さて、(クーロンの法則)の式は力の大きさの式になっている。向きも含めてちゃんと表すにはベクトルで表現する。たとえば電荷Qが位置ベクトル$\vec x_Q$の場所に、電荷qが位置ベクトル$\vec x_q$の場所にあるならば、qのある位置からQのある位置へと向かうベクトルは$\vec x_Q-\vec x_q$と書ける*1。Qに働く力はこのベクトルの方向を向いている。そこで、この力を、
$$ \vec F_{q\to Q}= {Qq\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_Q-\vec x_q|^3}\left(\vec x_Q-\vec x_q\right)= {Qq\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_Q-\vec x_q|^2}\vec e_{q\to Q}$$
と書くことができる。この式の真ん中の表現では、分母が$(距離)^3$となっていて「おや?」と思うかもしれないが、後ろにかかっている$\vec x_Q-\vec x_q$が距離に比例する量なので、力が&ath((距離)^2);に反比例するという関係は同じである。
(ベクトルで書いたクーロンの法則)に出てくる$ \vec e_{q\to Q}$は、$ \vec e_{q\to Q}= {1\over |\vec x_Q-\vec x_q|}\left(\vec x_Q-\vec x_q\right)$ と定義されたベクトルで、$\vec x_Q-\vec x_q$をその長さ$|\vec x_Q-\vec x_q|$で割っているので長さ1となる*2。長さ1のベクトルを単位ベクトルと呼ぶ。つまり、$\vec e_{q\to Q}$は「qからQに向かう方向を向いた単位ベクトル」である。(ベクトルで書いたクーロンの法則)の一番右のように(長さ)×(単位ベクトル)の形で書いておくとベクトルの長さが分かりやすくなる。
記号$\vec F_{q\to Q}$は「電荷qが電荷Qに及ぼす力」である。逆に「電荷Qが電荷qに及ぼす力」$\vec F_{Q\to q}$は、 $$ \vec F_{Q\to q}= {qQ\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_q-\vec x_Q|^3}\left(\vec x_q-\vec x_Q\right)= {qQ\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_q-\vec x_Q|^2}\vec e_{Q\to q}$$ のように、(ベクトルで書いたクーロンの法則)のQとqの立場を入れ替えたものになる。
ちょうど$\vec F_{q\to Q}=-\vec F_{Q \to q}$である。すなわち、クーロンの法則はニュートン力学の作用反作用の法則にのっとっている*3。ベクトルで表現するとこのようなこともわかりやすい。
ここで、qを原点に置く(つまり$\vec x_q=\vec 0$)。そしてQのいる場所を極座標$(r,\theta,\phi)$で表すことにすると、 $$ \vec x_Q-\vec x_q=r\vec e_r$$ と書き直せる。ただし、$\vec e_r$は、場所$(r,\theta,\phi)$で、原点から離れる方向(r方向)を向いている単位ベクトルである*4。同様に、$\vec e_\theta,\vec e_\phi$も、それぞれθ方向、φ方向を向いた単位ベクトルとして定義されている。このような極座標における座標方向の単位ベクトルは、電磁気に限らず極座標を使う時には有用なので、覚えておくとよい*5。
この場合ならば、$|\vec x_Q-\vec x_q|=r$なので、 $$ \vec F_{原点にいるq\to Q}= {Qq\over 4\pi \varepsilon_0 r^3} r\vec e_r= {Qq\over 4\pi\varepsilon_0r^2} \vec e_r$$ と書けることになる。
