導関数$f'({x})=\lim_{{\Delta x}\to0}{f({x}+{\Delta x})-f({x})\over {\Delta x}}$の導関数、つまり
\begin{equation} f''({x})=\lim_{{\Delta x}\to0}{f'({x}+{\Delta x})-f'({x})\over {\Delta x}} \end{equation}を作ってみよう。これを「二階微分」非常に頻繁に「二回微分」と書く人がいるが、これは誤字である(しかし発音では区別がつかないから安心だ)。と呼び、記号としては$'$を重ねて$f''({x})$と表現することにしよう($f({x})\to f'({x})$が「一階微分」、$f({x})\to f'({x})\to f''({x})$が「二階微分」である)。また、一階微分を${\mathrm d \over \mathrm dx }f({x})$と書いたように、二階微分は
\begin{equation} f''({x})= {\mathrm d \over \mathrm dx }\left( {\mathrm d \over \mathrm dx }f({x}) \right)= {\mathrm d ^2\over \mathrm dx ^2} f({x})={\mathrm d^2 f\over \mathrm dx ^2}({x})\label{nikai} \end{equation}と表現してもよい。
同様に三階微分や四階微分も定義されるが、数が大きくなった時は(十階微分を$f^{\prime\prime\prime\prime\prime\prime\prime\prime\prime\prime}({x})$などと書くのは不経済なので)$n$階微分は$f^{(n)}({x})$と表現する$\left(f''({x})={\mathrm d ^2\over \mathrm dx ^2}f({x})=f^{(2)}({x})\right)$。
二階微分がどんな意味を持つかを考えよう。二次関数や三次関数の形を考えたときに、1次の項${x}$の係数が原点における傾きを、2次の項${x}^2$の係数が原点における「曲がり具合」を表現していたのを覚えているだろうか。その考え方からすると、二階微分の値は「曲線の曲がり具合」を表現することになる。
定義式から二階微分を計算することで、確かに「曲がり具合」であることを確認しよう。まず、$ f''({x})=\lim_{{\Delta x}\to0}{f'({x}+{\Delta x})-f'({x})\over {\Delta x}}$という二階微分の意味を表した式そのものに、一階微分の式$\lim_{{\Delta x}\to0}{f({x}+{\Delta x})-f({x})\over {\Delta x}}$を代入する。
\begin{equation} \begin{array}{rll} f''({x}) =&\lim_{{\Delta x}\to0}{\overbrace{ {f({x}+{\Delta x}+{\Delta x})-f({x}+{\Delta x})\over {\Delta x}}}^{f'({x}+{\Delta x})に対応} -\overbrace{{f({x}+{\Delta x})-f({x})\over {\Delta x}}}^{f'({x})に対応} \over {\Delta x} } \\[3mm] =&\lim_{{\Delta x}\to0} {\left( f({x}+{\Delta x}+{\Delta x})-f({x}+{\Delta x})\right) -\left( f({x}+{\Delta x})-f({x})\right) \over {\Delta x}{\Delta x} } \end{array} \end{equation}という式が出る。
