「熱力学〜現代的な視点から」攻略チャート

 この授業で話している熱力学の内容の流れを図にした「攻略チャート」を作ったので、それを見て、

などをチェックしつつ、勉強してください。

 ↑プリントとして配布したバージョンでは【要請3.1】に「仕事は0以上」とありますが「仕事は0以下」に訂正しておいてください。

前回のおさらいと、微分形式で書いたまとめ

 UFF=UTSという関係でつながった「別の関数」だった。そして、FT;V,Nという変数で記述すると完全な熱力学関数になり、US,V,Nという変数で記述すると、完全な熱力学関数になる。こうなる理由は、Fは等温準静操作(Tを一定に保つ操作)における仕事で定義され、Uは断熱準静操作(Sを一定に保つ操作)における仕事で定義されているということを思えば納得が行く。

 それぞれを違う方法(一方はT,Nを固定して、もう一方はS,Nを固定して)でVで微分した結果は、同じ圧力P(にマイナス符号をつけたもの)になっていた(同様にNで微分しても結果はどちらも同じになる)。

 先週は、理想気体の例で具体的に

F[T;V,N]V=U[S,V,N]V

ということを示した。具体的には示してないが、

F[T;V,N]N=U[S,V,N]N=μ

もほぼ同様に示せる。この量μ化学ポテンシャルと呼ばれる量で、物質量を増やした時のFもしくはUの増加率になる。

 この授業の範囲では化学ポテンシャルの活用例はあまり出てこない。たとえば「酸素と水素で水ができる」のような現象が起きる時、酸素分子と水素分子が減る分化学ポテンシャルが減り、水分子が増える分化学ポテンシャルが増加する、ということから化学反応がどのように進むか(当然、全エネルギーが低くなる方向に向かう)ということがわかったりする。

 以上は二つの関数が「ルジャンドル変換」でつながっていることで「保証」されている。

 ルジャンドル変換の一般論の話は後にまわして、まずこの微分の関係を少しコンパクトに書く方法について説明しておく。

 ついでながら、残る変数での微分は、

F[T;V,N]T=S(T;V,N)U[S,V,N]S=T(S,V,N)

という関係になっていた(今度は等しいのではなく、互いに変数が移り変わるようになっている)。

 変数の間の関係をFの場合とUの場合でまとめると、

のようになる。

 熱力学的系を考えるとき、我々が知りたい量はT,S,P,V,μ,Nの六つだが、そのうち3つが独立変数として「設定できる量」で、残りの3つは「完全な熱力学関数の微分で得られる量」ということになる。

 これを微分形式という書き方でまとめておこう。一般に多変数関数f(x,y,)の独立変数が変化したときの変化は、

f(x+dx,y+dy,)=f(x,y,)+f(x,y,)xdx+f(x,y,)ydy+

のように書ける。

 ヘルムホルツの自由エネルギーF[T;V,N]の微小変化は

F[T+dT;V+dV,N+dN]=F[T;V,N](F[T;V,N]T)S(T;V,N)dT(F[T;V,N]V)P(T;V,N)dV+(F[T;V,N]N)μ(T;V,N)dN

となる。これを縮めて、

dF[T;V;N]=S(T;V,N)dTP(T;V,N)dV+μ(T;V,N)dN

さらに縮めて、

dF=SdTPdV+μdN

と書く(最後だけ符号がプラスだが、それぞれの偏微分係数の物理的意味に合わせているのでこうなってもしかたない。

 同様にU[S,V,N]=F[T(S,V,N);V,N]+T(S,V,N)Sの方の微分を考えると(まず略記で計算する)、

dU=SdTPdV+μdNdF+dTS+TdS=TdSPdV+μdN

となる。ちゃんと関数の引数も含めて書くと、

dU[S,V,N]=T(S,V,N)dSP(S,N,N)dV+μ(S,V,N)dN

という関係を作ることができる。dF[T;V;N]=SdTPdV+μdNにせよdU[S,V,N]=TdSPdV+μdNにせよ、それぞれの独立変数が微小変化した時に従属変数(FU)がそれに応答してどのように変化するかを余すことなく記述していることになる。

 たとえば、dF[T;V,N]=SdTPdV+μdNという式は、

  • 温度をdT変化させると、FdTにエントロピーSを掛けた分だけ減る。
  • 体積をdV変化させると、FdVに圧力Pを掛けた分だけ減る。
  • 物質量をdN変化させると、FdNに化学ポテンシャルμを掛けた分だけ増える。

と「読み取る」ことができる。

 結局、FT;V,Nを使って書いた時に完全な熱力学関数になるのは、T,V,Nの変化によってFがどう変わるかが、物理的に意味のある(しかも決して0にならない)量になっているからだと言える(そうならない例を後で述べる)。

Eulerの関係式

 新しく化学ポテンシャルが導入されたので、化学ポテンシャルを含む式を1つ導出しておく。

 F[T;V,N]の3つの引数のうち、V,Nは示量変数だから、系全体をλ倍すると、

λF[T;V,N]=F[T;λV,λN]

という式ができる。これをλで微分すると、

F[T;V,N]=F[T;λV,λN](λV)(λV)λ+F[T;λV,λN](λN)(λN)λ

となり、この後λ=1と置くことで、

F[T;V,N]=F[T;V,N]VV+F[T;V,N]NN

という式を得る(これをEulerの関係式と言う)。理想気体の場合で確認すると、

F[T;V,N]VV=NRT×1V×V=NRT

および

F[T;V,N]NN=(RTlog(TcV(T)cvN)NRT×(1N))×N=NRTlog(TcV(T)cvN)+NRT

となってこの例では確かに成立している。

 圧力Pと化学ポテンシャルμの式を考えると、この式は

F=PV+μN

ということになる。つまりF,P,V,Nがわかればμは計算できる量になる。