次に、放物線( $\ycol{y}=\xcol{x}^2$のグラフ)の下の面積を計算してみよう。同様に$0 < \xcol{x} < x_0$という範囲を考えることにして、その領域を$N$分割して、微小長さ$\coldx={x_0\over N}$ごとに分けて、その微小長さを横、高さを$\ycol{y}=\xcol{x}^2$として作られる長方形の面積をどんどん足していくことにする。
上の図に示したように、$\ncol{n}$番めの長方形の縦の長さは$\left(\ncol{n}\times{x_0\over N}\right)^2$で横が${x_0\over N}$だから、この二つを掛けた答えである$\ncol{n}^2{(x_0)^3\over N^3}$を$\ncol{n}=1$から$\ncol{n}=N-1$まで足すという計算を行う。結果は \begin{equation} \begin{array}{rl} \sum_{\ncol{n}=1}^{N-1}\ncol{n}^2{(x_0)^3\over N^3} =&{(x_0)^3\over N^3}\underbrace{\sum_{\ncol{n}=1}^{N-1}\ncol{n}^2}_{{N(N-1)(2N-1)\over 6}}\\ =&(x_0)^3\times{(N-1)(2N-1)\over 6N^2} \end{array}\label{NNNN} \end{equation} となる。
途中で$\sum_{\ncol{n}=1}^{N-1}\ncol{n}^2={N(N-1)(2N-1)\over 6}$という公式を使っている。最後にある${(N-1)(2N-1)\over 6N^2}$は${\left(1-{1\over N}\right)\left(2-{1\over N}\right)\over 6}$と書き直せるから、$N\to\infty$で${1\over 3}$に収束する。よって、今考えている面積は${(x_0)^3\over 3}$へと収束する。前節同様、今求めた面積(「下からの極限」)は求めたい面積より少し小さいが、「上からの極限」を考えると今求めたより少し大きい面積がやはり${(x_0)^3\over 3}$へ収束することがわかるので、 \begin{equation} \int_0^{x_0}\xcol{x}^2\coldx={(x_0)^3\over 3}\label{sekibunxsq} \end{equation} が求められた。ここで求めたのは「$0$から$x_0$まで」だが、ここまでやっておけば、任意の範囲についての積分は以下のように計算できる。 \begin{equation} \int_{x_1}^{x_2}\xcol{x}^2\coldx = \int^{x_2}_{0}\xcol{x}^2\coldx - \int^{x_1}_{0}\xcol{x}^2\coldx={(x_2)^3\over 3}-{(x_1)^3\over 3} \end{equation}
「では次に$\xcol{x}^3$を考えよう」と行きたいところだが、この方法はいずれ行き詰まる。というのは、$\sum_{\ncol{n}=1}^{N-1}\ncol{n}={N(N-1)\over 2}$や$\sum_{\ncol{n}=1}^{N-1}\ncol{n}^2={N(N-1)(2N-1)\over 6}$の次の公式$\sum_{\ncol{n}=1}^{N-1}\ncol{n}^3={N^2(N-1)^2\over 4}$あたりからは知らない人も多いだろうそういう時は公式集を持ってくればよい。たくさんの公式を全部覚えておく必要などない。ただ「こういう公式がある」を知らないと公式集を引くこともできないから、いろいろな式があることを知っておくべきなのはもちろんのことである。。それに$x^{1.3}$のような整数べきでない場合はもっと難しそうだ。
一般の$\alpha$の場合の$\xcol{x}^\alpha$の積分は、等分割でない分割を使う方法もあるし、次の節で考える微積分学の基本定理を使う方法もある。
えらく大層な名前だが、実は単純なことで、一文で表すならば「積分の逆の演算が微分である」に過ぎない。
説明の前にもう一度確認しておくが、定積分$\int_a^b f\kakko{\xcol{x}}\coldx$という量は、関数$f\kakko{\xcol{x}}$と、下限$a$と上限$b$のすべてに依存する。とりあえず関数$f\kakko{\xcol{x}}$の形と下限$a$は「変化しない」としておくと、定積分$\int_a^b f\kakko{\xcol{x}}\coldx$は上限$b$の関数であると考えてもよい。つまり、 \begin{equation} F\kakko{\zcol{b}}=\int_a^{\zcol{b}}f\kakko{\xcol{x}}\coldx \end{equation} のような関数$F\kakko{\zcol{b}}$(この式から、$\zcol{b}$は変数として扱うので色をつける。本書では「変化させることができるもの」を色付きで表すが、どれが「変化させることができる」かは文脈で決まる)を考える実際にはこの量は$a$にもよるし、関数$f$の形にもよるので、$F_f\kakko{a,b}$とでも書くべきであろうが、ここでは$a$は変化しない定数だとして扱っているので略している。。この$F\kakko{\zcol{b}}$は後で定義する「原始関数」の一例である原始関数には、元の関数の名前を大文字に変えた記号を使う事が多い($f\kakko{\xcol{x}}$の原始関数は$F\kakko{\xcol{x}}$のように)。ただし、そうでない場合もあるので注意。。
この$F$は$F\kakko{\zcol{b}}$なんですか?---$F\kakko{\xcol{x}}$じゃなく?
