前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にありますので見ておいてください。
簡単なクイズとして、
というのを出しておきました。簡単かと思ったんですが、正解率は低かった(約50%)。正解は
でした。この行列による線形写像は↓のような感じです。
誤答としては、以下のようなものがありました。
↑これだと、線にはなりますが、問題は「点」になるやつです。
↑「全射」ということばはこの講義では使ってませんが、写像の結果が全空間(今の場合は全平面)を覆うという意味なので、「点」とは真逆です。
↑そもそも掛算できません。
↑これはどういう意味で使っているのだろう? 行列は線形写像の表現なので、ある意味すべての行列は「表現行列」です。
↑自分でも?しているぐらいだから自信がなかったんでしょうが、違います。単位行列だと面から面ですね。
前回、$2\times2$行列の逆行列の話をしましたが、そこで何度も登場した$ad-bc$という式について、説明をしそこなっていたので、今回はまずその説明をします。
$D=ad-bc$のことを「$2\times2$行列の行列式(determinant)」と呼ぶ。
「行列式」は「行列でできた式」の意味と勘違いされやすい。よって「ディターミナント」とカタカナ読みすることも多い。determinantは「これで行列の性質が決まる!」という意味を含ませた命名である。
記号として$\det$を使い、$\mt{A}$の行列式は$\det\mt{A}$と書く。後で、$3\times3$行列やそれより次元の高い$n\times n$行列でも同様の式を考えるが、それらも「行列式」と呼び記号$\det$を使う。
行列式は行列の要素すべてで決まるから、$\det \mt{A}$は($2\times2$行列の場合)4個の変数$A_{ij}$の関数だと言えるが、見方によっては、「2本の列ベクトル$\vec v_1,\vec v_2$の関数」と見てもよいし、「2本の行ベクトル$(\vec w_1)^t,(\vec w_2)^t$の関数」と見てもよい。
具体的には
それぞれ考えることもできる。ちなみに、$2\times2$行列の行列式は外積と同じ計算をすることになるので、 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2}=\vec v_1\times \vec v_2,~~~ \det\mt{A}\kakko{\vec w_1,\vec w_2}=\vec w_1\times \vec w_2 \end{align} が成り立つ。
外積には(内積にも)双線形性があった。同様に$2\times2$行列の行列式にも双線形性 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\lambda \vec v_1,\vec v_2}=\lambda \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2},~~~ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\lambda\vec v_2}=\lambda \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2},\\ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2+\vec v_3}= \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2} +\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_3},\\ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1+\vec v_2,\vec v_3}= \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_3} +\det\mt{A}\kakko{\vec v_2,\vec v_3} \end{align} がある。つまり、$\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2}$と書いたときの前の引数に対しても後ろの引数に対しても「線形結合してから計算しても、計算してから線形結合を取っても結果は同じ」である。図で表現すると↓のような感じ。
外積は「同じベクトルどうしの外積は0」という性質があったので、 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2+\lambda\vec v_1}=\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2},~~~ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1+\lambda \vec v_1,\vec v_2}=\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2} \end{align} という性質もある。
また、入れ替えに対して反対称 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2} =- \det\mt{A}\kakko{\vec v_2,\vec v_1} \end{align} でもある(これも外積の性質)。これらの性質は「行ベクトルの関数」と考えたときも「列ベクトルの関数」と考えたときも、同様に成り立つ。
$2\times2$行列の行列式は、行列がスカラー倍されたとき、$(そのスカラー)^2$倍になる。$\mtx{a&b\\ c&d}\to \mtx{\lambda a&\lambda b\\\lambda c&\lambda d}$という変換($\mt{A}\to\lambda\mt{A}$という変換)により、$D=ad-bc$は$\lambda^2 D = \lambda a\times\lambda d-\lambda b\times \lambda c$と変化するわけである。
一方、足し算の方に関しては簡単な関係はない。$\det\mtx{a_1+a_2&b_1+b_2\\ c_1+c_2&d_1+d_2}$という量を考えてみれば、これが$a_1d_1-b_1c_1$や$a_2d_2-b_2c_2$では表せないことはすぐにわかるだろう。
