$\newcommand{\rv}[1]{\opcol{\left({\color{black}\begin{array}{@{\,}c@{\,}}#1\end{array}}\right)}}$ $\newcommand{\mtx}[2][cc]{\opcol{\left({\color{black}\begin{array}{@{\,}#1@{\,}}#2\end{array}}\right)}}$ $\def\coldr{\rcol{\mathrm dr}}\def\coldvecx{\xcol{\mathrm d\vec x}}\def\intdx{\opcol{\int \mathrm dx}}\def\E{\mathrm e}\def\I{\mathrm i}\definecolor{opcol}{RGB}{149,139,0}\definecolor{hai}{RGB}{137,137,137}\definecolor{tcol}{RGB}{166,54,109}\definecolor{kuro}{RGB}{0,0,0}\definecolor{xcol}{RGB}{169,103,49}\def\opcol#1{{\color{opcol}#1}}\def\ddx{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dx}}}\def\ddt{\opcol{{\mathrm d\over \mathrm dt}}}\def\xcol#1{{\color{xcol}#1}}\definecolor{ycol}{RGB}{217,61,137}\def\ycol#1{{\color{ycol}#1}}\def\haiiro#1{{\color{hai}#1}}\def\kuro#1{{\color{kuro}#1}}\def\kakko#1{\haiiro{\left(\kuro{#1}\right)}}\def\coldx{{\color{xcol}\mathrm dx}}\def\Odr{{\cal O}}\definecolor{ncol}{RGB}{217,51,43}\def\ncol#1{{\color{ncol}#1}}\definecolor{zcol}{RGB}{196,77,132}\def\zcol#1{{\color{zcol}#1}}\definecolor{thetacol}{RGB}{230,0,39}\def\thetacol#1{{\color{thetacol}#1}}\def\diff{\mathrm d}\def\kidb{\opcol{\mathrm db}}\def\kidx{\opcol{\mathrm dx}}\def\coldy{\ycol{\mathrm dy}}\def\coldtheta{\thetacol{\mathrm d\theta}}\def\ddtheta{\opcol{{\mathrm d\over\mathrm d\theta}}}\def\tcol#1{{\color{tcol}#1}}\def\coldt{\tcol{\mathrm dt}}\def\kidtheta{\opcol{\mathrm d\theta}}\def\dtwodx{\opcol{\diff^2\over\diff x^2}}\def\kokode#1{~~~~~~~{↓#1}}\def\goverbrace{\overbrace}\def\coldz{\zcol{\mathrm dz}}\def\kidt{\opcol{\mathrm dt}}\definecolor{rcol}{RGB}{206,114,108}\def\rcol#1{{\color{rcol}#1}}\def\coldtwox{\xcol{\mathrm d^2x}}\def\PDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}\right)}}_{#3}}\def\PDIC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial \over \partial #2}\kuro{#1}\right)}}_{#3}}\def\PD#1#2{{\opcol{\partial \kuro{#1}\over \partial #2}}}\def\PPDC#1#2#3{{\opcol{\left(\opcol{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}\right)}}_{#3}}\def\PPDD#1#2#3{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2\partial #3}}}}\def\PPD#1#2{{\opcol{{\partial^2 \kuro{#1}\over \partial #2^2}}}}\def\kidy{\opcol{\diff y}}\def\ve{\vec{\mathbf e}}\def\colvecx{\xcol{\vec x}}\definecolor{usuopcolor}{RGB}{237,234,203}\def\usuopcol#1{\color{usuopcolor}#1}\def\vgrad#1{{\usuopcol{\overrightarrow{\opcol{\rm grad}~\kuro{#1}}}}}\def\dX{\rcol{\mathrm dX}}\def\dY{\thetacol{\mathrm dY}}\def\opdf{\opcol{\mathrm df}}\def\coldf{\tcol{\mathrm df}}\def\dtwof{\opcol{\mathrm d^2f}}\def\murasakidb{\zcol{\mathrm d b}}\def\ao{\ycol}\def\aodV{\ycol{\diff V}}\def\aka{\xcol}\def\akadm{\xcol{\diff m}}\def\gunderbrace{\underbrace}\def\ovalbox{\boxed}\def\kesi#1{\underbrace{#1}_{0}}\newcommand\dum[2][xcol]{{\color{#1}{\scriptstyle #2}}}\newcommand\dml[2][xcol]{\haiiro{\!\left\lceil{\!\color{#1}#2}\right.}}\newcommand\dmr[2][xcol]{\haiiro{\left.{{\color{#1}#2}}\!\right\rfloor\!}}$ $\def\tatevec#1{\boxed{#1}}\newcommand{\allc}[1]{\haiiro{\{{\kuro #1}\}}}$

「物理数学Ⅰ」2021年度講義録第3回

前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

にありますので見ておいてください。

今日は、ベクトルの内積と外積をやります。

幾何ベクトルの内積

幾何ベクトルの内積

内積の定義

 内積の(幾何ベクトルとしての)定義を説明するためのアプリがある。まず説明ビデオを見てから、自分でもいろいろとベクトルを動かして「なるほど、内積とはこういうものか」というのを実感しよう。実感し終わったら「戻る」で戻ってくること。
以下ではビデオとアプリによる説明を文章でまとめてある。
 「内積(inner product)」記号$\cdot$を使うので「ドット積($\cdot$積)(dot product)」と呼んだり、結果がスカラーになるので「スカラー積(scalar product)」と呼んだりする。は二つのベクトルの「掛算」に類する計算として定義される。あくまで「類する」であって掛け算とは別の計算である。この後掛け算とは違うところがいろいろ出てくるのだが、それはそういうものだと思って理解していくしかない。
 内積は何次元のベクトルでも定義できるが、高い次元においても、考えている二つのベクトルを含むような平面で計算できるので、まずは内積を平面図形で表現しよう。

