まず、先週見せられなかった直線電流にビオ・サバールの法則を使う計算のイメージを見せたの後、円電流の作る磁場をビオサバールの法則で求める計算のイメージを見せるプログラムを見せてだいたいの感じをつかんだ。直線電流の場合、磁場の強さは距離に反比例する。ビオ・サバールの法則では距離の自乗に反比例するとしているので妙に感じるかもしれないが、これは積分するおかげである。ところで円電流の場合はどれくらいになるだろうか??? ここで予想をしてみたが、反比例、自乗に反比例、三乗に反比例と意見が分かれた。実は三乗に反比例なのだが、さてその理由は・・・・(というところについては先のお楽しみ)。

2.1.3 アンペールの法則との関係

では、今導出したビオ・サバールの法則の式は、{\rm rot}\vec H=\vec j_{}と等価であろうか。それを次で確認しよう。

ビオ・サバールの法則の両辺の{\rm rot}を取る。

\begin{array}{rl}{\rm rot} \vec B_{}=&\vec\nabla\times \int d^3 \vec x' {\mu_0 \vec j_{}(\vec x')\times \vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over 4\pi|\vec x-\vec x'|^2}\\\end{array}

ベクトル解析の公式\vec A\times (\vec B\times \vec C)=\vec B(\vec A\cdot\vec C)-\vec C(\vec A\cdot\vec B)をちょっと順番を変えて\vec A\times (\vec B\times \vec C)=\vec B(\vec A\cdot\vec C)-(\vec B\cdot\vec A)\vec Cにしてから使うと、

\begin{array}{rl}&\underbrace{\vec\nabla_{\vec A}}\times\biggl(\underbrace{\vec j}

と計算できる。ここで気をつけてやらないと失敗するポイントは、\vec \nablaは単なるベクトルではなく微分記号であり、「何を微分するのか」を忘れてはならないという点である。ここで出てきた\vec\nabla\vec xによる微分である*1;であり、\vec\nabla=\left({\partial\over \partial x)),{\partial\over \partial y},{\partial \over \partial z}\right)。}。それゆえ、\vec\nabla\vec j_{}(\vec x')は微分しない(\vec xの関数じゃないのだから)。微分されるのは{\left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over |\vec x-\vec x'|^2}\right)}の中の\vec xである。そのため、\vec A\left(\vec\nabla\right)\vec C\left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over 4\pi|\vec x - \vec x'|^2}\right)の順番は変えてはいけない。一方、\vec A\left(\vec\nabla\right)\vec B\left(\vec j_{}(\vec x')\right)の順番は(\vec B\vec Cの順番も)変えてもいいので、上の式では公式とは並び方を変えている。

一般的に、\vec \nablaを含むベクトルに対して公式を適用する時は、「この\vec \nablaは何を微分するのか」ということを明確に考えておかないと計算を間違う可能性がある。今の場合\vec Bが微分されなかったので計算が以上で済んだが、もし\vec B\vec Cも両方が微分されるのであれば、

\vec\nabla\times(\vec B\times \vec C)=\vec B\left(\vec\nabla\cdot\vec C\right)+\left(\vec C\cdot\vec\nabla\right)\vec B-\left(\vec B\cdot\vec \nabla\right)\vec C-\vec C\left(\vec\nabla\cdot\vec B\right)

のように、それぞれの微分を両方考える必要がある。

以上に注意しつつこの公式を使うと、

\begin{array}{rl}{\rm rot} \vec B_{}=&\mu_0 \int d^3 \vec x' \left(\vec j_{}(\vec x')\vec\nabla\cdot\left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x\over 4\pi|\vec x - \vec x'|^2}\right)}-\vec j(\vec x')\cdot\vec\nabla\left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x\over 4\pi|\vec x - \vec x'|^2}\right)}\right)\end{array}
(rotBの式)

である。ここで括弧内の第二項に対応する式が0になることを示そう。

見てわかることが、この式が\vec j\cdot \vec\nablaという並びでなく、\vec\nabla\cdot\vec jという並びなら0になることである。従ってこの式をそうなるように書き換えていく。そのためには物理屋がよく使う「こそくなテクニック」を使う。

\vec \nablaが微分している相手は{\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over 4\pi|\vec x - \vec x'|^2}という、\vec x-\vec x'という差にのみ依存する関数である。これをxで微分した結果は、-x'で微分した結果と同じになる。ゆえに、\vec \nabla\to -\vec \nabla'と置き換えると、

-\mu_0 \int d^3 \vec x' \vec j_{}(\vec x')\cdot\vec\nabla\left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over 4\pi|\vec x - \vec x'|^2}\right)=\mu_0 \int d^3 \vec x' \vec j_{}(\vec x')\cdot\vec\nabla'\left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over 4\pi|\vec x - \vec x'|^2}\right)