$F\kakko{\zcol{b}}$と書くときの括弧の中身は独立変数である。$\int_a^{\zcol{b}}f\kakko{\xcol{x}}\coldx$という式の中で変えることができるのは(変数なのは)$\zcol{b}$である。$\xcol{x}$は$a$から$\zcol{b}$までを変化させながら足す「積分変数」であって、変化はするがその変化の仕方はもう決まっている。「自由に変えることができる変数」は$\zcol{b}$の方である。
ここで、$\zcol{b}$の変化による$F\kakko{\zcol{b}}$の変化の割合(微分)を考えると、
微積分学の基本定理の一つの表現
$F\kakko{\zcol{b}}=\int_a^{\zcol{b}} f\kakko{\xcol{x}}\coldx$を$\zcol{b}$で微分すると、$\opcol{{\diff \over \mathrm db}}\left(\int_a^{\zcol{b}} f\kakko{\xcol{x}}\coldx\right)=f\kakko{\zcol{b}}$となり、元の関数に戻る(ただし、変数は$\zcol{b}$に変わる)。
が成り立つことが、ここまでやった定積分という計算の意味をわかっていればわかると思う。図でその意味を確認しておこう。
積分の上限$\zcol{b}$を少し変化させる。積分の結果である面積は図に示したの分だけ増加する。この部分を例によって「幅$\zcol{\mathrm db}$、高さ$f\kakko{\zcol{b}}$の長方形」と考える(右下の図に書いた三角形に近い形の部分を無視する)と、$F\kakko{\zcol{b}}$の変化量は$f\kakko{\zcol{b}}\zcol{\mathrm db}$である(厳密には後に$\Odr\kakko{\zcol{\mathrm db}^2}$がつく)。
これで \begin{equation} F\kakko{\zcol{b}+\zcol{\mathrm db}}=F\kakko{\zcol{b}}+f\kakko{\zcol{b}}\zcol{\mathrm db} \end{equation} が示せた。
一般的な微分の式$g\kakko{\xcol{x}+\coldx}=g\kakko{\xcol{x}}+g'\kakko{\xcol{x}}\coldx$と上の$f$と混同しないように$g$を用いたが、式の意味は変わらない。見比べる($F\to g,f\to g'$という対応になっていることに注意)ことにより、$F\kakko{\zcol{b}}$の微分が$f\kakko{\zcol{b}}$だということ($F'\kakko{\zcol{b}}=f\kakko{\zcol{b}}$)がわかる。これで微積分学の基本定理が示せた。
別の言い方をすれば、次の図のように考えて
微小な範囲の積分
\begin{equation} \int_{\xcol{x}}^{\xcol{x}+{\small \coldx}}f\kakko{\ycol{y}}\coldy = f\kakko{\xcol{x}}\coldx + \Odr\kakko{\coldx^2} \end{equation}
のように書くこともできるということである。
【FAQ】左辺は$\ycol{y}$の積分なんですか?---$\xcol{x}$じゃなく?
