前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にありますので見ておいてください。
幾何ベクトルとしての内積の定義
\begin{equation} \vec a\cdot \vec b=\pm|\vec a_\parallel||\vec b|=\pm|\vec a||\vec b_\parallel|=|\vec a||\vec b|\cos\theta \end{equation} ただし複号$\pm$は、$\vec a$と$\vec b$が同じ向きを向いていればプラス、逆向きを向いていればマイナスである。となる。この式から
自分自身との内積は長さの自乗
\begin{equation} \vec a\cdot\vec a=|\vec a|^2 \end{equation}であることがわかる。これは正または0の量である$|\vec a|^2=0$になるのは、$\vec a$が長さが0のベクトル、すなわち$\vec 0$であるときのみ。。
内積$\vec a\cdot\vec b$には、「$\vec b$のうち$\vec a$に平行な成分しか寄与しない」という性質がある。よって、$ \vec a$と$\vec b$が垂直なら、$\vec a\cdot\vec b=0$となる。これは$\theta={\pi\over 2}$(直角)になった場合である。
他にも「自乗すると長さの自乗になる」という内積の性質がいろんな計算を楽にすることも多い。たとえば「$\vec a\tcol{t}+\vec b$というベクトルが最も短くなるのはどんなときか?」という問題は \begin{align} |\vec a\tcol{t}+\vec b|^2 = (\vec a\tcol{t}+\vec b)\cdot (\vec a\tcol{t}+\vec b) =|\vec a|^2 \tcol{t}^2 +2 \vec a\cdot\vec b \tcol{t}+|\vec b|^2 \end{align} という2次式の最小値はいくらか?---という問題に還元することができる。
2次関数の最小値(あるいは最大値)を求めるときたら、これは「微分して0」である(今の場合2次の係数$|\vec a|^2$は正なので、グラフにすると下に凸な放物線となり、微分して0の場所は最小値でOK)。
微分するときは、 \begin{align} (\vec a\gunderbrace{\tcol{t}}_{ここと}+\vec b)\cdot (\vec a\gunderbrace{\tcol{t}}_{ここを}+\vec b) \end{align} の「ここと」「ここを」の場所をそれぞれ微分して、和を取れば全体の微分になると考えるのが楽(微分のライプニッツ則をベクトルの式にも使う)。
微分の結果は \begin{align} \vec a\cdot (\vec a\tcol{t}+\vec b) + (\vec a\tcol{t}+\vec b)\cdot \vec a = 2\vec a\cdot (\vec a\tcol{t}+\vec b) \end{align} となる。これはつまり、「$\vec a$と$\vec a\tcol{t}+\vec b$が垂直」だということ。これが最短距離になる条件である。図に描いてみても納得できる。
普通の数どうしの積(掛算)では交換・結合・分配法則が成立したが、内積に関してはどうだろうか。
まず、
内積の交換法則
\begin{equation} \vec a\cdot\vec b=\vec b\cdot \vec a \end{equation}が成立するのは定義を見ればわかるであろう。
結合法則は成立しないというより、そもそも意味がない。$\vec a\cdot\vec b\cdot\vec c$のような「三つのベクトルの内積」がそもそも計算不可能だからである。二つのベクトルの内積はスカラーだから、スカラーとベクトルの内積を取ることはできない。2個目の「掛算」を単なるスカラー倍だとしても、結合法則は成立しない。
内積の結合法則は成立しない
\begin{equation} \gunderbrace{(\vec a\cdot \vec b)\vec c}_{\vec cを(\vec a\cdot \vec b)倍したもの} \neq \gunderbrace{\vec a(\vec b\cdot \vec c)}_{\vec aを(\vec b\cdot \vec c)倍したもの} \end{equation}内積の分配法則
\begin{equation} \vec a\cdot(\ycol{\vec b}+\vec c)=\vec a\cdot\ycol{\vec b}+\vec a\cdot\vec c \end{equation} は成立する。上のような計算をする時、(内積を取っているので)結果に関係するのは$\xcol{\vec a}$に平行な成分のみである。分配法則の証明のためには、 \begin{equation} \xcol{\vec a}\cdot(\ycol{\vec b}+\zcol{\vec c}) = \xcol{\vec a}\cdot(\ycol{\vec b_\parallel}+\zcol{\vec c_\parallel}) =\goverbrace{\xcol{\vec a}\cdot\ycol{\vec b_\parallel}}^{\pm|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b_\parallel}|}+\goverbrace{\xcol{\vec a}\cdot\zcol{\vec c_\parallel}}^{\pm|\xcol{\vec a}||\zcol{\vec c_\parallel}|} \end{equation} を示せば十分である式の上の$|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b_\parallel}|$と$|\xcol{\vec a}||\zcol{\vec c_\parallel}|$には複号がついているが、同じ向きを向いていれば$+$、逆向きなら$-$であることに注意。。
