1変数関数の積分は、$\int_{x_0}^{x_1}f\kakko{\xcol{x}}\coldx$のように書くと本質的には一通りの積分方法しかない。それに対して2変数関数は(偏微分に方向があったように)積分をいろんな方向に、いろんな経路で実行することができる。極端な場合曲線の上で積分することもできるが、これを「線積分」と呼ぶ。また、変数が二つあるので「両方の変数について積分する(二重積分)」のようなことともできる(これは面上での積分なので「面積分」と呼ぶ)。以下ではまずベクトルの値を持った関数を線積分するところから考えよう。
上の図のように$\xcol{x}$方向の積分をするときと$\ycol{y}$方向で積分するときの被積分関数を変えて、 \begin{equation} \int_{x_0}^{x_1}P\kakko{\xcol{x},y_0}\coldx + \int_{y_0}^{y_1}Q\kakko{x_1,\ycol{y}}\coldy \end{equation} のような積分を考えることにする。 あるいは、$P\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}=A_x\kakko{\xcol{x},\ycol{y}},Q\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}=A_y\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}$と書けば、 \begin{equation} \int_{x_0}^{x_1}A_x\kakko{\xcol{x},y_0}\coldx + \int_{y_0}^{y_1}A_y\kakko{x_1,\ycol{y}}\coldy\label{chokkakusensekibun} \end{equation} となる。積分記号を外した量(被積分関数)である$A_x\coldx+A_y\coldy$はベクトル$\left(A_x,A_y\right)$とベクトル$\left(\coldx,\coldy\right)$の内積になっているので、まとめて書くときは$\vec A\cdot\coldvecx$と書く。
こうしてベクトルの値を持つ関数と$\coldvecx$の内積を取ってなんらかの曲線上(ここまで出した例はまだ直線のみであるが)で積分を行った量を「線積分」と呼ぶ。より一般的には線積分は曲がった線に沿っての積分となる。
ここで、2変数の積分はいろんな経路が考えられるという事情があるので
$\int_{\vec x_0}^{\vec x_1}\vec A\kakko{\!\colvecx\!}\cdot \coldvecx$と書いただけでは、どの線にそって積分するのか、まだ指定されていない。
ということに注意しよう。
上と同じことを積分(足算)する前の微小量である積分要素についても言えば、
$\vec A\kakko{\!\colvecx\!}\cdot \coldvecx$と書いただけでは、どの方向の積分要素なのか、まだ指定されていない。
ということである。この積分する方向が$\xcol{x}$方向と一致しているなら$\vec A\opcol{\cdot}\coldvecx=A_x\coldx$になるし、$\ycol{y}$方向と一致しているなら$\vec A\opcol{\cdot}\coldvecx=A_y\coldy$になる。どちらでもない場合は$A_x\coldx+A_y\coldy$の二つの項を両方積分することになる。
このような「ベクトル関数の線積分」のよく使われる例について以下で解説していくことにする。
ベクトル場の線積分のもっとも重要な応用は、力学における「仕事」の定義であろう。2次元の場合では、以下のように定義される。
2次元での仕事の定義
物体に力$\vec F$を加えている状態でその物体が$\coldvecx=(\coldx,\coldy)$という微小量だけ動いたとき、その物体に対して \begin{equation} \vec F\cdot\coldvecx=F_x\coldx+F_y\coldy\label{workdef} \end{equation} の仕事がなされたと言う(本来は3次元で定義すべきもので、その場合は$\zcol{z}$成分も足す)。
仕事という量を定義する意味はいろいろあるが、何よりも大事なのは力学における有用な概念である「エネルギー」という物理量が仕事を使うことで定義できる、ということである。エネルギーの定義については後にまわして、ここでは仕事のイメージをまず考えよう。
以下では、働く力が場所のみによる場合力が場所のみではなく他の量に依存する場合もあるが、それはここでは考えない。を考えることにして、$\vec F$を$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}$と場所の関数とする。上の定義は物体が微小な距離だけ移動した場合であるが、有限区間($\vec x_0$から$\vec x_1$へ)移動した場合、$\int_{\vec x_0}^{\vec x_1}\vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot\coldvecx$という積分を行うことになる。
微小仕事$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot\coldvecx$は場所$\colvecx$において働く力$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}$と微小変位$\coldvecx$の内積であるが、