積分というと$\xcol{x}$でやらねば、と思い込んでいる人がたまにいるが、もちろんそんなことはなく文字はなんでもよい。なんなら、積分変数を$\ycol{y}$ではなく$\tcol{t}$にして$\int_{\xcol{x}}^{\xcol{x}+{\small \coldx}}f\kakko{\tcol{t}}\coldt$と書いてもよい。「$\ycol{y}$という変数」に関して$\xcol{x}$から$\xcol{x}+\coldx$まで積分するから、右辺は$\xcol{x}$(と$\coldx$)の関数となる。
積分が終わった後はもはや$\ycol{y}$の関数ではない。定積分という計算はこの場合、$\ycol{y}$にいろんな値を代入したものを(連続的に積分変数である$\ycol{y}$を変化させながら)足算していくという計算だから、積分が終わったときにはもう$\ycol{y}$はどこにもいない。
微分積分学の基本定理のありがたみは、どちらかというと面倒な計算である「積分」を「微分の逆」という形で計算できることである。たとえば我々は$\ddx \left(\xcol{x}^\alpha\right)=\alpha \xcol{x}^{\alpha-1}$をすでに知っているので、 \begin{equation} \ddx \left(\xcol{x}^\alpha\right)=\alpha \xcol{x}^{\alpha-1}~~の逆として~~ \int_a^b \alpha\xcol{x}^{\alpha-1} \coldx =b^\alpha - a^\alpha \end{equation} を得る。あるいは、$\alpha=\beta+1$として両辺を$\alpha$で割って、 \begin{equation} \int_a^b \xcol{x}^{\beta} \coldx ={b^{\beta+1}\over \beta+1} - {a^{\beta+1}\over \beta+1}\label{teisekibunxalpha} \end{equation} という式を作ることができる。以下でもこれを使って計算しにくい積分を求めていく。
前節で使った記号$f\kakko{\xcol{x}}$は、「定積分の結果を上限の関数として表したもの」であったが、結局それは「微分したら積分する前の関数に戻るもの」でもあった。そこでより一般的に「原始関数(primitive function)」という関数$f\kakko{\xcol{x}}$を、
原始関数の定義 \begin{equation} 微分するとf\kakko{\xcol{x}}になる、すなわち f\kakko{\xcol{x}}=\ddx F\kakko{\xcol{x}}となる関数F\kakko{\xcol{x}}\label{gensikansuudef} \end{equation}
で定義する原始関数を表現する時には、大文字($f$に対して$F$など)を使うことが多い。(「原始」という言葉はもちろん「微分する前」ということ)。ただし、「定積分の結果を上限の関数として表したもの」は原始関数になるが、原始関数は常に「定積分の結果を上限の関数として表したもの」になるとは限らない。
ある原始関数$F\kakko{\xcol{x}}$が求められたとすると、それに任意の定数を足したもの$F\kakko{\xcol{x}}+C$も、 \begin{equation} \ddx \left(F\kakko{\xcol{x}}+C\right) =\ddx F\kakko{\xcol{x}}+\underbrace{\ddx C}_{0} =f\kakko{\xcol{x}} \end{equation} となり$f\kakko{\xcol{x}}$の原始関数たる条件微分したら$f\kakko{\xcol{x}}$になるを満たす。ゆえに原始関数は一つに決まらないが、原始関数の定義が必然的にそうなるようにできているのだから仕方がない。そもそも微分という演算が「定数を消してしまう」演算なので、「微分の逆」を考えた時に定数の分だけ決まらないのは当然である。
原始関数がわかれば、定積分は \begin{equation} \int_{x_1}^{x_2}f\kakko{\xcol{x}}\coldx = F\kakko{x_2}-F\kakko{x_1}=\bigl[F\kakko{\xcol{x}}\bigr]_{x_1}^{x_2}\label{teisekibungensi} \end{equation} のように上限での原始関数の値$-$下限での原始関数の値で計算できる。この量を(上の式の最後でも書いたように)$\bigl[F\kakko{\xcol{x}}\bigr]_{x_1}^{x_2}$という記号を使って書く。この式においても、原始関数$F\kakko{\xcol{x}}$の「定数$C$を足してもやはり原始関数である」という性質は変わらない。 \begin{equation} \int_{x_1}^{x_2}f\kakko{\xcol{x}}\coldx = \bigl[F\kakko{\xcol{x}}+C\bigr]_{x_1}^{x_2} =F\kakko{x_2}+C-\left(F\kakko{x_1}+C\right)=F\kakko{x_2}-F\kakko{x_1}\label{kieruteisuu} \end{equation} となって定積分の結果に$C$は影響しない。