行列の積が交換法則を満たさないことはすでに述べた。他の法則はどうだろうか。
前回では当然のように、以下の計算において二つの計算方法での結果が同じであると考えた。 \begin{align} \begin{array}{rl} \mtx[c]{\zcol{x''}\\ \tcol{y''}}=&\mtx{a&b\\c&d}\goverbrace{\mtx{e&f\\g&h}\mtx[c]{\xcol{x}\\ \ycol{y}}}^{こちらを先に計算しても}\\ &\gunderbrace{\phantom{\mtx{e&f\\g&h}\mtx{a&b\\c&d}}}_{こちらを先に計算しても} \end{array} \end{align} これは計算の結果が結局は単純な掛け算と足し算の繰り返しであることを考えると納得できる。
行列三つの積$\mt{A}\mt{B}\mt{C}$についても同様に、$\mt{A}\mt{B}$の方を先に計算しても$\mt{B}\mt{C}$を先に計算しても結果が同じ、すなわち、 \begin{align} \begin{array}{rl} \left( \mt{A}\mt{B}\right) \mt{C} = \mt{A}\left(\mt{B}\mt{C}\right) \end{array} \end{align} ということが言える。これを行列の積の結合法則という。証明は、行列$\mt{A}\mt{B}\mt{C}$の$i,j$成分が \begin{align} \left( \mt{A}\mt{B}\mt{C}\right)_{ij}= \sum_{\dum[xcolor]{k},\dum[ycolor]{\ell}}A_{i\dml[xcolor]{k}}B_{\dmr[xcolor]{k}\dml[ycolor]{\ell}}C_{\dmr[ycolor]{\ell}j} \end{align} と書けることを考えるとすぐにわかる。結合法則は、行列が何行何列の行列であっても成り立つ。
逆行列に関しては$\mt{A^{-1}}\mt{A}=\mt{I}$という式と$\mt{A}\mt{A^{-1}}=\mt{I}$という式を示したが、この「左から掛ける逆行列」と「右から掛ける逆行列」が等しい保証はあるだろうか?---$\mt{A}=\mtx{a&b\\c&d}$に、逆行列$\mt{A^{-1}}={1\over ad-bc}\mtx[cc]{d&-b\\-c&a}$を左から掛けても右から掛けても単位行列になることは、すぐに確認できる。とはいえ、何行何列の行列でも大丈夫なのかは証明が必要だろう。
前項で結合法則を確認したことで、この疑問に答えることができるようになった。
この二つの行列が違う可能性を考えて、 \begin{align} 左逆行列:& & \mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}\mt{A}=&\mt{I}を満たす\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}\\ 右逆行列:& & \mt{A}\mt{A^{-1}_{{\scriptscriptstyle\rangle}}}=&\mt{I}を満たす\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}} \end{align} を定義してみよう。$\mt{A}$が$m\times n$行列だとすると左逆行列も右逆行列も(存在するならば)$n\times m$行列でなくてはいけない。
\begin{align} \gunderbrace{\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}}_{m\times n} \gunderbrace{\mt{A}}_{n\times m}=\gunderbrace{\mt{I}}_{m\times m},~~~~ \gunderbrace{\mt{A}}_{n\times m} \gunderbrace{\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}}_{m\times n} =\gunderbrace{\mt{I}}_{n\times n} \end{align} のように行数と列数が決まる(二つの式の$\mt{I}$はどっちも単位行列だが、次元が違う)。
ここまででは$2\times2$行列しか考えてないが、行数と列数が等しい行列($n\times n$行列)のことを「正方行列」と呼ぶことにする。以下は正方行列について考えることにする。
$\mt{A}$を左逆行列と右逆行列で挟んだ$\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}\mt{A}\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}$を考えると、 \begin{align} \mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}\gunderbrace{\mt{A}\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}}_{先に計算}=&\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}\\ \gunderbrace{ \mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}\mt{A}}_{先に計算}\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}=&\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}} \end{align} となる。結合法則により上の二つは等しいから、
左逆行列と右逆行列は等しい
正方行列$\mt{A}$に対し逆行列が存在するならば \begin{align} \mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}=\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}} \end{align}である。つまり、左逆行列と右逆行列を区別する必要はない。 が言える。
