相対論2008年度第13回 目次に戻る

 

まず、先週飛ばした部分を片づける。電磁気学におけるE=mc^2について。

実はE=mc^2という式は、アインシュタインが作ったものでもなければ、相対論によって始めて導かれたものでもない。純粋に電磁気学的な計算から、電子のような荷電粒子を動かす時の抵抗(慣性に相当する)が、回りの電場のエネルギーの分だけ増えることを電磁気の法則から導かれていた。簡単に言うと、電子を動かそうとすると、回りの電場も動かさなくてはいけない。しかし、電場は電子と全く同じように時間的に変化することはできず、電場の変化は電子の運動に、少し遅れることになる。この遅れた電場は電子を加速と逆方向にひっぱるのである。

Emc2.png

電子を加速するためには、その力の分だけ余計な力が必要になる。これがあたかも「電子の周りの電磁場も質量を持っている」かのように作用するのである。ポアンカレやローレンツの計算により、この質量は電磁場のエネルギーに比例し、かつ{m\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}と同じ速度依存性を持つことも計算されていたのである*1。もちろんこれだけでは、電磁的なエネルギーを起源とする質量以外に対しても同じ式が成立するかどうかは、実験してみないとわからない。ただ、ローレンツ変換に対する不変性を考えると、そうであることがもっともらしい(相対論的には自然な結論である)ということが言えるのみである。ローレンツ変換という座標変換に対する不変性は、一般の物理現象に対して要求してよいほどに大事な原理であろうと考えられる(たとえば力学と電磁気学はローレンツ変換で不変なのに、熱力学だけはそうではないということは考えられるだろうか??)。

7.8 電磁場に関するパラドックス

ここまでの話でわかるように、相対論は電磁気学を発展させることによって生まれた理論である。というより、古典電磁気学を完成させる最後の1ピースだったと言ってもいい。そこで、高校レベルの電磁気現象だけど、相対性理論を使わないと説明できない現象を一つ紹介しておこう。

densen.png

 電流が流れている導線から少し離れたところに静止した電子がいる。導線には流れている自由電子(−電荷)がいるが、静止している金属イオン(+電荷)もいて、全体として電荷は中和している。ゆえに導線のまわりに電場はない。電流があるから磁場はあるが、磁場は止まっている電子に力を及ぼすことはない。よってこの電子は力を受けない。

 ここで、流れている電子と同じ速度で移動しながらこの現象を見たとしよう。電子は止まってしまうが、金属イオンは逆に動き出すので、やはり電流は流れている。故に磁場はやはり発生している。今度は外においてある電子は動いている。磁場中を動く電子は力を受けるので、この立場で考えると電子には力が働く。

さて、はたして電子に力は発生するのか、しないのか??

電線の中の電子の動く速度はけっこうゆっくり(歩く速度より遅いぐらい)なので、この実験は実際にやることができるが、もちろん、電子は動かない。見る人の立場によって結果が変わるはずはない。

相対論を知っていると、この謎には下の図のような答を出すことができる。すでに電磁場のローレンツ変換を求めておいたので、それを見てもらうとわかると思うが、導線に対して動く人から見ると、導線に対して止まっている人には見えない電場が見えるのである。

densen2.png

この電場はもちろん、理由もなく発生するのではない。電場が発生する原因は、導線の中を考えるとわかる。最初導線内には等しい電荷があって電場がキャンセルしている、と言ったが、相対論によれば動いている物体はローレンツ短縮で長さが縮むはず。一群の電荷が動いたとすると、運動方向に圧縮されて電荷密度が上がることになる。ということは、今導線内にある電子の流れは「すでにローレンツ短縮した結果」として+電荷とキャンセルしている。これを動きながら見ると、今度は+電荷がローレンツ短縮により圧縮され、電子の方は逆に圧縮される原因がなくなり、いわば「圧縮が解除される」ことになるのである。結果として、運動しながら見ると導線は+に帯電していることになる。この+に帯電した導線は電子を内側にひっぱり、磁場によるローレンツ力を打ち消す。

この問題が教えてくれる教訓は「相対論なんてのは宇宙の話や素粒子の話をする時にしか出てこない、特殊な世界の話」と思いこんではいけないということである。量子力学がミクロな世界にとどまらないように、相対論も普段見る物理現象にも効いているのである。相対論の助けなしには、電磁気現象を完全に理解することはできない

7.9 章末演習問題

[演習問題7-1] 速度の合成則(速度の合成則)は、4元速度の考え方を使っても導くことができる。x'座標系で見ると4元速度V^{\prime\mu}を持っている物体があったとすると、x座標系では、

V^0 = \gamma(V^{\prime0}+\beta V^{\prime1}), V^1 = \gamma(V^{\prime1}+\beta V^{\prime0}),V^2=V^{\prime2},V^3=V^{\prime3}

と、ローレンツ変換と同じ変換を受けることになる。これから速度の合成則を導け。

[演習問題7-2]x方向を向いた一定電場E中の荷電粒子(電荷q)の運動方程式は

{d\over dt}\left(mv_x\gamma\right)= qE

となる。初速度0の場合でこの微分方程式を解いて、時刻tと速度v_xの関係を求め、この粒子が光速を越えられないことを説明せよ。

[演習問題7-3]非相対論的な力学で等加速度運動というと、

x(t)=x_0 + v_0 t + {1\over2}at^2

となる。もしこんな運動をするロケットがあったとすると、ロケット内部の人は自分がどんな加速度を持って運動していると考えるだろうか?(答えは「等加速度」では全くない!)