ここまでで考えた例では、$\xcol{x}^\alpha$の原始関数(の一つ)が${\xcol{x}^\alpha\over \alpha+1}$である。 \begin{equation} \int_a^b \xcol{x}^{\beta} \coldx =\left[{\xcol{x}^{\beta+1}\over \beta+1}\right]_a^b ={b^{\beta+1}\over \beta+1} - {a^{\beta+1}\over \beta+1} \end{equation} と書けることがわかるが、実際、 \begin{equation} \ddx \left(\xcol{x}^{\alpha+1}\right)=(\alpha+1)\xcol{x}^{\alpha} \end{equation} となっている。
$c$を下限とした定積分$\int_c^{\xcol{x}}f\kakko{\ycol{y}}\coldy=F\kakko{\xcol{x}}-F\kakko{c}$は原始関数の一つである。$f\kakko{\ycol{y}}=\ycol{y}$の場合、原始関数の一つは \begin{equation} f\kakko{\xcol{x}}=\int_c^{\xcol{x}}\ycol{y}\coldy=\left[{\ycol{y}^2\over 2}\right]_c^{\xcol{x}} ={\xcol{x}^2\over 2}-{c^2\over 2} \end{equation} になる(当たり前だが微分すると$\xcol{x}$に戻る)。$c$がなんでもよいので、最後についている$-{c^2\over 2}$の分だけ、原始関数$f\kakko{\xcol{x}}$は不定性を持つ。これは上の$C$が任意であったことの反映である。
関数$f\kakko{\xcol{x}}$から原始関数$f\kakko{\xcol{x}}$を求める演算を「不定積分(indefinite integral)」と呼ぶ。
不定積分の記号は、定積分の記号から(不定積分では不要である)積分範囲を外して、
不定積分 \begin{equation} \begin{array}{c} \ddx F\kakko{\xcol{x}}=f\kakko{\xcol{x}}であるとき、\\[3mm] \intdx f\kakko{\xcol{x}}= F\kakko{\xcol{x}}~~~または\int f\kakko{\xcol{x}}\mathrm dx=F\kakko{\xcol{x}} \end{array} \end{equation}
のように書く。不定積分の答え$F\kakko{\xcol{x}}$には上の述べた積分定数の分だけの「不定性」がある(こうなるから「不定積分」だと覚えておくとよい)。
定積分の記号を流用して同じような形の式に書いているが、不定積分という操作は「関数$f\kakko{\xcol{x}}$から原始関数$F\kakko{\xcol{x}}$へ」という対応関係微分の「関数$f\kakko{\xcol{x}}$から導関数$f'\kakko{\xcol{x}}$へ」という対応関係の逆である。であり、一方の定積分は「関数$f\kakko{\xcol{x}}$と領域(下限〜上限)から、積分結果という一つの数へ」定積分の方は積分の上限・下限を決めて$\int_a^b f\kakko{\xcol{x}}\coldx$と書いた時点で値は一つに決っている。という対応関係であるだからむしろ不定積分の記号は「微分の逆」という意味で$\opcol{\left({\diff \over \kidx }\right)^{-1}}$のように書くべきかもしれないが、普通この記法は使われない。「微分演算子の逆の演算子」というのは実際に微分方程式を解くときの技法としては使われることもある。。
ちょうど、微分を「微分演算子$\ddx$を掛ける」ことで表現したように、不定積分という演算は「前から`積分演算子'$\opcol{\int\!\!\kidx}$を掛ける」$\int f\kakko{\xcol{x}}{\mathrm dx} $という書き方の時は「前から$\int$を、後ろから${\mathrm dx}$を掛ける」になる。という演算だとして表現できる。定積分の$\coldx$は「微小な変化量」という意味が明確だったが、それに比べると不定積分の$\kidx$はむしろ「積分という演算を表現する記号$\opcol{\int\!\! \kidx}$」の一部であると言える。
