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*第0章 はじめに---なぜ相対論が必要なのか? [#z473ac19]

&aname(hajimeni);

&size(12){授業の始めに、この授業でどんなことをやるのか、どうしてそんなことを勉強しなくてはいけないのか、という点について、ざっと述べておく。};

**0.1「相対論的」考え方 [#r6e782c9]

この授業の内容は名前の通り「相対論」である。相対論には特殊相対論と一般相対論があるが、ここで扱うのは特殊相対論の方である。「特殊」とつくから難しいと思ってはいけない。たいてい物理では「一般」とつくものの方が難しい。「一般」なものは解くのが難しいので、問題を「特殊」なものに限って解きやすくするのは、物理の常套手段である。相対論の場合も同様で、特殊相対論の方が圧倒的に簡単である。


「相対論」というのはどのような学問なのか。「相対」の反対は「絶対」である。相対論は「絶対」の否定として生まれた。この場合の絶対とは、ニュートンの言う「絶対空間」「絶対時間」の「絶対」である。ニュートンはニュートン力学を作るとき、宇宙には基準となる座標系が存在していると考えて、それを絶対空間と呼んだ。

ニュートンより少し前に、地球を中心とし、太陽がその回りを回っているという天動説から、太陽を中心とし、地球がその回りを回っているという地動説への変換(コペルニクス的転換と呼ばれる)があった。これは、当時の人が考えていた「絶対静止」の原点が地球から太陽へと移動したことに対応する。今では太陽は銀河系に属し、銀河系は回転しているし、さらに銀河系全体もグレート・アトラクターと呼ばれる大質量天体((グレートアトラクターは、約2億光年向こうにある正体不明の天体で、近くの天体はこの天体に向かって移動しているらしい。))に向かって落下している(らしい?)こともわかっている。もはや絶対静止の原点は太陽ではなく、銀河系ですらない。いやそれよりも、「絶対静止」などというものを考えてはいけない。むしろ、


&size(24){''世の中に「自分は絶対静止している」と主張できるものなどない''};



#ref(densha0.png)


ここで、「宇宙で静止しているものは何かが判定できるか」という問題を考えてみよう。


話を簡単にするため、宇宙には地球とその表面の物体しかなく、地球は自転も公転もしていないとしよう。この孤独な地球の上にあなたが住んでいて、今電車に乗っているとする。電車が加速も減速もせず曲がりもせずにスムースに走っている時、電車の中であなたがする行動(本を読んだりあくびしたり、あるいはすいていればキャッチボールだって)は、家の中での行動と同じように、何の支障もなくできるはずだ((電車が揺れている、などと言うなかれ。それは加速減速のうちだから、今はないとしている。))。この現象を「宇宙が止まっていて、電車が等速運動している」と考えることもできるし、「電車が止まっていて、宇宙全体が逆向きに等速運動している」と考えることもできる。どちらで考えても、電車内で起こる物理現象は同じである。つまり、どっちが静止しているのか、判断する方法はないのである。


#ref(densha.png)

ここでもしかしたら、「''でも電車はモーターで動かしているが、だれも宇宙を動かしてないではないか''」と思う人もいるかもしれない。だがそう思った人は、絶対とか相対とか言う前に、ニュートン力学の理解が足りない。物体が動くのに、力はいらない。物体の運動を変化させる時(加速度がある時)に力が必要なのである。だから宇宙の全てが整然とある方向に等速運動している限り、誰も力を出す必要はない。整然とある方向に等速運動している宇宙の中で、宇宙と同じ速度で動いていた(ということはつまり「駅に停車していた」ということだ)電車が止まる(ということはつまり、「宇宙に対して動き出す」ということだ)ために力が必要なのである。もちろん現実の電車においてはまさつ力という「運動を妨げる力」が存在しているので、等速運動を続けるためにはモーターが力を出す必要がある。しかしこれは電車が止まっていて宇宙全体が動くという考えても同様である。動き続ける宇宙からまさつを受けて動き出したりしないように、電車を止め続ける力をモーターが出しているのだ、と解釈できるのである。


