前回で、定数係数の線形微分方程式の解き方として二階線形の定数係数微分方程式を例として
という解き方を学んだ。ここで前回の宿題として残っていたのは、特性方程式$a\lambda^2+b\lambda +c=0$が重解もしくは複素数解を持っていた場合である。
特性方程式が重解になる微分方程式 \begin{equation} \left( \left(\ddx\right)^2 -2A\ddx +A^2 \right)f\kakko{\xcol{x}}=0~~~すなわち~~~ \left( \ddx - A \right)^2 f\kakko{\xcol{x}}=0 \end{equation} を見て、$\left(\ddx - A\right) f\kakko{\xcol{x}}=0$になる関数を求めればよいと考えると、$f\kakko{\xcol{x}}=C\E^{A\xcol{x}}$という解はすぐに出る。しかしこれで終わりではない。そもそも二階微分方程式を解いているのだから、解は二つの未定パラメータを含まなくてはならない。つまり線形独立な解がもう1個出る。ではもう一つの解はどうなるのだろう?
さて、我々が求めたいのは「$\left(\ddx - A\right)$を二回掛けると0になる関数」つまり、 \begin{equation} \left(\ddx - A\right)\left(\ddx - A\right)f\kakko{\xcol{x}} =0 \end{equation} を満たす$f\kakko{\xcol{x}}$である。$f\kakko{\xcol{x}}=C\E^{A\xcol{x}}$が上の式を満たすのはもちろんだが、これだけでは解が足りない$f\kakko{\xcol{x}}=C\E^{A\xcol{x}}$は未定のパラメータを1個$(C)$しか含んでいないが、二階微分方程式だから2個含まなくてはいけない。。$\left(\ddx - A\right)f\kakko{\xcol{x}}=\E^{A\xcol{x}}$}を満たす関数$f\kakko{\xcol{x}}$があれば、 \begin{equation} \left(\ddx - A\right)\underbrace{\left(\ddx - A\right)f\kakko{\xcol{x}}}_{\E^{A\xcol{x}}} =\left(\ddx - A\right){\E^{A\xcol{x}}}=0 \end{equation} となるので、それも解となる。そうなる関数はすぐに見つかり、$\xcol{x}\E^{A\xcol{x}}$である。確認しよう。 \begin{equation} \left(\ddx - A\right)\left( \xcol{x}\E^{A\xcol{x}} \right)=\ddx\left(\xcol{x}\E^{A\xcol{x}} \right)-A\xcol{x}\E^{A\xcol{x}} =\E^{A\xcol{x}}+\underbrace{ A\xcol{x}\E^{A\xcol{x}}-A\xcol{x}\E^{A\xcol{x}} }_{相殺}\label{xexpx} \end{equation} こうして、重解である場合はもう一つの解$D\xcol{x}\E^{A\xcol{x}}$が出ることがわかったので、
二階線形微分方程式の特性方程式が重解を持つ場合の解
\begin{equation} \left(\ddx - A\right)^2 f\kakko{\xcol{x}}=0~~~の解は~~~ f\kakko{\xcol{x}}=\left(D\xcol{x}+C\right)\E^{A\xcol{x}} \end{equation} がわかる。これで未定パラメータを2個含む解になった。
この答えを出す方法として、 \begin{equation} 任意の関数g\kakko{\xcol{x}}に対し、~~ \left(\ddx-A\right)\left( \E^{A\xcol{x}}g\kakko{\xcol{x}}\right) = \E^{A\xcol{x}}\ddx g\kakko{\xcol{x}}\label{ddxA} \end{equation} を先に証明しておくのも良い方法である(後で応用が効く)。すなわち、以下の置き換えができる。
この置き換えを使うと、$\left(\ddx - A\right)^2 \left(\E^{A\xcol{x}}g\kakko{\xcol{x}}\right)=0$という方程式は$\E^{A\xcol{x}}\left(\ddx\right)^2 g\kakko{\xcol{x}}=0$という方程式に変わるから、解き易い後者の式を解けばよい(この答えが$g\kakko{\xcol{x}}=D\xcol{x}+C$であることはもう知っている)。
微分の階数が高くなったら多項式の次数をそれに応じて上げて \begin{equation} \left( \ddx - A \right)^k f\kakko{\xcol{x}}=0~~~の解は~~~ \left( C_{k-1}\xcol{x}^{k-1}+ C_{k-2}\xcol{x}^{k-2}+ \cdots+C_1\xcol{x}+C_0\right)\E^{A\xcol{x}} \end{equation} とすればよい。