不定積分は名前の通り、定数を付加できる分だけ決まらない。だから、 \begin{equation} \intdx\xcol{x} = {\xcol{x}^2\over 2}+C \end{equation} のように「まだ決まってない定数(上の式の場合$C$)」をつけて結果を示す。これを「\newwordE{せきぶんていすう}{積分定数}{constant of integration}」と呼ぶ(文字はよく$C$を使うがそうでなくてはいけないわけではない)。積分定数は不定積分の時は必要だが、定積分の時はどうせ消えてしまう運命にあるので、定積分の括弧$\left[~~~~~~\right]$の内側に積分定数をつける必要はない(つけたければつけてもよいが)。
G不定積分は「微分の逆」であるとよく言われる。しかし、 \begin{equation} \ddx \intdx f\kakko{\xcol{x}}=f\kakko{\xcol{x}}\label{motonimodoruyo} \end{equation} のように「不定積分してから微分」は元に戻るが、逆の「微分してから不定積分」の結果は \begin{equation} \intdx \ddx f\kakko{\xcol{x}}=f\kakko{\xcol{x}}+C\label{motonimodoru} \end{equation} のように元に戻らず、積分定数$C$の分だけ不定となることに注意しよう。
$\xcol{x}^\alpha$の不定積分は$\intdx \xcol{x}^\alpha = {\xcol{x}^{\alpha+1}\over \alpha+1}+C$は$\alpha\neq -1$のときに正しい式であった。$\alpha=-1$の時、つまり、$\intdx {1\over \xcol{x}}$はまだ求められていない。しかしすでに「微積分学の基本定理」を知っているので微分して${1\over \xcol{x}}$になるものを探せばよい。$\ddx \log \xcol{x}={1\over \xcol{x}}$であるから、以下がわかる。
${1\over\xcol{x}}$の不定積分
\begin{equation} \intdx {1\over \xcol{x}} = \log\xcol{x}+C\label{intoneoverx} \end{equation}
ここで注意しておいて欲しいのは、$\xcol{x}$が負の場合。この点を気にして右辺を$\log|\xcol{x}|+C$のように絶対値をつけて表現することもある。しかしオイラーの関係式から示されるように、$\E^{\mathrm i\pi}=-1$なので$\log\kakko{-1}=\mathrm i\pi$と考えれば、$\xcol{x}$が負の時は$\xcol{x}=-|\xcol{x}|$とすれば、 \begin{equation} \log \xcol{x}= \log\kakko{-|\xcol{x}|}=\log|\xcol{x}|+ \log\kakko{-1}=\log|\xcol{x}|+\mathrm i\pi\label{logminus} \end{equation} となり、絶対値があるかないかは定数$\mathrm i\pi$がつくかつかないかの差である。この$\mathrm i\pi$も含めて積分定数$C$と思えば問題ない。「積分定数は実数であって欲しい」と考えるなら、絶対値は必要である。
もう一つ注意しておくと、${1\over \xcol{x}}$は$\xcol{x}=0$で不連続である(範囲$\xcol{x}>0$と範囲$\xcol{x}<0$の関数はつながっていない)。よって積分結果も正の領域と負の領域では別物である。したがって不定積分は厳密には、 \begin{equation} \intdx {1\over \xcol{x}} = \begin{cases} \log\xcol{x}+C_1& \xcol{x}<0のとき\\ \log\xcol{x}+C_2& \xcol{x}>0のとき \end{cases} \end{equation} のように領域により別の積分定数をもってよい(微分すればどちらも${1\over \xcol{x}}$に戻る)。これは他の不連続な点を持つ関数でも同様である。以上のように、不連続点をまたぐ範囲の定積分には注意が必要である。