 
#div(start)
左の図のような運動(電車を人間が押したら動き出した)を地球静止説に立って解釈すれば、

静止している電車(質量m)を、人がFの力を出して&mimetex(\Delta t);秒間押した。
   電車の速度はVになったとすると、運動方程式は

   &mimetex(F = m {V-0\over \Delta t} );

   となる。

となるだろう。
#div(end)
&ref(densha01.png);
#div(clear)
 
#div(start)
一方、同じ運動を、速さVで右に動きながら観測したとしよう。すると、今度は最初電車が左に速さVで走っていることになる。


この場合の解釈は、

   地球も電車も、最初-Vの速度で走っていた(マイナス符号は逆向きを表す)。人は力Fの力を&mimetex(\Delta t);秒出したので、電車は静止した。

   &mimetex( F = m { 0 -(-V) \over \Delta t});

   という式が成立している。

となるだろう。

#div(end)

#ref(densha02.png)

#div(clear)

この二つの記述は結局は同じ式となり、等価である。だから、どちらを正しいかを判定することはできない。''(どちらも正しい)'' のである。

どちらの記述でも同じになる理由は、運動方程式が「加速度」すなわち「単位時間あたりの速度の変化」で書かれていて、速度そのものには無関係だからである。また、もう一つ、ニュートンの運動の法則の第1法則(慣性の法則)も「''(力を及ぼされていない物体は静止するか等速直線運動を続ける)''」というものだから、「何が静止しているか」を判定することはできない。

この事実は、たいへんありがたいことでもある。力学の問題を解く時、いちいち「静止しているのは何なのか」を見定めなくてはいけないとしたらどうだろう?--- 運動方程式をたてるたびに、地球の自転公転、太陽の固有運動、銀河系の回転、銀河系の運動を全部考慮に入れなくてはいけないなんて、とてつもなくめんどうなことになるだろう((厳密に考えると、自転公転などの回転運動は「遠心力」や「コリオリの力」などの効果を生むので、考慮する必要がある。))。そういうことを気にせずに「座標原点を床の上に置いて」などと適当な位置に原点を設定し、その原点がどんな運動をしていたかなどを気にしないで問題を解くことができるのは、運動方程式が加速度で書かれているおかげである。


逆にこのありがたい性質のおかげで「地球は太陽の周りを回っている」ということが直観的に納得しづらいものになっているのである((慣性の法則を発見したガリレイが地動説をとったことは偶然ではない。ガリレオは慣性の法則を知っていたからこそ安心して地動説を取ることができたのである。))。天動説から地動説への転換の時、「太陽が動いているのではなく、地球が動いているのだ」ということが確立されるまでに長い時間がかかったことを考えてみれば、二物体が相対的に運動している時、ほんとうに運動しているのはどっちかを認識するのがいかに難しいかということがわかるだろう。なお、より厳密に言えば、「太陽・地球」系で動かないといっていいのは太陽でも地球でもなく、この二つの重心である((ティコ・ブラーエは地球が静止して太陽がその回りを回り、その太陽の回りを地球以外の惑星が回るというモデルを唱えていたと言う。これは「地球が動いているとしたら、星の位置が変化するはずだ」と考えたからである))。ニュートンは太陽でも地球でもない、絶対静止の基準となる空間があるという仮定のもとにニュートン力学を作った。しかし実際には、ニュートン力学の成立のために絶対空間の仮定は必要ない。宇宙全体が平行に等速運動していたとしても、我々には力学的にそれを知る手段がないからである。より詳細な、数式を使った考察は次章からに回すが、とにかくここまででわかることは、力学においては「絶対空間」は存在していないらしい、ということである。


&color(Red){話の途中で地球の自転速度、公転速度をざっと出した。自転は地球一周4万キロ(ぴったりした数字なのは偶然ではなく、メートルを地球の大きさから定義したから)を24時間で割って、さらに60分、60秒で割ると、だいたい秒速0.46キロ。公転の方は秒速30キロほどになる。公転速度は光速のざっと1万分の1。};

**0.2 電磁気学での「絶対空間」 [#n6ea0249]
19世紀終わり頃、物理学者は力学に「絶対空間」がないことには気づいていたが、電磁気学では「絶対空間」があるのではないかと考えていた。光が電磁波と呼ばれる、電気と磁気の波であることはマックスウェルによって発見された。彼の名のついている4つの方程式

