ここより下はビデオを用意しないが、読んでおいてください。
以下ではベクトルを使って図形を表現する方法について考えていこう。
2次元の内積・外積と直線
2次元平面上の直線を数式で表す方法として、
- (1)方程式(←これを満たす点の集合が考えている直線)
- (2)媒介変数表示(←を変化させると直線上を動く)
がある。媒介変数表示では、が独立変数で、はを決めると決まる、関数である(なので、のように書く)。一方(1)の方程式では、が変数。ただし、二つの変数の間に関係がついている。これらをベクトルを使って書き直すことを考えよう。
↑図はの場合で描かれている。
媒介変数表示の方は成分が並んだ形をしているので、すぐにベクトルで書き直すことができて、
となる。短く書けばとなる(物理でよく使う、等速直線運動のときの式である)。
ベクトルは直線の伸びていく方向を表すベクトルで、この直線の「方向ベクトル(direction vector)」と呼ばれる。
媒介変数表示から媒介変数(パラメータ)を「消す」と方程式が得られるはずである。せっかくベクトル表記を作ったし、ベクトルの公式もたくさん求めておいたのだから、ベクトルの計算(内積・外積)を使ってやってみよう。「を消す」ために、「と内積を取ったら消えるようなベクトルを見つけて内積を取る」という戦略を取る。すなわち、になるベクトルを見つけて、
のような計算をするか、「と外積を取る」という計算
をすればが消える。
第1の内積を使う方法を使ったならば、でとすれば
が出てくる。
第2の外積を使う方法を使ったならば}でとすれば
が出てくる。
つまり、直線の方程式の左辺は、ベクトルとベクトルの内積だったと考えることもできるし、ベクトルととの外積だったのだと考えることもできる。
方向ベクトルと垂直なベクトル(今の場合であった)をこの直線の「法線ベクトル(normal vector)」と呼ぶ。とすると、これと直交するベクトルの一例はである。
この式は、内積の分配法則を使って
と書き直すことができる。この式は「との内積が0である(すなわちこの二つのベクトルが直交する)」と述べていることになる。
方向ベクトルがであることを求めるには、2次元のベクトルであるをあえて3次元ベクトルにして、と外積を取るという方法もある。
である。なお、ここで外積の順番を逆にするとできあがる法線ベクトルはになる。倍になっただけで、法線ベクトルであるという性質は変わらない。
方向ベクトルも法線ベクトルも、定数倍(0倍を除く)しても「法線ベクトルである」「方向ベクトルである」という性質は変わらないことを注意しておこう。
法線ベクトルの方は、定義となる式という式でが定数倍されても(右辺が0だから)元の式と違いは何もない。
方向ベクトルの方は、定義となる式を見れば、が倍されたなら、という「任意の実数」が倍すれば元と同じ式になる。
線分とベクトル
位置ベクトルがである2点を通る線分(直線ではなく)上の点は
と表現できる。方向ベクトルがになっていると考えることもできる。なら、ならであることはすぐわかる。がすべての実数であればこの式は直線を表すが、の範囲に限ることにより「位置ベクトルがである2点を結ぶ線分上の点」を表している。
2本の直線(と)の交点を求めるには、この2式を連立方程式として解けばよい。成分でやるよりベクトル表示を使った方が見通しがいい。まず引き算を行って、
とする。パラメータとを求めたいから、上の式ととの外積をそれぞれ取って
となる。だと困ったことになるが、そうではないとすればこれでが決まる。これから決まるを元の式に代入した結果
が交点の位置ベクトルである。
三角形とベクトル
位置ベクトルがである三つの点を頂点とする三角形について考えていこう。
3つの辺は

のように、
の3本のベクトルで表現されることになる。このとき、
が成り立つことに注意せよ。

のように「辺と辺の境界である頂点から、辺を見る角度」をと表現することにする(角度も同様)。
角度Cのに関して
が成り立つ(これも、角度についても同様)。
三角形の面積は、外積を使うと
のように3通りの方法で表現することができる。この三つの表現が等しいことは、
のように外積の性質から証明できる。また、\式{threeS}をで割ると、
となって、これから正弦定理
が得られる。
余弦定理の方は、
のようにして内積の式から導くことができる。
円とベクトル
円周上の一点の位置ベクトルを、円の中心の位置ベクトルをとすると、
あるいは
がその満たすべき方程式である。
中心から、距離移動したとする。その移動の変位をとすれば、その点の位置ベクトルはである。円の反対側の点はと書くことができるが、その点も当然、円周上にある。以下の方程式が成り立つことはすぐに示すことができる。
これを示すには、スカラーに対してよく使うのベクトル版であるを使えばよい(証明はすぐできる)。
内積ではなく外積だと、とはならず、となる。これも証明はすぐできる。
この式の幾何学的意味は「とは直交する」ということで、これは確かに図を描くと「直径に対する円周角は直角である」ということだと納得できる。幾何学的に出てくる関係式を、ベクトルの式からも出すことができる。ここで、ベクトルで計算するときに、成分一個一個を計算する必要は全くない(たとえばと表現すれば、その座標と座標を両方書いて計算する必要はないのである)という点が重要で、ベクトルで表したときの大きな御利益である。