 上の図のように、角度$\theta$をなす二つのベクトル$\vec a,\vec b$を考えよう。この二つのベクトルの内積を$\vec a\cdot\vec b$と書く。その意味を式で表現するなら$\vec a\cdot\vec b =|\vec a||\vec b|\cos \theta$である。図で表現すると、以下のようになる($\parallel,\bot$はそれぞれ「平行」「垂直」を表す記号。$\vec a_\parallel$を「$\vec a$の$\vec b$方向の射影」と呼ぶ)。

 内積$\vec a\cdot\vec b$を計算するためには、まずベクトル$\vec a$を「$\vec b$と同じ方向の成分$\vec a_\parallel$」と「$\vec b$に垂直な成分$\vec a_\bot$」に分解する。そして平行成分の長さ$|\vec a_\parallel|$に$\vec b$の長さ$|\vec b|$を掛ける。結果はスカラーとなる。
 射影は逆に行ってもいいので、

幾何ベクトルとしての内積の定義

\begin{equation} \vec a\cdot \vec b=\pm|\vec a_\parallel||\vec b|=\pm|\vec a||\vec b_\parallel|=|\vec a||\vec b|\cos\theta \end{equation} ただし複号$\pm$は、$\vec a$と$\vec b$が同じ向きを向いていればプラス、逆向きを向いていればマイナスである。

となる。この式から

自分自身との内積は長さの自乗

\begin{equation} \vec a\cdot\vec a=|\vec a|^2 \end{equation}

であることがわかる。これは正または0の量である$|\vec a|^2=0$になるのは、$\vec a$が長さが0のベクトル、すなわち$\vec 0$であるときのみ。

 内積$\vec a\cdot\vec b$には、「$\vec b$のうち$\vec a$に平行な成分しか寄与しない」という性質がある。よって、$ \vec a$と$\vec b$が垂直なら、$\vec a\cdot\vec b=0$となる。これは$\theta={\pi\over 2}$(直角)になった場合である。

前回の感想・コメントシートから 内積は何の役に立つ?

内積は何の役に立つ?

 内積は何に使うのか?についての説明、ビデオと文章によるものがあるので見るまたは読む(あるいは両方)をして理解していってください。
 この計算の意味は何なんだろう?---と悩んでしまう人は多いようだ。内積の意味にはいろいろあるが、まずは「二つのベクトルが同じ方向を向いていると大きくなるような掛算」が欲しかったのだ、と思ってもらってもよい。上で述べた「直交するベクトルの内積は0」というのは「直交するベクトルは赤の他人」というイメージで捉えてほしい。内積が正なら「似た方向を向いている」と判断できる。
 この性質があるので、内積はベクトルを方向ごとに分解するときにも使われる。
 物理での内積の使いみちとしては「仕事」という量があって、これは力というベクトル$\vec F$と、力を受けた物体の移動(変位)$\Delta \vec x$の内積で定義される($W=\vec F\cdot \Delta \vec x$)。これは力と移動方向が同じ方向ならプラス、逆向きならマイナスになるように定義されていて、「力を出しても、物体がそれと逆に動いたら仕事はマイナス」というシビア(?)な判定をするために使われる。

 他にも「自乗すると長さの自乗になる」という内積の性質がいろんな計算を楽にすることも多い。たとえば「$\vec a\tcol{t}+\vec b$というベクトルが最も短くなるのはどんなときか?」という問題は \begin{align} |\vec a\tcol{t}+\vec b|^2 = (\vec a\tcol{t}+\vec b)\cdot (\vec a\tcol{t}+\vec b) =|\vec a|^2 \tcol{t}^2 +2 \vec a\cdot\vec b \tcol{t}+|\vec b|^2 \end{align} という2次式の最小値はいくらか?---という問題に還元することができる。

上の問題、すなわち、「$\vec a\tcol{t}+\vec b$というベクトルが最も短くなるのはどんなときか?」を解いてみよ。できれば、なぜそうなるのかの図解も試みよ。図解のためには、次の図を使うとよい。

答えがわかったらここをクリック

2次関数の最小値(あるいは最大値)を求めるときたら、これは「微分して0」である(今の場合2次の係数$|\vec a|^2$は正なので、グラフにすると下に凸な放物線となり、微分して0の場所は最小値でOK)。

 微分するときは、 \begin{align} (\vec a\gunderbrace{\tcol{t}}_{ここと}+\vec b)\cdot (\vec a\gunderbrace{\tcol{t}}_{ここを}+\vec b) \end{align} の「ここと」「ここを」の場所をそれぞれ微分して、和を取れば全体の微分になると考えるのが楽(微分のライプニッツ則をベクトルの式にも使う)。

 微分の結果は \begin{align} \vec a\cdot (\vec a\tcol{t}+\vec b) + (\vec a\tcol{t}+\vec b)\cdot \vec a = 2\vec a\cdot (\vec a\tcol{t}+\vec b) \end{align} となる。これはつまり、「$\vec a$と$\vec a\tcol{t}+\vec b$が垂直」だということ。これが最短距離になる条件である。図に描いてみても納得できる。