以下の手順で考えよ。

[演習問題7-4] 「γ線などのエネルギーにより、真空から電子と陽電子が発生する」という現象を「対発生」という。実際にはこの現象は

γ線の光子一個+もう一個の光子 → 電子+陽電子

という反応である(もう一個の光子は、周囲にある物質から提供される)。

γ線の光子一個 → 電子+陽電子

という反応は決して起こらないことを、4元ベクトルの保存則から証明せよ。

(ヒントその1:ここで光子は質量が0の粒子として扱えばよい)

(ヒントその2:証明がやりやすい座標系を選んで証明しよう。ある座標系で起こらないことは、他の座標系でも起こらない)

第8章 電磁気の4次元的な記述

せっかく、電磁気学の基本方程式が不変になるようにローレンツ変換を定義したわけであるが、では電磁場そのものがどのようにローレンツ変換されるのか、まだ計算していなかった。その部分を今から実行する。そのためには、電場と磁場を使って電磁場を表現することはあまり得策ではない。電場や磁場は3次元のベクトルではあるが、4元ベクトルではないからである。そこでまず、電磁場の方程式を書き換えることから始めよう。

電磁場を相対論的に表現するために、4元ベクトルポテンシャルを導入する。

もう一度マックスウェル方程式を考えよう。

\div {\vec D}={\rho}~~~~\left(\div {\vec E}={\rho\over\epsilon_0}\right)
(div Dの式)
\div {\vec B}=0
(div Bの式)
{\rm rot}{\vec H}={\partial{\vec D}\over \partial t}+{\vec j}~~~~\left( {\rm rot}{\vec B}={\mu_0}\left({\epsilon_0}{\partial{\vec E}\over \partial t}+{\vec j}\right)\right)
(rot Hの式)
{\rm rot}{\vec E}=-{\partial{\vec B}\over \partial t}
(rot Eの式) ただし右の括弧内は真空中であるとして、{\vec D},{\vec H}を使わないで書いた形である。以下では真空中のみを考えることにする。この式は\vec j,\rhoが与えられているとして、\vec E,\vec Bを求めるという式になっている。

ここでまず\div \vec B=0という式に注目しよう。「\divが0になるようなベクトルは、別のベクトルの{\rm rot}で書ける」という法則があるので、そのベクトルを\vec Aと書くことにして、\vec B={\rm rot} \vec Aとする。\vec Aをベクトルポテンシャルと呼ぶ。

divrot.png

{\rm div}が0になるようなベクトルは、別のベクトルの{\rm rot}で書ける」を証明するには、具体的にそういうベクトルが作れることを示せばよい(面倒ではあるが、少し試行錯誤するとできる)。ここではその逆「何かのベクトルの{\rm rot}{\rm div}は0である」ということを、図で説明しよう。{\rm rot}のそもそもの定義は、微小な面を考えて、その面の回りを回りながらベクトルを線積分した結果を微小面積で割ったものであった。別の言い方をすれば、{\rm rot}\vec Aとは、\vec Aを力と見立て、微小面積を回る経路で一周した時に\vec Aのする仕事である。

ベクトルの{\rm rot}で作ったベクトルの\divを作ってみると、左の図のようになる。立方体の各面で、外向きのベクトルに対して右ネジの方向に回りつつその仕事を計算するのが{\rm rot}\vec Aであり、その「外向き」の量を全部足したものが\div({\rm rot}\vec A)となる。図をよく見ると、矢印が各辺を2回ずつ、逆向きに通っている。この部分で計算される「仕事」は互いに消し合うので、全部足すと0になる。

さて以上で磁場をベクトルポテンシャルで書き表すことができた。電場の方を考えよう。静電気学では、{\rm rot} \vec E=0であった。「{\rm rot}が0になるようなベクトルは、スカラーの{\rm grad}で書ける」という法則*2もあるので、\vec E= -{\rm grad}\phiと書ける。φは電位、またはスカラーポテンシャルと呼ぶ。

この状況の物理的意味は以下の通りである。

\vec Fが力だとして、その線積分\int \vec F\cdot d\vec xは仕事である。これを微小な面積の回りで積分したものが{\rm rot}であるから、これが0であるということは、一周回ってくると仕事が0、つまりこの力が保存力だということを意味する。保存力であれば対応する位置エネルギーφが存在し、\vec F=-{\rm grad}\phiと書ける。

静電気学を離れ、時間的に変化するような電磁場を扱うとなると、この式は少し修正される。なぜなら、時間的に変化する電磁場では{\rm rot} \vec Eは0ではなく、{\rm rot} \vec E=-{\partial\over \partial t}\vec Bが成立するからである(この式は「磁場の時間変化により誘導起電力が発生する」ということを述べている)。この式に\vec B={\rm rot} \vec Aを代入すると、

{\rm rot} \vec E= -{\partial \over \partial t}{\rm rot} \vec A

となる。ゆえに、\vec E-{\partial\over \partial t}\vec Aという項を含むべきである(\vec Eに元から含まれている-{\rm grad}\phiは、{\rm rot}を取ると消えることに注意)。以上から、