以上の結果をまとめておこう。定数係数の線形同次微分方程式 $$ \left( A_n\left(\ddx\right)^n +A_{n-1}\left(\ddx\right)^{n-1} +\cdots +A_{1}{\ddx} +A_0 \right)\ycol{y} =0 $$ を解くには、微分演算子$\left(\ddx\right)^n$を$\lambda^n$という数に置き換えて、 $$ A_n\lambda^n +A_{n-1}\lambda^{n-1} +\cdots +A_{1}\lambda +A_0 =0 $$ という特性方程式を作る。この方程式が$n$個の相異なる解$\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_n$を持っていたならば、 \begin{equation} C_1\E^{\lambda_1\xcol{x}} + C_2\E^{\lambda_2\xcol{x}} + C_3\E^{\lambda_3\xcol{x}} +\cdots + C_n\E^{\lambda_n\xcol{x}} \end{equation} が解である。解が$m$重解を含んでいた場合、重解である$\lambda_k$に対しては上の式の$C_k\E^{\lambda_k\xcol{x}}$を \begin{equation} \left( C_{k,m-1}\xcol{x}^{m-1} +C_{k,m-2}\xcol{x}^{m-2} +\cdots +C_{k,1}\xcol{x} +C_{k,0} \right)\E^{\lambda_k\xcol{x}} \end{equation} と置き換える(上は$m$重解の場合で、$m$個のパラメータを含む)。
残るは$\lambda$が複素数解を持つ場合だが、その点については次の節で考えよう。
ここでは、複素数を使うことで微分方程式がどのように解きやすくなるのかを解説しよう。
複素数の微分方程式での利用例として、非常によく出てくる以下の方程式を考えよう(これはたとえば振り子の運動方程式である)。 \begin{equation} \left( \ddx \right)^2\ycol{y}= -\ycol{y}\label{tansindounosiki} \end{equation}
ここまでやってきた定数係数の線形微分方程式の一般論からすると、$\ycol{y}={\E^{\lambda \xcol{x}}}$としたくなるところだが、代入すると \begin{equation} \lambda^2\goverbrace{\E^{\lambda \xcol{x}}}^{\ycol{y}}= -\goverbrace{\E^{\lambda \xcol{x}}}^{\ycol{y}} \end{equation} となり、$\lambda^2=-1$という「実数の範囲で考えれば解なし」の方程式が出てくる。虚数を知らない人は、ここで「ああ、この微分方程式はこの方法では解けない」と諦めてしまう。しかしすでに虚数を知っている我々は、$\lambda=\pm\I$という「とりあえずの答え」を出して、「$\left(\ddx\right)^2\ycol{y}= -\ycol{y}$の解は、$\E^{\I \xcol{x}}$と$\E^{-\I \xcol{x}}$(およびその線形結合)である」と考えて先に進む。
答えが実数じゃなくていいんですか?
「とりあえずの答え」ならよい。実数ではなくてはならないのは最終的に求められる解であって、計算の途中で現れる量は複素数でもよい。最終結果が実数であるように、以下で調節する。
先に進んでみよう。一般解は \begin{equation} \ycol{y}=A\E^{\I \xcol{x}}+ B\E^{-\I \xcol{x}}\label{Csindou} \end{equation} となる。$A$と$B$は今から選ぶ定数(複素数であってよい)である。
この答えは一見複素数に見えるが、実際に欲しいのは実数解である。そこで、以下の二つの考え方のどちらかで実数解を得る。
(1)の方法で考えよう。この解が実数になれということは、複素共役である \begin{equation} \ycol{y}^*= A^* \E^{-\I \xcol{x}} +B^* \E^{\I \xcol{x}}\label{Csindoustar} \end{equation} が元の$\ycol{y}$と同じであれ、ということである。そうなるためには、$A^*=B$であればよい。こうすると自動的に$B^*=A$であることになる。こうして$A$と$B$に関係がついたから、以後は$B$を$A^*$と書くことにして、 \begin{equation} \ycol{y}=A \E^{\I \xcol{x}} +A^* \E^{-\I \xcol{x}} \end{equation} を解とすればよい。ここで、複素数である$A$を極表示複素数を$R\E^{\I\theta}$のように表示するのを「極表示」と言う。して$A=|A|\E^{\I\alpha}$($\alpha$は実数)とすると、 \begin{equation} \ycol{y}= |A|\left( \E^{\I(\xcol{x}+\alpha)} +\E^{-\I(\xcol{x}+\alpha)}\right) \end{equation} と答えをまとめることができる(この形の方が実数であることが明白である)。
さらに${\E^{\I\theta}+\E^{-\I\theta}\over 2}=\cos\theta$を使うと、以下のようにまとまる。 \begin{equation} \ycol{y}=2|A|\cos\kakko{\xcol{x}+\alpha} \end{equation} となって、よくみた振り子などの単振動の式の形にまとまる。