幾何ベクトルの内積 内積の交換・結合・分配法則

内積の交換・結合・分配法則

 普通の数どうしの積(掛算)では交換・結合・分配法則が成立したが、内積に関してはどうだろうか。

 内積の交換/結合法則について説明は、ビデオと文章によるものがあるので見るまたは読む(あるいは両方)をして理解していってください。↓がビデオです。
 分配法則についてはアプリがあります。↓のアプリの説明ビデオです。
 説明ビデオを見てからその下のアプリをやってみてください。終わったら「戻る」で戻ってくること。
 以下は文章による説明です。内容はだいたい同じですが、こちらも読んでおきましょう。

 まず、

内積の交換法則

\begin{equation} \vec a\cdot\vec b=\vec b\cdot \vec a \end{equation}

が成立するのは定義を見ればわかるであろう。

 結合法則は成立しないというより、そもそも意味がない。$\vec a\cdot\vec b\cdot\vec c$のような「三つのベクトルの内積」がそもそも計算不可能だからである。二つのベクトルの内積はスカラーだから、スカラーとベクトルの内積を取ることはできない。2個目の「掛算」を単なるスカラー倍だとしても、結合法則は成立しない。

内積の結合法則は成立しない

\begin{equation} \gunderbrace{(\vec a\cdot \vec b)\vec c}_{\vec cを(\vec a\cdot \vec b)倍したもの} \neq \gunderbrace{\vec a(\vec b\cdot \vec c)}_{\vec aを(\vec b\cdot \vec c)倍したもの} \end{equation}
である($\vec c$と$\vec a$の向きが違う場合を考えれば、すぐわかる)。
 一方、

内積の分配法則

\begin{equation} \vec a\cdot(\ycol{\vec b}+\vec c)=\vec a\cdot\ycol{\vec b}+\vec a\cdot\vec c \end{equation} は成立する。

 上のような計算をする時、(内積を取っているので)結果に関係するのは$\xcol{\vec a}$に平行な成分のみである。分配法則の証明のためには、 \begin{equation} \xcol{\vec a}\cdot(\ycol{\vec b}+\zcol{\vec c}) = \xcol{\vec a}\cdot(\ycol{\vec b_\parallel}+\zcol{\vec c_\parallel}) =\goverbrace{\xcol{\vec a}\cdot\ycol{\vec b_\parallel}}^{\pm|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b_\parallel}|}+\goverbrace{\xcol{\vec a}\cdot\zcol{\vec c_\parallel}}^{\pm|\xcol{\vec a}||\zcol{\vec c_\parallel}|} \end{equation} を示せば十分である式の上の$|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b_\parallel}|$と$|\xcol{\vec a}||\zcol{\vec c_\parallel}|$には複号がついているが、同じ向きを向いていれば$+$、逆向きなら$-$であることに注意。

 まず示すべきことは第1の等式、つまり「$\ycol{\vec b}+\zcol{\vec c}$の$\xcol{\vec a}$方向への射影」と、「$\ycol{\ycol{\vec b}}$の$\xcol{\vec a}$方向への射影」および「$\zcol{\vec c}$の$\xcol{\vec a}$方向への射影」の和が等しいことである。これは

のような図を描けば納得できるだろう。

 立体的ベクトルの場合、

のように、$\zcol{\vec c}$には紙面に垂直な方向」にはみ出す成分がある$\xcol{\vec a}$と$\ycol{\vec b}$が平面上にあるように図を描いているので、この二つのベクトルは考えている平面内にある。$\zcol{\vec c}$ははみ出す可能性がある。が、それは計算に効かない。

$\ycol{\vec b_\parallel},\zcol{\vec c_\parallel}$は$\xcol{\vec a}$と同じ向きだから、実数$\beta,\gamma$を使って$\ycol{\vec b_\parallel}=\beta \xcol{\vec a},\zcol{\vec c_\parallel}=\gamma\xcol{\vec a}$と書ける。よってベクトルの実数倍に関する分配法則$(\lambda_1+\lambda_2)\xcol{\vec a}=\lambda_1\xcol{\vec a}+\lambda_2\xcol{\vec a}$を使うことができて、第2の等式もわかる。
幾何ベクトルの内積 内積の満たす法則

内積の満たす法則

このページはビデオを作ってないので、読んで理解しておいてください。
 内積に関する定理を、まとめて書いておこう。

幾何ベクトルの内積に関する定理

  1. $\vec{u}\cdot\vec{v}=\vec{v}\cdot\vec{u}$(交換法則)
  2. $(\vec{u}+\vec{v})\cdot\vec{w}=\vec{u}\cdot\vec{w}+\vec{v}\cdot\vec{w}$(分配法則)
  3. $(\alpha\vec{u})\cdot\vec{v}=\alpha(\vec{u}\cdot\vec{v})$\label{alphav}
  4. $\vec{v}\cdot\vec{v}\ge0$(等号が成り立つのは$\vec{v}=\vec{0}$のときのみ)
 3.は上で説明していないが、容易に理解できると思う。

Schwarzの不等式と三角不等式

内積の大小関係としては、

Schwarzの不等式

\begin{align} -|\vec u|\,|\vec v|\le \vec u\cdot\vec v\le |\vec u|\,|\vec v| \end{align}

という式がある。

 この式は、幾何ベクトルの関係式としては、

という図を見ると理解できるし、$-1\le \cos\theta\le 1$からもわかるだろう。

 これを使うと、以下の式が証明できる。

三角不等式

\begin{align} \left||\vec u|-|\vec v|\right|\le |\vec u+\vec v|\le |\vec u|+|\vec v| \end{align}
Schwarzの不等式から三角不等式を導け。