#mimetex(\begin{array}{rl}  {\rm div} \vec D = \rho,~~~~ &{\rm div} \vec B =0,~~~ {\rm rot}\vec E = -{\partial \over \partial t}\vec B,~~~ {\rm \rot}\vec H = \vec j + {\partial \over \partial t}\vec D\end{array})
から電磁波の存在を導き出したのである。

&color(Red){以下の茶色の部分は授業では飛ばしました。};

&color(Brown){【念のため、補足】};

#ref(maxwell.png,,50%)
CENTER:(50%に縮小。クリックするとフルサイズで見れます)


&color(Brown){細かい内容は別として、マックウェル方程式の意味するところを述べておこう。};

&mimetex({\rm div}\vec D = \rho);&color(Brown){:電荷qクーロンがあるところからはq本の電束が出るということ。&mimetex(\vec D);は電束密度すなわち単位体積あたりの電束。};

&mimetex({\rm div}\vec B = 0);&color(Brown){:&mimetex(\vec B);は磁束密度。この法則は磁束は何物からも生まれないということ、つまり磁束は常にループをなしているということを示す。};

&mimetex({\rm rot}\vec E = -{\partial \over \partial t}\vec B);&color(Brown){:磁束密度が時間的に変化している時、その場所付近には磁束密度の増加している方向に対して左ねじの方向に電場が存在している。};

&mimetex({\rm rot}\vec H = \vec j + {\partial \over \partial t}\vec D);&color(Brown){:電流がある時、および電束密度が時間的に変化している時、その場所付近には電流または電束密度の増加している方向に対して右ねじの方向に磁場が存在している。};


&color(Brown){【念のための補足、終了】};

この式で表される物理現象を組み合わせていくと、以下のようなしくみで電磁波が発生することがわかる。


#ref(denjihahassei.png)


(1)ある場所に振動する電流または電束密度が発生する(たとえば電波のアンテナなら周期的に変動する電流を流している)。

(2)「電流」もしくは「電束密度の時間変化」は、周囲に渦をまくような磁場を伴う(&mimetex({\rm rot} \vec H=\vec j+{\partial \over \partial t}\vec D);)。

(3)周囲の空間の磁場が時間変動には、さらにその周囲に渦をまくような電場を伴う(&mimetex({\rm rot}\vec E=-{\partial \over \partial t}\vec B);)。

以上がくりかえされることにより、空間の中を電場と磁場の振動が広がっていく。

----&color(Red){この部分は授業では話さない可能性もあるが、その場合は読んでおいてください。(話しませんでした)};


#ref(rotxy.png)


なお、図ではrotがゼロでない状態の電場を、まるで渦を巻いているかのように書いたが、rotがゼロでないからと言って別に渦を巻く必要はない。もともとrotの定義は左の図のように、微小な四角形の辺の上を一周した時、ベクトル場が働く力だとしたらどれぐらい仕事をしてもらえるかを足し算したもの(最後に四角形の面積&mimetex(\Delta x\Delta y);で割る)である。左の図の場合、

(1)x方向に&mimetex(\Delta x);動くから仕事は&mimetex(V_x(x,y)\Delta x);。

(2)y方向に&mimetex(\Delta y);動くから仕事は&mimetex(V_y(x+\Delta x,y)\Delta y);。

(3)x方向に&mimetex(-\Delta x);動くから仕事は&mimetex(-V_x(x,y+\Delta y)\Delta x);。

(4)y方向に&mimetex(-\Delta y);動くから仕事は&mimetex(-V_y(x,y)\Delta x);。

となって、この4つの和は
#mimetex(V_x(x,y)\Delta x+V_y(x+\Delta x,y)\Delta y-V_x(x,y+\Delta y)\Delta x-V_y(x,y)\Delta x\simeq\left(\partial_x V_y(x,y)- \partial_y V_x(x,y)\right)\Delta x \Delta y)
である。定義がこのようなものだから、下の図のような平面波状態でもrotは存在する。ゆえに電場や磁場の時間微分も存在し、それによって波が進行する。

