前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

第11回授業への受講者の感想・コメント

にありますので見ておいてください。

固有ベクトル

 行列で表現できる線形変換では、ベクトルが別のベクトルへと「変換」される。以下では、変換前のベクトルのいる空間と変換後のベクトルのいる空間が同じVである場合を考えよう。つまり、今から考える写像(変換)は同じベクトル空間の間の演算(VV)だ(行列で表現すれば正方行列だ)とする。よってこの章で登場する行列はすべて正方行列である。

 固有ベクトルを理解するためのアプリは、前にも使った↓です。
2x2行列

 アプリの固有ベクトルに関する話の説明ビデオは↓

 正方行列による変換の様子を見ていると、多くの線形変換に対して「大きさは変わるが向きが変わらないベクトル」があることに気づく。

 ↑の図は、行列(3112)による写像による点の移動を矢印で表現したものだが、これを見ていると赤矢印で示した二つの方向については変換による点の移動が「原点にから離れる向き」になっている(つまり、ベクトルの向きが変わらない)ことがわかる。

 ↑このあたりはアプリをじっくりといじくってみること。絵で感覚をつかむのは大事である。

固有ベクトルの定義

固有ベクトルの定義と例についてのビデオ↓
以下は文章による説明。

 一般に、ある演算子O^(行列で表現されていてもいいし、微分演算子などでもよい)を0ではない、あるベクトルvに掛けたときに元のベクトルのスカラー倍になるのは特別なベクトルの場合に限る。この特別なベクトルに名前をつけよう。つまり

 
固有ベクトル
線形演算子O^と零ベクトルではないベクトルvλとスカラー量λの間に O^vλ=λvλ なる関係が成り立つとき、vλを「O^の固有ベクトル(eigenvector)」と呼び、スカラーλのことを「固有値(eigenvalue)」と呼ぶ。
eigenはドイツ語の「固有」。歴史的な理由でドイツ語が使われる。eigen vectorと分けて表記する場合もある。O^が微分演算子である場合は「固有関数(eigenfunction)」と呼ぶことが多い。

 「λO^の(vλに対する)固有値である」とか、「vλは固有値λO^の固有ベクトルである」のように表現する。 このことは、

固有ベクトルvλの前にある線形演算子O^は、スカラーλに置き換えてよい。

ことを意味する。演算子がスカラーに「化ける」のだから、計算をかなり簡単にしてくれる。

 シンプルな例をいくつか示しておこう。行列(a00b)のような簡単な行列なら、固有ベクトルは(10)(01)であり、固有値はそれぞれabである。

 行列(0110)は「上下成分を入れ替える(x1x2)(x2x1)行列」だから、固有ベクトルは(11)(入れ替えても同じ)と(11)(入れ替えると逆符号)である。固有値はそれぞれ1と1となる。

 行列でない演算子に対しても固有値・固有ベクトルは定義できる。もっとも簡単な例は微分演算子ddxに対する固有ベクトルである指数関数eKxである(固有値はK)。ddxeKx=KeKxという式を見るとわかる。

 なお、固有値が0の固有ベクトル(O^v0=0を満たすベクトル)が存在することはKerO^{0}ではないことを意味する。

 以下ではvλが複素数N成分のベクトル(CN)であり、O^N×N行列Mである場合を考えよう。なお、行列を掛けるときは、

のように行列を左から、右にある列ベクトルに掛ける場合と

のように左にある行ベクトルに行列を右から掛ける場合が考えられるので、この二つの固有ベクトルを「右固有ベクトル」と「左固有ベクトル」と呼んで区別する(λの横につけたまたはは「開いている方の方向から行列を掛けてね」という向きを表す)。後で示すが、これらの固有値の組は同じになるが、右固有ベクトルと左固有ベクトルは一般には一致しない。

左固有ベクトルと右固有ベクトルが同じになる例を扱うことが多いので、このことを失念しやすい。

 行列が対称行列ならばスカラー倍をのぞいて一致し、vλ=αλvλαλは任意のスカラー)となる。また、行列がエルミート行列なら、(vλ)=αλvλとなる(が必要、ただしここで固有値にはは不要である。後で説明する)。