ここで関数の平行移動とはどういうものかを考えておこう。平面上のグラフを考えているから、基本的に平行移動は縦(${y}$方向)と横(${x}$方向)の二つがある(斜め方向は縦横の組み合わせだ)。
このグラフを${y}$方向に$y_0$だけ平行移動させるには、${y}\to {y}-y_0$と置き換えて、${y}-y_0=f({x})$という式に直せばよい。同様に${x}$方向に$x_0$だけ平行移動させるには、${x}\to{x}-x_0$と置き換えて${y}=f({x}-x_0)$という式に変える。両方を同時に行うと、 \begin{equation} {y}=f({x})~~{\rightarrow}~~{y}-y_0=f({x}-x_0) \end{equation} とすることで、${x}$方向に$x_0$、${y}$方向に$y_0$という平行移動が実現する。
この平行移動によって、 \begin{equation} {y}= a{x}^2+b{x}+c ~~~\to~~~ {y}=a\left({x}-x_0\right)^2+b\left({x}-x_0\right)+c+y_0\label{shiftniji} \end{equation} と式が変わるが、結果を展開すれば \begin{equation} {y}= a{x}^2+\underbrace{(b-2ax_0)}_{新しいb}{x}+ \underbrace{a(x_0)^2-bx_0+c+y_0}_{新しいc} \end{equation} となる。つまり$x$方向の平行移動は1次の係数と0次の係数を変える。
では、今日は三角関数を考えていこう。
三角関数というのは「角度→直角三角形の辺の比」という関数としてまず定義される。つまり、「直角三角形の角度を一つ決めると、辺の比が決まる」という関係が「三角関数」である。理工学では、角度は「度」ではなく一周を$2\pi$とする角度がよく使われることが多いなぜか、というのはこの後三角関数の性質を考えていくなかで理解できるはずである。。
直角三角形の3辺を隣辺、対辺、斜辺と右の図のように名付ける(名づけ方の意味は明白だと思う)。この三辺の比は、3×2=6通りの組み合わせがある。それぞれを、
sinθ= | 対辺 斜辺 | cosθ= | 隣辺 斜辺 | tanθ= | 対辺 隣辺 | |||
cosecθ= | 斜辺 対辺 | secθ= | 斜辺 隣辺 | cotθ= | 隣辺 対辺 |
と名付けるcosecは長いので、cscと略す場合もある。。
上の段にある三つが一番よく使われるもので、下の段の三つは対応する上の段の逆数$\left({1\over \sin \theta}={\rm cosec}\,\theta, {1\over \cos \theta}=\sec\theta, {1\over \tan\theta}=\cot\theta\right)$になっている。だから、下の段三つは使わないで済ませることもできる(以下でも上三つの$\sin,\cos,\tan$を主に考えていく)。
ややこしいことに、「サイン」の逆数が「コセカント」で、「コサイン」の逆数が「セカント」、と「コ」のつくのが入れ替わるが、「co-」が着くのことの意味は、下の図を見ると理解できるだろう。
「${\rm co}$-」のついた関数は${\pi\over2}-{\theta}$という角度に対応しているのである。
sinθ= | = |
cosθ= | = |
tanθ= | = |
ここまでで示した「直角三角形の辺の比」という定義では、角度θは$0<\theta<{\pi\over 2}$でなくてはいけない。ではθが${\pi\over2}$を超えた(ただしまだπは超えてない)場合は$\sin\theta,\cos\theta$は値がないのかというと、ここで定義を拡張することでθが${\pi\over2}$を超えても大丈夫なようにする。
具体的には、下の図のように逆側に三角形を作り、その「対辺」と「-(隣辺の長さ)」(マイナス符号に注意)をそれぞれ${\sin\theta}$と$\cos\theta$の定義とする。
のようにθが直角より大きくなり「対辺が負」であったり、のようにθが負になり「隣辺が負」になる場合であったりする位置にも移動できる。
前のページで気づいてなかった、という人は、下の図でやってみよう(下の図は前のページのものと機能は同じである)。
sinθ= | = |
cosθ= | = |