右の図に書いたように、ベクトルで書いた式では、同符号($Qq>0$)なら斥力、異符号(Qq<0)なら引力ということもちゃんと表現された式になっている。一方の電荷を原点とした時位置ベクトルと力のベクトルが同じ方向を向く時が斥力、逆を向く時が引力である。
前の小節の「クーロンの法則」は実験的に得られた式として認めよう。もう一つ、実験的に得られている関係として認めねばならないのは重ね合わせの原理である。すなわち、複数個の電荷$Q_i(i=1,2,\cdots,N)$が存在する時、もう一個の別の電荷qに働く力は、各々の$Q_i$によって及ぼされる力のベクトル和となる。
これを「二つの力が合成されているのだから当たり前ではないか」と考えてはいけない。上の図に書かれた「Aによる力」は、「Bが存在しなかったとした時、Aから働く力」であり、「Bによる力」は「Aが存在しなかったとした時、Bから働く力」である。この重ね合わせの原理は、二つの電荷AとBが両方存在していたとしても、それぞれによるクーロン力が互いとは独立な形で作用することを示している(これは実験なしに認めていいほど「あたりまえ」のことではないのだ)。
つまり、Aによるクーロン力は、Bが存在していることによって乱されることもなく、Aのみがあった時と同じだけの力を及ぼすということである*6。AとBの両方が存在する時に働く力が、この二つの単純なベクトル和になるということは、そんなに自明なことではないのである。なお、物理のいろんなところでこの重ね合わせの原理は顔を出すが、それはそのような現象の基礎となる方程式が線型であること(つまり、1次式で書かれていること)に由来している。物理の多くの方程式は幸いなことに線型である。方程式の線型性と重ね合わせの原理の関係については、後で「電場を決定する方程式」を出した時にもう一度確認しよう。
より一般的に重ね合わせの原理を表現しておく。今電気量qの電荷が一つ(位置ベクトル$\vec x_q$の位置に)あるとする。その回りに、電気量が各々$Q_1,Q_2,\cdots,Q_N$であるような電荷が、各々の位置ベクトルが$\vec x_{Q_1},\vec x_{Q_2},\cdots,\vec x_{Q_N}$である位置に配置されているとする。
この時、電気量qの電荷が受ける力は、 $$\begin{array}{rl} \vec F_q=\sum_{i=1}^N\vec F_{Q_i\to q}& =\sum_{i=1}^N{Q_iq\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_q-\vec x_{Q_i}|^3}\left(\vec x_q-\vec x_{Q_i}\right)\\& =\sum_{i=1}^N{Q_iq\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_q-\vec x_{Q_i}|^2}\vec e_{Q_i\to q}\end{array}$$ と表すことができる。もちろんこの和はベクトルの和として取られていることに注意。
前節では「電荷と電荷の間に働く力」としてクーロン力を説明した。ファラデーは、電気的な力は電荷と電荷の間に直接働く(「遠隔作用」)のではなく、電荷は周囲の空間に電場を作り、その電場によって他の電荷が力を受けるという「近接作用」の考え方を導入した。
電場*7の強さと向きは以下のように定義する。
ある場所に試験電荷qを置いたと仮定すると、その電荷に力$\vec F$が働くとする。この時、その場所には$\vec E={\vec F\over q}$の電場が生じている。
別の言い方をすれば、「電場とは、その場所に単位電荷を置いた時にその電荷が受ける力である」としてもよい。実際には、そこに電荷を置くことによって回りの状況は変化する(たとえば置かれた電荷に引かれたり反発したりして他の電荷の位置が変わる)のが普通なので、この単位電荷はあくまで仮想的に置かれるものである。そこで「試験電荷」という言い方をしている。
