すいません、忙してくてレポートの採点が遅れてます。この授業のためのアプリを作るのに時間がかかっているという点もあるので、もう少し待ってください。

前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

第8回授業への受講者の感想・コメント

にありますので見ておいてください。

 前回までで行列式・逆行列を使って連立方程式を解く話をしました。少し物理よりに話をシフトして、今日は「回転」を行列で表す話をしましょう。

2次元平面でのベクトルの回転

図形で考えるベクトルの回転

 以下の話の説明ビデオは↓

 ここでは、2次元平面の上でベクトルAを角度θだけ回転させたベクトルAをどのように作れば(あるいは数式上で表現すれば)よいかということを考えよう。図で描くならば

のような状況である。

 最初に一つ確認しておくが、この回転の操作をR(A)のように表したとき、このR(A)は線形写像である。

 すなわち、 R(λ1A1+λ2A2)=λ1R(A1)+λ2R(A2) が成り立つ。ゆえに行列で表現できる。

 ここで行う回転は、実際に平面上にあるベクトルが向きを変えるという、物理的現象である。

わざわざこう断ったのは、物理的実体は変化しない単なる座標変換も「回転」という言葉を使って表現することがあるからである。

 回転を数式の上ではどのように扱うべきかを解説する。

 ベクトルの回転を表現してみよう。 回転を実現するには、

のように、元のベクトルの長さをcosθ倍にしたもの(cosθA)に、元のベクトルを90度(π2rad)倒して(このベクトルをAと書くことにする)長さをsinθ倍にした、sinθAを足す、という操作を行う。

ここでは90度倒すことを表す記号を「」にした(一般的な記号ではない)。倒す方向は、反時計回り。平面の回転では「正の回転」を反時計回り、「負の回転」を時計回りとすることが多い。北極側から見た地球の自転は反時計回りで、正の回転である。

 そこでまず反時計周りの90度(π2rad)回転を考えることにしよう。

 Aの成分を

のように考えることで、「回転後のx成分は元のy成分(Ay)の符号を変えたもの、回転後のy成分は元のx成分(Ax)」という関係がわかる。「回転後のベクトルを、古い座標系でみたときの成分」が並ぶ位置が二つの変換では違うのである。

この1枚の図だけでそれを言って大丈夫なのか、と心配な人は何枚も図を描いてどのような場合でもこうなることを確認しよう。

 すなわち成分の変化は(AxAy)(AyAx)であり、回転の結果は A=AyAxex+AxAyey である。

 あるいはこれを

のように、(exey)(eyex)という置き換えをした結果ベクトルが回転したと考えてもよい。

(AxAy)(AyAx)(exey)(eyex)で符号の付く位置が違うことに注意(だが、これでいい)。

 こう考えても結果は A=Axeyex+Ay(ex)ey=Ayex+Axey となる。

 行列で表現すると成分の変化は(AyAx)=(0110)(AxAy)であり、基底ベクトルの変化は(eyex)=(0110)(exey)となることに注意。二つの表現は互いに行列の転置になっている。

 π2の回転は上の通りであったので、角度θの回転を「元のベクトルAcosθ倍に、Asinθ倍を足す」という操作で実現してみると、 (AxAy)=cosθ(AxAy)A+sinθ(AyAx)A=(cosθ00cosθ)(AxAy)+(0sinθsinθ0)(AxAy)=(cosθsinθsinθcosθ)(AxAy) となる。

加法定理

 角度θの回転を行ってから角度ϕの回転を行うという操作は(2次元で考える限り)「角度θ+ϕの回転」と同じ操作である。「行列は操作を表現したもの」なので、「二つの操作の合成」は行列の掛算で計算できる。やってみると、 (cosϕsinϕsinϕcosϕ)(cosθsinθsinθcosθ)=(cosϕcosθsinϕsinθcosϕsinθsinϕcosθsinϕcosθ+cosϕsinθcosϕcosθsinϕsinθ)=(cos(θ+ϕ)sin(ϕ+θ)sin(θ+ϕ)cos(ϕ+θ)) となって、三角関数の加法定理が出てくる。

 また、この結果を見ると、

が同じものだわかる。これは二つの行列(cosϕsinϕsinϕcosϕ)(cosθsinθsinθcosθ)が可換であることを意味している。このため、2次元の回転は行列で表現されてはいるが、3次元以上に比べれば、かなり単純だとも言える。