今日は前回の最後で考えた
人間がボールを投げる。投げる前と投げた後で、運動量が保存してないように思える。 これはなぜか。
の二つの答え方ができるので、両方を答えよ。
の解答から。
まず、何も書いてないものが何名かいた。思いつかなかったということだろうが、それはとても残念。
だがもっと残念なのは「何も書いてない」より悪い「間違いを答えている」解答があったことである。
間違いを教えることは「何も答えない」よりももっと悪い。なぜならあなた達は先生になるのであり、先生が嘘を教えるぐらいなら何も教えない方がましだからである。
「何も書かないよりは何か書いておいた方がいい」というのは、せせこましくみみっちく試験の点数を取るための方法としてなら、ギリギリわからないでもない。だが、人に教える立場に立った人がそれをやったら、教えられた側への被害はものすごく大きいということは自覚しておくように。今は、大学の授業でのレポートを書くときだからいいが、教える立場に立ったらそうはいかない。
この問題に答えるには
か、または
のどちらかである。これら二つを、両方答えると正解。
まずは最低でも、「人間にはもうひとつ、地面からの力(「摩擦力」と表現している人もいた、それでもよい)が働いている」ということに気づいて欲しい。この力があるおかげで運動量が保存しない、と説明してもいいし、地球に働く力によって地球が動くのだ、と説明してもよい。
と書いて終わっている人がいたが、「なぜそういう運動量が保存しないということが起こるのか」を説明しないと、何も答えてない。
という説明をしていた人がいたが、実際には人間は投げ終わると静止する。現実に起こっていることを無視してはいけない。これが「もしも地面に足がついてなかったら(あるいは摩擦がなかったら)という考察として出てくるのならまだいいのだが。
もちろんこの記述自体は正しいが、それは「こういう理屈で保存しているに違いない」ということを述べただけに過ぎない。こう言われても「じゃあどうして人間は後ろに下がらないの?」という疑問が出てくるだけで、解決にはならない。
これと同様に、「$\vec F_1+\vec F_2=0$だから」のように数式を使って「運動量が保存する理由」を説明している人が多数いたが、この問題に即して「どこに運動量を受け取っている物体がいるのか」を説明しないと意味がない。
これからどうして「運動量は保存されている」という話になるのかさっぱりわか らないが、「後ろ向きの運動量」と「前向きの運動量」が等しいと言っているな ら、「向きが違う運動量(運動量はベクトルである)は等しくない」ので間違い となるし、「後ろ向きの運動量と前向きの運動量を足して0」というつもりなら、 「時間の違う運動量を足して0であることは『保存する』とは別」という 話である。保存というのは「ある時刻の運動量と別の時刻の運動量が等しい」と きに使う言葉である。
この問題で疑問になっている「運動量は保存しているか」で考えているのは、ボー ルの水平方向の運動量である。ここで、鉛直方向に働く重力は、何も関与しない (できない)ので、これは理由にならない。
空気抵抗が働くのは正しいが、それは今問題にしている話とは関係ない。
角運動量保存の法則を使ったとしても、それで等しくなるのは、力ではなくトルク(力のモーメント)で、別の話。
「力が抜けて運動がとたんに収束する」というのは、典型的MIF誤概念。力が抜けたら運動が止まったりはしない。
これも誤概念。最初に人が止まっている場合、「人は動かない」としたらそれは「力がつりあうから」である。「摩擦力の方が大きい」なら人は摩擦力の方向に動く。
ここで「遠心力」が出てくるのもおかしいのだが、そもそも前に着地したらなんだというのだろう?
これは言いたいことはわからないでもないが、物理として説明するなら「地面からも力を受けているから」ということを明確に指摘したい。
問題の後、テキストの熱力学の章を、平和鳥の動きなどを見せながら説明しました。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。