クーロンの法則によれば、場所$\vec x$にいる電荷qが、場所$\vec x'$にいる電荷 q'に及ぼす力は${qq'\over4\pi\varepsilon_0|\vec x-\vec x'|^2}\vec e_{x\to x'}$であるから、場所$\vec x'$における電場は(この場合試験電荷にあたるものはq'であるから) $$\vec E(\vec x')={\vec F_{q\to q'}\over q'}= {q\over4\pi\varepsilon_0|\vec x-\vec x'|^2}\vec e_{x\to x'}$$ となる。
以上のようにして電場を定義しても、電場を定義せずにクーロンの法則のみを使った場合に比べて、物理的内容には対して違いがないように思えるかもしれない。電荷と電荷の間に直接力が働いても、電荷が電場をつくり、電場が電荷に力を与えても、結局のところ「電荷と電荷の間に引力や斥力が働く」という点は同じである。しかし、全く同等と思えるのはこれが静電場すなわち時間的に定常な電場を扱っているからであって、変動する電磁場を考えたりするとそうはいかなくなる。とにかくこの時点で把握して欲しいのは「電場というものを導入することには、単なる数学的置き換えではない深い意味があるのだ」ということである。また、定常な電場に限って考えた場合でも、電場という概念はとても便利である。それは以降の話で理解していって欲しい。
クーロン力に重ね合わせの原理が成立するので、クーロン力を単位電荷あたりに直した電場にも当然、重ね合わせの原理は成立する。
電場というものを視覚的に表す手段として、電気力線というものを定義しよう*8。
電気力線とは「各点各点で電場の方向を向いている線」である。ある点から出発して電場の方向へ方向へと線を伸ばしていくことで、空間を埋め尽くすように電気力線を引くことができる。
この性質からわかるように、電気力線は正電荷からは離れる方向に、負電荷へと向かう方向に伸びていくことになる。ゆえに、電気力線は正電荷で始まり、負電荷で終わる。あるいは、負電荷に出会うことなく無限遠まで伸びていく電気力線もあるし、逆に正電荷から出たわけでもなく無限遠からやってくる電気力線もある。左の図は正電荷が一個ある場合の電気力線で、正電荷から放射状に無限遠に向かって伸びていく*9。
これで電気力線は電場の方向を示すことができる。では電場の強さはどのようにして表現するかというと、電気力線の密度が電場の強さになる。
たとえば、電気量Qの正電荷が一個だけある時、距離r離れたところでは電場の強さは${Q\over4\pi\varepsilon_0 r^2 }$であるから、この場所には1m${}^2$ あたりに、${Q\over4\pi\varepsilon_0 r^2 }$本の電気力線を引くことになる。電荷から距離r離れた所、と言う条件を満たす場所は半径rの球の表面であるから、面積は$4\pi r^2$である。
ゆえに、引くべき電気力線の本数は${Q\over4\pi\varepsilon_0 r^2 }\times 4\pi r^2={Q\over \varepsilon_0}$となる*10。この電気力線の総本数が距離rによらないことに注意しよう。図に描いているように、電気力線は途中で増えたり減ったりせずに伸び続けていくことになるわけである。
以上から、電気力線はQ[C]の電荷から${Q\over \varepsilon_0}$本出ることになる。ちなみに、${1\over\varepsilon_0}\simeq 1.13\times 10^{11}$であるから、1Cからは約1130億本出ることになる。実際に図に描くときには見やすい程度に適当に本数を調節して描くことになる*11。
「電気力線の密度が電場の強さ」という点をより正確に述べておく。電気力線に対して垂直な仮想的な面を考える。この面を貫いていく電気力線の本数を数え、この面の面積で割る。すると電場の強さとなる。単純に「本数÷面積」とやったのでは電場とは一致しない。逆に電気力線の本数は「電場の強さ×面積」で計算できることになるが、右の図のように、電気力線に対して斜めになっているような面積を考えた時、電気力線の本数は「電場の強さ×面積×$\cos\theta$」となる。θは面の法線ベクトル(図の$\vec n$)と電場$\vec E$のなす角である。あるいは、「電気力線の本数は$\vec E\cdot \vec n S$である」と、内積を使って表現することもできる。さらには、$\vec n S$をまとめて$\vec S$という「面積ベクトル」として書いて、$\vec E\cdot \vec S$とする場合もある。面積ベクトルはその大きさが考えている面積であり、向きはその面積の法線方向となる*12。
