もう一度グラフで前回の復習
どのような状況で液相と気相の共存が起こるかをもう一度グラフで説明した。

↑の「高温」の状態(X'→Y'という変化)ではFは常に下に凸である。しかし「低温」(X→G→L→Yという変化)ではFに上に凸な「有り得ない」領域が出現する(この意味で、「擬似的なF」なのだ)。その領域を直線でつないだ「真のF」が実際に実現する状況だが、実はこの状況は図で「L」と示した(液体状態)と「G」と示した気体状態が共存した(いわばブレンドされた)状態になっている。ここでこのグラフの傾きは−pだから、「LからGへ」という直線の上では圧力一定である。
温度と圧力を横軸縦軸にしたグラフ↓の上ではX'→Y'の「高温」での変化も、X→L→G→Yの「低温」での変化も、どちらも縦線になる。

ただし、このグラフ上では、「L」点と「G」点が同じ点になる(V-Fグラフでは直線である領域がT-pグラフでは一点に収縮する)。
何を変数として記述するかで、変化の様子はかなり変わる。極端な場合、T-Pのグラフでは相転移の途中は一点になってしまう。
液相・気相変化のエンタルピーの変化
ある物質が液体の状態(T;VL,N)から気体の状態(T;VG,N)と変化したとすると、そのとき熱力学第1法則から、
(内部エネルギーの変化UG−UL)=(最大吸収熱Qmax)−(最大仕事Wmax)
という式が成立するだろう。ところで相転移の時の圧力(一定)をpvと書くことにすると、最大仕事はWmax=pv(VG−VL)である。
以上の式を整理すると、
UG+pvVG−(UL+pvVL)=Qmax
となる。吸収する熱がH=U+pVという量の差になっている。
↑というところまで先週話したが、この熱、別の言い方をすればΔH(エンタルピーの変化)は相転移の際に必要となる熱だ、ということができる。
熱力学第1法則ΔU=Q−Wは、どんな状況でも成立する式である。
体積一定の状況では、ΔU=Qになる(仕事をしないから)。
圧力一定の状況では、Δ(U+pV)=Qになる(ということを↑で示した)。
よって圧力一定条件ではUではなくH=U+pVの方を「エネルギー」のように扱った方が楽になる、というのがHを導入する意味である。実際に実験するときには圧力一定という条件で行なうことも多いから、実験結果をまとめるときにもその方が意味がある式を作りやすい(なお、さらに「実際に実験するときには断熱じゃなく等温の環境下に置くことの方が多いだろう」と考えるとHではなくG=H−TSを使った方がよい、ということになる)。
Crayperonの式
液相←→気相の相転移が起こる圧力pv(T)はTの関数である。
pv(T)の添字vは「vaporize(気化する)」の「v」。つまり温度Tで気化するときの圧力ということ。
「気相と液相の境界線の微分方程式を立てたい」というモチベーションのもと、dpv(T)dTを考えよう。そのために、まずヘルムホルツ自由エネルギーの定義式を使って、
F(T,VL(T,N),N)−F(T,VG(T,N),N)=pv(T)(VG−VL)
と書く(液体から気体へと変化すると、左辺の分だけヘルムホルツ自由エネルギーが減り、その分が外部にする仕事(右辺)になる。
この式をTで微分する。Tが全部で7箇所にあるが、∂F∂T=−Sを使うと、Fの第1の引数にあるTを微分したものが−Sになることがわかる。また、Fの第2の変数であるVの中にあるTを微分したときに∂F∂VdVdTが出てくるが、これは右辺にも出てくるpvdVdTとちょうど相殺する。よって残る微分の結果は
−S(T,VL(T,N),N)+S(T,VG(T,N),N)=dpv(T)dT(VG−VL)
となる。ここで右辺にTを掛けたT(S(T,VG(T,N),N)−S(T,VG(T,N),N))は、液体→気体になったときのエントロピー変化(つまりは吸収する熱)と解釈できるから、
QL→G=Tdpv(T)dT(VG−VL)
から
dpv(T)dT=QL→GT(VG−VL)
という式を導ける。これがCrayperonの式である(この式は実験的にも支持される式となっている)。
ところで多くの場合、この式の右辺に出てくる量QL→G,T,VG−VLは正である。よってdpv(T)dTも正となり、T-Pグラフは右上がりになる。
そうでない例が氷→水という「固体→液体」の相転移で、この場合は体積は固体の方が大きい(つまり、VL−VrmSが負)。よってこの相転移の相図では、T-Pグラフは右下がりになる(もちろん、これも実験とあった結果である)。
Crayperonの式は
dpv(T)dt=SG−SLVG−VL
と書くこともできる。これはMaxwellの関係式の一つ∂p∂T=∂S∂Vに似ていることに気づいたろうか?(なつかしい人に出会えたか?)
似てはいるが、Maxwellの関係式が偏微分という「連続的な変化の変化量の計算」で書かれているのに対し、Crayperonの式は相転移の際の不連続なエントロピーと体積の変化を示している。ただどちらもFがT,V,Nの関数としてちゃんと定義されているという条件から出てくるのは同じである(だから、この式が文字通りに破れるということは熱力学第2法則が破れていることを意味している)。
磁性体の相転移
最後に、磁性体の相転移について簡単に話した。
磁性体の場合、Fと磁化Mでグラフを描くと、(ちょうどvan der Waalsの時のFとVのグラフのように)、低温ではFが下でない領域が現れる(このあたりの事情は説明しない)。

y
すると低温では例によって共通接線を引いて補完した「真のヘルムホルツ自由エネルギー」に置き換えて考えねばならない。この場合エネルギー最低は下の直線部分になる(この直線上の状態は磁化を持つ二つの「底」の状態が「ブレンドされた」状態になっている)。
磁石というのは、高温状態から強い磁場の中でゆっくり冷やすことによって、磁化を持つが出現するようにしたものである。よってある温度より高温にすると(つまり臨界点を超えると)最低エネルギー状態は「磁化が0」の状態になる。
実際、フェライト磁石とネオジム磁石をライターで温めて磁力がなくなるところを実演してみせたところで今日の授業はおしまい。来週テストです。
来週同じ時間にテストですが、テストは「教科書およびノートは持ち込み可」とします。