#ref(denjiha0.png,,75%)
CENTER:(75%に縮小。クリックでフルサイズ)

マックスウェルは彼の方程式を解くことにより、上で述べたような現象が起こって電場と磁場が波となって進行することを導いた。その波の速度も、マックスウェル方程式から求められ、真空中での電磁波の光の速度cそのものであることがわかった。

したがって、マックスウェル方程式が実験的に確認されていることは間接的に電磁波(光)の速度がcであることを保証することになる。ここで、この電磁気に関する物理法則(具体的にはマックスウェル方程式)には絶対空間があるのか?---という問題を考えてみよう。

音は、波であるという点では光と同じであるが、運動している人が見た場合と静止している人が見た場合で速度が違う。通常、音の媒質である空気が静止している時に観測される速度を「本当の音速」と考え、空気に対して動いている人の観測する音の速さは「みかけの音速」として扱う。空気に対して動いているというのは、空気が止まっていて人間が動いても(つまり電車に乗った人)、人間が止まっていて空気が動いても(つまり風の中に立つ人)同じである。どちらも、音速が速くなったり遅くなったりしているように感じるだろう。

さて、マックスウェル方程式に隠れている光速は、「本当の光速」なのだろうか?---そうだとすると、動きながら観測すると、それは「みかけの光速」へと変化するのだろうか?

もし、動きながら観測すると光速が変化するのだとすると、その「動きながら観測している人」にとっては、マックスウェル方程式は成立していないということになる(マックスウェル方程式は必然的に光速度cを導くのだから!((ちなみに、16才の頃に「光の速さで動いたら、電磁波は波の形が静止しているように見えるのか?」と疑問に思ったことが、アインシュタインが相対論を作るそもそものきっかけだったという話がある。アインシュタインはこの疑問を考え続けた結果相対性理論に達したらしい。)))。

19世紀の物理学者たちは、音(=波)に対して空気(=媒質)があるように、光(=電磁波)にもその媒質があると考えていた。そしてそれを「エーテル((「エーテル」は麻酔薬のエーテルとは同じ名前だが何の関係もない。アリストレテスが天を満たしている元素がエーテルであると言っていたのにちなんでいる。ちなみに綴りはEtherまたはAetherで、英語読みだと「イーサ」。ネットワークのイーサネットの「イーサ」はエーテルが語源である。))」と呼んでいた。では、光も「エーテルに対して動いている人」すなわち「エーテルの動きを感じる人」が観測すれば「みかけの光速」になるのではないかと考えるのは当然である。そこで、この「エーテルの風」を検出しようという試みが行われたのだが、その企てはことごとく失敗し、電磁気学にも「絶対空間」がない(あるいはあっても検出できない)ことがわかった。どのようにしてわかったのか、詳しい内容は後で解説する。とにかく、絶対空間は検出できなかった。


#ref(jishaku.png)

&color(Red){ここから後はほとんど説明してません。後で詳しくやる機会があると思います。};

電磁波(光)の速度以外にもう一つ、アインシュタインが疑問としたのは電磁誘導という現象をどのように解釈するかである。アインシュタインの考察した現象とは少し違うが、以下のような現象を考えよう。磁石にコイルを近づける(左図)、あるいはコイルに磁石を近づける(右図)、このどちらを行ってもコイルには電流が流れる。この二つの現象は、「相対的に」考えるならば、全く同じものである。というのは、左図の状態を、コイルと同じ速さで同じ方向に動いている人がみれば、まさに右図の状態が見えるはずだからである。しかし電流の発生する原因の解釈は同じではない。

右図の場合、コイルに電流が流れる理由は、「''(磁束密度の変化によって渦を巻くような誘導電場が発生したから''」(&mimetex({\rm rot}\vec E = -{\partial\vec B\over \partial t});)である。一方、左図の場合、電流が流れる理由は「''磁場中を電子が下向きに動いたので、ローレンツ力によって電子が動かされたから''」である。この時、ある場所の磁束密度&mimetex(\vec B);は変化しないから、&mimetex({\partial \vec B\over \partial t}=0);である。つまり電場の発生はない((左図の場合でも、「コイルを通る磁束」が増加したから起電力が発生した、と考えて問題を解く場合があるが、それは右図と同じ結果が出ることを知っているからできることであって、電場が発生しているのではない。))。