内積の定義
二つのベクトル$\vec a,\vec b$のなす角を$\theta$とすると、内積は \begin{equation} \vec a\cdot\vec b=|a||b|\cos \theta \end{equation}
からすると、$\vec F$と$\coldvecx$が同じ向きを向いている($\theta=0$)ならば$\vec F\cdot\coldvecx=|\vec F||\coldvecx|$となって大きく、逆向きを向いている($\theta=\pi$)ならば$\vec F\cdot\coldvecx=-|\vec F||\coldvecx|$となって小さく(負で絶対値が大きく)なる。
イメージとして、あなたが風が吹いている中を移動しているとしよう。その風が当たってあなたを押す力を$\vec F$と書くことにする。風が順風($\vec F$と$\coldvecx$が同じ向き)のときは風があなたを押してくれて、楽に動ける。逆風($\vec F$と$\coldvecx$が逆向き)のときは風にじゃまされる分だけ動くのがたいへんになる。そこで$\vec F\cdot\coldvecx$という量を「動くときに風のおかげでどれだけ助かるか」という量だと考えることができる(この量がマイナスのときは「負の量だけ助かる=邪魔される」と考える)。この場合の仕事$\vec F\cdot\coldvecx$は「風のおかげでどれだけ助けられているか」を表す指標となるわけである。
風の強さと向きは場所によって違うから、$\vec F$は場所の関数である($\vec F\kakko{\!\colvecx\!}=F_x\kakko{\!\colvecx\!}\ve_x+F_y\kakko{\!\colvecx\!}\ve_y$)。そして、ある場所$\vec x_0$からある場所$\vec x_1$まで移動したとき、風がしてくれる仕事は \begin{equation} \int_{\vec x_0}^{\vec x_1}\vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot\coldvecx = \int_{\vec x_0}^{\vec x_1}\left(F_x\kakko{\!\colvecx\!}\coldx+F_y\kakko{\!\colvecx\!}\coldy\right) \end{equation} となる。ここで、すでに注意したように$\vec x_0$から$\vec x_1$までというだけでは経路が指定されていないので計算結果は一通りではない。
上の図のように、台風のような風が吹いているとき、のような経路だといかにも「風が押してくれるので楽そう」だし、のような経路だと「逆風で苦労しそう」だ。出発点と到着点が同じでも、「風が助けてくれる」仕事の量が全く違ってくる。
この二つの積分というのは、積分可能条件について考えたときの$U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}=\int_{y_0}^{\ycol{y}} \coldt Q\kakko{x_0,\tcol{t}}+\int_{x_0}^{\xcol{x}}\coldt P\kakko{\tcol{t},\ycol{y}} $と$U\kakko{\xcol{x},\ycol{y}}=\int_{x_0}^{\xcol{x}}\coldt P\kakko{\tcol{t},y_0}+\int_{y_0}^{\ycol{y}} \coldt Q\kakko{\xcol{x},\tcol{t}}$という二つの積分と、$P\to F_x,Q\to F_y$と置き換えてみれば同じものである。よって、二つの経路で同じ積分結果を出す、すなわち、 \begin{equation} \int_{y_0}^{\ycol{y}} \coldt F_y\kakko{x_0,\tcol{t}}+ \int_{x_0}^{\xcol{x}}\coldt F_x\kakko{\tcol{t},\ycol{y}} =\int_{x_0}^{\xcol{x}}\coldt F_x\kakko{\tcol{t},y_0}+\int_{y_0}^{\ycol{y}} \coldt F_y\kakko{\xcol{x},\tcol{t}} \end{equation} となるためには、考えている範囲で \begin{equation} \PDC{F_x}{\ycol{y}}{\xcol{x}} - \PDC{F_y}{\xcol{x}}{\ycol{y}}=0\label{Fsekibunkanou} \end{equation} が成り立たなくてはいけない(この式は積分可能条件そのものである)。
以下では、仕事が経路によらなくなる特別な例をいくつか紹介しよう。