 問いでは計算で示したが、下のように図を掛けばわかる(「三角不等式」という名前の意味も明白だ)。ついでに、$\vec u-\vec v$のような引き算の長さがどうなるかを表す図も下の右に示した。

 図ではどちらも、$\vec u$を固定して$\vec v$は長さ$|\vec v|$を固定して向きを変えている。$\vec u\pm\vec v$の長さの最大・最小を図から読み取れば三角不等式が示される。

 こうして、ベクトルを「成分と呼ばれる数$N$個(2次元なら2個、3次元なら3個)で表現されたもの」と考えることもできるようになる。次ではその考え方に従ってベクトルの演算を定義しよう。

内積の交換・結合・分配法則 数ベクトルの内積

数ベクトルの内積

 数ベクトルの内積に関する説明は、ビデオと文章によるものがあるので見るまたは読む(あるいは両方)をして理解していってください。↓がビデオです。

内積の成分表示での計算法

 分配法則など、内積の計算方法がいくつかわかったので、これらを使って数ベクトルでの内積がどのようなものになるかが計算できる。任意の二つのベクトル$\vec a$と$\vec b$を、直交座標の基底を使って$\vec a=a_x\ve_x+a_y\ve_y+a_z\ve_z$および$\vec b=b_x\ve_x+b_y\ve_y+b_z\ve_z$と成分で表したとする。この二つのベクトルの内積を成分で表示してみよう。

 ここで使う基底ベクトル$\ve_x,\ve_y,\ve_z$はそれぞれの軸の方向を向いた単位ベクトル(長さ1)なので、 \begin{equation} \ve_x \cdot \ve_x = \ve_y \cdot \ve_y = \ve_z \cdot \ve_z =1~~~ (それ以外)=0\label{exeyez} \end{equation} が成り立つ。ここで、

クロネッカーのデルタ

\begin{align} \delta_{ij} =\begin{cases}1& i=jのとき\\0&i\neq jのとき\end{cases} \end{align}

で定義される「クロネッカーのデルタ(Kronecker delta)」という記号を使うと、上の式は$\ve_i\cdot \ve_j=\delta_{ij}$と書くことができる。$i,j$に$x,y,z$のどれかが入る。

 二つのベクトルの内積を分配法則を使って計算すると \begin{equation} \begin{array}{rl} &\left(a_x\ve_x+a_y\ve_y+a_z\ve_z\right) \cdot\left(b_x\ve_x+b_y\ve_y+b_z\ve_z\right) \\[2mm] =& \phantom{+}a_x\ve_x \cdot b_x\ve_x + \kesi{a_x\ve_x \cdot b_y\ve_y}+ \kesi{a_x\ve_x \cdot b_z\ve_z} \\[2mm] &+ \kesi{a_y\ve_y \cdot b_x\ve_x} +a_y\ve_y \cdot b_y\ve_y +\kesi{a_y\ve_y \cdot b_z\ve_z} \\[2mm] &+\kesi{ a_z\ve_z \cdot b_x\ve_x} +\kesi{a_z\ve_z \cdot b_y\ve_y} +a_z\ve_z \cdot b_z\ve_z \\[2mm] =& a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z \end{array} \end{equation} となる。つまり内積は「$x$成分どうし、$y$成分どうし、$z$成分どうしの積を足す」という計算になっている。

内積の成分表示

$\vec a=\mtx[c]{a_x\\[-1mm]a_y\\[-1mm]a_z}$}と$\vec b=\mtx[c]{b_x\\[-1mm]b_y\\[-1mm]b_z}$の内積 \begin{equation} \vec a\cdot\vec b = a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z \end{equation}

 下付き添字を$x,y,z$ではなく$1,2,3$を使って(つまり$a_1=a_x,a_2=a_y,a_3=a_z$と書いて、内積を \begin{equation} \vec a\cdot\vec b = a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3=\sum_{\dum{j}=1}^3a_{\dml{j}}b_{\dmr{j}} \end{equation} のように書くこともある。ここで1から3までが代入される添字$\dum{j}$は「ダミーの添字」と呼ぶ。

 本講義では、ダミー添字は色付きにすることにする。

 後日渡す冊子は白黒印刷なので色つきと言っても灰色になるが、そこは勘弁して欲しい。web上のテキストは色付きになる。

 かつ、二つの添字を揃えて足し上げるとき内積や、後で考える外積はもちろん、行列の掛算を表現するときにも、「二つの添字を揃えて足し上げる」という操作は非常に多い。には$a_{\dml{i}}a_{\dmr{i}}$のように灰色括弧付きで記して他の添字と区別しやすいようにすることにする。${}_{\dml{i}}$のような添字が出てきたら「後ろにある${}_{\dmr{i}}$と揃えて足算するのだな」と思って欲しい。

 普通は、こんな書き方はしていない。本講義は例外的におせっかいなのである。これはいわば「自転車の補助輪」のようなもので、勉強していくうちにいらなくなるものである。もちろん、式を手書きするときなどに色を変えたり$\dml{~},\dmr{~}$を書き入れたりする必要はない。「こんなもんいらんやろ」と思う人は単に無視すればよい。