まず示すべきことは第1の等式、つまり「$\ycol{\vec b}+\zcol{\vec c}$の$\xcol{\vec a}$方向への射影」と、「$\ycol{\ycol{\vec b}}$の$\xcol{\vec a}$方向への射影」および「$\zcol{\vec c}$の$\xcol{\vec a}$方向への射影」の和が等しいことである。これは
のような図を描けば納得できるだろう。
立体的ベクトルの場合、
のように、$\zcol{\vec c}$には紙面に垂直な方向」にはみ出す成分がある$\xcol{\vec a}$と$\ycol{\vec b}$が平面上にあるように図を描いているので、この二つのベクトルは考えている平面内にある。$\zcol{\vec c}$ははみ出す可能性がある。が、それは計算に効かない。
$\ycol{\vec b_\parallel},\zcol{\vec c_\parallel}$は$\xcol{\vec a}$と同じ向きだから、実数$\beta,\gamma$を使って$\ycol{\vec b_\parallel}=\beta \xcol{\vec a},\zcol{\vec c_\parallel}=\gamma\xcol{\vec a}$と書ける。よってベクトルの実数倍に関する分配法則$(\lambda_1+\lambda_2)\xcol{\vec a}=\lambda_1\xcol{\vec a}+\lambda_2\xcol{\vec a}$を使うことができて、第2の等式もわかる。幾何ベクトルの内積に関する定理
内積の大小関係としては、
Schwarzの不等式
\begin{align} -|\vec u|\,|\vec v|\le \vec u\cdot\vec v\le |\vec u|\,|\vec v| \end{align}という式がある。
この式は、幾何ベクトルの関係式としては、
という図を見ると理解できるし、$-1\le \cos\theta\le 1$からもわかるだろう。
これを使うと、以下の式が証明できる。
三角不等式
\begin{align} \left||\vec u|-|\vec v|\right|\le |\vec u+\vec v|\le |\vec u|+|\vec v| \end{align}問いでは計算で示したが、下のように図を掛けばわかる(「三角不等式」という名前の意味も明白だ)。ついでに、$\vec u-\vec v$のような引き算の長さがどうなるかを表す図も下の右に示した。
図ではどちらも、$\vec u$を固定して$\vec v$は長さ$|\vec v|$を固定して向きを変えている。$\vec u\pm\vec v$の長さの最大・最小を図から読み取れば三角不等式が示される。
こうして、ベクトルを「成分と呼ばれる数$N$個(2次元なら2個、3次元なら3個)で表現されたもの」と考えることもできるようになる。次ではその考え方に従ってベクトルの演算を定義しよう。
ここで使う基底ベクトル$\ve_x,\ve_y,\ve_z$はそれぞれの軸の方向を向いた単位ベクトル(長さ1)なので、 \begin{equation} \ve_x \cdot \ve_x = \ve_y \cdot \ve_y = \ve_z \cdot \ve_z =1~~~ (それ以外)=0\label{exeyez} \end{equation} が成り立つ。ここで、
クロネッカーのデルタ
\begin{align} \delta_{ij} =\begin{cases}1& i=jのとき\\0&i\neq jのとき\end{cases} \end{align}で定義される「クロネッカーのデルタ(Kronecker delta)」という記号を使うと、上の式は$\ve_i\cdot \ve_j=\delta_{ij}$と書くことができる。$i,j$に$x,y,z$のどれかが入る。
二つのベクトルの内積を分配法則を使って計算すると \begin{equation} \begin{array}{rl} &\left(a_x\ve_x+a_y\ve_y+a_z\ve_z\right) \cdot\left(b_x\ve_x+b_y\ve_y+b_z\ve_z\right) \\[2mm] =& \phantom{+}a_x\ve_x \cdot b_x\ve_x + \kesi{a_x\ve_x \cdot b_y\ve_y}+ \kesi{a_x\ve_x \cdot b_z\ve_z} \\[2mm] &+ \kesi{a_y\ve_y \cdot b_x\ve_x} +a_y\ve_y \cdot b_y\ve_y +\kesi{a_y\ve_y \cdot b_z\ve_z} \\[2mm] &+\kesi{ a_z\ve_z \cdot b_x\ve_x} +\kesi{a_z\ve_z \cdot b_y\ve_y} +a_z\ve_z \cdot b_z\ve_z \\[2mm] =& a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z \end{array} \end{equation} となる。つまり内積は「$x$成分どうし、$y$成分どうし、$z$成分どうしの積を足す」という計算になっている。
内積の成分表示