$\ycol{y}$軸の負の向きに重力が働いている場合、この力は$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}=-mg\ve_y$と表される。この場合の場所$(x_0,y_0)$から$(x_1,y_1)$までに移動する間に「重力のする仕事」は \begin{equation} \int_{(x_0,y_0)}^{(x_1,y_1)} \vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot \coldvecx= \int_{(x_0,y_0)}^{(x_1,y_1)} (-mg\ve_y)\cdot({\coldx\ve_x}+\coldy\ve_y)=-mg \int_{y_0}^{y_1} \coldy \end{equation} となり($\coldx\ve_x$が消えるのは内積$\ve_y\cdot\ve_x=0$による)、実は本質的には1次元の積分になってしまい、結果も簡単に$-mg(y_1-y_0)$となる。つまりこの場合、途中の経路には一切よらずに答は$y_0$と$y_1$だけで決まる。$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}$が定数ベクトルだから、積分可能条件は満たされている。
そこで、この積分結果(仕事量)が位置エネルギーの差となるように「位置エネルギー」が定義される。すなわち、どこかにエネルギーの基準点$\vec x_0$を設定し、 \begin{equation} U\kakko{\!\colvecx\!}=\underbrace{U\kakko{\vec x_0}}_{ここでは0とする}-\int_{\vec x_0}^{\!\colvecx\!}\vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot\coldvecx \end{equation} とすると、積分$\int_{\vec x_0}^{\!\colvecx\!}$がどのような経路で行われているかによらずに常に同じ値$mg\left(\ycol{y}-y_0\right)$を出すので、矛盾なく$U\kakko{\!\colvecx\!}$が定義できるのである。
1変数の場合と同じように「微分と積分は互いの逆演算」と考えると、$U\kakko{\!\colvecx\!}=U\kakko{\vec x_0}-\int_{\vec x_0}^{\!\colvecx\!}\vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot\coldvecx$の逆は$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}=-\opcol{\vec\nabla}U\kakko{\!\colvecx\!}$となるこの「逆」が計算できるためには積分可能条件が必要である。。重力の例では、 \begin{equation} -\opcol{\vec\nabla}\left(mg\ycol{y}\right) =-\left(\ve_x\PD{}{\xcol{x}}+\ve_y\PD{}{\ycol{y}}\right)(mg\ycol{y}) = -mg \ve_y \end{equation} となる。
次に$\vec F\kakko{\!\colvecx\!}=-{GMm\over \rcol{r}}\ve_r$になる力の場合この式は実は2次元の万有引力の式である。3次元なら$\rcol{r}^2$に反比例するが、仮想的に2次元の万有引力を考えるとこうなる。を考えよう。この場合、$\coldvecx$の方も極座標での表現$\coldr\ve_r+\rcol{r}\coldtheta\ve_\theta$を使って表現すれば、 \begin{equation} \int \vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot \coldvecx =-{GMm}\int {1\over \rcol{r}}\coldr =-GMm\left[\log\rcol{r}\right]^{到着点の\rcol{r}}_{出発点の\rcol{r}}\label{oorsekibun} \end{equation} という簡単な積分で答えが出て、結果は出発点と到着点の$\rcol{r}$だけに依存する。
この力を直交座標で表現するなら、 \begin{equation} \begin{array}{rl} \vec F\kakko{\!\colvecx\!} =&-{GMm\over \rcol{r}}\goverbrace{\biggl(\underbrace{\cos\thetacol{\theta}}_{{\xcol{x}\over \rcol{r}}}\ve_x+\underbrace{\sin\thetacol{\theta}}_{{\ycol{y}\over \rcol{r}}}\ve_y\biggr)}^{\ve_r} \\ =&-{GMm\over \underbrace{\rcol{r}^2}_{\xcol{x}^2+\ycol{y}^2}}\biggl(\xcol{x}\ve_x+\ycol{y}\ve_y\biggr) =-{GMm\xcol{x}\over \xcol{x}^2+\ycol{y}^2}\ve_x-{GMm\ycol{y}\over \xcol{x}^2+\ycol{y}^2}\ve_y \end{array} \end{equation} であり、その積分は \begin{equation} \int \vec F\kakko{\!\colvecx\!}\cdot \coldvecx =-{GMm}\int\left( {\xcol{x}\over \xcol{x}^2+\ycol{y}^2}\coldx+{\ycol{y}\over \xcol{x}^2+\ycol{y}^2}\coldy \right) \end{equation} となり、少々複雑である(極座標で考える方が楽)。