 内積は$\vec a\cdot\vec b$のように記号$\cdot$を使って書いてもいい(これを行ベクトルや列ベクトルで表すと$\mtx[ccc]{a_x&a_y&a_z}\cdot\mtx[ccc]{b_x&b_y&b_z}$あるいは$\mtx[c]{a_x\\[-1mm]a_y\\[-1mm]a_z}\cdot\mtx[c]{b_x\\[-1mm]b_y\\[-1mm]b_z}$になる)が、$\mtx[ccc]{b_x&b_y&b_z}\mtx[c]{a_x\\[-1mm]a_y\\[-1mm]a_z}$のように行ベクトルと列ベクトルを並べて書いてもよい。こちらの書き方のときは$\cdot$はいらない。

 なぜこういう書き方をするかというと、このように列ベクトル・行ベクトルと並べた場合は行列の掛算(たとえば、$\mtx{a&b\\c&d}\mtx[c]{x\\y}=\mtx[c]{ax+by\\ cx+dy}$)と同じ計算になるからである。1行のみの行列を前から掛けていると考えると、$\mtx{a&b}\mtx[c]{x\\y}=\mtx[c]{ax+by}$のような式になる(1成分しかないから右辺の括弧は外していい)。

内積を使った射影の定義

 $\vec a$のうち、ベクトル$\vec b$の方向を向いた成分を取り出すことを「射影」と言う。$\vec a_{\parallel}$を求める計算である。$\vec a_{\parallel}$の長さ$\left|\vec a_{\parallel}\right|$に$|\vec b|$を掛けたもの(ただし、$\vec a_\parallel$と$\vec b$が逆向きのときは$-$をつける)が内積である($\vec a\cdot\vec b=\pm|\vec a_\parallel|\,|\vec b|$)。

 「射影を使って内積を定義した」という先の流れとは逆に、内積を使って射影を表現することもできる。

 最終的にベクトルの定義を幾何ベクトルではなく、もっと広いものとして捉えていくので、図形的な意味の射影から離れる準備をしておく必要がある。

 よって$\left|\vec a_{\parallel}\right|=\pm{\vec a\cdot\vec b\over |\vec b|}$が言える。これに$\vec a_\parallel$方向を向いた単位ベクトル$\pm{\vec b\over|\vec b|}$を$\pm$がつくのは、$\vec a_\parallel$の方向と$\vec b$の方向が一致してない場合があるから。掛ければ、 \begin{align} \vec a_{\parallel}={\vec a\cdot\vec b\over |\vec b|^2}\vec b \end{align} がわかる。$\vec b$に垂直な方向はこれを$\vec a$から引けばよいから、 \begin{align} \vec a_{\bot}=\vec a-{\vec a\cdot\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\label{naisekichokkousiki} \end{align} となる。

【問い】上の式の$\vec a_{\bot}$と$\vec b$が垂直であることを、内積を取るとゼロになることで確認せよ。
 確認するだけなので、答えは書かない。やってみよう。

 この式の順番を少し変えて、 \begin{align} \vec a_{\parallel}=&{\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot \vec a \\ \vec a_{\bot} =&\vec a-\vec b{\vec b\cdot\vec a\over |\vec b|^2} =\left(1-{\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot\right)\vec a \end{align} と変えると、${\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot \ovalbox{?}$は「$\ovalbox{?}$から$\vec b$と平行な方向のベクトルを取り出す演算」になっているし、$\left(\ovalbox{?}-{\vec b\over |\vec b|^2}\vec b\cdot\ovalbox{?}\right)$は「$\ovalbox{?}$から$\vec b$と垂直な方向のベクトルを取り出す演算」と見ることができる。

 以下はビデオにはしてない説明ですが、読んでおいてください。

内積を使った成分の分解

 任意のベクトル$\vec A$が与えられたとき、その$\xcol{x}$成分$A_x$を求めたければ、$\ve_x$と内積を取ればよい。 \begin{equation} \ve_x\cdot\left(A_x\ve_x+A_y\ve_y+A_z\ve_z\right)=A_x \end{equation} となるからである。$A_y,A_z$についても同様なので、 \begin{equation} \vec A=\ve_x\goverbrace{(\ve_x\cdot\vec A)}^{A_x}+\ve_y\goverbrace{(\ve_y\cdot\vec A)}^{A_y}+\ve_z\goverbrace{(\ve_z\cdot\vec A)}^{A_z}=\sum_{\dum{j}=1}^3\ve_{\dml{j}}\left(\ve_{\dmr{j}}\cdot\vec A\right) \end{equation} が言える。この一連の計算により$\vec A$がまた$\vec A$に戻る。よって任意のベクトル$\ovalbox{?}$に対して演算$\ve_x(\ve_x\cdot \ovalbox{?})+\ve_y(\ve_y\cdot \ovalbox{?})+\ve_z(\ve_z\cdot \ovalbox{?})$は恒等演算(何もしない演算)になっている。この恒等演算から「$z$方向への射影」である$\ve_z(\ve_z\cdot \ovalbox{?})$を除くと、「$z$方向に垂直な方向への射影」(または「$xy$平面への射影」)である$\ve_x(\ve_x\cdot \ovalbox{?})+\ve_y(\ve_y\cdot \ovalbox{?})$になる。

 PDFの方にはここに「双対基底」の説明がありますが、授業としては飛ばします。
内積の満たす法則 外積

外積

外積の定義:2次元

 外積の(幾何ベクトルとしての)定義を説明するためのアプリがある。まず説明ビデオを見てから、自分でもいろいろとベクトルを動かして外積を実感しよう。実感し終わったら「戻る」で戻ってくること。