$\vec a=\mtx[c]{a_x\\[-1mm]a_y\\[-1mm]a_z}$}と$\vec b=\mtx[c]{b_x\\[-1mm]b_y\\[-1mm]b_z}$の内積 \begin{equation} \vec a\cdot\vec b = a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z \end{equation}
下付き添字を$x,y,z$ではなく$1,2,3$を使って(つまり$a_1=a_x,a_2=a_y,a_3=a_z$と書いて、内積を \begin{equation} \vec a\cdot\vec b = a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3=\sum_{\dum{j}=1}^3a_{\dml{j}}b_{\dmr{j}} \end{equation} のように書くこともある。ここで1から3までが代入される添字$\dum{j}$は「ダミーの添字」と呼ぶ。
本講義では、ダミー添字は色付きにすることにする。
かつ、二つの添字を揃えて足し上げるとき内積や、後で考える外積はもちろん、行列の掛算を表現するときにも、「二つの添字を揃えて足し上げる」という操作は非常に多い。には$a_{\dml{i}}a_{\dmr{i}}$のように灰色括弧付きで記して他の添字と区別しやすいようにすることにする。${}_{\dml{i}}$のような添字が出てきたら「後ろにある${}_{\dmr{i}}$と揃えて足算するのだな」と思って欲しい。
普通は、こんな書き方はしていない。本講義は例外的におせっかいなのである。これはいわば「自転車の補助輪」のようなもので、勉強していくうちにいらなくなるものである。もちろん、式を手書きするときなどに色を変えたり$\dml{~},\dmr{~}$を書き入れたりする必要はない。「こんなもんいらんやろ」と思う人は単に無視すればよい。
内積は$\vec a\cdot\vec b$のように記号$\cdot$を使って書いてもいい(これを行ベクトルや列ベクトルで表すと$\mtx[ccc]{a_x&a_y&a_z}\cdot\mtx[ccc]{b_x&b_y&b_z}$あるいは$\mtx[c]{a_x\\[-1mm]a_y\\[-1mm]a_z}\cdot\mtx[c]{b_x\\[-1mm]b_y\\[-1mm]b_z}$になる)が、$\mtx[ccc]{b_x&b_y&b_z}\mtx[c]{a_x\\[-1mm]a_y\\[-1mm]a_z}$のように行ベクトルと列ベクトルを並べて書いてもよい。こちらの書き方のときは$\cdot$はいらない。
「射影を使って内積を定義した」という先の流れとは逆に、内積を使って射影を表現することもできる。
最終的にベクトルの定義を幾何ベクトルではなく、もっと広いものとして捉えていくので、図形的な意味の射影から離れる準備をしておく必要がある。
よって$\left|\vec a_{\parallel}\right|=\pm{\vec a\cdot\vec b\over |\vec b|}$が言える。これに$\vec a_\parallel$方向を向いた単位ベクトル$\pm{\vec b\over|\vec b|}$を$\pm$がつくのは、$\vec a_\parallel$の方向と$\vec b$の方向が一致してない場合があるから。掛ければ、 \begin{align} \vec a_{\parallel}={\vec a\cdot\vec b\over |\vec b|^2}\vec b \end{align} がわかる。$\vec b$に垂直な方向はこれを$\vec a$から引けばよいから、 \begin{align} \vec a_{\bot}=\vec a-{\vec a\cdot\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\label{naisekichokkousiki} \end{align} となる。
この式の順番を少し変えて、 \begin{align} \vec a_{\parallel}=&{\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot \vec a \\ \vec a_{\bot} =&\vec a-\vec b{\vec b\cdot\vec a\over |\vec b|^2} =\left(1-{\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot\right)\vec a \end{align} と変えると、${\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot \ovalbox{?}$は「$\ovalbox{?}$から$\vec b$と平行な方向のベクトルを取り出す演算」になっているし、$\left(\ovalbox{?}-{\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot\ovalbox{?}\right)$は「$\ovalbox{?}$から$\vec b$と垂直な方向のベクトルを取り出す演算」と見ることができる。