となる(\vec\nabla'\vec x'による微分)。こうしておいて部分積分を使うと、

\mu_0\int d^3 \vec x' \vec j_{}(\vec x')\cdot\vec\nabla' \left({\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\over 4\pi|\vec x-\vec x'|^2}\right)=-\mu_0\int d^3 \vec x' \left(\vec\nabla'\cdot\vec j_{}(\vec x')\right) {\vec {\bf e}_{\vec x'\to \vec x}\over 4\pi|\vec x-\vec x'|^2}

と書き直すことができる(表面項は、積分範囲の端では\vec j_{}が0になっていると仮定して落とした)。

ところが、\vec\nabla'\cdot\vec j_{}(\vec x')={\rm div}\vec j_{}(\vec x')=0である。 なぜなら今考えているのは定常状態であり、ある領域に流れ込んで来た電荷は同じだけ流れださなくてはいけない。そうでないとその領域内の電気量が変化してしまうのである(それでは定常状態にならない!)。つまり、電流密度は湧き出しも吸い込みもなく、divergenceが0になる。よって、(rotBの式)の括弧内第二項は0となる*2

括弧内第一項には\vec\nabla\cdot\left({1\over 4\pi|\vec x-\vec x'|^2}\vec {\bf e}_{\vec x'\to\vec x}\right)}が登場する。これはデルタ関数と呼ばれる関数の一例であることはすでに示した。ゆえに、

{\rm rot} \vec B_{}(\vec x)=\mu_0 \int d^3\vec x'\vec j_{}(\vec x')\delta^3(\vec x-\vec x')=\mu_0 \vec j_{}(\vec x)

となる。真空中なので\vec B_{}=\mu_0\vec H_{}であることを思えば、これはアンペールの法則{\rm rot}\vec H_{}=\vec j_{}に他ならない。

以上から、ビオ・サバールの法則は、{\rm rot} \vec H=\vec j_{}の逆の計算に対応していることになる。

2.1.4 線積分で書いたビオ・サバールの法則

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さて、電流密度が与えられている時の式は以上の通りだが、実際には電流密度ではなく電流Iと、その電流がどの場所を通っているかという線(導線の位置)が与えられてている場合が多い。太さの無視できる細い導線に電流Iが流れているとする(このIは定数である。分岐する電流は考えないので、導線上では一定)。その時は電流密度は導線のある場所でのみ0ではないので、空間積分は導線のある場所のみの線積分でよいことになる。

電流がx方向を向いている時であれば、

\int dx \int dy \int dz~~ j_x \vec {\bf e}_x\times(\cdots)

という計算をしなくてはいけないわけだが、\int dy \int dz j_xでちょうど「電流密度×電流に垂直な面積」になっているから、この積分で電流Iが出る。この時、電流は充分細い導線内を流れていて、y,zの変化による影響は現れないものとしよう(そう考えてはいけない状況であれば、まじめに体積積分するしかない)。

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つまり積分は

n\int dx ~~I \vec {\bf e}_x\times(\cdots)

に変わるわけである。今は電流がx方向を向いているという特殊な状況を考えたのでdx積分だけが残る結果となったが、電流が一般の方向を向いているならば答は3つの成分を持つことになる。つまり、電流のx成分に比例する部分はdxで積分し、y成分、z成分に対応する部分はそれぞれdy,dz積分することになる。ようは、

\int \left(Idx\vec {\bf e}_x+Idy\vec {\bf e}_y+Idz\vec {\bf e}_z\right)\times(\cdots)

という計算をしなさい、ということである。この積分の置き換え(\int \int \int d^3\vec x\vec j_{} \to I \int d\vec x)は今後もよく使われる。

結果をまとめると、

\int dx \int dy \int dz ~\vec j_{} \times(\cdots)\to  I\int d\vec x\times(\cdots)

と積分が書き換わる。d\vec xは(dx,dy,dz)という成分を持つベクトル(d\vec x=dx\vec {\bf e}_x+dy\vec {\bf e}_y+z\vec {\bf e}_z)である。

\int d\vec x\times \vec A

のように書くと、この積分結果はベクトルであり、

\begin{array}{l}\left(\int d\vec x\times \vec A \right)_x =\int \left(dy A_z - dz A_y\right),\\\left(\int d\vec x\times \vec A \right)_y =\int \left(dz A_x - dx A_z\right),\\\left(\int d\vec x\times \vec A \right)_z =\int \left(dx A_y - dy A_x\right)\\\end{array}

となる。


ビオ・サバールの法則(線積分形) 電流Iが空間を流れている時、\vec xにおける磁束密度\vec B_{}(\vec x)
\vec B_{}(\vec x)={\mu_0I\over 4\pi} \int {d\vec x'\times (\vec x-\vec x')\over |\vec x-\vec x'|^3}