正方行列でない場合を考えよう。たとえば$\mt{A}=\mtx[ccc]{a&b&c\\d&e&f}$のような$3\times2$の行列では、左逆行列は \begin{align} \goverbrace{\mtx[cc]{A&B\\C&D\\E&F}}^{\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}}}\mtx[ccc]{a&b&c\\d&e&f}=\mtx[ccc]{1&0&0\\0&1&0\\0&0&1} \end{align}
右逆行列は \begin{align} \mtx[ccc]{a&b&c\\d&e&f}\goverbrace{\mtx[cc]{A&B\\C&D\\E&F}}^{\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}}=\mtx[cc]{1&0\\0&1} \end{align}
となるような行列であろう。
実は$m>n$のとき左逆行列は存在しないことが以下のようにしてわかる。
$3\times2$行列の例で示そう。$\mt{A}$を$\mtx[c@{\,}c@{\,}c]{\tatevec{\vec v_1}\!&\tatevec{\vec v_2}\!&\tatevec{\vec v_3}}$のように3本の2次元列ベクトルを並べたものと解釈する。2次元で3本のベクトルが線形独立であることは有り得ないから、$\alpha_1\vec v_1+\alpha_2\vec v_2+\alpha_3\vec v_3=0$となるようなすべてが0ではない係数$\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3$が存在する(つまり線形従属である)。ゆえに \begin{align} \goverbrace{ \mtx[c@{\,}c@{\,}c]{\tatevec{\vec v_1}\!&\tatevec{\vec v_2}\!&\tatevec{\vec v_3}} }^{\mt{A}} \mtx[c]{\alpha_1\\\alpha_2\\\alpha_3}=0 \end{align} となるようなベクトル$\mtx[c]{\alpha_1\\[-2mm]\alpha_2\\[-2mm]\alpha_3}$が存在する。ということは$\mt{A}$に左逆行列はない。あったとすると、 \begin{align} \gunderbrace{\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\langle}} \mt{A}}_{=\mt{I}?}\mtx[c]{\alpha_1\\\alpha_2\\\alpha_3}=0 \end{align} となるが、これは矛盾する式である。$m>n$なら以上の話は同様に成り立つ。
上のことから、$m>n$のとき右逆行列はユニークに決まらないということもわかる。というのは、もし右逆行列を一つ$\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}=\mtx[cc]{B_{11}&B_{12}\\B_{21}&B_{22}\\B_{31}&B_{32}}$見つけたとすると、この行列のどちらかの列に$\mtx[c]{\alpha_1\\\alpha_2\\\alpha_3}$を足した行列も、 \begin{align} \mt{A}\mtx[cc]{B_{11}+\alpha_1&B_{12}\\B_{21}+\alpha_2&B_{22}\\B_{31}+\alpha_3&B_{32}} ={\mt{A}}\mtx[cc]{B_{11}&B_{12}\\B_{21}&B_{22}\\B_{31}&B_{32}}=\mt{I} \end{align} となって、右逆行列になってしまうからである。
$\infty\times\infty$行列の場合、右逆行列と左逆行列は等しくないことがある(これは、無限次元の行列の積は結合法則を満たさないということを示している)。たとえば、 \begin{align} \mt{A}=\mtx[cccccc]{ ~0~&~1~&~0~&~0~&~0~&\cdots\\ ~0~&~0~&~1~&~0~&~0~&\cdots\\ ~0~&~0~&~0~&~1~&~0~&\cdots\\ ~0~&~0~&~0~&~0~&~1~&\cdots\\ ~0~&~0~&~0~&~0~&~0~&\cdots\\ \vdots& \vdots& \vdots& \vdots& \vdots& } \label{ageru} \end{align} という行列を考えると、この行列は$\mtx[c]{a\\b\\\vdots}$を$\mtx[c]{b\\c\\\vdots}$にする。つまり「成分を一つ上に上げる行列」である。右逆行列は \begin{align} \mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}=\mtx[cccccc]{ ~0~&~0~&~0~&~0~&~0~&\cdots\\ ~1~&~0~&~0~&~0~&~0~&\cdots\\ ~0~&~1~&~0~&~0~&~0~&\cdots\\ ~0~&~0~&~1~&~0~&~0~&\cdots\\ ~0~&~0~&~0~&~1~&~0~&\cdots\\ \vdots& \vdots& \vdots& \vdots& \vdots& }\label{sageru} \end{align} で、この行列は$\mtx[c]{a\\b\\\vdots}$を$\mtx[c]{0\\a\\\vdots}$にする、「成分を下げる行列」である。$\mt{A}\mt{A^{-1}_{\scriptscriptstyle\rangle}}=\mt{I}$であることはすぐ確認できる。しかし、左逆行列はない。つまり「下げてから上げると元に戻るが、上げてから下げると元に戻らない」のである。このことは「上げる操作が$a$の情報を消してしまう」ということからも理解できる。
分配法則が成り立つことは成分で書けば \begin{align} \sum_{\dum{j}=1}^m A_{i\dml{j}}\left( B_{\dmr{j}k} +C_{\dmr{j}k} \right) =\sum_{\dum{j}=1}^m A_{i\dml{j}}B_{\dmr{j}k}+\sum_{\dum{j}=1}^m A_{i\dml{j}}C_{\dmr{j}k} \end{align} となることからすぐわかる。スカラー倍についても同様である。
