前回で、二階線形の定数係数微分方程式の解き方を説明したので、今回はまずその練習問題。
運動方程式に「復元力$F=-k\xcol{x}$」($\xcol{x}=0$に向けて戻そうとする力$\xcol{x}>0$なら負の向きの力、$\xcol{x}<0$なら正の向きの力が加わる。つまりどっちにしても、$\xcol{x}=0$に向かうような力である。よってこれを「復元力」と呼ぶ。)を加えた、 \begin{equation} m\left(\ddt\right)^2 \xcol{x}= -K\ddt\xcol{x}-k\xcol{x}\label{Fkvkx} \end{equation} を解いてみよう(重力は考えないことにする)。例によって特性方程式を作ると、 $$ m\lambda^2 +K\lambda +k=0 $$ となる。これの解は(二次方程式の解の公式を用いて) \begin{equation} \lambda_\pm={-K\pm\sqrt{K^2-4mk}\over 2m}=-{K\over 2m}\pm{{\sqrt{K^2-4mk}}\over 2m} \end{equation} となる。ここから、$K^2-4mk$が負の場合、0の場合、正の場合の三つに分けて考える。
$K^2-4mk<0$の場合~この場合は$\lambda$は複素数になる。$\omega={\sqrt{4mk-K^2}\over 2m}$という定数($\omega$は実数である)を定義し、$\lambda_\pm=-{K\over 2m}\pm\I\omega$と書くことにする。
こうして解を \begin{equation} \xcol{x}= C_+ \E^{-{K\over 2m}\tcol{t}+\I\omega\tcol{t}} +C_- \E^{-{K\over 2m}\tcol{t}-\I\omega\tcol{t}}\label{gensuisindou} \end{equation} と表すことができる。一見複素数であるが例によって係数を操作して、$C_+=C,C_-=C^*$とすることで \begin{equation} \xcol{x}= \E^{-{K\over 2m}\tcol{t}}\left( C\E^{\I\omega\tcol{t}} +C^* \E^{-\I\omega\tcol{t}}\right) \end{equation} が実数解となる。三角関数で表現すると以下のようになる($A,B,D,\alpha$は実数の定数)。 \begin{equation} \xcol{x}= \E^{-{K\over 2m}\tcol{t}}\left( A\cos \omega\tcol{t} +B\sin\omega\tcol{t}\right) = D\E^{-{K\over 2m}\tcol{t}} \cos \left( \omega\tcol{t}+\alpha\right)\label{gensui} \end{equation}
重解と実数解が二つの場合については授業では簡単に触れるにとどめた。授業では時間がなくて見せなかったが、アニメーションが にあるので見て動かして解の様子を実感して欲しい。
次に「定数係数」という条件を外して考えることにする。
一般的な一階線形非斉次微分方程式は、$p\kakko{\xcol{x}}$と$q\kakko{\xcol{x}}$を既知の$\xcol{x}$の関数として、 \begin{equation} {\ddx}f\kakko{\xcol{x}}+p\kakko{\xcol{x}}f\kakko{\xcol{x}}=q\kakko{\xcol{x}}\label{DEpq} \end{equation} と書くことができる。$f\kakko{\xcol{x}}$が今から求めようとしている「未知の関数」である。より一般的には \begin{equation} \ell\kakko{\xcol{x}} {\ddx}f\kakko{\xcol{x}}+m\kakko{\xcol{x}}f\kakko{\xcol{x}}=n\kakko{\xcol{x}} \end{equation} という形も考えられるが、この式の両辺を$\ell\kakko{\xcol{x}}$で割って整理したものだと思えばよい(もちろんこの計算は$\ell\kakko{\xcol{x}}\neq0$の領域でのみ可)。この式は \begin{equation} \left( \ddx +p\kakko{\xcol{x}}\right)f\kakko{\xcol{x}}=q\kakko{\xcol{x}} \end{equation} とも書ける。
ここでまず、
と考える。とはいえ「消えろ」と呪文を唱えても消えてはくれない。
ここで$\left(\ddx-A\right)\left(\E^{A\xcol{x}}g\kakko{\xcol{x}}\right)= \E^{A\xcol{x}}\ddx g\kakko{\xcol{x}}$を思い出す$(1階微分)+(0階微分)$という式の0階微分の部分を「消す」方法を我々は知っていた。ただし\式{ddxA}は0階微分の項の係数が定数だったから、定数じゃない場合に使えるよう、式を作り直す。。ここでは$\ddx$の後には数$-A$ではなく関数$p\kakko{\xcol{x}}$がついているわけだが、その場合でもこの真似をして、$f\kakko{\xcol{x}}=\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}g\kakko{\xcol{x}}$と置き直すことで \begin{equation} \left( \ddx +p\kakko{\xcol{x}}\right)\left(\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}g\kakko{\xcol{x}}\right) =\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}\ddx g\kakko{\xcol{x}} \end{equation} とできないか(微分演算子と$\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}$を交換することで$p\kakko{\xcol{x}}$を「消去」できないか)と考える。
ここで$\intdx p\kakko{\xcol{x}}=P\kakko{\xcol{x}}+C$すなわち$P\kakko{\xcol{x}}$が$p\kakko{\xcol{x}}$の原始関数の一つであるとすれば、微分$\ddx$の結果が$\ddx\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}=-p\kakko{\xcol{x}}\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}$となって、ちょうど$p\kakko{\xcol{x}}$の項を打ち消す項が出てきて、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \overbrace{-p\kakko{\xcol{x}}\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}g\kakko{\xcol{x}}}^{\tiny\left(\ddx\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}\right)g\kakko{\xcol{x}}} + \E^{-P\kakko{\xcol{x}}} \ddx g\kakko{\xcol{x}} +p\kakko{\xcol{x}}\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}g\kakko{\xcol{x}} =&q\kakko{\xcol{x}} \\[3mm] \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}\ddx g\kakko{\xcol{x}}=&q\kakko{\xcol{x}} \end{array}\label{ddxkoukan} \end{equation} が解くべき方程式となる。