 外積(exterior product)は、記号$\times$を使うので「クロス積($\times$積)(cross product)」と呼んだり、本によっては記号$\wedge$を使い、「くさび積(wedge product)」と呼ぶ場合もある(次元が3より大きくなる状況ではこっちを使うことが多い)。また、結果がベクトルになる積、という意味で「ベクトル積(vector product)」と呼ぶこともある(この呼び方は3次元でのみ意味がある)。

 外積もまた、二つのベクトルによる計算だが、内積と違って、結果はスカラーとは限らない(2次元ではスカラー、3次元ではベクトルである)。

実数や複素数の掛け算は$a\cdot b$と書いたり$a\times b$と書いたり、さらには記号なしで$ab$と書いたりするが、ベクトルとベクトルの場合は内積なら$\vec a\cdot\vec b$、外積なら$\vec a\times\vec b$と使い分ける必要がある。

 2次元(平面)の場合の外積は、右図のように内積のときには捨てていた垂直成分$\vec b_\bot$の方を掛算するという計算である(下で述べるように、符号に注意)。

 ベクトルの積として、「内積」と「外積」と二つの積が出てくるが、$\ycol{\vec b}$のうち、$\xcol{\vec a}$から見て「外側」である$\ycol{\vec b}_\bot$が効いてくるのが「\強調{外}積」、「内側」である$\ycol{\vec b_\parallel}$が効いてくるのが「\強調{内}積」と考えておくと二つの区別がつきやすい。なお、符号が重要で、下の図のように定める。

 「反」がついている方がプラスなのはややこしいが、北半球からみたときの地球の自転の方向がプラス方向になっている。ちなみに時計回りが自転と逆向きなのは、日時計の針(つまりは影)が北半球では時計回りに回ることに沿っている。

 数式で表現するなら、

平面上の外積

 成す角を$\theta$である二つのベクトル$\xcol{\vec a}$と$\ycol{\vec b}$の外積は \begin{align} \xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b} =\pm|\xcol{\vec a}|\,|\ycol{\vec b_\bot}| =\pm|\xcol{\vec a_\bot}|\,|\ycol{\vec b}| =|\xcol{\vec a}|\,|\ycol{\vec b}|\sin\theta \end{align} である。ただし複号$\pm$は、$\xcol{\vec a}\to\ycol{\vec b}$が「反時計回りの位置関係」ならプラス、「時計回りの位置関係」ならマイナスである。角度$\theta$は結果の符号に一致するように取る。

 内積は二つのベクトルが「逆」を向くとマイナスになったが、外積$\xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}$は二つのベクトルが反時計回りか時計回りかで符号が変わる。なお、同じ向きならば結果は0である。

 3次元の外積のアプリがある。まず説明ビデオを見てから、自分でもいろいろとベクトルを動かして外積を実感しよう。実感し終わったら「戻る」で戻ってくること。

外積の定義:3次元

 3次元の場合外積はベクトルだが、その向きをまずは図形で表現しよう。二つのベクトルがある面上にあるとする任意の二つのベクトルがあるとき、どちらかを平行移動して矢印の根本を揃えてやれば、その二つのベクトルを含んでいる平面を持ってくることは常にできる。。外積の結果はその平面の法線方向を向く。

 「法線」というだけでは向きがわからないが、図に示したように「$\vec a$の向きから$\vec b$の向きへとベクトルを回したとき、右ネジが進む向きを「$\vec a\times \vec b$の向き」とする。

 外積という計算の結果であるベクトルの方向は「回転の軸」の方向である。

どの方向からどの方向へ回すか」の例として、三つの座標軸$x,y,z$から二つを選んで、図を描いてみよう。

 「$x$軸方向から$y$軸方向へ回す」という回転を「$z$軸回りの回転」と表現した(その意味は図に描き込んだように$z$軸の方向にドライバーを向けてネジを締めるように回すというイメージで理解してほしい)。

 図中にも書いたが、$y$軸回りの回転は「$x$軸方向から$z$軸方向」ではなく「$z$軸方向から$x$軸方向」であることにも注意しよう。

 二つのベクトルの外積の大きさは、 \begin{equation} |\xcol{\vec a}\times \ycol{\vec b}|=|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b}||\sin\theta| \end{equation} で表現される。$\theta$は二つのベクトルの成す角である。

 $|\xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}|$の図形的(幾何学的)意味は図の平行四辺形の面積である。あるいは$\ycol{\vec b}$を$\xcol{\vec a}$に並行な成分$\ycol{\vec b_\parallel}$と$\xcol{\vec a}$に垂直な成分$\ycol{\vec b}_{\bot}$に分けて($\xcol{\vec a}$と$\ycol{\vec b}$の役割は逆でも可)、 \begin{equation} |\xcol{\vec a}\times \ycol{\vec b}|=|\xcol{\vec a}||\ycol{\vec b}_\bot|=|\xcol{\vec a}_\bot||\ycol{\vec b}|\label{kieruheikou} \end{equation} という計算をしていると思ってもよい(これは横が$|\xcol{\vec a}|$で縦が$|\ycol{\vec b}_{\bot}|$の長方形の面積でもある)。

 2次元の場合、反時計回りに回る向き(今の場合$\xcol{\vec a}\times\tcol{\vec b}$)の時外積は正とし、時計回りでは負とする。特に、 \begin{equation} \ve_x\times\ve_y=1,~~\ve_y\times\ve_x=-1 \end{equation} であることはすぐにわかる(大きさは一辺が1の正方形の面積である)。