次の具体例として、$3\times3$行列を考えよう。 \begin{equation} \gunderbrace{\mtx[ccc]{A_{11}&A_{12}&A_{13}\\A_{21}&A_{22}&A_{23}\\A_{31}&A_{32}&A_{33} }}_{\mt{A}}\mtx[c]{\xcol{x}\\\ycol{y}\\\zcol{z}}=\mtx[c]{\rcol{u}\\\thetacol{v}\\\phicol{w}} \end{equation} を解くために、この行列$\mt{A}$の逆行列を求める方法を考えよう。
$2\times2$の経験からこの式を \begin{equation} \gunderbrace{\mtx[c]{A_{11}\\A_{21}\\A_{31}}}_{\vec A_1}\xcol{x} + \gunderbrace{\mtx[c]{A_{12}\\A_{22}\\A_{32}}}_{\vec A_2}\ycol{y} + \gunderbrace{\mtx[c]{A_{13}\\A_{23}\\A_{33}}}_{\vec A_3}\zcol{z} =\mtx[c]{\rcol{u}\\\thetacol{v}\\\phicol{w}} \end{equation} と書き直す。そして、たとえば「$\zcol{z}$を求めるために$\xcol{x}$と$\ycol{y}$を消す」という操作を行なうためには、$\vec A_1$と$\vec A_2$に直交するベクトルを持ってきて内積を取ればよい($\xcol{x},\ycol{y}$を求めるときも同様)。
では、$\vec A_1$と$\vec A_2$の両方に直交するベクトルはどうやって作るか。外積は元のベクトルと直交する(たとえば、。$(\vec A_1\times\vec A_2)\cdot\vec A_1=0$)から、$\vec A_1\times\vec A_2$が「$\vec A_1$と$\vec A_2$の両方に直交するベクトル」である。
同様に、$\vec A_1$と$\vec A_3$に垂直なベクトルとして$\vec A_3\times\vec A_1$を、$\vec A_2$と$\vec A_3$に垂直なベクトルとして$\vec A_2\times\vec A_3$を持ってくればいいだろう。
というわけで、 \begin{align} \mtx[c]{\yokovec{\lambda_1(\vec A_2\times\vec A_3)}\\[1mm] \yokovec{\lambda_2(\vec A_3\times\vec A_1)}\\[1mm] \yokovec{\lambda_3(\vec A_1\times\vec A_2)}}\label{Athreeinv} \end{align} のようにベクトルを並べると逆行列ができる。ただし、係数$\lambda_1,\lambda_2,\lambda_3$は結果が単位行列になるように調整するための因子である(実は$\lambda_1=\lambda_2=\lambda_3$であることがすぐわかる)。
行列の掛算をやってみると、 \begin{align} \mtx[c]{\yokovec{\lambda_1(\vec A_2\times\vec A_3)}\\[1mm] \yokovec{\lambda_2(\vec A_3\times\vec A_1)}\\[1mm] \yokovec{\lambda_3(\vec A_1\times\vec A_2)}}\mtx[c@{\,}c@{\,}c]{\nagatatevec{\vec A_1}&\nagatatevec{\vec A_2}&\nagatatevec{\vec A_3}}\nonumber\\ =\mtx[ccc]{ \lambda_1(\vec A_2\times\vec A_3)\cdot\vec A_1&0&0\\ 0&\lambda_2(\vec A_3\times\vec A_1)\cdot\vec A_2&0\\ 0&0&\lambda_3(\vec A_1\times\vec A_2)\cdot\vec A_3 } \end{align} となる(外積の性質から0となる成分は最初から0と書いた)。よって \begin{align} \lambda_1(\vec A_2\times\vec A_3)\cdot\vec A_1=\lambda_2(\vec A_3\times\vec A_1)\cdot\vec A_2=\lambda_3(\vec A_1\times\vec A_2)\cdot\vec A_3=1 \end{align} とすれば$\mt{A}$の逆行列になる。ベクトルのスカラー3重積に関する式を思い出せば$(\vec A_2\times\vec A_3)\cdot\vec A_1=(\vec A_3\times\vec A_1)\cdot\vec A_2=(\vec A_1\times\vec A_2)\cdot\vec A_3=1$だから、 \begin{align} \lambda_1=\lambda_2=\lambda_3={1\over (\vec A_2\times\vec A_3)\cdot\vec A_1} \end{align} である。つまり、 \begin{align} \mt{A^{-1}}={1\over (\vec A_2\times\vec A_3)\cdot\vec A_1} \mtx[c]{\yokovec{(\vec A_2\times\vec A_3)}\\[1mm] \yokovec{(\vec A_3\times\vec A_1)}\\[1mm] \yokovec{(\vec A_1\times\vec A_2)}}\label{gyakuA} \end{align} と求められた。
ここに現れた因子$\vec A_1\cdot\left(\vec A_2\times\vec A_3\right)$は、$2\times2$行列のときの$ad-bc$に対応するものだから、「$3\times3$行列の行列式(determinant)」ということになる($\det\mt{A}$で表す)。