tanθ= | = |
ここでθが${\pi\over2}$を超えた時、隣辺が伸びる方向はさっきまでとは逆向きになった(図ではそれを表現するために$\cos\theta$を左右反転した文字で書いた)ので、負の値とすることにして、${\cos\theta}$を「$-(隣辺の長さ)$」と決めた。
このように考えたのだから、θが最初考えていた領域をちょうど超える場所である$\theta={\pi\over 2}$については、${\sin{\pi\over2}}=1,{\cos{\pi\over2}}=0$とするのが適当である。「$\theta={\pi\over 2}$では三角形はできないではないか!」と言いたくなる人もいるかもしれないが、定義を拡張するというのはそういうことであるそしてこの拡張が、ちゃんと役に立つ場合、それが一般に使われるようになる。どう役に立つのかについては、以下を読んで欲しい。。
下の図は斜辺を1で一定にして角度θを変化させていったときの直角三角形の対辺と隣辺の変化の様子である。斜辺を1とすると対辺は$\sin\theta$、隣辺の長さは$\cos\theta$であるが、角度が大きくなるに従って$\sin\theta$は大きくなり、$\cos\theta$は小さくなる(こうなるのは、$0<\theta<{\pi\over 2}$の範囲に限って考えているからであり、${\pi\over2}$を超えると事情が変わってくる)。
ここでも直角以外の角を結ぶ辺が長さ1となっていて、角度θの角と直角を結ぶ辺長さ$\cos \theta$、それ以外の辺が長さ$\sin\theta$となっている。
次に、隣辺を一定(1)にした場合に角度を変えると対辺がどのように変わるかを示したのが右の図である。
斜辺の長さは図に示していないが、$\sec\theta={1\over \cos\theta}$であり、θの変化に伴い変化する。
上の定義から、三角関数相互の関係を出してみよう。たとえば、
\begin{equation} {{\sin\theta}\over{\cos \theta}}={{{対辺}\over{{\scriptstyle 斜辺の長さ}}}\over {{\scriptstyle 隣辺の長さ}\over {{\scriptstyle 斜辺の長さ}}}}={{{対辺}}\over {{\scriptstyle 隣辺の長さ}}}=\tan\theta \end{equation}である。同様に${\cos \theta\over \sin \theta}=\cot\theta$であるこの後θの範囲は最初に定義した$0<\theta<{\pi\over 2}$からどんどん広がっていくのだが、これらの式はθがどのような範囲でも成立する。。
斜辺の長さが1である三角形、隣辺の長さが1である三角形、対辺が1である三角形を書いてみると次の図のようになる(この図の三つの三角形は互いに相似である)。
これらの図に、三平方の定理(ピタゴラスの定理)すなわち$\left(隣辺の長さ\right)^2+\left(対辺\right)^2=\left(斜辺の長さ\right)^2$を適用すると、以下の式が導けるこういう式を「新しい公式だ!」と単に覚えようとするのではなく、三平方の定理という「おなじみの式」の1つの変形なのだ、という事実も含めて頭の中に(図と関連付けて)整理しておこう。バラバラに覚えた「公式」はすぐに忘れてしまうが、相互につながりを持って認識された知識は、なかなか忘れない。。
三角比と三平方の定理の式
cos2θ | +sin2θ | =1 |
1 | +tan2θ | =1/(cos2θ)=sec2θ |
cot2θ | +1 | =1/(sin2θ)=cosec2θ |
次に、任意の角度でのsinとcosを以下の図のように定義しよう。ここまでで動かしてみてθという角度の意味はからに向かう方向を表すものであることがわかったと思うので、ここからはを固定して、斜辺にあたる角度の変わる部分の長さを1に固定して考える。
まず、sinθの方だけを考えることにしよう。
以上で図に描いたように考えることでθが$0<\theta<{\pi\over 2}$でない時も$\sin \theta,\cos \theta$が意味のある量となる。具体的には、下の図のように座標原点に一端を置いた長さ1の棒(これは直角三角形の斜辺を1に固定したことに対応する)をx軸からどれだけの角度回したか、という変数としてθを定義して、棒のもう一端のx座標を$\cos \theta$、y座標を$\sin\theta$と定義するのである。