\begin{equation} \begin{array}{rll} f''({x}) =&\lim_{{\Delta x}\to0}{\left( f({x}+2{\Delta x})-f({x}+{\Delta x})\right) -\left( f({x}+{\Delta x})-f({x})\right) \over ({\Delta x})^2 } \\ =&\lim_{{\Delta x}\to0}{ f({x}+2{\Delta x})-2f({x}+{\Delta x}) +f({x}) \over ({\Delta x})^2 }\\ =&2\lim_{{\Delta x}\to0}{ { f({x}+2{\Delta x}) +f({x})\over 2} -f({x}+{\Delta x}) \over ({\Delta x})^2 } \end{array}\label{nikaibibunteigi} \end{equation}という計算になる。最後で2を前に出したのは、分子の${f({x}+2{\Delta x})+f({x})\over 2}-f({x}+{\Delta x})$に図形的意味があるからである。
その意味するところを説明しよう。下のグラフを見て欲しい。
図の点Pは点A$({x},f({x}))$と点B$({x}+2{\Delta x},f({x}+2{\Delta x}))$の中点であり、その高さが${f({x}+2{\Delta x})+f({x})\over 2}$である。
一方$f({x}+{\Delta x})$は点Qの高さである。つまり、点Aと点Bの中点に比べて、点Qがどれだけ下がっているか、という量であり、これは「線の曲がり具合」を表現している。二階微分の値は「両隣の平均に比べて自分がどれだけ下がっているか」を示す量だとも言える。
それは上の図に示したように「上に凸か下に凸か」を表す量にもなっている。
自然において、二階微分が正なら増加し、二階微分が負なら減るという傾向を持つ現象がたくさんある(後で、微分方程式でこれを表現するとどうなるか、ということを示そう)。これはつまり、下に凸なら増加、上に凸なら減少であり、すなわち平坦に戻そうという傾向のある現象なのである(たとえば水面・温度分布・濃度分布などにこういう傾向がある)。
実のところ、自然法則の多くには二階微分までしか現れない。よって二階微分までをきっちりと理解していけば、自然法則のほとんどが理解できることになる。
微分ができない関数の例をいくつかあげよう。
まずすぐにわかるのは連続でない関数で、この場合不連続な点(右の図の${x}=x_0$)で極限を取ると${\Delta x}\to0$にしても${\Delta y}\to0$にならないから、$\lim_{{\Delta x}\to0}{{\Delta y}\over {\Delta x}}$という式に意味がなくなる。「連続」という言葉の定義は厳密にしなければいけないところであるが、ここでは直観的な「グラフがつながっている」ということで理解しておこう。
このような関数の例は、前に出た階段関数$\theta({x})$や符号関数$\epsilon({x})$などがある。
たとえば${y}={1\over {x}}$で${x}=0$の時は値がない(定義されてない)上、${x}>0$の範囲で${x}=0$に近づくと$+\infty$へ、${x}<0$の範囲で${x}=0$に近づくと$-\infty$に近づく(これを数式では、$\lim_{{x}\to +0}{1\over {x}}=\infty,\lim_{{x}\to -0}{1\over {x}}=-\infty$と表現することもある)という状況で、極限での値も違う($\tan{\theta}$の${\theta}={\pi\over 2}+n\pi$($n$は整数)なども同様の意味で微分不可能である)。
また、たとえ連続でも「とがっている」つまり傾きが連続に変化してない場合、その点での微分は定義できない。
上の図のような場合、${x}=x_0$の左側(${x} < x_0$)で考えた微係数(接線の傾き)は正の値を取り、${x}=x_0$の右側(${x}>x_0$)で考えた微係数(接線の傾き)は負の値を取る。つまり同じ点に対して二つの傾きが計算できてしまうので、微分不可能になる。
自然現象を考えている時はこのような「つながってない(連続でない)」点や「とがっている(一階微分が連続でない)」点が出てくることは少ないので、多くの場合は「安心して微分してよい」ということになる(ただ、そうでない場合も有り得るのだと心に留めておいた方がよい)。
下は、$\sin{1\over {x}}$のグラフである(左から順に、範囲が$-1<{x}<1,-0.1<{x}<0.1,-0.01<{x}<0.01$と狭くなっている)。
微分のもう一つの使い途は「極大値や極小値がどこであるかを求める」ことにある。