任意のベクトル$\vec A$が与えられたとき、その$\xcol{x}$成分$A_x$を求めたければ、$\ve_x$と内積を取ればよい。 \begin{equation} \ve_x\cdot\left(A_x\ve_x+A_y\ve_y+A_z\ve_z\right)=A_x \end{equation} となるからである。$A_y,A_z$についても同様なので、 \begin{equation} \vec A=\ve_x\goverbrace{(\ve_x\cdot\vec A)}^{A_x}+\ve_y\goverbrace{(\ve_y\cdot\vec A)}^{A_y}+\ve_z\goverbrace{(\ve_z\cdot\vec A)}^{A_z}=\sum_{\dum{j}=1}^3\ve_{\dml{j}}\left(\ve_{\dmr{j}}\cdot\vec A\right) \end{equation} が言える。この一連の計算により$\vec A$がまた$\vec A$に戻る。よって任意のベクトル$\ovalbox{?}$に対して演算$\ve_x(\ve_x\cdot \ovalbox{?})+\ve_y(\ve_y\cdot \ovalbox{?})+\ve_z(\ve_z\cdot \ovalbox{?})$は恒等演算(何もしない演算)になっている。この恒等演算から「$z$方向への射影」である$\ve_z(\ve_z\cdot \ovalbox{?})$を除くと、「$z$方向に垂直な方向への射影」(または「$xy$平面への射影」)である$\ve_x(\ve_x\cdot \ovalbox{?})+\ve_y(\ve_y\cdot \ovalbox{?})$になる。
外積(exterior product)は、記号$\times$を使うので「クロス積($\times$積)(cross product)」と呼んだり、本によっては記号$\wedge$を使い、「くさび積(wedge product)」と呼ぶ場合もある(次元が3より大きくなる状況ではこっちを使うことが多い)。また、結果がベクトルになる積、という意味で「ベクトル積(vector product)」と呼ぶこともある(この呼び方は3次元でのみ意味がある)。
外積もまた、二つのベクトルによる計算だが、内積と違って、結果はスカラーとは限らない(2次元ではスカラー、3次元ではベクトルである)。
2次元(平面)の場合の外積は、右図のように内積のときには捨てていた垂直成分$\vec b_\bot$の方を掛算するという計算である(下で述べるように、符号に注意)。
ベクトルの積として、「内積」と「外積」と二つの積が出てくるが、$\ycol{\vec b}$のうち、$\xcol{\vec a}$から見て「外側」である$\ycol{\vec b}_\bot$が効いてくるのが「\強調{外}積」、「内側」である$\ycol{\vec b_\parallel}$が効いてくるのが「\強調{内}積」と考えておくと二つの区別がつきやすい。なお、符号が重要で、下の図のように定める。
「反」がついている方がプラスなのはややこしいが、北半球からみたときの地球の自転の方向がプラス方向になっている。ちなみに時計回りが自転と逆向きなのは、日時計の針(つまりは影)が北半球では時計回りに回ることに沿っている。
数式で表現するなら、
平面上の外積
成す角を$\theta$である二つのベクトル$\xcol{\vec a}$と$\ycol{\vec b}$の外積は \begin{align} \xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b} =\pm|\xcol{\vec a}|\,|\ycol{\vec b_\bot}| =\pm|\xcol{\vec a_\bot}|\,|\ycol{\vec b}| =|\xcol{\vec a}|\,|\ycol{\vec b}|\sin\theta \end{align} である。ただし複号$\pm$は、$\xcol{\vec a}\to\ycol{\vec b}$が「反時計回りの位置関係」ならプラス、「時計回りの位置関係」ならマイナスである。角度$\theta$は結果の符号に一致するように取る。
内積は二つのベクトルが「逆」を向くとマイナスになったが、外積$\xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}$は二つのベクトルが反時計回りか時計回りかで符号が変わる。なお、同じ向きならば結果は0である。
3次元の場合外積はベクトルだが、その向きをまずは図形で表現しよう。二つのベクトルがある面上にあるとする任意の二つのベクトルがあるとき、どちらかを平行移動して矢印の根本を揃えてやれば、その二つのベクトルを含んでいる平面を持ってくることは常にできる。。外積の結果はその平面の法線方向を向く。
「法線」というだけでは向きがわからないが、図に示したように「$\vec a$の向きから$\vec b$の向きへとベクトルを回したとき、右ネジが進む向きを「$\vec a\times \vec b$の向き」とする。
外積という計算の結果であるベクトルの方向は「回転の軸」の方向である。
「どの方向からどの方向へ回すか」の例として、三つの座標軸$x,y,z$から二つを選んで、図を描いてみよう。
「$x$軸方向から$y$軸方向へ回す」という回転を「$z$軸回りの回転」と表現した(その意味は図に描き込んだように$z$軸の方向にドライバーを向けてネジを締めるように回すというイメージで理解してほしい)。
図中にも書いたが、$y$軸回りの回転は「$x$軸方向から$z$軸方向」ではなく「$z$軸方向から$x$軸方向」であることにも注意しよう。
二つのベクトルの外積の大きさは、 \begin{equation} |\xcol{\vec a}\times \ycol{\vec b}|=|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b}||\sin\theta| \end{equation} で表現される。$\theta$は二つのベクトルの成す角である。