\vec B= {\rm rot} \vec A,~~~   \vec E = -{\rm grad} \phi - {\partial \over \partial t}\vec A

と置くことで、マックスウェル方程式のうち、(div Bの式)と(rot Eの式)は自動的に満たされた。

残りのマックスウェル方程式がどうなるかを確認しておこう。(div Dの式)は、

\begin{array}{rl}  {\rm div}\left(-{\rm grad} \phi -{\partial \over \partial t}\vec A \right)=& {\rho\over \varepsilon_0}\\ -\triangle \phi -{\partial \over \partial t}{\rm div} \vec A=& {\rho\over \varepsilon_0}\end{array}

となり({\rm div}({\rm grad} \phi)=\triangle \phiを使った)、(rot Hの式)は、

{\rm rot}({\rm rot} A)={\mu_0}\left({\epsilon_0}{\partial\over \partial t}\left(-{\rm grad} \phi -{\partial\over  \partial t}\vec A\right)+{\vec j}\right)

となる。

ここで{\rm rot}({\rm rot} \vec A)={\rm grad}({\rm div} \vec A)-\triangle \vec Aという式を使うと、

\begin{array}{rl}  {\rm grad}({\rm div} A) - \triangle \vec A =&{1\over c^2} \left( {\partial\over \partial t}\left(-{\rm grad} \phi -{\partial\over  \partial t}\vec A\right) \right) +\mu_0{\vec j}\\{\rm grad}({\rm div} A) +\left({1\over c^2}{\partial^2\over \partial t^2}- \triangle \right)\vec A =&- {1\over c^2}{\partial\over \partial t}({\rm grad} \phi)  +\mu_0{\vec j}\end{array}

後で理由は説明するが、実は常に{\rm div} \vec A=0という条件を付けることができるので、これを使うことにして、さらに静電場・静磁場の場合を考えることにして時間微分の項を無視することにすれば、上の二つの方程式は、

-\triangle \phi= {\rho\over \varepsilon_0}
-\triangle \vec A = \mu_0 \vec j

という、ポアッソン方程式の形になる。

vecpot.png

これらの式はそれぞれ、「電荷によって作られるポテンシャルが静電ポテンシャルφである」「電流によって作られるポテンシャルがベクトルポテンシャル\vec Aである」ということを表現している。上で求めた二つのポアッソン方程式は、左図で表現されるように、電荷・電流がポテンシャルを作ることを意味している。電流というベクトル量が作るポテンシャルはベクトルなのである。

ベクトルポテンシャルはなじみがない人が多いかもしれないが、実はこっちを使った方が電磁気がわかりやすくなるのではないかと思うほど、便利な概念である。

migineji.png

このように作られたベクトルポテンシャルが、磁場を作ることになる。例として直線電流の場合を図で描くと右のようになる。

電流のそばには強いベクトルポテンシャルが、遠くには弱いベクトルポテンシャ ルができている。このベクトルポテンシャルを流れのようなものだと考えると、 この流れは回転を作る。なぜなら、外側ほど「流れ」が弱いからである。

この図において、導線の左側では右(内側)の\vec Aの方が強いので、$\vec A$を何かの流れと考えれば、反時計回りの渦ができていることになる。逆に右側では 時計回りの渦ができる。

この渦こそが{\rm rot}であり、{\rm rot}の結果のベクトルはこの渦が右ネジを回す方向だとした時、ネジの進む方向を向く。

よって、導線の左側では紙面裏から表に突き抜けるような磁場がそこにある。逆に右側では紙面表から裏へ向かう方向の磁場がある。他の場所でも同様なので、導線を一周するようにまわる磁場ができあがる。これは、「電流をネジの進行方向とした時、右ネジを回す方向に磁場ができる」といういわゆる右ネジの法則の通りである。つまり「電流が磁場を作る」のではなく「電流はベクトルポテンシャルを作る。ベクトルポテンシャルの回転が磁場である」というふうに考えることができる。

なお、電荷qがスカラーポテンシャルの中にいるとq\phiという位置エネルギーを持ったように、電流\vec iがベクトルポテンシャル\vec Aの中にいると-\vec i\cdot \vec Aという位置エネルギーを持つ。

位置エネルギーが下がるような方向に力を受けるという原則からすると、(+電荷が−電荷に引きつけられるように)同方向の電流は引きつけ合う。また、なるべくなら電流とベクトルポテンシャルは同じ方向を向きたがる。電磁石と電磁石の間に働く力なども、このエネルギーで説明することができる*3

さて、実はこのベクトルポテンシャル(3成分)とスカラーポテンシャル(1成分)は、一つの4元ベクトルの空間成分と時間成分になっている。そのことをこれから確認していこう。

我々のやりたいことは相対論的に共変な式に書き直すことなので、\vec E,\vec Bの定義をできる限り4元ベクトルを使った式に直していこう。まず、

と書ける。

\vec Eの式に関しては、{\partial \over \partial t}があるが、4次元的な式にするためには、ここは{\partial\over \partial (ct)}={\partial\over \partial x^0}=\partial_0に直したい。そこで両辺をcで割って、