こうすればθは$2\pi$も超えて$\infty$まで任意の角度を取ることができる。θが$2\pi$を超えた時は、上右の図のように、棒が何周も回ったと考えればよいのである。また、右の図に描いたように、「負の角度」に対しても定義できる。
こうして、任意の実数に対して$\sin \theta,\cos \theta$を定義することができた。グラフで表現すると次のようになる。
三角関数のうち$\sin\theta,\cos \theta$以外の他の4つ($\tan\theta,\sec\theta,{\rm cosec}~\theta,\cot\theta$)に関しては「定義できない値」がある。たとえば$\tan\theta={\sin \theta\over \cos \theta}$は$\cos \theta=0$となる場所では定義できない。
次に、sinθとcosθを同時に表示してみよう。さっきはθは任意の角度にしておいたが、今度は-πからπまで(-180度から180度まで)にしておく。
三角関数の「公式」として、
sin(θ+π)=-sinθ
cos(θ+π)=-cosθ
というものがある。この式がなぜ成立するか、は下の図でしばらく遊んでみればわかるのではないかと思う。
図のの部分の薄い色になっているの方が、θよりπラジアン(180度)大きい角度の場合の「長さ1の棒」になっている。sin,cosがπ足されることでどう変化するかを、図から読み取っていけば、公式が作られる(この公式は式として覚えようとしなくても、意味を考えればすぐにわかる)。
前ページ同様によくでてくる三角関数の公式として、
sin(θ+ | π 2 | )= cosθ |
cos(θ+ | π 2 | )= -sinθ |
がある。これも下の図で遊びながら理解して欲しい。
これが分かれば、
sin(θ- | π 2 | )= -cosθ |
cos(θ- | π 2 | )= sinθ |
の方も理解できるだろう。
あと一つのよく使う三角関数である$\tan\theta$についても$\sin ,\cos $同様、長さ1の棒を使っての定義とグラフを書いておこう。$\tan\theta$は${対辺\over \scriptstyle 隣辺の長さ}$と定義したから、「隣辺の長さを1にした時の対辺」と考えればよい。よって下の図左側に描いたように、隣辺を1にして、(つまり、棒の長さをそれに応じて変えつつ)角度θを変化させ、その時の三角形の高さを$\tan\theta$とする。ただしこの手順では「棒」が左を向いた時には(図で点線で表現したように)斜辺を逆に伸ばして三角形を作る(こうすることでちゃんと$\tan\theta={\sin \theta\over \cos\theta}$が成立するようになる)。
上でも述べたように、$\tan\theta$は$\theta={\pi\over 2}+n\pi$(これは$\cos\theta=0$となる場所)では定義できない。同様に${\rm cosec}~\theta={1\over \sin\theta}$は$\theta=n\pi$では定義できず、$\sec\theta={1\over \cos\theta}$は${\pi\over 2}+n\pi$では定義できない。
これらの定義から、nを整数として「θに$2\pi$を何回足しても、すなわち棒を一周あるいは複数回だけ回しても、$\sin \theta$や$\cos \theta$の値は変わらない」ということ
\begin{equation} \sin (\theta+2n\pi)=\sin \theta,~~~ \cos (\theta+2n\pi)=\cos \theta \end{equation}および、「θにπを何回足しても、すなわち棒を半周もしくはその整数倍回だけ回しても、$\tan\theta$の値は変わらない」ということが結論できる。 \begin{equation} \tan (\theta+n\pi)=\tan \theta \end{equation}
sin0.1 | =0.099833416647 |
sin0.01 | =0.009999833334 |
sin0.001 | =0.000999999833 |
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。