点電荷のつくる電場が${1\over r^2}$に比例していたことは大きな意味がある。こうでなくては、「電気力線は枝分かれも合流もしない」という法則が成立しない。左の図を見るとわかるように、電気力線の本数を数えると、どんな半径rの場所で考えたとしても、トータルの電気力線の本数は${Q\over 4\pi\varepsilon_0 r^2}\times 4\pi r^2={Q\over \varepsilon_0}$となる。ここで、球面の上では常に球面の法線ベクトルと電場が平行であることに注意しよう。だから上で考えた$\cos\theta$は必要ない。答えは場所によらない。つまり、トータルの電気力線の本数はどこで計算しても同じ。すなわち電気力線が途中で枝分かれして増えたり、合流して減ってしまったり、ということはあり得ないことがわかる。
さらにもう一つ大事な法則として「電気力線は交差しない」ということもある。もし交差していたとしたら、その場所には二つの電場があることになり、定義に矛盾する。
以上から、電気力線の定義ならびに性質を以下のようにまとめることができる。
なお、電気力線は矢印で表現されるものの、何かが物理的に移動している跡を示すものではないので、「正電荷はずっと電気力線を出し続けていますが、いつかなくなってしまったりしないのですか?」と心配する必要はない*13。
正電荷と負電荷が引き合っている時、正電荷と正電荷が反発しあっている時の電気力線の様子を描いて、静電気力を観察すると、電気力線には以下に示すような性質があることがわかる。
電気力線がなるべく短くなろうとする、ということは正電荷と負電荷の引力を考えるとわかりやすい。また、電気力線の混雑を嫌う性質のおかげで正電荷と正電荷、負電荷と負電荷に斥力が働く*14。
この性質は、磁場のところで出てくる磁力線と共通の性質であるという点でも重要である。N極とS極が互いに引き合うのは、N→Sへと向かう磁力線の長さを少しでも短くしようとするからであるし、磁石のN極とN極を接触させようとすると、それにあらがう斥力を感じるのは、磁力線の混雑を嫌う性質の顕れなのである。
後で出てくる「静電場の位置エネルギー」を使って考えると、この性質は「自然は位置エネルギーの低い方向へ行こうとする」という一般的な法則による結果であることもわかる。これについては後で述べよう。とにかく、クーロン力という現象は電気力線(すなわち、電場)の性質を考えることで統一的にとらえることができる、ということを理解しておこう。つまり、クーロン力が本質なのではなく、電場が本質なのである。
ここでちょっと先走って、「これは電場にもエネルギーがあるということを意味している」という説明をした。正電荷と負電荷の引力に逆らってこの二つを引きはがすことは、エキスパンダーをひっぱってばねに張力の位置エネルギー${1\over2}kx^2$を蓄えることに対応するし、逆に斥力で反発する二つの正電荷を「えいやっ」と近づけることは、ばねを自然長より縮めてエネルギーを蓄えることに対応する。つまり、電場というものは伸びようとしたり縮もうとしたり、エネルギーを蓄えたりするという意味で立派な「実体」のあるものである。真空といえどもそこに電場があるということはエネルギーを蓄えられる実体があるということなのである。
ここまでは電荷が点状である場合のみを考えてきたが、以下ではいくつかの例を述べて、広がった電荷分布によって作られる電場を計算する方法を示そう。後でもう少し楽に計算できる方法をいくつか示すことになるが、だからこの節は無駄かというと、そんなことはない。ここで使われる手法は物理のいろんなところで使われていて、それを知っておく意味は大きい。
ここで、電場に関しても重ね合わせの原理が使えるということに注意しよう。そのおかげで、点状ではなく、広い範囲に分布している電荷によって働く力を計算することができるのである。
例題として、有限の長さの線上に均等に分布した電荷によって、その線から距離d離れたところにいる電荷Qに働く力を計算してみよう。