くわしい計算は後でもう一度実行するが、どちらの立場で計算しても流れる電流は同じになる。このように、同じ現象のように見えるのに、違う筋道の説明が2種類ある。そしてどちらも、マックスウェル方程式を使った計算で正しい答が出る。となれば、「どんな立場でもマックスウェル方程式は成立する」と考えたいところである。

**0.3 相対論の必要性 [#v39c1b1c]

ニュートン力学の話で述べたように、絶対空間がないということは「自分がどんな運動をしながら物理を考えているのか」に無関係に問題を解くことができるということであった。もしエーテルが存在し、エーテルが止まって見える人に対してのみマックスウェル方程式が成り立つのだとすると、我々はまず「今我々はエーテルの静止系にいるのか否か」を判断しなくては、電磁気の実験を安心して行えないことになる。

ところが実験の示すところによれば、安心してマックスウェル方程式をつかってかまわないし、光速度についてもどういう立場で測定しても同じである。ここで注意しておくが、大事なのは、「どんな立場でもマックスウェル方程式が成り立つ」ということである。「どんな立場でも光速度が一定」ということはその大事なことの一部に過ぎない。

相対論の目指すことは、「どんな立場で見ても物理法則は同じである」ということである。動いている場合と止まっている場合は区別できず、「動いている時のための物理法則」を別に用意する必要はない。ここでみたように、相対論以前の知識で考えると、力学の法則はそうなっているが、電磁気の法則はそうなっていないように見える。

そこで、「''(力学的に見ても電磁気的に見ても、絶対空間が存在しないような理論はどんなものか?)''」という問いが生まれる。理論的にも実験的にも電磁気学に絶対空間が存在しない(少なくとも、感知できない)ことがわかっている以上、電磁気学から絶対空間を消すことが必要なのである。そういう意味で、電磁気学は相対論なしには不完全なのであって、上の疑問はなんとかして解決されねばならない。その矛盾を解消するための新しい考え方が相対論である。アインシュタインによる特殊相対性理論の最初の論文(1905年)のタイトルは「運動する物体の電気力学について」(Zur Elektrodynaik bewegter K\"orper)という、どちらかというと地味なものであるが、それはこのような電磁気に関する疑問から話が始まっているからである。

具体的にどのように相対論がこの疑問に答えたのかはこの講義の中で明らかにしていく。とりあえずここまででわかるように、その理論は動きながら見ると磁場が電場に見えたり、その逆が起こったりと電場と磁場をまじりあわせるような、そういう理論になる。しかし最終的結果はそれだけにとどまらない。電磁気学から絶対空間がなくなるように理論を修正すると、結果として力学も修正されてしまう。それどころか、物体の長さを測る尺度というものが観測している人の状態によって変化しなくてはいけないことがわかる。具体的には「運動しながら見ると(あるいは物体が運動すると)物体が縮む」のである。さらに、相対性理論は「絶対空間」のみならず「絶対時間」も否定することになる。立場が違えば時間すら、同じものではないことがわかったのである。「運動していると時間が遅くなる」という結果も出るし、「ある人にとって同時に起こったことが、別の人にとっては同時ではない」ということも起こる。

具体的にどのようにしてこのような(一見)不思議な結果が出てきたのかは後で詳しく述べる。ここまでの話を聞くと、ずいぶんおかしな、突拍子もないことをやっているように思えるのではないかと思う。しかし実際には、相対論ができあがる過程は非常に確実なものであり、一歩一歩理解していけば難しいところも論理の飛躍もない。ちゃんと講義を最後まで聞いていけば、あなた方も16才のアインシュタインの疑問に答えることができるはずである。今回だけ聞いて「わからない〜」と根をあげないように。


*学生からの感想・コメント [#u6369afe]

&color(Green){絶対静止しているものがないと言っていましたが、宇宙空間にも静止しているものがないってことですか?};