$\det \mt{A}$すなわち$\vec A_1\cdot\left(\vec A_2\times\vec A_3\right)$は、$\vec A_2,\vec A_3$が作る平行四辺形を「底面」として、$\vec A_1$の方向へと伸びる斜め角柱の体積に等しい(添字${}_1,{}_2,{}_3$をサイクリック置換してもよい)。$2\times2$の行列式が「ベクトルの作る面積」になっていたのに対応している。
$2\times2$、$3\times3$の行列に対して逆行列を求める方法がわかった。ここまでは「図形で考える」ことが比較的可能であるが、$4\times4$以上になると難しい(普通の人間は4次元以上のベクトルを思い浮かべられない)。いずれ次元が上がっていくことも考えて、図形でなく、次元が上がっても通用する形の式を使って逆行列や行列式を表しておきたい。
$2\times2$行列の場合は行列を2本の列ベクトルを並べたものと考えたときの$\vec v_1\times\vec v_2$が行列式であり、$3\times3$行列の場合は行列を3本の列ベクトルを並べたものと考えたときの$(\vec A_1\times\vec A_2)\cdot \vec A_3$が行列式だった。
ベクトルのスカラー3重積は$\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}}(\vec A_1)_{\dmr[xcolor]{i}}(\vec A_2)_{\dmr[ycolor]{j}}(\vec A_3)_{\dmr[zcolor]{k}}$と書くことができたので、$\mtx[c@{\,}c@{\,}c]{\nagatatevec{\vec A_1}&\nagatatevec{\vec A_2}&\nagatatevec{\vec A_3}}=\mtx[ccc]{A_{11}&A_{12}&A_{13}\\A_{21}&A_{22}&A_{23}\\A_{31}&A_{32}&A_{33}}$の行列式は \begin{align} \det\mt{A}=\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}}A_{\dmr[xcolor]{i}1}A_{\dmr[ycolor]{j}2}A_{\dmr[zcolor]{k}3} \end{align} と書くことができた。これがレヴィ・チビタ記号を使った行列式の表現である。
では、逆行列をどう表現するか?---まずは雰囲気をつかむと、 \begin{align} \mt{A^{-1}}={1\over 行列式}\mtx[c]{ \yokovec{行列式から\vec A_1を外したもの}\\ \yokovec{行列式から\vec A_2を外したもの}\\ \yokovec{行列式から\vec A_3を外したもの} } \end{align} という感じの式になっている。ここで「行列式から$\vec A_1$を外したもの」とは、$\vec A_2\times \vec A_3$のことである。行列式は$(\vec A_2\times\vec A_3)\cdot\vec A_1$と書けるから、「$\vec A_1$と内積を取るのをやめた($\vec A_1$を外した)」結果だと考えることができる(2行目、3行目も同様)。具体的に書き下せば、 \begin{align} \mt{A^{-1}}={1\over \det\mt{A}} \mtx[ccc]{ \tilde A_{11}&\tilde A_{12}&\tilde A_{13}\\ \tilde A_{21}&\tilde A_{22}&\tilde A_{23}\\ \tilde A_{31}&\tilde A_{32}&\tilde A_{33} } \end{align} としたとき、 \begin{align} \tilde A_{1k}=\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}k}A_{\dmr[xcolor]{i}2}A_{\dmr[ycolor]{j}3}={\partial \over \partial A_{k1}}\det\mt{A}\label{yoinsione}\\ \tilde A_{2k}=\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}k}A_{\dmr[xcolor]{i}3}A_{\dmr[ycolor]{j}1}={\partial \over \partial A_{k2}}\det\mt{A}\\ \tilde A_{3k}=\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}k}A_{\dmr[xcolor]{i}1}A_{\dmr[ycolor]{j}2}={\partial \over \partial A_{k3}}\det\mt{A}\label{yoinsithree} \end{align} である。
$\mt{A^{-1}A}$が単位行列に比例することを確認するために、まず、1行2列成分の$\sum_{\dum{i}}\tilde A_{1\dml{i}}A_{\dmr{i}2}$を計算しておこう。 \begin{align} \sum_{\dum{i}}\tilde A_{1\dml{i}}A_{\dmr{i}2} =\sum_{\dum{i}}\sum_{\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}=1}^3\epsilon_{\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}\dml{i}}A_{\dmr[ycolor]{j}2}A_{\dmr[zcolor]{k}3}A_{\dmr{i}2}\label{hitaikaku} \end{align} となり、これは0である。なぜならば、式の$\epsilon_{\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}\dml{i}}$は$i\leftrightarrow j$の交換に関して反対称、$A_{\dmr[ycolor]{j}2}A_{\dmr[zcolor]{k}3}A_{\dmr{i}2}$の部分は$i\leftrightarrow j$の交換に関して対称になっていて、和をとると逆符号の項が1回ずつ現れる(たとえば$i=1,j=2$の項と$i=2,j=1$の項が逆符号($i=1,j=1$の項は(レヴィ・チビタ記号のおかげで)最初からない。)ことになり、消える。