2次元平面上で行う積分として、ここまでで出てきた「線積分」の他に「面積分(または面積積分)」というものもある。
面積分の一番簡単な例は面積そのものの計算である。直交座標であれば、面積分は「微小面積$\coldx \coldy$を積分する(足す)」というが面積分の意味するところである。
線積分が「一般の線」で表現されたように、面積分も「一般の領域」で計算できるように書き方と計算法を整備したい。
円の面積を計算するには、微小面積$\coldx\coldy$を積分(足し算)する。どのような範囲で積分するかが重要で、右のように円を設定すると、ある一つの$\ycol{y}$の値に対して$\xcol{x}=-\sqrt{R^2-\ycol{y}^2}$から$\xcol{x}=\sqrt{R^2-\ycol{y}^2}$までの範囲で足し算し、次に$\ycol{y}=-R$から$\ycol{y}=R$までという足し算をすればよい。
具体的な積分は以下の通りである。 \begin{equation} \begin{array}{rl} S=&\int_{-R}^R\coldy\int_{-\sqrt{R^2-\ycol{y}^2}}^{\sqrt{R^2-\ycol{y}^2}}\coldx\kokode{\xcol{x}積分} \\ =&\int_{-R}^R\coldy 2\sqrt{R^2-\ycol{y}^2} \kokode{\ycol{y}=R\cos\thetacol{\theta}と置換}\\ =&\int_{0}^\pi \coldtheta R\sin\thetacol{\theta}\times 2R\sqrt{1-\sin ^2\thetacol{\theta}}\\ =&2R^2\int_{0}^\pi \coldtheta \sin^2\thetacol{\theta}=2R^2\int_{0}^\pi \coldtheta {1+\cos2\thetacol{\theta}\over 2}= \pi R^2 \end{array} \end{equation}
次に、円の面積を極座標を使って計算してみよう。この場合、積分すべき「微小面積」は$\rcol{r}\coldr \coldtheta$となる。図に示した領域は「長方形」に見えないかもしれないが、$\coldr,\coldtheta$が微小量であることを考えると、これを長方形とみなして計算してよい。積分範囲は$\rcol{r}$を$0$から$R$まで、$\thetacol{\theta}$を$0$から$2\pi$までであるから \begin{equation} S= \int_0^R\coldr \int_0^{2\pi}\coldtheta \rcol{r}=\left[{\rcol{r}^2\over 2}\right]^R_0\left[\thetacol{\theta}\right]_0^{2\pi}={R^2\over 2}\times 2\pi=\pi R^2 \end{equation} が答えである(当然、直交座標による計算と一致する)。
ここで、「$\coldx\coldy$に$\coldx=\cos\thetacol{\theta}\coldr-\rcol{r}\sin \thetacol{\theta}\coldtheta$と$\coldy=\sin\thetacol{\theta}\coldr+\rcol{r}\cos\thetacol{\theta}\coldtheta$を代入して計算しても、$\rcol{r}\coldr\coldtheta$にならない」ということを不思議に思う人もいるかもしれない。面積は外積であるということを失念して、単純に「掛算」を行うと \begin{equation} \begin{array}{rl} &\left(\cos\thetacol{\theta}\coldr-\rcol{r}\sin \thetacol{\theta}\coldtheta\right) \left(\sin\thetacol{\theta}\coldr+\rcol{r}\cos\thetacol{\theta}\coldtheta\right)\\ =&\coldr^2\cos\thetacol{\theta}\sin \thetacol{\theta} +\rcol{r}\coldr\coldtheta \left(\cos ^2\thetacol{\theta}-\sin ^2\thetacol{\theta}\right) -\rcol{r}^2\coldtheta^2\cos\thetacol{\theta}\sin \thetacol{\theta}\label{machigaidrdtheta} \end{array} \end{equation} となって$\rcol{r}\coldr\coldtheta$にはたどりつかない。ちゃんと面積として考えるには、次の節に示すようにベクトルの外積の計算を行なう。
座標系を変換したときの面積積分の変化を考えよう。2次元の面積要素は、二つの微小ベクトルを使って$\coldvecx^{(1)}\times\coldvecx^{(2)}$と書くことができる(今2次元のみを考えているので、外積はスカラーである)。