まず問題をちゃんと設定しよう。直交座標系(x,y,z)を用意し、z軸に重なるように(半径が無視できるほど細い)円柱状の棒をおく。その棒に単位長さあたりρ の電荷を与える((この後「単位長さあたり」とか「単位面積あたり」「単位体積あたり」という言葉を頻繁に使うであろう。意味がつかみにくい、という人はそれぞれ「1mあたり」「1m${}^2$あたり」「1m${}^3$あたり」と読み替えて考えればよい。もし長さの単位がmでなくcmだったりヤードだったり尺だったりする時は、もちろんそれに応じて取り替える。}。つまり、棒のうち微小長さdzの部分が電荷ρdzを持つようにする。棒はz=-Lからz=Lまで(つまり長さ2Lの範囲)に分布しているものとする。
z=0平面上でz軸から$r=\sqrt{x^2+y^2}$はなれた場所の電場の強さはいくらだろう?---言い換えれば、この場所に試験的に単位電荷を置くと、単位電荷が棒の上の正電荷から受ける力の大きさはどれだけになるだろう??---このような計算を行うには、以下のような物理の常套手段を使う。
Step 1. 広い範囲に広がっているものを微小な区間に分ける。
Step 2. 微小な区間による影響を考える。微小な区間なので、この計算はまるでその微小区間が点であるかのごとく計算してもいい。
Step 3. 全微小区間にわたって影響を足し上げる。
このような3つのStepを実行した結果が正しい答えになるためには(つまり微小部分の電荷による電場の足し上げが全電荷による電場になるためには)、重ね合わせの原理が成立しなくてはいけないことは言うまでもない。
まずおおざっぱに予想しておくと、当然この単位電荷は棒から(z軸から)離れる方向の力を受けるだろう。
(Step 1.) すでに述べたように、長さdzの微小部分は$\rho dz$の電荷を持つ。
(Step 2.) 試験電荷のいる位置を(x,0,0)としよう。 (0,0,z)から(0,0,z+dz)までの間にいる電荷$\rho dz$が作る電場の大きさは、 $$ {\rho dz\over 4\pi \varepsilon_0 (x^2+z^2)}$$ である。ただし、この電場は予想される方向である真横ではなく、斜めを向いている。これはこの力が「微小断片による力」だからで、全ての微小断片による力を足し算すれば、z方向の成分は消し合ってなくなるはずである。まじめに計算するならばこれをz方向とx方向にわけて考えて別個に足し算すべきだが、最初の予想によれば、z方向は足し算すると0になる。そこで、どうせなくなる部分を計算するのはやめにして、x方向だけを考えよう。三角形の相似により、 $$ {\rho dz\over 4\pi \varepsilon_0 (x^2+z^2)}\times{x\over \sqrt{x^2+z^2}}= {\rho x dz\over 4\pi \varepsilon_0 (x^2+z^2)^{3/2}}$$ が断片による電場のx成分である。
(Step 3.) 断片による電場を足す。足すと言うことはすなわち、zに関して(-L,L)で積分するということ。
結局、$\int_{-L}^L {Q\rho x \over 4\pi \varepsilon_0 (x^2+z^2)^{3/2}}dz$という積分をしなくてはいけないのだが、この積分は$z=x\tan\theta$とおくことで簡単に計算できる形になる。θの意味は図にある通りである。z=Lになる時は$\tan\theta={z\over x}$になる時であるから、そうなる角度をαとおくと、 $$\int_{-\alpha}^{\alpha} {\rho x \over 4\pi \varepsilon_0 (x^2(1+\tan^2\theta))^{3/2}}{x\over \cos^2\theta} d\theta$$
もし、この直線が無限に長いのならば、$\alpha={\pi\over2}$となるので、電場は$E={\rho \over 2\pi \varepsilon_0 x}$となる。実はこの場合には、後で出てくるガウスの法則を使う方が簡単に答が出るのである。この事は後で確認しよう。
↑を書いておいたが話さなかったので、
Lが∞だとどうなるんですか?
