kx}\lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{k{\Delta x}}-1\over {\Delta x}} \end{equation}となるが、
\begin{equation} \lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{k{\Delta x}}-1\over {\Delta x}}= \lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{k{\Delta x}}-1\over {k{\Delta x}\over k}} = k\lim_{{\Delta x}\to0}{\mathrm e^{k{\Delta x}}-1\over {k{\Delta x}}} \end{equation}としてから$k{\Delta x}=t$と置くとこの式はさらに$k\lim_{t\to0}{\mathrm e^{t}-1\over {t}}$と書き直せて、この極限は$k$だから、
\begin{equation} {\mathrm d (\mathrm e^{kx})\over \mathrm dx }= k\mathrm e^{kx} \end{equation}となる(このような状況を「$k$が$\exp$の肩から降りてくる」と表現する)。
ここまでくると、底が$\mathrm e$ではなく一般の正の数であった場合も同様に、$a=\mathrm e^{\log a}$と書けることを使って$a^{{\Delta x}}=\mathrm e^{{\Delta x} \log a}$と直して考えて、
がわかる($a=\mathrm e$なら、$\log\mathrm e=1$だから${\mathrm d (\mathrm e^x)\over \mathrm dx }= \mathrm e^x$に戻る)。
${y}=\log{x}$を微分するには、まず$\mathrm e^{y}={x}$として、
\begin{equation} \begin{array}{rl} \mathrm e^{y}=&{x} \\ \underbrace{\mathrm e^{y}}_{{x}}\mathrm dy =&\mathrm dx \\ {\mathrm dy \over \mathrm dx }=& {1\over {x}} \end{array} \end{equation}とすればよい(もちろん、$\mathrm e^{{x}}$の逆関数だから${1\over \mathrm e^{{x}}}$になると考えてもよい)。
前に、${x}^\alpha$のような冪の形で、微分して${1\over {x}}$になる関数はない、という話をしたが、$\log{x}$というのがそういう関数になる。
この式と合成関数の微分則から、$\log \left(f({x})\right)$の微分は
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\log \left(f({x})\right) =f'({x})\times {\mathrm d \over \mathrm df}\log|f|= {f'({x})\over f({x})} \end{equation}となる。これから、
\begin{equation} f'({x})=f({x})\times {\mathrm d \over \mathrm dx }\log \left(f({x})\right) \end{equation}のように微分の計算を行うことができる(つまり、$\log$を取ってから微分して元の関数を掛けることで微分ができる)。
ややこしくなりそうに思うかもしれないが、対数の性質のおかげでこれで楽ができる状況もある。というのは、関数の積$f({x})g({x})$の微分はライプニッツ則を使うと、
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\log \left(f({x})g({x})\right)={\overbrace{f'({x})g({x})+f({x})g'({x})}^{(f({x})g({x}))'}\over f({x})g({x})}\label{taisuubibunkihon} \end{equation}積の対数が対数の和になることを使うと
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\log \left(f({x})g({x})\right)= {\mathrm d \over \mathrm dx }\log \left(f({x})\right) + {\mathrm d \over \mathrm dx }\log \left(g({x})\right)={f'({x})\over f({x})} +{g'({x})\over g({x})} \end{equation}となり、この二つは(当たり前だが)一致する。
また、${y}={x}^{{x}}$のようなややこしい冪で表された関数も、対数を取ってから微分する方法が楽である。
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }\left(\log{x}^{{x}} \right) ={\mathrm d \over \mathrm dx }\left( {x}\log{x} \right) =\log{x}+{x}\times {1\over {x}}=\log{x}+1 \end{equation}のように微分して、
\begin{equation} {\mathrm d \over \mathrm dx }{x}^{{x}}={x}^{{x}}\times \left(\log{x}+1\right) \end{equation}とする。
という式がよく使われる(この二つの式は互いに逆関数になるという関係でつながっている)。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。