力試しのチェックテスト

この授業の目的

 この授業は教職志望の学生を対象として「教える立場に立つ人にとっての物理学」を講義・演習していく予定です。

 物理を1から教えることが目標ではなく、「いったん物理を教わったけど、いろいろと誤解や理解の不十分な点を残していて、教える立場に立つのは心もとない人」に、ちゃんとした理解をした上で「教える側」に回ってほしい、というのが目標です。

 最初に「教える立場に立つ人」が満たすべき条件について述べておきます。

 当然あなたは、教える内容について、教わる人(児童生徒)よりもずっと深く知っていなくてはいけません。「一を聞いて十を知る」という諺がありますが、人に教えるときには「十を知っていれば一教えることができる」ぐらいに思っておいた方がいいです。「一」しか知らない人が授業で「一」を教えても、中身が薄いものになりがちだし、児童生徒から質問が出たときにその「一」から外れてしまうともう対処できなくなります。特に物理などの理科系の科目の内容は「知っていること」よりも「概念を理解すること」が大事です。それは一朝一夕で身につくものではありません(先生になってから「明日の授業なんだったっけ〜」と予習すればなんとかなるというものではないわけです)。だから、今のうちに物理学のいろんな内容を、「十」知っておいて欲しいわけです。

 このあたりは、テキストの1.1「このテキストを書いた理由」にも書いてあるので、読んでおいてください。

チェックテスト

 というわけで、皆さんが果たして物理学を「十」知っているかどうか、調べるためのチェックテストがテキスト(受講者には配布したもの。PDFがここにあります)の6ページからです。まずはやってみてください(今日のところは<チェックテスト1>だけでもいいです)。

図は、床の上に乗った物体の上にさらにもう一つ物体が乗っているところである。物体および床に働く力を全て図に書き込め。書き込み終わったら、どの力とどの力が作用・反作用の関係にあるかを示せ。

図は物体と物体、物体と床の間に隙間があるように描かれている。これは境界部分にどのように力が働いているのかがわかりやすくなるようにするためで、もちろん実際には物体どうしは密着している。そう考えて力の図を書くこと。

 やってみたら、下のビデオを見てましょう。

↓チェックテスト1の解答、前半

 通信環境の関係でビデオが見られないという人は、以下の内容とテキストの11ページから12ページまでをじっくり読むこと。ビデオを見た人も、テキストと以下の内容には目を通しましょう。

力の絵(作用点)

 ビデオの中でも言ったけど、こういう問題をやると多い間違いは、

のように力の矢印の始まる位置がおかしいもの。矢印の根元の○の部分は「作用点」なので、これだと「上の物体が下の物体を引っ張る」という図になってしまっている。

 力に三要素(向き・大きさ・作用点)があるが、その「作用点」がわかりやすいように絵を描かないと、せっかく描いた絵も「ただ描いただけ」になってしまう。力の絵を描くのは、この後つりあいの式なり運動方程式なりを立てるためである。作用点が明瞭でない図を描いていると、後の作業に支障をきたす。

 「作用点がどこなのか、わかりやすい図を描くことが大事!」と納得できたら、チェックテスト1の解答その2へ進もう。

チェックテスト1の解答その2

チェックテスト1の解答その2

↓チェックテスト1の解答、その2(図を描き終わるまで)

 通信環境の関係でビデオが見られないという人は、以下の内容とテキストの11ページから12ページまでをじっくり読むこと。ビデオを見た人も、テキストと以下の内容には目を通しましょう。

そのほかの、よくある誤答

のように力が足りない例もよくある。

 図に書き込んだように「重力」「上の物体が下の物体から押される力(垂直抗力)」「下の物体が床から押される力(垂直抗力)」を書いたとすると、作用・反作用の法則(作用と反作用では「主語」と「目的語」が逆転する)からして「下の物体が上の物体から押される力」と「床が下の物体から押される力」が必要なのである。それも書くと

となる。これが正解である。自分の描いた絵と、見比べてみよう。

 では次に、チェックテストの問題の続きの、「どれとどれが作用・反作用?」について考えていこう。

チェックテスト1の解答その1 チェックテスト1の解答その3

チェックテスト1の解答その3

作用と反作用

 通信環境の関係でビデオが見られないという人は、以下の内容とテキストの13ページから14ページまでをじっくり読むこと。ビデオを見た人も、テキストと以下の内容には目を通しましょう。