数ベクトルの内積 外積に関する定理など

外積に関する定理など

 外積に関する定理などの説明ビデオ↓

 3次元のベクトルの場合、 \begin{equation} \begin{array}{ll} \\ \ve_x\times\ve_y=\ve_z,~~~ & \ve_y\times\ve_x=-\ve_z,\\ \ve_y\times\ve_z=\ve_x,~~~ & \ve_z\times\ve_y=-\ve_x,\\ \ve_z\times\ve_x=\ve_y,~~~ & \ve_x\times\ve_z=-\ve_y \end{array} \label{cycliceq} \end{equation} という関係になる。

 これらの式は1行目の式をサイクリック置換すれば他の式も得られるようになっている。

「$x$を$y$に、$y$を$z$に、$z$を$x$に」という変更を「サイクリック置換」と呼ぶ。

 同じ方向を向いているベクトルどうしの外積は0である。平行四辺形の面積という意味を考えれば、「同じ方向を向いている2本のベクトルの作る面積は0」ということから納得できる(数式で考えるならば$\theta=0$である)。特に$\xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}=\vec 0$であっても$\xcol{\vec a}$も$\ycol{\vec b}$も零ベクトルでない場合があることには注意しよう。

 ベクトルの掛算については注意すべきことがたくさんあるが、特に普通の掛算との違いとして「戻せない演算である」ことに注意したい。普通の数の掛算は「$a$を掛ける」後に「$a$で割る」ことで元に戻せる($a=0$の場合は除く)。しかし外積は(内積も)そうはいかない。そもそも外積に対応する「割る」という演算は存在しない。その理由は明白で「違うベクトルなのに$\xcol{\vec a}$と外積を取ると結果が同じになってしまう」、すなわち、 $$ \ycol{\vec b}\times \xcol{\vec a} = \vec c\times \xcol{\vec a}~~~~~ であるが、~~~~ \ycol{\vec b}\neq \vec c $$ ということが(いくらでも)あり得るのである。この点を忘れると、 $$ \xcol{\vec a}\times(\vec x+\ycol{\vec b})=\xcol{\vec a}\times\vec c~~~~から~~~~ \vec x+\ycol{\vec b}=\vec c $$ のような間違った計算を「うっかり」やってしまうことになる。

外積の交換・結合・分配法則

 外積についても三つの法則が成り立つかどうか考えよう。

交換法則(成り立たない)

 $\xcol{\vec a}\times \ycol{\vec b}$はいわば「$\xcol{\vec a}$というベクトルを$\ycol{\vec b}$の方向に力を加えて回す向き」なのに対し、$\ycol{\vec b}\times \xcol{\vec a}$はその逆で「$\ycol{\vec b}$というベクトルを$\xcol{\vec a}$の方向に力を加えて回す向き」であり、この二つは逆の作用である。

 しかし、平行四辺形の面積には違いがないので、絶対値は等しい。よって、 \begin{equation} \xcol{\vec a}\times\ycol{\vec b}= - \ycol{\vec b}\times \xcol{\vec a}\label{gaisekikoukan} \end{equation} が成立する(外積の定義には$\sin \theta$が含まれているが、$\sin (-\theta)=-\sin \theta$からも以上のことはわかる)。3次元では外積の結果のベクトルが逆を向く。

結合法則(意味がない)

 2次元の外積は計算結果がスカラーなので$\xcol{\vec a}\times(\ycol{\vec b}\times \zcol{\vec c})$のような計算はできないので結合法則にはそもそも意味がない。

 3次元の外積で結合法則は成り立たない例を一つあげておこう(法則が成り立つことを示す時は一つの成り立つ例を出してもダメ(他に成り立たない場合があるかもしれない)であるが、成り立たないことを示すのなら、成り立たない例が一つあればそれで十分) \begin{equation} \ve_x \times(\ve_y\times\ve_y)=0 \end{equation} である(括弧の中の$\ve_y\times\ve_y$が0だから)ここでも、ベクトルが零ベクトル$\vec 0$であることを単に$=0$と表記している。。一方、 \begin{equation} (\gunderbrace{\ve_x \times\ve_y}_{=\ve_z})\times\ve_y=\ve_z \times \ve_y = -\ve_x \end{equation} となって0ではない。

分配法則(成立する)

 分配法則に関しては下のアプリをやってみてください。操作方法は内積のものとほぼ同じなので省略します。終わったら「戻る」で戻ってくること。
アプリは2次元の話なので、3次元の場合も含め、以下で説明しよう。
 分配法則は、外積についても成立する。式で書くと

外積の分配法則

\begin{equation} \zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})=\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}+\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c}\label{gaisekibunpai} \end{equation}

である。三つのベクトルを次の図のように考えよう。

 外積を取るときに計算に関与してくるのは$\zcol{\vec a}$に垂直な成分のみであるから、図に描いた「影」すなわち$\zcol{\vec a}$に垂直な面への射影が関係してくる。垂直な成分を${}_\bot$をつけて表すと、$\vec b_\bot,\vec c_\bot$と$(\vec b+\vec c)_{\bot}$は次の図(上の図を$\zcol{\vec a}$の向かう方向から見下ろしたところと思えばよい)のような関係にある。

 よって、$(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot$は$\xcol{\vec b}_\bot+\ycol{\vec c}_\bot$とも書けることに注意しよう。すなわち「足算する」と「射影する」の順番はどちらが先でも結果は同じである。