質量$m$の物体が$F$という力を受けるとき、$m\left(\ddt\right)^2 \xcol{x}= F$という物体の位置座標$\xcol{x}$に関する微分方程式(運動方程式)が成り立つことが力学で知られている。この$F$が$-K\ddt\xcol{x}$($K$は比例定数)のように$\xcol{x}$の時間微分に比例する場合、すなわち、 \begin{equation} m\left(\ddt\right)^2 \xcol{x}= -K\ddt\xcol{x}\label{FKv} \end{equation} という微分方程式が成り立つ場合を考えよう。定数係数の線形斉次方程式であるから、$\xcol{x}=\E^{\lambda\tcol{t}}$を代入すると、
\begin{equation} m\lambda^2 \E^{\lambda\tcol{t}} = -K\lambda \E^{\lambda\tcol{t}} \end{equation} となり、特性方程式は$m\lambda^2=-K\lambda$となる。この方程式の解は$\lambda=0,-{K\over m}$なので、 \begin{equation} \xcol{x}\kakko{\tcol{t}}= C_1 + C_2 \E^{-{K\over m}\tcol{t}} \end{equation} が解である。グラフは
のようになり、積分定数の意味は、$C_1$が$\tcol{t}\to\infty$での$\xcol{x}$の値、$C_1+C_2$が$\tcol{t}=0$での$\xcol{x}$の値である。
最初に$\xcol{x}=0$にあるとして、いろいろな初速度を与えた場合の運動の様子が次のグラフである。グラフでは、$C_1=v_0{m\over K},C_2=-v_0{m\over K}$と選んである。
ここで、 \begin{equation} \ddt\xcol{x}\kakko{\tcol{t}}= -{K\over m}C_2\E^{-{K\over m}\tcol{t}} \end{equation} であるから、$C_1=v_0{m\over K},C_2=-v_0{m\over K}$のとき$\xcol{x}\kakko{0}=0,{\ddt}\xcol{x}\kakko{0}=v_0$になる。初速度に比例した距離だけ移動できることがわかる。「止まるまでの時間」は$\infty$である!とはいえ、速度は指数関数で急速に0に近づくので、見た目は止まったように見えるだろう。厳密に式の通りの運動が起こるのなら、「無限に遅い速度で永遠に動き続ける」ということになる。しかしここで扱っているのは理想化した状態で、実際には式に表した以外の力も働いている。。
以下のアニメーションで運動の様子を実感しよう。
運動方程式に重力$F=-mg$を加えて$-mg$とマイナス符号をつけるのは、図に書いたように上向きに$\xcol{x}$軸を取ったから。、線形非斉次な方程式 \begin{equation} m\left(\ddt\right)^2 \xcol{x}= -K\ddt\xcol{x}-mg\label{Fkvmg} \end{equation} にしてみよう。方程式を非斉次にしている$-mg$を消せばさっきの\式{FKv}になるが、その解はすでにわかっている。つまり斉次方程式の一般解は既に知っているから、非斉次方程式である\式{Fkvmg}の特解を一つ見つけて足せばよい。
特解を見つける方法はいろいろあるが、ここでは簡単な関数を代入して合うかどうかをやってみるという方法をとってみよう特解を考える方法として、物理的に「極端な状況」を考えるという手もある。たとえばこの場合、「等速運動になるのはどんなときだろう?」と考えてみる。それはつまり$\ddt x=0$になるということ。。まず$\xcol{x}=(定数)$だと$\ddt\xcol{x}$も$\left(\ddt\right)^2\xcol{x}$も0になってしまうから、$0=0-mg$となって成立しない。そこで次に簡単な、$\xcol{x}=v\tcol{t}$を試すと、$0= -Kv -mg$となるから$v=-{mg\over K}$とすれば$\xcol{x}=-{mg\over K}\tcol{t}$という特解を得る$\xcol{x}=-{mg\over K}\tcol{t}+C$でも特解になるが、斉次方程式の一般解にも積分定数があるので特解の方の$+C$は省略して構わない。。
こうして一般解は以下の式とグラフのようになる。 \begin{equation} \hspace{5cm} \xcol{x}= \underbrace{C_1 + C_2 \E^{-{K\over m}\tcol{t}}}_{斉次方程式の一般解} \underbrace{- {mg\over K}\tcol{t}}_{非斉次方程式の特解} \end{equation}
$C_1$を固定して$C_2$を変化させた時のグラフが、
$C_1+C_2$(すなわち、$\tcol{t}=0$での値)を固定して$C_2$を変化させた時のグラフが
である。
$C_2$は$\tcol{t}=\infty$において消える項の係数なので、他を変えずに$C_2$だけを変えると、最終的状態は同じになる(左側のグラフからもそれが読み取れる)。$C_1+C_2$を一定にすることは$\tcol{t}=0$での位置を同じにすることになる(右側のグラフからもそれが読み取れる)。
二階微分方程式だから未定のパラメータ二つでちょうどよい。そのため、$\xcol{x}$-$\tcol{t}$のグラフで一点を指定しても曲線は決まらない。一点と、「その点での傾き(微係数)」を指定すると、曲線が一つ決まる。
以下のアニメーションで運動の様子を実感しよう。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。