 どれとどれが作用と反作用か?という問いもあった。これについては、下の図の「誤った作用・反作用ペア」の方だと思ってしまう人が(残念ながら)多い。

 この間違いも頻出する間違いで、学生の皆さんが教員になったら、きっと多くの生徒がこの間違いをやらかすところを見ることになるはずである(その前に先生が間違えてはいけないので、今回間違えた人は来週の授業で作用・反作用をみっちりやるのでしっかり勉強しよう)

チェックテスト1の解答その2 チェックテスト1の誤答例

チェックテスト1の誤答例

 どういう間違いが起こるのか、君たちの先輩による「悪い例」を紹介しよう。

 本当は君たちにこのチェックテストをやってもらって、その結果をここで見せたかったところなのだが、今年度は対面授業を避ける方針なので、先輩たちに登場願った。おそらく、皆さんにチェックテストをしてもらっても同様の答案は出てきたと思う。

 通信環境の関係でビデオが見られないという人は、以下の内容とテキストの13ページから14ページまでをじっくり読むこと。ビデオを見た人も、テキストと以下の内容には目を通しましょう。

 ↑は、なにより力が足りない。これだと上の物体には上向きの力しか働いてないから、ぷかぷか浮かび上がってしまう。力の絵を描くときは「これでどうなるか?」と現象を思い浮かべながらやろう。

 ↑は、力の作用点の書き方がよくなく、力も足りない例。この書き方だと、力は「物体と物体と隙間に入っている空気」に働いていることになってしまう。作用点を正しく書き入れることは大事。なぜ大事かというと、この絵を描いている理由は、この絵をつかって(つりあいの式を出すとか)物理現象を調べたいからである。「この箱は止まっていられるか?」を調べたいなら、この箱に働く力が重要。だから作用点は大事。

 ↑も力が足りない例だが、横の説明を見ると、「下の物体には上の物体の質量の分の重力が働く」という誤解をしているようだ。実際には上の物体は下の物体を「垂直抗力」で押している。このあたりのロジックをすっ飛ばしてはいけない。

 他に、

の力の、「c+d」と「e」が作用と反作用、と答えているものもあった。これは「作用・反作用」と「つりあい」のちがいがわかってないという間違いであろう。

以上で第1回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、「第1回授業感想・コメントシート」のアンケートに答えてください。出席の代わりです(この授業は出席点はありませんが、皆さんがどの程度受講しているかも確認したいのと、反応もみたいので)。

webclass↓


この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。
チェックテスト1の解答その3 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


授業内容について
物理学を教えるにあたって、どう説明を行えばわかりやすいかと考えて解説を聞いていたが、作用反作用のところで、間違った例を説明した後に、定義までさかのぼっておさえなおし、正しい回答を解説する流れはよい運びだと考えた。
加えて「主語と目的語が入れ替わる」という解説箇所で、力の説明文の主語目的語が入れ替わっているのを線を引いて解説するのは視覚的にも理解できていい説明方法だと考えた。
ときどき、間違った例を説明すると、その「間違った例」を正解だと思ってしまう(試験に問題だすとせっせと間違った方を書く)生徒がいますので、自分が授業するときは、そこに気をつけてやってね。
一度(授業じゃなくて講演ですが)「火星で生命が見つかったとニュースがありましたが(←その後続報ないので間違いだったのだろう)、火星人がいるって意味じゃないですからね!」と話したら、感想の中に「火星人がいることを知って驚いた」と書いてあってずっこけたことがあります(これは極端な例ですが)。

作用点がどこなのかわかりやすく書くことを今まで考えて図を描いたことがありませんでした。作用点の位置がおかしいと、正しく矢印の向きを描いても物体に働く力の向きまでがおかしくなってしまうことがあるということを認識することが出来ました。そして作用点の位置の違いだけで問題の解答に支障をきたしてしまうことがあるとわかりました。これから力の三要素の図を描くときには作用点をわかりやすく描くことを気を付けたいです。
「図がちゃんと描ける」というのは力学がちゃんとわかっているかどうかを試す、とてもいい評価ポイントになってます。自分の理解を試すのももちろん、将来教員になったとき、生徒へのチェックポイントとして使ってください。