{1\over c}\vec E=-{\rm grad}\left({\phi\over c}\right)-\partial_0 \vec A

という式にする。これをテンソル記号で書くと、

{1\over c}E_i = -\partial_i \left({\phi\over c}\right)-\partial_0 A_i

となる。ここで、{\phi\over c}=A^0=-A_0とおくと、

{1\over c}E_i = \partial_i A_0-\partial_0 A_i

である。こうすることによって、\vec E\vec B\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\muの形(A_\muを微分して、添字を取り替えたものを引く形)になった。ただし、A^0A^iと合わせて4元ベクトルとなるかどうかは、まだわからない。それは後で確認しよう。

そこで電磁場テンソルF_{\mu\nu}(もちろんこれがテンソルになるかどうかの証明はまだされていない)を

F_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu

と定義すれば、

{E_i\over c}=F_{i0}=-F_{0i}=F^{0i}=-F^{i0}

および

B_1=F_{23}, B_2=F_{31}, B_3=F_{12}  まとめて、B_i=\epsilon_{ijk}F_{jk}

のようにして電場と磁場を一つの式で表せる。

定義からわかるように、F_{\nu\mu}=-F_{\mu\nu}すなわち、F_{\mu\nu}は反対称である。それゆえ、成分は6個しかない。電場3個と磁束密度3個がちょうどこの6個になっている。行列の形にまとめて書くと

F_{\mu\nu}=\left(\begin{array}{cccc} F_{00}&F_{01} &F_{02} &F_{03} \\ F_{10}&F_{11} &F_{12} &F_{13} \\ F_{20}&F_{21} &F_{22} &F_{23} \\ F_{30}&F_{31} &F_{32} &F_{33} \\\end{array}\right)=\left(\begin{array}{cccc}  0&-{E_x\over c} &-{E_y\over c} &-{E_z\over c} \\	{E_x\over c}&0 &B_z &-B_y \\	{E_y\over c}&-B_z &0 &B_x \\	{E_z\over c}&B_y &-B_x &0 \\       \end{array}\right)

である。

マックスウェル方程式のうち、\div\vec B=0

\partial_1 F_{23}+ \partial_2 F_{31}+ \partial_3 F_{12}=0

と書けるし、{\rm rot} E=-{\partial\over \partial t}\vec Bは両辺をcで割ってからx成分を考えると、

\partial_2 F_{30} -\partial_3 F_{20}=-\partial_0 F_{23}

となり、変形すると、

\partial_2 F_{30} +\partial_3 F_{02}+\partial_0 F_{23}=0

と書ける。まとめると、

\partial_\mu F_{\nu\rho}+ \partial_\nu F_{\rho\mu}+ \partial_\rho F_{\mu\nu}=0

と一つの式にまとまる。\mu,\nu,\rhoには、0〜3のうち、3つの重ならない数字が入る。

残る式を考えよう。\div \vec E={1\over \epsilon_0}\rhoは、両辺をcで割ってから書き直すと、

\partial_1 \underbrace{F^{01}}_{E_1\over c}+\partial_2 \underbrace{F^{02}}_{E_2\over c}+\partial_3 \underbrace{F^{03}}_{E_3\over c}={1\over c \epsilon_0}\rho =\mu_0 \rho c
(ρの式)

となる(最後ではc^2={1\over\epsilon_0\mu_0}を使った)。ここで、どうせ0である\partial_0 F^{00}を足しておくと、

\underbrace{\partial_0 F^{00}}_{=0}+\partial_1 F^{01}+\partial_2 F^{02}+\partial_3 F^{03}= \partial_\mu F^{0\mu}=\mu_0 \rho c

となる。

{\rm rot} \vec B=\mu_0\left(\epsilon_0{\partial\vec E\over \partial t}+\vec j\right)のx成分は

\partial_2 \underbrace{F_{12}}_{B_3}-\partial_3 \underbrace{F_{31}}_{B_2}=\mu_0\left(\epsilon_0 \underbrace{c\partial_0}_{{\partial\over \partial t}} \left(\underbrace{ cF^{01}}_{E_1}\right)+j^1\right)

と言う式が出せる。再びc^2={1\over \epsilon_0\mu_0}を使いつつ変形すると、

\begin{array}{rl} \partial_2 F^{12}-\partial_3 F^{31}=& \partial_0 F^{01}+\mu_0 j^1\\\underbrace{\partial_1 F^{11}}_{=0}+ \partial_2 F^{12}+\partial_3 F^{13}+\partial_0 F^{10}=&\mu_0 j^1\\\partial_\mu F^{1\mu}=&\mu_0 j^1\end{array}

以上から、\rho c=j^0とすると、

\partial_\mu F^{\nu\mu}=\mu_0 j^\nu

とまとまった式になることがわかる。では、\rho c=j^0とすることは正しいだろうか?