である。積分は、存在している電流の経路全体について行う(Iが定数なので積分の外に出てしまったことに注意)。



この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。

2.1.5 ビオ・サバールの法則のもう一つの導出

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少しだけ楽な導出方法をもう一つ紹介しておく。ただしこの導出法には「電流と磁場の間に働く力は互いに逆向きで大きさが同じである」という仮定が必要になる*3

今、場所\vec xに磁極mを置く。この磁極は場所\vec x'には

\vec B_{}= m{\vec x'-\vec x\over 4\pi |\vec x'-\vec x|^3}= {m\over 4\pi |\vec x'-\vec x|^2}\vec {\bf e}_{\vec x\to \vec x'}

という磁束密度ができる(磁場に関するクーロンの法則)。

この場所にIという大きさで、d\vec xなる長さと方向を持つ電流素片があったとすると、この素片の受ける力は、\vec F=Id\vec x\times \vec B_{}で計算して、

\vec F=  mI {d\vec x \times (\vec x'-\vec x)\over 4\pi |\vec x'-\vec x|^3}

となる。さて、今計算したのは「磁極が電流に及ぼす力」であるが、これと向きが逆で大きさが同じ力が「電流が磁極に及ぼす力」として働くとする。その力は

\vec F=  -mI {d\vec x \times (\vec x'-\vec x)\over 4\pi |\vec x'-\vec x|^3}=  mI {d\vec x \times (\vec x-\vec x')\over 4\pi |\vec x'-\vec x|^3}

である。これを磁極の大きさmで割れば「電流によって作られる磁場」\vec H_{}が計算できる。結果は上の式と同じである。


この後、円電流の作る磁場をビオサバールの法則で求める計算の説明を行ったが、途中で終わったのでこのページはここまでにしておく。そこで行う計算のイメージを見せるプログラムを見せてだいたいの感じをつかむところまではやった。

学生の感想・コメントから

アニメーションプログラムが素晴らしいと思います。作るのにどれくらい時間がかかりますか?

たくさん作っているので、ある奴を改造しながらだと2時間ぐらいですね。

意味のわからない計算だった。

意味がわからないなら質問しようよ。意味がわからないことを我慢して聞いている必要なんてないんだから。

計算が複雑だった(ってのがまたもや多数)

(またもや同じこと書くけど)こんな程度を「複雑」などと思わないよう、計算練習してください。

d\vec x'が&mimetex(\vec x)と向きが違うという説明がよくわからない。

次回もういっかいやりましょう。でも、そういうのはその場で質問しなきゃだめですよ。

部分積分や∇のつけかえなどで簡単になっていくのが面白かった

計算のテクニックっていろいろあるもんです。

デルタ関数が便利そうだ、ということがやっとわかった。

そうなんです。便利なんです。

部分積分の表面項が消えるところが無限の処で消えているというのが納得いかなかったんですが、それで消えると思うしかないんですか?

他に「宇宙は実は閉じている(つまりx=∞とx=-∞は同じ点である)と考えても表面項は消えますが、それはきっと、もっと納得いかないでしょうね。「無限遠で消える」というのは、今考えている電流がどういう分布をしているか、ということにつながってきますが、物理で普通、無限遠まで伸びていく電流を考えることはあまりありません。

計算で\int d^3\vec x\vec j(\vec x')\delta^3(\vec x-\vec x')=\vec j(\vec x)としていましたが、デルタ関数の定義\int dx f(x)\delta(x-x')とは違う(\delta^3\deltaか)違うのに成立するのですか?---\delta^3(\vec x-\vec x')=\delta(x-x')\delta(y-y')\delta(z-z')と言っていたので、3回積分して1になるのですか?

その通りです。3次元デルタ関数\delta^3は、3回積分して1になります。


*1 正確に書くならば、&mimetex(\vec x=(x,y,z
*2 このように、ビオ・サバールの法則を導出する時に電流の保存則{\rm div}\vec j=0が必要であったことは記憶しておこう。定常状態でない時はこの保存則は{\rm div}\vec j_{}+{\partial\rho\over \partial t}=0と書き換えられるので、その場合の式も変わってくることに注意。
*3 前にも述べたが、これは作用反作用の法則の一部である。単に逆向きではなく「逆向きで一直線上」とすればこれは作用反作用の法則そのものとなる。この仮定はもっともではあるが、実は電流と磁場の間に働く力の式を作る時に必須のものではない。一見作用反作用の法則を満たさないような式の作り方もある。なぜそんなふうに法則の作り方に任意性があるのかというと、次の補足のところにあるように「孤立した電流は存在しない」のに、孤立した電流に対する法則を作ろうとしているからである。

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