ここで使う記号の意味を確認しておく。単に$\coldvecx$と書いた時、$\coldvecx$は「向きを指定せず、微小な変位を表現するベクトル」である。$\coldvecx^{(1)}$のように$(1)$などの指定がついたベクトルを特定の方向を向いたベクトルである。たとえば直交座標であれば$\coldvecx^{(1)}=\coldx \ve_x,\coldvecx^{(2)}=\coldy\ve_y$のように具体的に指定することで、それぞれ$x,y$方向が指定される。このように指定した場合の$\coldvecx^{(1)}\times\coldvecx^{(2)}$は$\coldx\coldy$となる。
2次元極座標では「$\rcol{r}$方向」と向きを指定した$\coldr\ve_r$と「$\thetacol{\theta}$方向」と向きを指定した$\rcol{r}\coldtheta\ve_\theta$の外積をとって$\rcol{r}\coldr\coldtheta$となる。つまり面積要素としては$\coldx\coldy$をとっても$\rcol{r}\coldr\coldtheta$をとってもよい(積分の仕方で変わる)。上のFAQで述べたように、単純に$\coldx\coldy=\rcol{r}\coldr\coldtheta$という式だと解釈すると失敗する。
正しい面積要素の変換を行うには、まず一般的な(向きを指定していない)変位ベクトル$\coldvecx=\coldx\ve_x+\coldy\ve_y$を考える。この式に$\coldx=\cos\thetacol{\theta}\coldr-\rcol{r}\sin \thetacol{\theta}\coldtheta$と$\coldy=\sin\thetacol{\theta}\coldr+\rcol{r}\cos\thetacol{\theta}\coldtheta$を代入すると \begin{equation} \begin{array}{rl} \coldvecx=&(\coldr\cos \theta-\rcol{r}\coldtheta \sin \theta)\ve_x +(\coldr\sin \theta+\rcol{r}\coldtheta \cos \theta)\ve_y\label{dvecxrt} \end{array} \end{equation} を得る。この一般の方向を向いたベクトル$\coldvecx$($\coldx,\coldy$を選択することで特定の方向を向く)を、$\rcol{r}$方向に向かせるためには($\coldtheta$に依存する部分を0にして)$\coldr$に比例する部分を取り出す。同じく、$\theta$方向を向かせるためには($\coldr$に依存する部分を0にして)$\coldtheta$に比例する部分を取り出す。これら二つのベクトルの外積を取る。 \begin{equation} \begin{array}{rll} & \goverbrace{(\coldr \cos \theta\ve_x+\coldr\sin \theta\ve_y)}^{\coldtheta=0 にしたもの} \times \goverbrace{(-\rcol{r}\coldtheta \sin \theta\ve_x+\rcol{r}\coldtheta\cos\theta\ve_y)}^{\coldr=0 にしたもの}&\kokode{\ve_x\times\ve_x=\ve_y\times\ve_y=0} \\ =&\coldr \cos \theta\ve_x\times \rcol{r}\coldtheta\cos \theta\ve_y -\coldr\sin \theta\ve_y\times \rcol{r}\coldtheta \sin \theta\ve_x&\kokode{\ve_x\times\ve_y=1,\ve_y\times\ve_x=-1} \\ =&\coldr \rcol{r}\coldtheta\left( \cos\!^2 \theta+\sin\!^2 \theta\right) =\rcol{r}\coldr\coldtheta \end{array} \end{equation} となる(今2次元で考えているので、$\ve_x\times\ve_y=1,\ve_y\times\ve_x=-1$であるが、3次元の時は結果もベクトルとなる)。ここで今の計算をよくみると、$(\coldr \cos \theta\ve_x+\coldr\sin \theta\ve_y)$は$\coldr\underbrace{(\cos\theta\ve_x+\sin\theta\ve_y)}_{\ve_r}=\rcol{r}\ve_r$そのものだし、$(-\rcol{r}\coldtheta \sin \theta\ve_x+\rcol{r}\coldtheta\cos \theta\ve_y)$は$\rcol{r}\coldtheta\underbrace{(-\sin \theta\ve_x+\cos \theta\ve_y)}_{\ve_\theta}=\rcol{r}\ve_\theta$そのものなのであり、$\coldr\ve_r\times \rcol{r}\coldtheta\ve_\theta$という計算をして$\rcol{r}\coldr\coldtheta$を得ている間違った計算であった式では外積にしなかったので$\coldr^2,\coldtheta^2$の項が消えないし$\coldr\coldtheta$の項も符号が合わない。。