実際、電荷密度ρと電流密度\vec j(\rho c, \vec j)はという組み合わせで4元ベクトルになっている。つまり、(\rho c,\vec j)は4元ベクトルj^\muの時間成分、空間成分と考えることができるのである。4元ベクトルであるからある座標系からそれに対してx方向に速度vで動いているような別の座標系へと座標変換すれば、

j^{\prime0}= \gamma(j^0-\beta j^1), j^{\prime 1} = \gamma(j^1-\beta j^0),  j^{\prime 2}=j^2,  j^{\prime 3}=j^3

のようにローレンツ変換されることになる。

簡単な場合で上の式を確認しよう。x,y,zの3方向にそれぞれLの広がりを持った立方体を考え、その中にまんべんなく電荷Qが静止して分布しているとしよう。この時、\rho={Q\over L^3}であり、\vec j=0である。

これをx軸マイナス方向に速さvで動きながら見たとしよう。立方体のx方向の辺のみがローレンツ短縮され、L\sqrt{1-{v^2\over c^2}}と変化する。それゆえこの座標系での電荷密度は

\rho'={Q\over L^3\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}={\rho\over \sqrt{1-{v^2\over c^2}}}=\rho c\gamma

である。一方電流密度は、面積L^2の中を単位時間あたりL^2vの体積が通過 していくことになるから、電荷密度にL^2vをかけてから単位面積あたりにするためにL^2でわって、

j^{\prime x} = {Qv\over L^3\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}={\rho v\over\sqrt{1-{v^2\over c^2}}}=\rho v\gamma,   j^{\prime y}=j^{\prime z}=0

となる。この式はj^\mu=(\rho c,0,0,0)から速度-vのローレンツ変換をした結果j^{\mu\prime}=\left(\rho c\gamma,\rho v \gamma,0,0\right)とぴったり一致する。

以上で、

\partial_\mu F^{\mu\nu}=-\mu_0 j^\nu
(テンソルで書かれたマックスウェル方程式) という式も作ることができた。前の式と符号が変わっているのは、F^{\mu\nu}=-F^{\nu\mu}を使ってFの添字をひっくり返したからである。

ところでこの式の両辺に\partial_\nuをかけると、

\partial_\mu \partial_\nu F^{\mu\nu}=-\mu_0 \partial_\nu j^\nu

となるが、左辺は自動的に0である。なぜならばF_{\mu\nu}\mu\leftrightarrow\nuの取り替えで反対称なのに対し、前にかかっている微分演算子\partial_\mu\partial_\nu\mu\leftrightarrow\nuで対称であるからである。ゆえに、\partial_\nu j^\nu=0でなくてはならない。これは電流の保存則{\rm div} \vec j +{\partial \rho\partial t}=0そのものである。

このことは、(テンソルで書かれたマックスウェル方程式)は、4つの式ではあるが独立なのは3つであるということを示している。

この式を、A^\muを使って書くと、

\partial_\mu \partial^\mu A^\nu-\partial^\nu \partial_\mu A^\mu =  -\mu_0 j^\nu
(Aで書いたマックスウェル方程式)

となる。この式の右辺がローレンツ不変に対してベクトルとなっているからには、左辺もやはりローレンツ変換に対してベクトルでなくてはならない(そうでなかったら、電磁気学は相対論的に不変ではないということになってしまう!)。よって、A^\muは4元ベクトルとして変換しなくてはいけない。これから、A^0={\phi\over c}と置いたことが正当化される。A^0は確かに4元ポテンシャルA^\muの時間成分として変換されるのである。

(Aで書かれたマックスウェル方程式)という式が4元ポテンシャルを使って書いたマックスウェル方程式である。4元ベクトルで表現されたことから、これが相対論的に不変な理論となることは自明である。

F123.png

F_{\mu\nu}は、いわばA_\muの4次元{\rm rot}である。3次元の{\rm rot}では、「ベクトルの{\rm rot}はベクトル」であったが、実はこれが成立するのは3次元でだけである。なぜなら、その定義上、{\rm rot}は「微小な面を考えて、その回りをぐるっと回る」という操作に対応している。3次元では、面は3つある(xy平面、yz平面、zx平面)。しかし、2次元ではxy平面一つしかないし、4次元ではxy,yz,zxの他にxt,yt,ztを合わせて合計6つある。重複をゆるさず二つの方向を決めれば面が決まるので、一般にn次元では{n(n-1)\over2}個の面がある。

3次元の{\rm rot}\divを取ると0になることは、空間内に立方体を描くことで示すことができた。4次元の{\rm rot}であるところのF_{\mu\nu}でも、4つの座標軸(ct,x,y,z)のうちから3つ選んで立方体を作り、その立方体の各面を回るような{\rm rot}を考えることで同様の式を作ることができる。例えば上の図は(x,y,z)の3つの軸で立方体を作った場合である。天井と床から\partial_z F_{12}=\partial_z B_zが出る(天井と床では逆符号なので、という計算がされ、微分になるのである。同様に、左と右から\partial_y F_{31}=\partial_y B_yが、正面と裏から\partial_x F_{23}=\partial_x B_xが出る。全部足すと\div \vec B=0が出る。

F012.png

(ct,x,y)の3つの軸を使って作った図が左のもので、この場合は天井と床から{\partial_0 F_{12}}={1\over c}\partial_t B_x、左と右から\partial_y F_{01}=-{1\over c}\partial_y E_x、正面と裏から\partial_x F_{20}={1\over c}\partial_x E_yが出る。全部足して分母のcを払うと、

\partial_t B_z -\partial_y E_x + \partial_x E_y=0

という式になるが、これは{\rm rot}\vec E=-{\partial \vec B\over \partial t}のx成分である。同様にy成分、z成分の式も出る。つまり、元々のマックスウェル方程式のうち4つが4次元{\rm rot}の性質から出るのである。なお、ローレンツ変換すれば、このct軸とx,y,z軸が混じり合う。つまりこの4つのマックスウェル方程式は、4次元的には互いにからみあっているのだと考えることもできる。