これは$\E^{\mathrm i\pi}=-1$だから成り立つ式…なのだが一つ落とし穴があって、$\E^{-\mathrm i\pi}$も$\E^{3\mathrm i\pi}$も$-1$(実際のところ、$n$を任意の整数として、$\E^{(2n+1)\mathrm i\pi}=-1$)であるから、$\log\kakko{-1}=-\I\pi$または$\log\kakko{-1}=3\mathrm i\pi$としてもよい(一般的には、$n$を任意の整数として$\log\kakko{-1}=(2n+1)\I\pi$)。たいていの場合、たくさんの値の代表として$\log\kakko{-1}=\mathrm i\pi$を選ぶ。この「代表を選ぶ」という計算をしているため、負の数が入るときには$\log a + \log b = \log\kakko{ab}$が成立しないことがある。例えば、$\log\kakko{-1}+\log\kakko{-1}=2\mathrm i\pi$と計算すると、これは$\log\kakko{(-1)\times(-1)}=\log 1 =0$と一致しない($\log\kakko{(-1)\times(-1)}=\log \kakko{\E^{2\mathrm i\pi}}=2\I\pi$と計算すれば一致するのだが…)。
三角関数の微分はすでに求めてあるので、「微積分学の基本定理」を使えば積分も簡単と言えば簡単なのだが、ここではあえて「足算の化け物」としての「三角関数の定積分」を求めよう。
たとえば$\int_0^{\theta_0} \cos \thetacol{\theta}\coldtheta$はどんな量になるだろうか。
「グラフを描いて面積を〜」と言われてもどうしていいのかわからないかもしれない。そこでまず、$\coldtheta\cos \thetacol{\theta}$という「長さ」を図に描いてみる。
上の図にあるように、斜辺が1の直角三角形の角度を$\thetacol{\theta}\to\thetacol{\theta}+\coldtheta$と変化させた時の「直角三角形の高さの変化」が$\coldtheta\cos \thetacol{\theta}$である。
これを逆に足していくと考えると、$\thetacol{\theta}=0$から$\thetacol{\theta}=\theta_0$まで足せば、その時の直角三角形の高さ$\sin \theta_0$になるだろう、と予想される。
これから我々は、 \begin{equation} \int_0^{\theta_0} \cos \thetacol{\theta} \coldtheta = \sin \theta_0 \end{equation} を得る。これは、 \begin{equation} % \int_0^{\theta_0} \cos \thetacol{\theta} \coldtheta = \bigl[\sin \thetacol{\theta}\bigr]_0^{\theta_0} =\sin\theta_0 - \sin 0 =\sin \theta_0 \end{equation} と考えることもできる。$\cos\thetacol{\theta}$の原始関数が$\sin\thetacol{\theta}$だったこと(逆に$\ddtheta\sin \thetacol{\theta}=\cos\thetacol{\theta}$だったこと)を思い出せば、この結果はもっともである。
同様に(上の図参照)、$\coldtheta \sin \thetacol{\theta}$という量をどんどん足していくと考えて、 \begin{equation} \int_0^{\theta_0} \sin \thetacol{\theta} \coldtheta = 1-\cos \theta_0 \end{equation} も得ることができる。こちらも原始関数を使った形で書こう。$\cos 0=1$であることを考えると、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \int_0^{\theta_0} \sin \thetacol{\theta} \coldtheta =& 1-\cos\theta_0 = -\cos\theta_0 - \underbrace{(-\cos 0)}_{-1} \end{array} \end{equation} となり、さらに$-\cos\theta_0 - (-\cos 0)=\left[-\cos \thetacol{\theta}\right]_0^{\theta_0}$のように定積分で使う記号を使って書き直すことができる。つまり$\int_0^{\theta_0} \sin \thetacol{\theta} \coldtheta =\left[-\cos \thetacol{\theta}\right]_0^{\theta_0}$だから、$\sin\thetacol{\theta}$の原始関数は$-\cos\thetacol{\theta}$である($\ddtheta\cos\thetacol{\theta}=-\sin\thetacol{\theta}$すなわち$\ddtheta\left(-\cos\thetacol{\theta}\right)=\sin \thetacol{\theta}$)。