&color(Red){宇宙空間で静止しているように見えるものも、見方を変えれば(相対的に見れば)等速直線運動していることになってしまうので、「絶対静止」はしません。単に「静止している」というだけではなく「どう見方を変えても静止していると言える」でないと、「絶対静止」とは言わないのです。};

&color(Green){宇宙空間の中心は静止していると思うのですが?};

&color(Red){宇宙の中心っての決めること自体とても難しいですが、もし決めることができたとしても、中心が等速直線運動していない、ということが誰に言えるでしょう???};

&color(Green){電磁気学でも絶対空間がないのに、なぜ光速度が求まるのか不思議だった。};

&color(Red){そこが電磁気学の不思議なところで、その不思議さを解決するために相対論がいる、とも言えます。};

&color(Green){音の場合に速度変化が見られるのは、公転速度と差がないからですか?};

&color(Red){いえ、音は空気という物質が振動している、媒質のある波なので、媒質が動くと音速が変化してしまうわけです。しかし、光の場合の媒質は電磁場という不思議な性質をもったものなのです。};

&color(Green){絶対でなく相対の考え方をしなければいけないことがわかりましたが、相対の考え方で物理が成り立つのかがわかりませんでした。};

&color(Red){それは、今後の講義の中でじっくり考えてください。};

&color(Green){絶対的なものって光速度以外に何がありますか?};

&color(Red){プランク定数とか万有引力定数とか、いわゆる普遍物理定数でしょうか。};

&color(Green){絶対空間とか絶対時間って、普段あまり意識してないです。};

&color(Red){普段意識してないもんだから、深く考えるとややこしいことがあってびっくりしてしまうんでしょうね。};

&color(Green){宇宙は動いてないんですか?};

&color(Red){今日の話の内容からわかるように「動いているのか止まっているのか、決めることは誰にもできない」のです。};

&color(Green){光速cは光源が動いていてもcであるというのが納得できなかった。};

&color(Red){これは音の場合でも同じですよ。音源が動いていても、媒質である空気が動いていなければ音速は変わりません。音の場合、振動しているのはあくまでも空気なので、音速は空気だけで決まるわけです。光も振動しているのは物質じゃなく電磁場ですが、光速を決めるのは電磁場であって光源ではありません。};

&color(Green){光速を越えることができればタイムマシンができると聞いたことがあるのですが、これも相対論で説明できるんですか?};

&color(Red){はいできます。そのうち講義の中でも出てきます。};

&color(Green){2回目ですが頑張ります(4年生たちから)};

&color(Red){今度こそ単位取ってくださいね(今年は試験でなく問題発表にしたので、ちゃんと勉強してくれれば落ちにくいと思います)。};

&color(Green){もし地球が止まったら、慣性の法則で人は動くのですか?};

&color(Red){公転がぴたっと止まったら、地球上の物体は(地球と同時にぴたっと止まらない限り)、地球に対して秒速30キロですっとんでいくことになりますね。};

&color(Green){光速がc-vに見える、という話をしていましたが、v=cの時にはどうなるんですか?};

&color(Red){光が止まる・・・ということになりそうですが、実際にはそうならずに光速はいつでもcになる、というのが実験結果です。なお、相対論から、物体は速度cに達することができないことがわかってます(これもずっと先で話しますが)。};

&color(Green){まだよくわかりません。};

&color(Red){今日は「謎」の部分ばかり話したので、わからないのは当然なので安心してください。今日の謎の解決編を半年かけて話するわけです。};

&color(Green){テレビのアンテナに強い電波を当てたら、テレビは吹っ飛ぶんですか?};

&color(Red){電波による電流が大きすぎたら、ということですか?? うーん、そんなふうにはならないようになっていると思いますが。原理的には、超強力な電波なら、受信側には大電流が流れることになります。};

&color(Green){&mimetex(F=ma=m{v_2-v_1\over \Delta t});で&mimetex(v_1);=0の時は机上の空論ってことですか?};

&color(Red){別に机上の空論ではないですよ。問題を解く時に、&mimetex(v_1);=0として解くこともできるし、そうじゃないとして解くこともできる。どの立場も対等で、どの立場も正しいということです。立場は自由に選択できる、ということです。};

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