8.1 電場・磁場のローレンツ変換

4元ベクトルポテンシャルは

A^{\prime0}=\gamma(A^0-\beta A^1),A^{\prime1}=\gamma(A^1-\beta A^0), A^{\prime2}=A^2,A^{\prime3}=A^3
(Aのローレンツ変換)

または共変ベクトルで表すと、

A'_0=\gamma(A_0+\beta A_1),A'_1=\gamma(A_1+\beta A_0), A'_2=A_2,A'_3=A_3

のようにローレンツ変換される(A^0=-A_0,A^i=A_iを使えばすぐ導ける)ので、電場や磁場のローレンツ変換はこれから導くことができる。この時、微分演算子(これも共変ベクトルである)の方も、

{\partial \over \partial (ct')}=\gamma\left({\partial \over \partial (ct)}+\beta {\partial \over \partial x}\right), {\partial \over \partial x'}=\gamma\left({\partial \over \partial x}+\beta {\partial \over \partial (ct)}\right),{\partial\over\partial y'}={\partial\over\partial y},{\partial\over\partial z'}={\partial\over\partial z}

と変換されることを忘れてはいけない。たとえば電場のx成分は

\begin{array}{rl} {1\over c} E'_x=&\partial_{x'}A'_0 - \partial_{ct'}A'_x\\ =&\gamma^2\left( \left(\partial_x +\beta \partial_{ct}\right) \left(A_0+\beta A_x\right) -\left(\partial_{ct}+\beta\partial_x\right) \left(A_x+\beta A_0\right) \right)\\=&\gamma^2(1-\beta^2)(\partial_x A_0-\partial_0 A_x)\\=&{1\over c}E_x\end{array}

となって変化しない。同様に、

\begin{array}{rl}{1\over c}  E'_y=&\partial_{y'}A'_0 - \partial_{ct'}A'_y\\ =&\gamma\left( \partial_y \left(A_0+\beta A_x\right) -\left(\partial_{ct}+\beta\partial_x\right)A_y \right)\\=&\gamma\left(\partial_y A_0-\partial_0 A_y +\beta\left(\partial_y A_x-\partial_x A_y\right)\right)\\=&\gamma\left({1\over c}E_y-\beta B_z\right)\end{array}
\begin{array}{rl}{1\over c}  E'_z=&\partial_{z'}A'_0 - \partial_{ct'}A'_z\\ =&\gamma\left( \partial_z \left(A_0+\beta A_x\right) -\left(\partial_{ct}+\beta\partial_x\right)A_z \right)\\=&\gamma\left(\partial_z A_0-\partial_0 A_z +\beta\left(\partial_z A_x-\partial_x A_z\right)\right)\\=&\gamma\left({1\over c}E_z+\beta B_y\right)\end{array}

となる。

chijimu.png

まとめると、

E'_x=E_x, E_y=\gamma(E_y-vB_z), E_z=\gamma(E_z+ vB_y)

である。

磁場の方も同様に計算して、

B'_x=B_x, B'_y=\gamma(B_y+{v\over c^2} E_z),B'_z=\gamma(B_z-{v\over c^2} E_y)

という結果が出る。結局電場も磁場も、座標系の運動方向と平行な方向は変化せず、垂直な方向が変化する。垂直な方向の電場や磁場がγ倍になる(増える)のは、図のように電気力線(あるいは磁力線)がローレンツ短縮により圧縮される効果であると考えると理解しやすい。

電場・磁場のローレンツ変換の式は複雑であり、4元ベクトルポテンシャルを使った式(Aのローレンツ変換)の方が便利である。実は、電磁場を表す物理量としては\vec E,\vec BよりもA_\muの方が本質的なのだと考えることができる。

8.2 ゲージ変換

できあがった4次元的なマックスウェル方程式$\partial_\mu \partial^\mu A_\nu-\partial_\nu \partial_\mu A^\mu=-\mu_0 j_\nu$を見ると、

A_\mu \to A_\mu +\partial_\mu \Lambda

のように、任意のスカラー関数\Lambdaの微分に対応する分だけ、A_\muの値をシフトさせても方程式が不変であることに気づく。この変換は、歴史的経緯から「ゲージ変換」*4と呼ばれる。

そこで、この変換を適当に行えば、A_\muを特別な条件を満たすようにすることができる。たとえば極端な例としては、

\Lambda= -\int A^0 dx^0

と選ぶ。すると、

A_0 \to A_0 - \partial_0 \int A^0 dx^0 = 0

となって、A_0=0と選ぶことができるのである。問題に応じて、計算が楽になるような条件を選べばよい。この条件を「ゲージ条件」と呼ぶ。A_0=0はradiationゲージと呼ばれる。他にも、クーロンゲージ(\partial_i A_i=0)、ローレンスゲージ(\partial_\mu A^\mu=0*5などがある。

クーロンゲージは{\rm div}\vec A=0と書くこともでき、このゲージ条件を選ぶと、静電ポテンシャルの式が-\triangle \phi={\rho\over \varepsilon_0}という式になることは既に述べた。

ここでは、ローレンスゲージを取ろう。するとマックスウェル方程式は、

\partial_\mu \partial^\mu A_\nu = -\mu_0 j_\nu
(ローレンスゲージのマックスウェル方程式) または、\partial_\mu\partial^\mu=-{1\over c^2}{\partial^2\over \partial t^2}+\triangleを使えば、
\left(-{1\over c^2}{\partial^2\over \partial t^2}+\triangle\right)A_\nu = -\mu_0 j_\nu
(ローレンスゲージのマックスウェル方程式2)