 $\zcol{\vec a}$と平行な成分は外積を取る時点で消えてしまうので、分配法則の成立を示すには、 \begin{equation} \zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot=\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}_\bot+\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c}_\bot\label{abcbot} \end{equation} を示せば十分である。

 $|\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}|=|\zcol{\vec a}||\xcol{\vec b}_\bot|$}のような式が成立するから、上の式に現れる三つのベクトルの大きさは、

のような三つの長方形の面積となる(足算が成立するのは面積ベクトルに対してであって、面積の大きさそのものに対しては成立しないことに注意)。

 一番左の図に示した長方形の面積$|\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot|$は、$|\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})|$と書いても同じ値である。そしてそれぞれのベクトルの向きは面の法線の方向を向く。我々が示したいのは、(\ref{abcbot})が成立することである。つまり、外積の分配法則は三角柱の三つの側面の面積に関する法則にもなっているのである。

 具体的な計算でも確認しておく。三角柱を真上から見た図で考えよう。

 三つのベクトル$\xcol{\vec b}_\bot,\ycol{\vec c}_\bot, (\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot$が三角形を作っている。$\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}_\bot,\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c}_\bot,\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})_\bot$($\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b},\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c},\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})$と書いても同じ)も三角形を作る。$\xcol{\vec b}_\bot$から$\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b}$をつくるという計算は「上から見て反時計回りに90度回して、$|\zcol{\vec a}|$を掛ける」という計算になる(図は$|\zcol{\vec a}|=1$の場合で描いた)。

 $\zcol{\vec c}_\bot,(\ycol{\vec b}+\zcol{\vec c})_\bot$に関しても同様のことが言えるので、$\zcol{\vec a}\times\xcol{\vec b},\zcol{\vec a}\times \ycol{\vec c},\zcol{\vec a}\times(\xcol{\vec b}+\ycol{\vec c})$というベクトルはちゃんと図のとおりに三角形を作る。これで、分配法則が証明できた。


 以上で第3回の授業は終わりです。

物理数学I webclass

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 なお、webClassに情報を載せていますが、授業があった日の午後7時より約1時間、オンラインオフィスアワーとしてzoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。

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外積 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。

内席と外積の分配法則や結合法則がアプリを用いて実感することができてとても分かりやすかった。
実感しながら勉強を進めてください。
一年の頃にやったが、今日の内容は難しく感じた。
ここはまだまだ基本のところなので、しっかり理解しておきましょう。
内積を行列の掛け算で計算するときに、列ベクトル・行ベクトルと並べえた場合は内積を表す・が必要ないということに関して、確かに実際に計算してみると必要がないことがよくわかるし、それぞれが持つ性質や意味をよく理解せず何となくで計算していると、特にベクトルではうっかりでとんでもない計算が出来上がりそうなので、今一度確認しておきたい。
この後さらに行列の計算に進みますが、やはり「意味」を理解した上で計算していくことが大事ですね。
内積と外積に関しては、物理でもよく見かけるなーと思っていて数式がシンプルになったり計算しやすくなったりと、大きな役割を全うしてくれているなと思った。特に三重積が体積になることは感覚的にも気持ちよかった。
物理では非常によく使う計算なので、理解していきましょう。
今まで公式で覚えていて理解しているとは言い難かったが、なぜ内積や外積が作られ、どのような時に使われるかがわかった。
公式は「理解した後で」使うものなので、まずは「何だこれ?」の部分を大事にしましょう。
今まで曖昧に理解していた内積、外積の関係を深く理解することができた。特に、外積について理解できていなかったのですが。図によりやっと理解できました。これからは頭の中で延々と考え続けるのではなく、手を使い、様々な手法を試していきたいと思います。
「手を使う」のはとっても大事です。
量が多くて大変だった。外積って奥が深いなと思った。
早く行列に入りたい気持ちで、ついつい長くなりすぎたようです。でもこの先もやることがいっぱいあったりするので。
内積、外積自体は高校でも大学でもやりましたが、それを図で考える事でこの法則が成り立つ理由や何でこの計算になるのか(内積・外積の法則や向きなど)を理解することが出来ました。内積・外積で成り立つ法則も計算、向きや求めているものも違うので何が成り立って何が成り立たないのか、計算によって何を求めているのか(向きや量)をしかっり抑えていきたいと思いました。
図解してイメージを持ちながら計算をやっていきましょう。
内積と外積がなぜ、内積と外積という名前なのかということがわかって納得できた。 ベクトルの掛け算は「戻せない演算」であることによく注意した方が良いと思ったが、それでもうっかり間違えそうな気がするので、注意するというそのことにも注意して、なぜ「戻せない演算」なのかということを内積、外積の幾何学的な定義に戻って注意しようと思った。 内積や外積の分配法則の証明は、ややこしく感じたけど、落ち着いて考えると意外に単純でおもしろかった。
「積」という名前ではあっても、外積・内積は普通の掛算と違うところがたくさんあるので「意味」を理解していくようにしてください。
外積と内積の定義やイメージが図でわかりやすく理解できた。なぜ、外積は平行だと0になるのか、内積もなぜ垂直だと0になるのかを図的にイメージもできたし、理論でもわかった。 内積がマイナスになる、物体がおしている方向とは逆向きに働くのは、物体が逆方向から別の力を受けているときということは当然のことであるが、説明されて納得がいった。内積や外積の図的理解と数式的理解ができてよかった。
概念を理解した上で、次は「使っていく」段階へと進みましょう。
外積に関する定理など