今日は前回の最後にやってもらったショートレポート
の回答からです。
よくない回答をまず書きます。
上に来たときは速度は水平である。それに速度は「加わる」ものではない。
「等速円運動」と言ったり「静止し」と言ったりして意味不明。「バケツの中で見ると水が静止し」と言いたいのかもしれないが、それならそう書かないとわからない。なお、この問題はバケツの中の人ではなく、外部から観測したとして答えるべき。
MIF誤概念が出ている。接線方向の力はない。
そもそも「法則」は「働く」ものじゃない。慣性の法則は別にバケツを回してなくたって働いているものである。
このあたり、「慣性の法則」「慣性」「慣性力」という、3つ全く違う概念である言葉をごっちゃにしてしまっている回答が多くあった。皆さんは教員を目指しているのだから「中学生/高校生が理解できる言葉」を使わないといけない。あなたが学生で相手が教員(私)ならば、多少言葉を言い間違えても「たぶんこういうことが言いたいのだな」という推測ができるが、あなたが先生で相手が生徒になったとき、そんなことは期待できない。先生がイイカゲンな言葉を使っていたら、生徒の理解がもっとイイカゲンになる。
この問題についてはもう少しじっくり考えてほしかったので、以下のようなワークシートを作ってきて、相談しながらやってもらいました。
まず速度に関しては概ね正しく、
のような図が書けていましたが、一部、のように「外に膨らむ」ような絵になっている人がいました。
加速度は
_:/が正解なのだが、のように速度と同じ方向に向いてしまう人も多数いた。
テキストに書いたように、
「加速」は速度の大きさが変わる「加速」と速度の向きが変わる「加速」がある。この問題の場合では後者だけが出てきている。
「加速度は速度と同じ向き」というのも誤概念の一つのようである。
最後に力だが、まず運動方程式$\vec F=m\vec a$により、加速度と力は比例する(向きも等しい)ので、この物体に働く力の合力は
のように、加速度と同じ向きを向いている。一方、働いている二つの力のうち重力は常に下向きであり、それを図に描くと
のようになる。
「手の加える力」+「重力」=「合力」になるように図を描くと、
という答えになる。
考え方としては、「重力と足すと円運動をさせるための力(向心力)になるように調節して手で力を加える」ということが必要である。
ついでに「もしも力をつねに半径方向に働かせるとしたらどんな運動になるか?」というのは考えると面白い(等速でない円運動になる)。
せっかくなので、円運動している状況で中心に向かう力が消失するとどうなるか、というのを、まず実験でやってみせた。
動画では、ボールが上向きに運動している位置で手を放しているので、ボールが真上向きに飛んでいくのが見える(ちょっとびっくりしている)。
また、前にも遊んでもらった
に、「万有引力が消失するとどうなるか」をシミュレートするボタンもつけたので、このページの「しばらく遊んだあとで、課題として考えてほしいこと」のところをクリックして、「突然万有引力が消失したら何が起こる? 試してみたい人は右のボタンを押せ→万有引力ON/OFF」のところにあるボタンを押してみて欲しい。
ついでに直接関係はないが円運動の話として、
で、「人工衛星が前にある人工衛星に追いつくには?」という話もしました。
では、もともとの問題の回答はどのようにあるべきか。
この「上に来たときにバケツから水が落ちるのでは?」という疑問が湧く理由は(やはりMIF誤概念)「力が働けばその方向に運動するはず」という誤解をしているからである。
実際には、「力」は「運動の方向(速度の方向)」ではなく「運動(速度)の変化の方向」を向く。バケツが上に来たときの運動の変化は、
のようであり、速度の変化はのようになり、変化(加速度)の向きは力の方向(概ね下向き)を向いているのである。
つまり、ここでは重力(および手の力)という「(概ね)下向きの力」は「バケツおよび水の速度の変化(←これは速度と同じ向きではないことに、もう一度注意)」に使われているのである(最初、バケツや水が止まっているなら、当然水は落ちる)。
このように速度の変化を考えて回答を出していた人も、もちろんいました。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。