$|\xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}|$の図形的(幾何学的)意味は図の平行四辺形の面積である。あるいは$\ycol{\vec b}$を$\xcol{\vec a}$に並行な成分$\ycol{\vec b_\parallel}$と$\xcol{\vec a}$に垂直な成分$\ycol{\vec b}_{\bot}$に分けて($\xcol{\vec a}$と$\ycol{\vec b}$の役割は逆でも可)、 \begin{equation} |\xcol{\vec a}\times \ycol{\vec b}|=|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b}_\bot|=|\xcol{\vec a}_\bot||\ycol{\vec b}|\label{kieruheikou} \end{equation} という計算をしていると思ってもよい(これは横が$|\xcol{\vec a}|$で縦が$|\ycol{\vec b}_{\bot}|$の長方形の面積でもある)。
2次元の場合、反時計回りに回る向き(今の場合$\xcol{\vec a}\times\tcol{\vec b}$)の時外積は正とし、時計回りでは負とする。特に、 \begin{equation} \ve_x\times\ve_y=1,~~\ve_y\times\ve_x=-1 \end{equation} であることはすぐにわかる(大きさは一辺が1の正方形の面積である)。
3次元のベクトルの場合、 \begin{equation} \begin{array}{ll} \\ \ve_x\times\ve_y=\ve_z,~~~ & \ve_y\times\ve_x=-\ve_z,\\ \ve_y\times\ve_z=\ve_x,~~~ & \ve_z\times\ve_y=-\ve_x,\\ \ve_z\times\ve_x=\ve_y,~~~ & \ve_x\times\ve_z=-\ve_y \end{array} \label{cycliceq} \end{equation} という関係になる。
これらの式は1行目の式をサイクリック置換すれば他の式も得られるようになっている。
同じ方向を向いているベクトルどうしの外積は0である。平行四辺形の面積という意味を考えれば、「同じ方向を向いている2本のベクトルの作る面積は0」ということから納得できる(数式で考えるならば$\theta=0$である)。特に$\xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}=\vec 0$であっても$\xcol{\vec a}$も$\ycol{\vec b}$も零ベクトルでない場合があることには注意しよう。
ベクトルの掛算については注意すべきことがたくさんあるが、特に普通の掛算との違いとして「戻せない演算である」ことに注意したい。普通の数の掛算は「$a$を掛ける」後に「$a$で割る」ことで元に戻せる($a=0$の場合は除く)。しかし外積は(内積も)そうはいかない。そもそも外積に対応する「割る」という演算は存在しない。その理由は明白で「違うベクトルなのに$\xcol{\vec a}$と外積を取ると結果が同じになってしまう」、すなわち、 $$ \ycol{\vec b}\times \xcol{\vec a} = \vec c\times \xcol{\vec a}~~~~~ であるが、~~~~ \ycol{\vec b}\neq \vec c $$ ということが(いくらでも)あり得るのである。この点を忘れると、 $$ \xcol{\vec a}\times(\vec x+\ycol{\vec b})=\xcol{\vec a}\times\vec c~~~~から~~~~ \vec x+\ycol{\vec b}=\vec c $$ のような間違った計算を「うっかり」やってしまうことになる。
外積についても三つの法則が成り立つかどうか考えよう。
$\xcol{\vec a}\times \ycol{\vec b}$はいわば「$\xcol{\vec a}$というベクトルを$\ycol{\vec b}$の方向に力を加えて回す向き」なのに対し、$\ycol{\vec b}\times \xcol{\vec a}$はその逆で「$\ycol{\vec b}$というベクトルを$\xcol{\vec a}$の方向に力を加えて回す向き」であり、この二つは逆の作用である。
しかし、平行四辺形の面積には違いがないので、絶対値は等しい。よって、 \begin{equation} \xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}= - \ycol{\vec b}\times \xcol{\vec a}\label{gaisekikoukan} \end{equation} が成立する(外積の定義には$\sin \theta$が含まれているが、$\sin (-\theta)=-\sin \theta$からも以上のことはわかる)。3次元では外積の結果のベクトルが逆を向く。
2次元の外積は計算結果がスカラーなので$\xcol{\vec a}\times(\ycol{\vec b}\times \zcol{\vec c})$のような計算はできないので結合法則にはそもそも意味がない。
3次元の外積で結合法則は成り立たない例を一つあげておこう(法則が成り立つことを示す時は一つの成り立つ例を出してもダメ(他に成り立たない場合があるかもしれない)であるが、成り立たないことを示すのなら、成り立たない例が一つあればそれで十分) \begin{equation} \ve_x \times(\ve_y\times\ve_y)=0 \end{equation} である(括弧の中の$\ve_y\times\ve_y$が0だから)ここでも、ベクトルが零ベクトル$\vec 0$であることを単に$=0$と表記している。。一方、 \begin{equation} (\gunderbrace{\ve_x \times\ve_y}_{=\ve_z})\times\ve_y=\ve_z \times \ve_y = -\ve_x \end{equation} となって0ではない。