こうして、$p\kakko{\xcol{x}}$の原始関数$P\kakko{\xcol{x}}$を使うことで \begin{equation}\left( \ddx +p\kakko{\xcol{x}}\right)f\kakko{\xcol{x}}=q\kakko{\xcol{x}}~~~\to~~~ \ddx g\kakko{\xcol{x}}=q\kakko{\xcol{x}}\E^{P\kakko{\xcol{x}}} \end{equation} と式を書き直せたので、後はこれを積分して$g\kakko{\xcol{x}}= \intdx \left(q\kakko{\xcol{x}}\E^{P\kakko{\xcol{x}}}\right)$となり、 \begin{equation} f\kakko{\xcol{x}}=\E^{-P\kakko{\xcol{x}}}\goverbrace{\intdx \left(q\kakko{\xcol{x}}\E^{P\kakko{\xcol{x}}}\right)}^{g\kakko{\xcol{x}}} \end{equation} が一般解である。この不定積分$\intdx \left(q\kakko{\xcol{x}}\E^{P\kakko{\xcol{x}}}\right)$の結果を$h\kakko{\xcol{x}}+C$($C$は積分定数)とすれば、 \begin{equation} f\kakko{\xcol{x}}=\underbrace{ \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}h\kakko{\xcol{x}}}_{ f'\kakko{\xcol{x}}+p\kakko{\xcol{x}}f\kakko{\xcol{x}}=q\kakko{\xcol{x}}\atop の特解} + \underbrace{C \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}}_{ f'\kakko{\xcol{x}}+p\kakko{\xcol{x}}f\kakko{\xcol{x}}=0\atop の一般解 }\label{kaiDEikkai} \end{equation} となる。第2項が斉次方程式の一般解になっていることに注意しよう。
\begin{equation} {\coldy\over \coldx}+ 2\xcol{x}\ycol{y}= \xcol{x}\label{gaussx} \end{equation} を解いてみる。$p\kakko{\xcol{x}}=2\xcol{x}$だから、$P\kakko{\xcol{x}}=\xcol{x}^2$とすればよい。$f\kakko{\xcol{x}}=\E^{-\xcol{x}^2}g\kakko{\xcol{x}}$と置くことで、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \left(\ddx+2\xcol{x}\right)\E^{-\xcol{x}^2}g\kakko{\xcol{x}} &=\xcol{x} \\ \E^{-\xcol{x}^2}\ddx g\kakko{\xcol{x}} &=\xcol{x} \end{array} \end{equation} となるが、この式を$ \ddx g\kakko{\xcol{x}}=\xcol{x}\E^{\xcol{x}^2}$としてから積分すれば $g\kakko{\xcol{x}}= {1\over 2}\E^{\xcol{x}^2}+C$ となり、 \begin{equation} f\kakko{\xcol{x}}={1\over 2} + C\E^{-\xcol{x}^2} \end{equation} が一般解である。結果を見ると、${1\over 2}$は非斉次方程式$\ddx f\kakko{\xcol{x}}+ 2\xcol{x}f\kakko{\xcol{x}}= \xcol{x}$の特解であり(代入してみよう)、$C\E^{-\xcol{x}^2}$のは斉次方程式$\ddx f\kakko{\xcol{x}}+ 2\xcol{x}f\kakko{\xcol{x}}= 0$の一般解である(これも実際に解いてみればわかる)。つまりこの場合は「斉次方程式の一般解と非斉次方程式の特解を足す」解き方でも解けた。
ここで、前節での微分方程式の解き方を見直してみる。解のを$y\kakko{\xcol{x}}= \left( h\kakko{\xcol{x}}+C \right) \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}$と同類項でくくって考えてみると、${\coldy\over \coldx}+p\kakko{\xcol{x}}\ycol{y}=0$の一般解である$y\kakko{\xcol{x}}=C \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}$のパラメータである定数$C$が、$C\to h\kakko{\xcol{x}}+C$のように置き換えられた形になっている。従ってこの方程式は、以下の手順で解くこともできる。
定数変化法
まず${\coldy\over \coldx}+p\kakko{\xcol{x}}\ycol{y}=q\kakko{\xcol{x}}$の右辺を0に置き換えた $ {\coldy\over \coldx}+p\kakko{\xcol{x}}\ycol{y}=0 $を解いて$\ycol{y}=C \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}$という解をみつけたのち、定数$C$を$C\kakko{\xcol{x}}$のように変数に換えると、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \left( {\ddx}+p\kakko{\xcol{x}} \right)\left( C\kakko{\xcol{x}}\E^{-P\kakko{\xcol{x}}} \right) =q\kakko{\xcol{x}} \\ \E^{-P\kakko{\xcol{x}}}\ddx C\kakko{\xcol{x}}= &q\kakko{\xcol{x}} \\ \end{array} \end{equation} という式が出るから、後はこれを解いて$C\kakko{\xcol{x}}$を求める。
定数なのに変化させるとはおかしな名前であるが、ここで説明した計算法は、
理屈を無視して「とにかくこうやりゃ解けるんだよ!」と覚えてしまう人もいるが、上に書いたような泥臭い計算を小綺麗にまとめているだけで、特にすごい事をしてるわけではない。また、この方法は当然ながら線形な微分方程式でしか通用しない。定数変化法は決して微分方程式が解ける万能の手段ではないことは注意すべきだが、手順がパターン化されている点は便利なのでよく使われている。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。