まず、問題に関しては矢印の長さをいい加減に書いてしまっていた。テキストについて、読みやすく動画が見れない場合でも対応されていてとてもいいと思いました。講義については、自分が物理又は中学生の理科を担当する教員になるための知識がどれだけ必要なのかということを考えさせられた授業になりました。自分ができなかったところ、または知識が足りないなと感じたところはしっかりそこで理解していく、もしくは先生にきく、友達に聞く、先輩に聞くなどして、自分が教員になった時に、生徒に一の知識を教えられるようになりたいと思いました。
今回の授業では力の長さについてはあまり触れませんでしたが、現象はできるかぎり視覚的に(ヴィジュアルに)理解した方がいいので、矢印の長さにも注意していきたいところですね。他の人と対話することで理解が深まるということはたくさんあるので、どんどんやっていってください(現在の状況だと、感染症には気をつけつつ)。

まず、教職のための講義なので、自分が教える立場になったときのことを考えながら、受講した。
1だけ分かっているとき、教えることは出来ても、理解させることは難しいと思うので、前野先生の言葉を借りると、10理解できるようになりたい。
チェックテスト1についてですが、正直のところ少し間違えてしまいました。間違えた理由は、勘違いだったのでしっかり理解したいです。
それから、教材がとても面白く、勉強しやすいと思いました。このような講義は初めてで戸惑いもこれから多々あると思いますが、しっかりついていけるように頑張ります。  1回目の講義ありがとうございました。
「教える立場になったとき」を考えるのはとても重要なので、この後の授業もそこに意識を置いて受けてください。これまで以上に、物理に関して「見えてくるもの」があると思います。私も、自分が教えるようになってから「あ、そういうことか!」と物理がよりわかるようになったことが、たくさんあります。

1年の物理学基礎演習の時も同じような問題があってその時も今も作用点がてきとうになってしまったので、今後同じような問題が出題された時はまず作用点を意識して作図をしようと思いました。
このあたりがいいかげんだと、力学がわからなくなるので、しっかりと絵を描いて、かつそれを人に(生徒に)説明できるようになりましょう。

先輩方の誤答例の中に, 私が高校生の, 作用・反作用について全く理解が出来なかった時期に繰り返ししていた, 誤った考え方が出てきました. 懐かしいと思った反面, 本当によくある誤答なのだということを思い知らされました.
そうです、ほんとうによくある誤答なんです。テキストにも描きましたが、教える立場に立つ人は「生徒はこういうところにはまる」というポイントを知って、そこを丁寧に教えていかないといけないわけです。

1年次の時に物理学入門1・2をやってきたのですが、その時には公式を暗記してそこに数字を当てはめるということだけをしていたので、この授業を機にしっかり概念から理解していこうと思いました。
チェックテストをやってみて、どのような力が働くのか、なぜここが作用点になるのかよくわからないまま解いていましたが、解説動画を見たことで理解することができました。
また、解説動画内で出てきた、重力と質量の違いなど細かい部分もわかっていなかったのでちゃんと基礎から理解していこうと思いました。
「公式あてはめ」の学習は(そしてそういう教え方も)所詮「その場しのぎ」でしかなくて、結局は後でもっと大きなツケを払わされることになります。物理は(というか、学問全部)まず理解です。そして、その理解を生徒に伝える。

よく混乱しやすい、力のつり合いと作用反作用を確認する事ができた。
あそこも、非常に多い間違いです。気をつけていきましょう。

自分の回答は間違いまくっていた。まず、作用点をしっかり書いていなかった。次に、力の矢印が足りなかった。さらに、作用反作用の法則を理解していなく、誤った作用反作用のペアを作っていた。先輩の誤答例の最初のような回答をしていた。
今後、しっかり勉強してください。