外積の分配法則
\begin{equation} \zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})=\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}+\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c}\label{gaisekibunpai} \end{equation}である。三つのベクトルを次の図のように考えよう。
外積を取るときに計算に関与してくるのは$\zcol{\vec a}$に垂直な成分のみであるから、図に描いた「影」すなわち$\zcol{\vec a}$に垂直な面への射影が関係してくる。垂直な成分を${}_\bot$をつけて表すと、$\vec b_\bot,\vec c_\bot$と$(\vec b+\vec c)_{\bot}$は次の図(上の図を$\zcol{\vec a}$の向かう方向から見下ろしたところと思えばよい)のような関係にある。
よって、$(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot$は$\xcol{\vec b}_\bot+\ycol{\vec c}_\bot$とも書けることに注意しよう。すなわち「足算する」と「射影する」の順番はどちらが先でも結果は同じである。
$\zcol{\vec a}$と平行な成分は外積を取る時点で消えてしまうので、分配法則の成立を示すには、 \begin{equation} \zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot=\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}_\bot+\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c}_\bot\label{abcbot} \end{equation} を示せば十分である。
$|\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}|=|\zcol{\vec a}||\xcol{\vec b}_\bot|$}のような式が成立するから、上の式に現れる三つのベクトルの大きさは、
のような三つの長方形の面積となる(足算が成立するのは面積ベクトルに対してであって、面積の大きさそのものに対しては成立しないことに注意)。
一番左の図に示した長方形の面積$|\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot|$は、$|\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})|$と書いても同じ値である。そしてそれぞれのベクトルの向きは面の法線の方向を向く。我々が示したいのは、(\ref{abcbot})が成立することである。つまり、外積の分配法則は三角柱の三つの側面の面積に関する法則にもなっているのである。
具体的な計算でも確認しておく。三角柱を真上から見た図で考えよう。
三つのベクトル$\xcol{\vec b}_\bot,\ycol{\vec c}_\bot, (\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot$が三角形を作っている。$\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}_\bot,\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c}_\bot,\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot$($\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b},\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c},\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})$と書いても同じ)も三角形を作る。$\xcol{\vec b}_\bot$から$\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}$をつくるという計算は「上から見て反時計回りに90度回して、$|\zcol{\vec a}|$を掛ける」という計算になる(図は$|\zcol{\vec a}|=1$の場合で描いた)。
$\zcol{\vec c}_\bot,(\ycol{\vec b}+\zcol{\vec c})_\bot$に関しても同様のことが言えるので、$\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b},\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c},\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})$というベクトルはちゃんと図のとおりに三角形を作る。これで、分配法則が証明できた。
なお、webClassに情報を載せていますが、授業があった日の午後7時より約1時間、オンラインオフィスアワーとしてzoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。
webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。