という式になり、非常に解きやすくなる。

このゲージ変換があるため、物理的には同じ状況であるのに、A_\muの値が違う、ということが起こりえる。そういう意味でA_\muは測定によって決定できる量ではない。この点で「A_\muは非物理的な量であって、本質的なのは\vec E,\vec B(あるいはF^{\mu\nu})である」という考え方も以前にはあった。しかし、後に\vec B=0であってもA_\mu\neq0であるような状況でA_\muの影響が観測に現れることがある(もちろん、その影響の現れ方はゲージ変換しても変化しない)ことが確認されたので、今ではA_\muの実在性を疑う人はいない*6

8.3 ローレンツ力の導出

この電磁場から電荷にどのような力が働くかを計算してみるのだが、ここで特殊相対原理を使うと簡単に求めることができる。特殊相対原理によればどのような座標系をとっても物理法則は同じ形を持つ。その方程式は必然的にテンソルの形になっていなくてはいけない。力に関しては4次元的に考える時は4元力F^\muで考えなくてはいけない。そこで、電磁場による力の式は4元力を用いて、

F^\mu= (なにか、4元ベクトルになる式)

と書けるはずである。この式の右辺には、まず電場および磁場を表すF_{\mu\nu}が入るであろうことはすぐ予想できる。また、答を盗み見するようだが、結果として磁場と電荷の間に働く力に電荷の速度が入ることを知っているので、4元速度V^\muも式に入ってきそうである。つまり、

F^\mu=(未知の定数)\times F^{\mu}_{~\nu}V^\nu

という答になるだろう。未知の定数を決定するために、たまたま今考えている粒子が静止しているとする。その場合、V^0=c,V^i=0であるから、

F^\mu=(未知の定数)\times F^{\mu}_{~0}c

となる。F^0_{~0}=0,F^i_{~0}={E_i\over c}であることを考えると、

F^i= (未知の定数)&\mimetex(\times E_i);

となる。電場の定義式(\vec F=q\vec E)から考えると、未知の定数は今考えている電荷の電気量qにすればよい。

結局、電荷の受ける力(4元力)は、

F^\mu= q F^\mu_{~\nu}V^\nu

と書ける。この式の\mu=1成分を見てみると、

F^1=q F^1_{~\nu}V^\nu=q F^1_{~0}V^0 + qF^1_{~2}V^2+qF^1_{~3}V^3=q\left({E_x\over c} c\gamma+B_z v_y \gamma-B_y v_z \gamma\right)= q\gamma\left(E_x + (\vec v\times \vec B)_x\right)

となる。この力はミンコフスキーの力F^\muの第1成分なので、${dP^\mu\over dt}=f^\muF^i=f^i\gammaf^1= q\left( E_x + (\vec v\times \vec B)_x \right) $となる。その3次元成分を取れば

\vec f= q\left(\vec E +\vec v\times \vec B\right)

となり、この式はローレンツ力の式そのものである。ゆえに、

(1)特殊相対性原理。

(2)電荷に働く力はF^{\mu\nu}V^\muを使った 式になる。

(3)電荷が止まっていればその力はq\vec Eである。

という条件だけから、ローレンツ力の式を導出することができた。特殊相対性原理が電磁気学の根幹を成す原理であるということが確認できる。

なお、4元ベクトルの自乗V^\mu V_\muが定数-c^2であることから、{dV^\mu\over  d\tau} V_\mu=0でなくてはいけなかった(4元速度と4元加速度は直交しなくてはいけなかった)。ここで考えた電磁場中の働く力を使って運動方程式を立てると、

m {dV^\mu \over d\tau}= qF^{\mu\nu}V_\nu

となるわけだが、この式の両辺にV_\muをかけると、

m {dV^\mu \over d\tau}V_\mu= qF^{\mu\nu}V_\nu V_\mu =0

となって、4元速度と4元加速度がちゃんと直交するようにできている。

8.4 章末演習問題

[演習問題8-1]ある場所の電場\vec Eと磁束密度\vec Bの内積(\vec E\cdot\vec B=0)がローレンツ変換で不変量であることを証明せよ。

また、ある慣性系で\vec E\cdot\vec B=0な状況になっていれば、適切なローレンツ変換をすると、\vec E\vec Bか、どちらかを0にすることができる(ただし、|\vec E|=c|\vec B|であった場合を除く)ことを示せ。

(ヒント:例えば、まず\vec Eがx軸方向を、\vec Bがy軸方向を向くように座標軸を回転してから考えるとよい)

[演習問題8-2] 7.8節の問題を考え直したい。

電荷密度(単位体積あたりの電気量)ρと、電流密度(単位面積あたりを単位時間に通り抜ける電流\vec j(\rho c,\vec j)の形で4元ベクトルとなる。すなわち、座標が

ct'=\gamma(ct-\beta x),  x'=\gamma(x-\beta ct), y'=y,z'=z

とローレンツ変換される時、\rho c,j_x,j_y,j_z

\rho' c=\gamma(\rho c-\beta j_x),  j'_x=\gamma(j_x-\beta \rho c), j'_y=j_y,j'_z=j_z