高校で習った物理と大学で習った物理の知識があったので、ほとんど正確に回答できた。垂直抗力で図示し忘れていたところがあったので気をつけたい。働く力や働く力の場所、作用点を意識して正確に判断できるようにしたい。
ちゃんと高校・大学での物理が身についているようでよかったです。力の図示は確実にできるようにしていきましょう。
初めてのオンラインの授業で不安もありましたが、わかりやすく丁寧な解説やテキストで理解を深めることが出来ました。 また、動画であるため何度も見返せるところが良いと感じました。 テストでは誤答例のようなミスを多くしてしまいましたが、今後そのようなミスをしないよう、教える立場になることを意識しながら勉強を頑張りたいと思います。
オンライン授業は私も不安に感じながらやってますが、対面でなくても、将来に役に立つ授業にしていきたいと思いますので、頑張って受講してください。

説明がわかりやすかったので、自分がなぜ間違えてしまったのか理解することができた。しっかり学習して自分の物理への理解を深めていきたい。
間違いと、どうすれば正解かを理解した上で、それを教えられるようになってください。

垂直抗力は重力に対して逆方向に働く力だと思っていたから、物体が物体に対して及ぼす力という考え方は知らなかった。下の物体も上の物体から垂直抗力をうけるという考え方は初めて知ったから、今まで間違った考え方をしてたのだと思った
それ(垂直抗力は重力に対して逆方向に働く力)はもう、全然だめな考え方なので、今のうちに正しい考え方に修正してください。
作用・反作用の理解が足りなかった。日本語の意味に捕らわれ、重力と垂直抗力がペアだと思ってしまっていた。作用と反作用が主語と目的語を取り替えた関係にあるということを理解することができたことで、理解が促進されたと思う。今後、運動方程式や、つりあいの式を作る際、気をつけていきたい。
ここは大事なところです。「日本語の意味にとらわれない」、気をつけてください。

苦手意識はあったものの、一応高校でも基礎無し物理を学んでいたので、簡単だと思っていたが間違えてしまった。普段、力学の問題を解く時に、問題に影響をきたす力(重力と上向きの垂直抗力)のみを書き入れる癖がついてしまっていたのが原因だったのかなと感じた。作用・反作用は初めて教えるときにも誤解が生まれそうな項目でもあるし、物理を進めた後にも勘違いを起こしてしまいそうな項目でもあるなと感じた。
作用・反作用は本当に間違いの多いポイントなので、気をつけて学習し、気をつけて教えるようにしましょう。

意識から抜けていた事柄もあったので、これから、他人に教えていく立場として勉強が必要なことを改めて痛感した。
自分ではわかっているつもりでも、教えようとすると「はた」とわかってないことに気づく、ということは、よくあります。今のうちに、理解すべきことを身につけていこう。

以下は、オンライン授業についての感想・コメント
オンライン講義ということもありちゃんと受けられるか少し不安だったのですが、動画の講義なので一時停止ができ、自分のペースで講義を受けることが出来ました。
テキストを手元に置きながらオンライン講義を受けるとよりやりやすいとも思いました。
動画の講義は、止めたり、戻したりが自分でできるのがいいところですね。自分の受講しやすい方法で、受講してください。

感染症の影響で、初めてウェブ上で講義を受講したが、とても受講しやすかった。
 加えて、受講の時間制限を排していただいているので、慣れていない受講でも余裕をもって受講することができた。
この形で続けて行きますので、よろしく。

対面ではないので、つい大事なところをスルーしてしまうかもしれないので、良ければ大事なところは2回ほど、重複して言っていただければ幸いです。(自分自身が大事だと認識していない場合もあるので)
私はむしろ大事なところはついつい繰り返して言ってしまって「さっきも聞いたそれ」という顔されることが多いんですが、うざがらずに聞いてください。

一つだけ再生出来ない動画があったのですが、動画の下にその動画の内容がまとめてありとても助かりました。
すいません、再生できない動画は私のリンクミスでした。今は直ってて、見れると思います。

ryukyu-ap2に繋いでも動画が見られなかったのが少し残念でした。YouTubeにアップして頂ければ大変嬉しいです。無理なら冊子を読むので大丈夫です。
動画が見れない件については調査して直そうと思います。YouTubeにアップすると、動画だけでは意味不明な部分があるのがちょっと困ったところです。
今回は二回に動画を分けていたが一回の動画にまとめてほしい。
(今回は三回のはずだが?)長い動画になると最後まで見る気力が出ない、ということもあるようなので短く切ってあります。
チェックテスト1誤答例