$\tan$は$\sin,\cos $に比べ少しややこしいので、図形ではなく「原始関数を求める」方向で考えよう。$\tan \theta={\sin \theta\over \cos \theta}$という式と、$\log f\kakko{\thetacol{\theta}}$の微分の式を見比べる。 \begin{equation} \ddtheta\left( \log{ f\kakko{\thetacol{\theta}}} \right)={1\over f\kakko{\thetacol{\theta}}}\ddtheta f\kakko{\thetacol{\theta}},~~~~ \tan\thetacol{\theta}={\sin\thetacol{\theta}\over \cos \thetacol{\theta}} =-{1\over \cos\thetacol{\theta}}\ddtheta\left( \cos \thetacol{\theta}\right) \end{equation} 最後で、$\cos \thetacol{\theta}$を微分すると$-\sin \thetacol{\theta}$であることを使った。これを見比べると、 \begin{equation} \ddtheta\left( -\log\kakko{\cos \thetacol{\theta}} \right)={\sin \thetacol{\theta}\over \cos\thetacol{\theta}}=\tan \thetacol{\theta} \end{equation} とわかる。ゆえに、 \begin{equation} \opcol{\int\!\!\!\kidtheta} ~\tan \thetacol{\theta} = -\log\kakko{\cos \thetacol{\theta}}+C~~~(Cは積分定数) \end{equation} である。この$\log\kakko{\cos\thetacol{\theta}}$も絶対値は不要である(つけてもよい)。
指数関数(代表例として$\E^{\xcol{x}}$)の積分は簡単である。なぜなら$\E^{\xcol{x}}$は「微分しても変化しない関数」なのだから、積分しても変化しないに決っている。よって、
指数関数の不定積分
\begin{equation} \intdx \E^{\xcol{x}} = \E^{\xcol{x}} +C~~~~(Cは積分定数) \end{equation}
となる。「変わらない」と言ってもこっちには積分定数が付く。そのため「積分の積分」は、 \begin{equation} \intdx\left(\intdx~ \E^{\xcol{x}} \right) = \intdx \left( \E^{\xcol{x}} +C\right) =\E^{\xcol{x}} + C \xcol{x} +D \end{equation} となる。指数関数は何度微分しても指数関数だが、積分の方は違う関数になる。ここで$D$は2個めの積分定数で、1個めの$C$とは別の数であってよい。
$\log \xcol{x}$の積分は、直観的には難しい。というのは$\ddx (なんとか)=\log \xcol{x}$になる(なんとか)をすぐには思いつけないからである。後で示す部分積分の方法を使うという手もあるのだが、ここでは
間違った予想 $$\intdx~\log \xcol{x} =\xcol{x}\log \xcol{x}$$
から入ろう。不定積分は微分したら元に戻るはずである。では微分してみよう。 \begin{equation} \ddx \left(\xcol{x}\log \xcol{x}\right)=\underbrace{\log \xcol{x} }_{\xcol{x}の方を微分した}+ \underbrace{\xcol{x} \times{1\over \xcol{x}}}_{\log \xcol{x}の方を微分した}=\log \xcol{x} +1 \end{equation} となるから、微分の結果は$\log\xcol{x}$にならない。しかし、左辺から$\xcol{x}$で微分すると1になるものを、右辺から1を引けば欲しい式が出てくることがわかる。よって \begin{equation} \ddx \left(\xcol{x}\log \xcol{x}-\xcol{x}\right)=\log \xcol{x} \end{equation} とすればよい。よって以下のように結論できる。
対数関数の不定積分 \begin{equation} \intdx\log \xcol{x} = \xcol{x}\log \xcol{x} -\xcol{x}+C~~~~(Cは積分定数)\label{logintdx} \end{equation}
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。