同様に計算結果の行番号と列番号が違う成分(「非対角成分」と呼ぶ)はすべて0になる。また、1行1列成分は \begin{align} \sum_{\dum{i}}\tilde A_{1\dml{i}}A_{\dmr{i}1} =\sum_{\dum{i}}\sum_{\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}=1}^3\epsilon_{\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}\dml{i}}A_{\dmr[ycolor]{j}2}A_{\dmr[zcolor]{k}3}A_{\dmr{i}1}\label{taikaku} \end{align} となって行列式に等しい。同様に、対角成分はすべて行列式になる。
まとめて \begin{align} \tilde A_{ik}={\partial \over \partial A_{ki}}\det\mt{A} \end{align} と書くことができる。$\tilde A_{ik}$を「$A_{ki}$の余因子(cofactor)」と呼び、行列$\mtx[ccc]{\tilde A_{11}&\tilde A_{12}&\tilde A_{13}\\\tilde A_{21}&\tilde A_{22}&\tilde A_{23}\\\tilde A_{31}&\tilde A_{32}&\tilde A_{33} }$を「余因子行列(adjugate matrix)」と言う。
$2\times2$行列の行列式には双線形性があったが、$3\times3$行列の行列式には「3重線形性」がある。すなわち、行列式を3本の列ベクトルの関数とみたとき、 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\lambda_1\vec v_1^{(1)}+\lambda_2\vec v_1^{(2)},\vec v_2,\vec v_3} =& \lambda_1\det\mt{A}\kakko{\vec v_1^{(1)},\vec v_2,\vec v_3} +\lambda_2\det\mt{A}\kakko{\vec v_1^{(2)},\vec v_2,\vec v_3}\\ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\lambda_1\vec v_2^{(1)}+\lambda_2\vec v_2^{(2)},\vec v_3} =& \lambda_1\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2^{(1)},\vec v_3} +\lambda_2\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2^{(2)},\vec v_3}\\ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\lambda_1\vec v_3^{(1)}+\lambda_2\vec v_3^{(2)}} =& \lambda_1\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3^{(1)}} +\lambda_2\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3^{(2)}} \end{align} のように、どの引数に対しても線形性がある。また、$2\times2$同様に成り立つ式として、 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3+\lambda_1\vec v_1+\lambda_2\vec v_2} = \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3} \end{align} という式、すなわち$\vec v_3$に他の2本のベクトルの線形結合を足しても、行列式の値は不変であるという式も成り立つ(上では3番目の引数つまり第3列について書いたが、第1列、第2列にも同様の式が成り立つ)。証明はレヴィ・チビタ記号を使うなら、 \begin{align} \sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}}A_{\dmr[xcolor]{i}1}A_{\dmr[ycolor]{j}2}\left( A_{\dmr[zcolor]{k}3} +\lambda_1A_{\dmr[zcolor]{k}1} +\lambda_2A_{\dmr[zcolor]{k}2} \right) =\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}}A_{\dmr[xcolor]{i}1}A_{\dmr[ycolor]{j}2}A_{\dmr[zcolor]{k}3} \end{align} を示せばよい。
行列式が平行六面体の体積であるということを思い出すと、
のように「天井を平行移動させる」操作では体積が変わらないことに対応している。
もう一つよく使われる性質は、列ベクトルの交換に関する反対称性 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3} =- \det\mt{A}\kakko{\vec v_2,\vec v_1,\vec v_3} =- \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_3,\vec v_2} =- \det\mt{A}\kakko{\vec v_3,\vec v_2,\vec v_1} \end{align} とサイクリック置換で不変であること \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3} = \det\mt{A}\kakko{\vec v_2,\vec v_3,\vec v_1} = \det\mt{A}\kakko{\vec v_3,\vec v_1,\vec v_2} \end{align} である。これも証明は優しい(レヴィ・チビタ記号の性質からくる)。