という質問が出た。Lが∞の場合は↓のように、クーロンの法則に近づくことはない。無限に多い電荷を相手にしていることになるからである。
なお、この棒に含まれている全電荷量Qは密度ρに長さ2Lをかけたものであるから、この電場は $$ {Q \over 4\pi \varepsilon_0 xL}\sin\alpha= {Q \over 4\pi \varepsilon_0 x^2}\times {x\over L}\sin\alpha$$ と書くこともできる。 $\sin\alpha={L\over R}$であることを考えると、${x\over L}\sin\alpha={x\over R}$であり、これは1より小さい。つまりこの時の電場は、棒の中心に電荷Qが全部集まったとした場合の答えである${Q \over 4\pi \varepsilon_0 x^2}$よりも弱くなる。弱くなってしまったのは、z成分の電場が消し合ってしまったことと、電荷の大部分がxより遠い距離にいることが原因だと考えてよい。
電場がエネルギーを持つことを始めて知りました。今までは電場は空気みたいなものと思っていたけど、今日やっとイメージ的にわかることができてうれしいです。
電場に物理的実体のあるイメージを見ることができると、電磁気学というのもより理解できるようになると思います。そのイメージを大事にしてください。
最後の計算はちょっと難しかった(多数)
うーん、少しはしょりすぎたかな。やっている計算自体はそんなに面倒じゃないので、自分でもう一度見てみてください。電磁気学ではこういう計算はつきものです(まぁ、その分昔から計算方法は考えられていて、いろいろと楽をして計算する手法があるので、そのあたりは今後少しずつ教えていきます)。
ガウスの法則に入る時は、この法則発見までのヒストリーをきかせてもらえたらうれしいです。
むむっ。それはたいへんなリクエストだなぁ。できる限りやるようにします。
最後の積分でLを∞に持って行く時は広義積分を使うのですか?
「広義積分」って何だっけ?? 難しいことを言わなくても、θ積分に書き直してしまえば普通に積分できるから、心配は要りませんよ。
微積分も重要なんだな、と思いました。
そもそも微積分はニュートンが力学を作るために「発明」したものなので、物理ではどの分野でもとても重要です。
有限の長さの棒を横にすると、点電荷の場合と同じになりますか?
その場合、棒の片方の電荷は近づき、反対側の電荷は遠ざかります。逆自乗則にしたがっているので、近づいた部分の電場の強くなり具合と遠ざかった電荷による電場の弱くなり具合を比べると、
近づいた部分の電場の強くなり具合>遠ざかった電荷による電場の弱くなり具合
となりそうです。${1\over r^2}$のグラフを思い浮かべてみてください。というわけで、今度は点電荷の場合よりも強くなるでしょう。
棒じゃなくて平面だったらどうするのでしょう?
それは来週やります。
等しい正電荷のど真ん中にいると力が働かないみたいですが、その場所に浮くのですか?(同様の質問他にもあり)
確かにその場合力が働かないんですが、真ん中の電荷の位置がちょっとでも上か下にずれると、どんどん離れていってしまいます。
だから、そーっと置けばそのままですが、ちょっとでも(風が吹いただけでも)、その場所から離れていってしまいます。
電場のエネルギーって何ですか?
「何」って言われても困るなぁ。どんなものでも、「外部から仕事をされるとその分だけたまり、逆に外部に仕事をするとその分だけ減る」ような量が定義できれば、それはエネルギーなのです。
最後の問題は、たまっている電荷の種類が+−混じってても考えることができますか?
その場合は、電荷密度ρが場所によって変化する(つまり、ρ(z)のように)と考えて解きます。
最後の問題の解き方はこういう問題でないと使えないんですか?