一般的に$(x,y)$から$(X,Y)$へと座標変換を行った時、 \begin{equation} ~\!\coldvecx =\underbrace{\left( {\partial x\over \partial X}\dX + {\partial x\over \partial Y}\dY \right)}_{\coldx} \ve_x +\underbrace{\left( {\partial y\over \partial X}\dX + {\partial y\over \partial Y}\dY \right)}_{\coldy}\ve_y\label{xXyYvec} \end{equation} が成り立つから、$(\coldvecx のX方向)\times(\coldvecx のY方向)$を計算すれば \begin{equation} \begin{array}{rl} & \underbrace{({\partial x\over \partial X}\dX \ve_x +{\partial y\over \partial X}\dX \ve_y)}_{\dX に比例する部分}\times \underbrace{({\partial x\over \partial Y}\dY \ve_x + {\partial y\over \partial Y}\dY\ve_y)}_{\dY に比例する部分}\\ =&\underbrace{{\partial x\over \partial X}\dX \ve_x \times {\partial x\over \partial Y}\dY\ve_x }_0 + {\partial x\over \partial X}\dX \ve_x \times{\partial y\over \partial Y}\dY\ve_y +{\partial y\over \partial X}\dX \ve_y\times {\partial x\over \partial Y}\dY \ve_x +\underbrace{{\partial y\over \partial X}\dX \ve_y\times {\partial y\over \partial Y}\dY\ve_y}_0\\ =&\left( {\partial x\over \partial X} {\partial y\over \partial Y} -{\partial y\over \partial X} {\partial x\over \partial Y}\right) \dX\dY\ve_x \times \ve_y \end{array} \end{equation} となって、面積要素が \begin{equation} \left( {\partial x\over \partial X}{\partial y\over \partial Y}-{\partial x\over \partial Y} {\partial y\over \partial X} \right)\dX\dY \end{equation} であることが導かれる。ここで出てきた量を$(x,y)$から$(X,Y)$へという変数変換における「ヤコビアン(Jacobian)」と名付ける。
ヤコビアン \begin{equation} \PD{x}{X}{\partial y\over \partial Y}-{\partial x\over \partial Y} {\partial y\over \partial X} =\underbrace{ \det \left( \begin{array}{cc} {\partial x\over \partial X} & {\partial x\over \partial Y}\\[3mm] {\partial y\over \partial X} & {\partial y\over \partial Y} \end{array} \right) = \left| \begin{array}{cc} {\partial x\over \partial X} & {\partial x\over \partial Y}\\[3mm] {\partial y\over \partial X} & {\partial y\over \partial Y} \end{array} \right|}_{これらの記号はどちらも行列式を表す。} \label{Jacobian} \end{equation}
ヤコビアンは$\coldx\ve_x$と$\coldy\ve_y$が作る面積と、$\dX\ve_{X}$と$\dY\ve_{Y}$の作る面積の「比」であるヤコビアンはマイナスになることもある。マイナスになるのは、$\ve_x\to\ve_y$の回転と$\ve_{X}\to\ve_{Y}$の回転が逆回転になった時である。。
直交座標→極座標の場合のヤコビアンを計算すると、 \begin{equation} \goverbrace{\cos\theta}^{\PD{x}{r}} \times\goverbrace{r \cos\theta}^{\PD{r}{y}}-\goverbrace{(-r\sin\theta)}^{\PD{x}{\theta}}\times\goverbrace{\sin \theta}^{\PD{y}{\theta}}= r\left(\cos ^2\theta+\sin ^2\theta\right)=r \end{equation} となり、$\coldx\coldy=r\coldr\coldtheta$が確認できる。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。