「極大(maximal)」と「極小(minimal)」は「最大・最小」に似た言葉である。違いは「最大・最小」は関数の定義域全体において最も大きい(あるいは小さい)値を取る場合を意味するが、「極大・極小」は定義域全体ではなく、今考えている「ある点」の近傍「ある点の近傍」はその点を内部に含むような領域のこと。においてのみ最も大きい(あるいは小さい)値をとっていればよい「極大」「極小」はつまり「局所的最大」「局所的最小」である。英語でそれぞれ「local maximum」「local minimum」と呼ぶこともある。。図に簡単な例で極大・極小となっている点と、考えている定義域内で最大・最小である点を示した図で「最小」とのみマークした点(定義域の下限になっている)はその点が考えている領域の端点であって領域の内部にはないから、最小にはなっているが「極小」ではない。。極大または極小である状況でかつ関数がその点で微分可能であるならば、その点では一階微分$f'({x})$が0になっていなくてはいけない微分不可能な、「尖った」点が極大・極小になっていることもあり得る。。
連続で、しかも少なくとも二階微分可能であるような関数を考える。この関数$f({x})$がある点${x}=x_0$において一階微分が0になった($f'({x})=0$)とする。
もしこの点で二階微分が正(上図の左側)ならば、この場合この点では極大である。逆に負(上図の中央)ならば、この点では極小である。
二階微分が0である場合二階微分が0であり、かつその点の前後で二階微分が符号を変える場合、その点を「変曲点」と呼ぶ。変曲点は極大・極小とはまた別の概念である。は、極小である場合と極大である場合とどちらでもない場合があり得る(上図の右側ではどちらでもない場合のみを描いている)二階微分が0で極小である例としては${y}={x}^n$($n>2$)kの${x}=0$がある。。
辺の長さの和が同じ長方形の中で、もっとも面積が大きいのはどんな形だろう?---このような問題を「等周問題」と言う「長方形」と限らずに一般の図形で考えると「円」が答えになる。。これのもっとも簡単な問題である「等しい周の長方形の中で一番面積が大きいものはなにか?」を微分を使って考えてみる。
長方形の辺の長さの和を$4L$とする(一辺が$L$の正方形ならちょうど周の長さは$4L$であり、図に示したように横が$0.9L$になったら、縦は$1.1L$にならなくてはいけない)。縦の長さを${x}$とすると、横の長さは$2L-{x}$となる。面積は$S={x}(2L-{x})$となる。${x}$は$0<{x}<2L$の範囲で意味があるから、それを定義域としてグラフを描いてみると右のようにになる(もちろん、グラフを描かなくても以下の話はわかる)。
微分を実行すると、
\begin{equation} {\mathrm dS\over \mathrm dx}= 2L - 2{x} \end{equation}が0になるのは${x}=L$の時、つまり正方形の時である。
ところでこの微分も、
のように図解して、 \begin{equation} \mathrm dS = (2L-{x})\mathrm dx - {x}\mathrm dx \end{equation} のように考えることもできる。
こうして考えておいて、「微分が0になるところは、増える部分と減る部分が同じ大きさになる時($2L-{x}={x}$)である」と考えると、${x}=L$(すなわち正方形)の時が最大値であることがわかる。
もう一つ例をやってみよう。
図のように、一辺$A$ cmの正方形の紙から、一辺${x}$ cmの正方形を4つ切り出して、折り曲げて蓋なしの箱を作った(のりしろは適当につけたものとする)。 この箱の容積を最大にする${x}$の値を求めよう。
図からわかるように底面の面積が$(A-2x)^2$だから、この箱の容積は${V}={x}(A-2{x})^2$である。微分すると、 $$ {\mathrm dV\over \mathrm dx}=(A-2{x})^2+2{x}(A-2{x})\times(-2)=(A-2{x})(A-2{x}-4{x})=(A-2{x})(A-6{x}) $$となる。
ここで注意。この微分を一回バラして(展開して)から計算する人がときどきいるが、ライプニッツ則を使って計算してから共通因子$(A-2x)$をくくりだす方が楽である。
${V}$の微分が0になるのは${x}={A\over 2}$と${A\over 6}$である。${x}={A\over 2}$では体積が0になってしまうから、最大値になるのは${x}={A\over 6}$である。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。