とローレンツ変換される。導線の静止系では、+電荷の電荷密度がρで、−電荷の電荷密度が-\rho、電流密度が(j,0,0)だったとする。この系では、導線は帯電していない(トータル電荷密度は0である)。

[演習問題8-3] サールの思考実験をもう一度考えよう。サールの場合はコンデンサであったが、ここでは簡単のために2つの点電荷(一方はQ、もう一方は-Qの電荷を持つ)としよう。この電荷を距離r離して、力Fを加えることで静止させたとする。図のように、二つの電荷を結ぶ線がx軸と角度θを持つように配置する。この時、電荷を静止させるのに必要な力を、4元力で表せ(4元力F^\muと力f^iの関係に注意)。

denka2.png

次に、これを速さvで-x方向へ運動しながら見る。すると二つの電荷はx方向に速度vで動いているように見える。動く電荷は磁場を発生させるから、磁場による力はこの二つの電荷を回転させるような力のモーメントを与えるが、「止まって見ればつりあっている系が、動きながら見ると回り出す」というようなおかしなことが起こるはずはない。

このパラドックスを解くために、上で計算した4元力のローレンツ変換を考え、電荷を手でささえる力は(電荷が運動している座標系では)逆向きのモーメントを作ることを示せ。

二つのモーメントが消し合うため、動きながら見てもこの系が回り出すことはない。

なお、後でやる電磁場のローレンツ変換を考えると、二つのモーメントがちゃんと消し合う(大きさが同じで逆向き)であることを確認できる。

7章、8章の章末演習問題の中から1問を選んで前野の部屋の黒板で発表すること(〆切は8月11日・厳守)。前回の宿題と合わせた結果で成績を出します。

学生の感想・コメントから

今回は最後なので「授業評価アンケート」というのをやらなくてはいけなくて、いつもの授業感想はあまり書いてくれていない。

位置エネルギーの差によっても質量変わりますか?

もちろん、変わりますよ。

電磁場が4次元量であることがよくわかりました。

電場・磁場と分けて考えているとなかなかわからないことですが、こうやってまとめてみると明白になります。

E=mc^2はエネルギーが質量に変換できるという式ではない」と言ってましたがどういう意味ですか?

「変換できる」と言われると、エネルギーを消して質量を出したり、質量を消してエネルギーを出したりできそうですが、E=mc^2というのはそういう意味ではありません。「エネルギーがあれば質量もある」「質量があればエネルギーもある」というふうに、両方が同時に存在している、いやむしろ、質量とエネルギーは同じ物に違う名前がついているだけだ、という意味の式です。

テンソルにするとまとまっていい。

テンソルにする利点はまとまっていいということも大きいですがローレンツ変換するとどうなるかが一発でわかる、というのがとても大事です。

以下は、この授業全体に関する感想。

先生優しいです。おちゃめだと思います。ありがとうございました。

お、「おちゃめ」??? そんなこと言われたのは初めてだな。

電磁気とのマックスウェル方程式とのつながりがあってわかりやすい授業だった。テンソルの説明もくわしくてよかった。

この「相対論」の授業は「電磁気学I・II」の続きというつもりでやってみました。相対論は電磁気と結びつけてこそ意味があります。

予備知識が不十分なのでわかりにくかった。

電磁気との関連を第一に考えたので、電磁気がわかってないとわかりにくい面もあったかもしれません。一度頭を整理して考え直してみるといいかもしれません。

先生の作ったプリントや説明や、学生にさせる発表など、全て授業内容を理解するのに役立ちます。

ありがとうございます。いろいろと活用して理解していってください。


*1 実際のところ、この計算はなかなかたいへんで、ローレンツやポアンカレもかなり苦労している。このあたりの話は、ファインマン物理学の4巻「電磁波と物性」などに詳しく書かれている。
*2 実際は、この法則も、「\divが0なら{\rm rot}で書ける」の方も、適切な境界条件のもとでのみ成立する。たいていの場合は適切な境界条件がとられている。
*3 電荷は同種が反発するのに電流は同方向が引きつけ合うのは、位置エネルギーの符号の違いだが、その違いはローレンツ内積j_\mu A^\mu=-j^0 A^0 +j^i A^iの符号から来ている。
*4 意味するところは「ものさし変換」である。実は一般相対論と電磁気学を融合させようというワイルの統一理論の中で、物体の長さを変換するものだったのである。今ではそういう意味はなくなってしまったのだが、名前だけが残っている。
*5 このローレンス(Lorenz)さんは、ローレンツ力のローレンツ(Lorentz)さんとは別人なのであるが、非常によく混同され、「ローレンツゲージ」とか「Lorentzゲージ」と書いてある本がたくさんある。ややこしいことに、ローレンスゲージはローレンツ不変なゲージなのである。
*6 この効果をアハロノフ・ボーム効果と言い、実際に実験で確認したのは日本の外村彰氏である。その詳細は量子力学を知らないとわからないので、ここでは触れない。

添付ファイル: filechijimu.png 346件 [詳細] filevecpot.png 372件 [詳細] filedenka2.png 376件 [詳細] filedivrot.png 378件 [詳細] fileF123.png 361件 [詳細] fileF012.png 356件 [詳細] filemigineji.png 362件 [詳細]

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Last-modified: 2024-01-12 (金) 19:41:39