うーん、「こういう問題」ってのがどういう範囲なのかよくわからないから答えにくいけど、ここでやった方法はかなり一般的に「使える」方法です。
物理作用はエネルギーを下げる方向に力を受ける、と聞いてなるほどと思った。
エネルギーというのはそうなるように定義された言葉なんですよ。
正電荷と負電荷が近づく時、電気力線が
いえ、もし他の力がなければ、つりあいには達せず、どんどん近づきます。エネルギーで考えると、正電荷と負電荷の距離が0になってしまうと電気力線は一本も出ないんですよ。それがエネルギー最低の状態なので、ほっておけばそこまで状態変化します。
電荷が「いる」と言ってましたが、「ある」じゃないんですか?
厳密にはそうですね。電荷は生き物じゃないから(^_^;)。ただ、擬人化した方が親しみやすいかな、と思ってこんな言葉遣いをしてます。
いよいよ物理らしい計算が出てきましたが、その時今日のように、「z成分は消える」という予想が立てられるようになりたいと思った。そのためには数をこなさないといけないので、軽めの例題を毎回出してくれると燃えます。
なるべく例題は出すようにしますが、燃え続ける為には(^_^;)、自分で問題集を買ってやってみるといいですよ。
電場はエネルギーが低くなる方向へと力を出すと言ってましたが、これは宇宙の膨張と関係ありますか?
面白い考えですが、残念ながら直接はないと思います。エネルギーが低くなる方向へ力が出るのはエネルギーの定義のようなものです。
最後、棒を∞に伸ばす話がありましたが、何か意味があるんですか?
それは来週辺りに話します。
前に読んだ本の中に「本質的なものは場であり、物質もある種の場と考えるべきである」と読める記述がありましたが、これは正しいのでしょうか?
正しいです。量子力学を習って、さらにその先で「場の理論」というものを勉強すると、物質が全部場で表現されることがわかります。
電気力線は現実には存在しないのに、力学的性質があったりして本当に存在しているかのようでした。一体存在するということの定義は何なのか、と哲学的なことを考えてしまいました。
「存在する」の定義を「外界からの刺激に反応して何かの作用を返す」ということだとすれば、少なくとも電場は「存在」してますね。電気力線はその電場をどう表現するかというツールだと思います。
正電荷Qから電気力線が${Q\over\varepsilon_0}$出るというのは、ガウスの法則ですか?
今日やったのは点電荷の場合で考えたわけですが、電荷がどんな分布でもそうなるよ、ということまで含めるとガウスの法則になります。もっとも、エッセンスは今日の「電気力線は途切れない」ということにつきています。
${Qq\over4\pi \varepsilon_0 |\vec x_Q-\vec x_q|^2}\vec e_{q\to Q}$の式の中に斥力、引力の区別まで入っているという話には感動しました。
この式をもっとうまく使うような問題を入れておけばよかったかなぁ、と今ちょっと反省してます。
電気力線は目に見えないのに、どうやって本数を数えたんですか?
数えたわけじゃなくて「これを電気力線何本としましょう」と定義したわけです。実際に線があるわけじゃないので、取り決めとして「これで何本とする」と考えたわけです。もしほんとうに1本2本と数えられるんだとすると、「電気力線と電気力線の隙間には電場はないの?」ということになってしまいますが、実際には電場はすきまなくあります。
電気力線はどのように生成されまたどのように消滅するのでしょうか?
電荷が作られた時にワンセットで一緒に生成されると思ってください。消滅するのは電荷が消える時です。電荷は保存するので、消える時は+電荷と−電荷が出会って合体する時です。その時、互いの出していた電気力線がどんどん短くなって消えてしまうわけです。できる時も、電荷0の状態から+電荷と−電荷ができる、というふうにできるので、この二つの電荷が引きはがされる時に電気力線が生まれていきます。
電気力線は交差しないという話でしたが、今日出てきた図の
を見ると交差しているようにも見える。
これは図の赤矢印だけが本物の電場で、青矢印はそれを分解して作ったものです。実際にこの場所にある電場は赤矢印だけなので、電気力線もそっちの方向にだけ、伸びます。