行列式を行ベクトルの関数とみた場合も、上と同様の性質がある。それは、 \begin{align} \sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}}A_{\dmr[xcolor]{i}1}A_{\dmr[ycolor]{j}2}A_{\dmr[zcolor]{k}3} =\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k}}\epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}}A_{1\dmr[xcolor]{i}}A_{2\dmr[ycolor]{j}}A_{3\dmr[zcolor]{k}} \end{align} が成り立つからである(二つの式で$A$の添字の付き方が逆であることに注意)。
この式が成り立つことを示すには、$\epsilon_{ijk}$が0でないのは$\epsilon_{123},\epsilon_{231},\epsilon_{312}$(以上$+1$)と$\epsilon_{132},\epsilon_{213},\epsilon_{321}$(以上$-1$)の6通りしかなく、
に示したような6種類の項の足し算となる(上の式の左辺でも右辺でも!)ことを確認すればよい。
なお、もう一つ、 \begin{align} {1\over 3!}\sum_{\dum[xcolor]{i},\dum[ycolor]{j},\dum[zcolor]{k},\dum[rcolor]{\ell},\dum[thetacolor]{m},\dum[phicolor]{n}} \epsilon_{\dml[xcolor]{i}\dml[ycolor]{j}\dml[zcolor]{k}} \epsilon_{\dml[rcolor]{\ell}\dml[thetacolor]{m}\dml[phicolor]{n}} A_{\dmr[xcolor]{i}\dmr[rcolor]{\ell}}A_{\dmr[ycolor]{j}\dmr[thetacolor]{m}}A_{\dmr[zcolor]{k}\dmr[phicolor]{n}} \end{align} という書き方もある(これも等しい)。
以上の性質を使うと、行列式の計算を簡単化することができる。地道にやるための公式としては、 \begin{align} &\det\mtx[ccc]{A_{11}&A_{12}&A_{13}\\A_{21}&A_{22}&A_{23}\\A_{31}&A_{32}&A_{33} }\nonumber\\ =&A_{11}A_{22}A_{33}+A_{12}A_{23}A_{31}+A_{13}A_{21}A_{32}\nonumber\\ &-A_{11}A_{23}A_{32}-A_{12}A_{21}A_{33}-A_{31}A_{22}A_{13} \end{align} がある。これを図で表現したのが
である。
以下の操作をしても行列式が不変であることを使うと、少し計算を省力化できる。
上の一つの文章の中に現れる(行または列)は同じものを選ぶ。
なお、ここでは$3\times3$行列の場合で説明したが、この結果は任意の正方行列で正しい。
上の変形の例を式で書くと、 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3} =& \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2+\alpha\vec v_1,\vec v_3}\\ \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3} =& \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_3,-\vec v_2}= -\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_3,\vec v_2} \end{align} である。なお、$3\times3$行列の場合、サイクリック置換で不変 \begin{align} \det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3} =& \det\mt{A}\kakko{\vec v_3,\vec v_1,\vec v_2} \end{align} も言える。
簡単な例をやってみよう。 \begin{equation} \begin{array}{rrll} (1)&& \mtx[ccc]{1&2&3\\4&5&6\\7&8&9}&\kokode{1行めの-4倍を\atop 2行めに足す} \nonumber\\ (2)&=& \mtx[ccc]{1&2&3\\0&-3&-6\\7&8&9}&\kokode{1行めの-7倍を\atop 3行めに足す} \nonumber\\ (3)&=& \mtx[ccc]{1&2&3\\0&-3&-6\\0&-6&-12}&\kokode{1列めの-2倍,-3倍を\atop 2列め、3列めに足す} \nonumber\\ (4)&=& \mtx[ccc]{1&0&0\\0&-3&-6\\0&-6&-12}&\kokode{2列めの-2倍を\atop 3列めに足す} \nonumber\\ (5)&=& \mtx[ccc]{1&0&0\\0&-3&0\\0&-6&0}&\kokode{2行めの-2倍を\atop 3行めに足す} \nonumber\\ (6)&=&\mtx[ccc]{1&0&0\\0&-3&0\\0&0&0} \end{array} \end{equation} となって、この行列の行列式は0となる。なお、0となることは(5)の段階でわかる。あるいは目ざとい人なら、(4)の段階で2行目と3行目が独立でないことに気づいて、行列式が0であることがわかったかもしれない。
