オンラインオフィスアワーに関するお知らせ

 ちょっと別の予定が入ったことと、あまり利用者がいないということで、この授業のオンラインオフィスアワーの時間を変えます。

 木曜と金曜の昼の11:50~12:50までにします。

 他の授業と合同ですが、質問や相談などがある人は来てください(zoomのアドレスなどはwebClassを見てください)。

 また、開いて欲しいときはメールなどで連絡をくれれば可能な時間に対応します。

 あと、webClassの掲示板は質問に使ってくれて構いません。

前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

第4回授業への受講者の感想・コメント

にありますので見ておいてください。

 では、今回からいよいよ行列に入ります。

行列が表すもの

1次式による計算を行列で表現する

 最初に考えた、小学校の算数のような問題

 1個100円のりんごと1個60円のバナナがある。たかしくんは600円持っている。これを全部使って、りんごとバナナを合わせて8個買いたい。それぞれ何個買えばよいか。

を(りんごをA個とバナナをB個買うと考えて) {100A+60B=600A+B=8 という連立1次方程式と考えたことを思い出そう。この問題はたとえば1個30円のさくらんぼも買うことにすれば {100A+60B+30C=600A+B+C=8 のように変わる(さくらんぼの数をCにした)。ちなみにこの問題は「解が一意でない」のだが、そうなることはどのように判定できるのか、というのも今後考えていきたい点の一つである。

 さらにりんご、バナナ、さくらんぼがそれぞれ40g,80g,10gの重さがあるとして全部で1kg買うのだとすれば、 {100A+60B+30C=600A+B+C=840A+80B+10C=1000 と問題が変わるだろう。これらの問題はすべて1次式で表現できている。これら三つの式をそれぞれ、 (1006011)(AB)=(6008),(1006030111)(ABC)=(6008),(1006030111408010)(ABC)=(60081000) と書いてしまうのが行列による表現である。

 行列による計算はベクトルの内積の計算の繰り返しになっている。たとえば上の最後の式は、 (1006030)(ABC)=600,(111)(ABC)=8,(408010)(ABC)=1000 という三つの「行ベクトルと列ベクトルの内積を取る」という計算を一つの式で表現していると見ることもできる。

 こういう説明を聞いていると、「簡単すぎてつまらない」と思うかもしれないが、それはもちろん「導入」の段階だからである。行列を使うことの意義は(前にも述べたように)操作×入力=出力のように、式の上で「入力」「操作」「出力」が分離されてくるということにある。上の例では入力がりんごだったり、出力が金額だったりするが、もっと複雑な量になっても、ここで考えたような計算が使える場合がある。

 なんらかの「入力」から入力に対応した一つの「出力」を得ることを数学では一般的に「写像」という。物理現象の多くが、この「操作」の部分に対応する。たとえばある物理的状態があるとする。その状態に「平行移動」「回転」のような変換を行ったり、「時間発展(ある物理的状態の「現在」から「未来」の状態を得る)」させたりする「操作」は、実は「線形写像」として表現できる。解析力学や量子力学という分野では、まさにこの考え方を使う。

 ってことは物理的状態ってのは一種のベクトルなのである。この後、ベクトルという言葉の意味をぐっと広げる。もはや「向きと大きさのある矢印」のようなものではないものに対しても線形代数の考え方が使えるのだ。

 次項で示すように、線形写像だということは実は「行列で書ける」ということなのである。

量子力学の基礎方程式であるSchrödinger方程式はまさに、操作×入力=出力のような式なのだが、この操作も(微分演算子なのだが)一種の行列と考えることができる。

 行列で書くことの「御利益」は「計算」に対応する部分の一箇所への集中である。後でじっくりやるが、我々はこの行列を見ることで「この問題の解は一意じゃない」「この問題には解がない」などを判定できる(それが線形代数の使い途の一つである)。

 このあたりの説明ビデオは↓

行列による線形写像

 行列を使って表現できるのは、次に述べる「線形写像(linear mapping)」(「線形変換(linear transformation)」または「1次変換」と呼ぶこともある)である。

 写像を記号で表現するとき、「ある集合Xから別の集合Yへの写像である」ことは「XY」のように表し、「ある要素xを別の要素yに写像する」ことは「xy」と表現する。たとえば「実数を2倍する」という写像は、「実数から実数への写像である」と表現したいなら RRと書く。「x2xに写す写像である」と表現したいなら、x2xと書く。
線形写像の定義

 ある写像XT(X)が、線形結合を取ってから写像しても、写像してから同じ係数で線形結合を取っても結果が同じ、すなわち T(α1X1+α2X2)=α1T(X1)+α2T(X2) を満たすとき「T(X)は線形写像である」と言う(ただし、α1,α2はスカラー量)。

 この条件は、T(X1+X2)=T(X1)+T(X2)T(α1X1)=α1T(X1)に分けて表記することも多い。これら二つは上の式でα1=α2=1と置いたものと、α2=0と置いたものである。

 上記をシンプルに「Tは線形である」と表現することもある。

 「線形写像である」ということは、かなり大きい制約である。世界に沢山ある「写像」のうち、一部に過ぎない。しかしそれでも重要なのは、「線形写像に限っても十分に応用範囲が広い」ということだ(特に物理では量子力学が線形写像を使いまくる)。

以下の写像は、線形写像ではない。どうして線形写像でないのか説明せよ。
(1) xax+b (2) xx2 (3)v|v|
答えを考えてからここをクリック
(1)a(x1)+bax1+b+ax2+bと一致しない(bが余る)。
(2)αxαx2ではなくα2x2に写像される。
(3)|a+b||a|+|b|ではない。

 線形写像の定義のX1,X2に入るもの(写像元)は実数は複素数はもとより、ベクトルであってもよい。ベクトルベクトルの線形写像は常に行列で表現できることを以下で示そう。

 一般のベクトルは基底を使ってx=x1v1+x2v2++xmvmのように表せる。写像先の方も(別の基底を使って)y=y1w1+y2w2++ymwmと表せるベクトルであるとしよう。つまり y=T(x)=T(x1v1+x2v2++xmvm) だが、Tは線形なので、 y=T(v1)x1+T(v2)x2++T(vm)xm のように「写像してから線型結合」の形に書き直すことができる。上の式の中で、y{T(v)}はベクトルなので、それらを成分表示で書くことにすれば、 (y1y2yn)y=(a11a21an1)T(v1)x1+(a12a22an2)T(v2)x2++(a1ma2manm)T(vm)xm となる(T(vj)i番目の成分をaijと書くことにした)。

 上の式を、(操作にあたる部分を左側にまとめて) (y1y2yn)=(a11a12a1ma21a22a2man1an2anm)(x1x2xm) と書いてしまうというのが「線形写像の行列による表現」である。

 j番目の成分だけが1で残りの成分は0のベクトル(0010)を変換すると(a1ja2janj)になるように行列を並べた、と考えてもよい。

 2×2行列なら、行列(abcd)を二つの列ベクトル(ac)(bd)に分けて、
 行列(abcd)は、ベクトル(10)(ac)へ、ベクトル(01)(bd)へと写像する線形写像を表している。

ということになる。

このあたりの説明を、アプリ
2x2行列
を使って説明しているビデオが↓
↑このアプリで、「行列による線形写像」のいろいろを体験してください。これでいろんな状況を体験すると、行列や線形写像の意味がよくわかります。