3重線形性を使うと、 \begin{align} & \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ A_{11}&A_{12}&A_{13}\\ A_{21}&A_{22}&A_{23}\\ A_{31}&A_{32}&A_{33} }\nonumber\\ =& \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ A_{11}&0&0\\ A_{21}&A_{22}&A_{23}\\ A_{31}&A_{32}&A_{33} } + \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ 0&A_{12}&0\\ A_{21}&A_{22}&A_{23}\\ A_{31}&A_{32}&A_{33} } + \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ 0&0&A_{13}\\ A_{21}&A_{22}&A_{23}\\ A_{31}&A_{32}&A_{33} }\nonumber\\ =& \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ A_{11}&0&0\\ A_{21}&A_{22}&A_{23}\\ A_{31}&A_{32}&A_{33} } \gunderbrace{ - \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ A_{12}&0&0\\ A_{22}&A_{23}&A_{21}\\ A_{32}&A_{33}&A_{31} }}_{2列めと3列めを入れ替えた} + \gunderbrace{ \det\mtx[c@{~}c@{~}c]{ A_{13}&0&0\\ A_{23}&A_{21}&A_{22}\\ A_{33}&A_{31}&A_{32} }}_{3列めを1列めに持ってきた}\nonumber\\ =& A_{11}\, \det\mtx[cc]{ A_{22}&A_{23}\\ A_{32}&A_{33} } +A_{12} \left(- \det\mtx[cc]{ A_{21}&A_{23}\\ A_{31}&A_{33} }\right) +A_{13} \,\det\mtx[cc]{ A_{21}&A_{22}\\ A_{31}&A_{32} }\label{matbunkai} \end{align} のような行列式の分解ができる。
上の式の一つめの等号では、1行目の行ベクトルを3本に分解した。
三つめの等号では、
のように行列式の計算を考えれば$2\times2$行列の行列式の計算が出てくることがわかる(図では、0になる積を点線で表現した)のでそれを使った。実線のまま残っている部分の計算がちょうど上の式の第1項の$A_{11}\, \det\mtx[cc]{A_{22}&A_{23}\\A_{32}&A_{33}}$となる(第2項、第3項も同様)。
の最後の式には \begin{align} A_{11}\,\gunderbrace{ \det\mtx[cc]{ A_{22}&A_{23}\\ A_{32}&A_{33} }}_{\tilde A_{11}} +A_{12} \,\gunderbrace{\left(- \det\mtx[cc]{ A_{21}&A_{23}\\ A_{31}&A_{33} }\right)}_{\tilde A_{21}} +A_{13} \,\gunderbrace{\det\mtx[cc]{ A_{21}&A_{22}\\ A_{31}&A_{32} }}_{\tilde A_{31}} \end{align} のように余因子が現れている。
この式から余因子を定義すると、$A_{ij}$の余因子が計算したければ、行列式から出発して
このようにして、$3\times3$行列の行列式を、$2\times2$行列の行列式(小行列式)に分解して計算することができる。これはさらに次元が高くなって$n\times n$行列になっても同様である。
以上をまとめると、$3\times3$余因子行列の計算は、
のように図で表現される。
以下のような計算の結果、余因子行列は \begin{align} \mtx[ccc]{ \det\mtx{A_{22}&A_{23}\\ A_{32}&A_{33}} &-\det\mtx{A_{12}&A_{13}\\A_{32}&A_{33}} &\det\mtx{A_{12}&A_{13}\\ A_{22}&A_{23}} \\ -\det\mtx{A_{21}&A_{23}\\ A_{31}&A_{33}} &\det\mtx{A_{11}&A_{13}\\ A_{31}&A_{33}} &-\det\mtx{A_{11}&A_{13}\\ A_{21}&A_{23}}\\ \det\mtx{A_{21}&A_{22}\\ A_{31}&A_{32}} &-\det\mtx{A_{11}&A_{12}\\ A_{31}&A_{32}} &\det\mtx{A_{11}&A_{12}\\ A_{21}&A_{22}} } \end{align} である(微分の前に行と列を置換することによる符号が出ることに注意)。
今日は、レポート問題があります。レポートの提出期限は6/2の水曜日までです(正確には、6/2の23:59まで提出可能です)。解答は
などの方法で読めるファイルにしてwebClassから提出してください。私が読める形式ならなんでもOKです(読めない場合はメールで連絡します)。マイナーな形式は避けて、PDFか画像にするのが無難です。
単位行列$\mtx[ccc]{1&0&0\\0&1&0\\0&0&1}$に行列式を変えない変形をしていくことで、行列式が1になる行列をいろいろ作ることができる。以下のような行列を作る過程を示せ(答えはユニークではない場合もあるが、例は一つでいい)。
$3\times3$行列を3本の列ベクトル$\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3$を並べたものとみなして、行列式を$\det\mt{A}\kakko{\vec v_1,\vec v_2,\vec v_3}$のような、このベクトルの関数と考える。この3本のベクトルが独立でなければ、行列式が0となることを示せ。
ヒント:独立でないということは、ある実数(スカラー)$\alpha,\beta$を使うと、$\vec v_3=\alpha \vec v_1+\beta\vec v_2$となる。
以上で第6回の授業は終わりです。webClassに行って、アンケートに答えてください。レポート提出もよろしく。
物理数学I webclassなお、webClassに情報を載せていますが、木と金の11:50〜12:50の間、オンラインオフィスアワーとしてzoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。
webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。