前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、
にあるので見ておいてください。
以下のようなものでした。
電磁誘導を使った実験が以下のビデオにあります。
ビデオ内で起こっている「リング磁石のゆっくりとした落下」はなぜ起こるのか、「中学生・高校生にわかる説明」を書いてください。
をちゃんと説明すること。
なお、念の為。実験で使っているリング状ネオジム磁石は以下の図のような磁力線を出してます。
先に正解を書いておきましょう。
磁石が落下すると、それによって磁場が時間変化します。時間変化する磁場があるときは、「その磁場の変化を妨げるような磁場を作る電流を流そうとする」というのが物理法則(レンツの法則)なので、流れることが可能な場合は、図に示したように電流が流れます。
→ →
ちょっと注意。上では「どちら向きに電流ができるか」という説明の都合上、まず「電流がどういう磁場を作るか?」を考えました。つまり磁場の時間変化→電流の作る磁場→電流という順番に考えて(説明して)いきました。しかし、実際に起こる物理現象の順番としては
磁石による磁場(磁束密度)の時間変化 → 電磁誘導による起電力の発生 → 電流が流れる → 電流により磁場が発生
です。因果関係は磁場時間変化→電流→電流の作る磁場であること(説明の順番とは違うこと)に注意しましょう。
電流によって作られた磁場は、ちょうど
のようなN極、S極を持つ電磁石ができたのと同じになります。上の電磁石は落ちる磁石をひっぱりあげる力を、下の電磁石は落ちる磁石を支えるような力を、リング磁石に及ぼすので、リング磁石の落下は何もないところで落ちるよりも遅くなります。
上にも磁石ができるということを書いてない答案もいくつかありました。「なぜゆっくり落ちるか」という説明だけなら下の部分だけでも成り立ちますが、「上でも磁束は変化しているのでは?」と考える生徒もいると思います。
アクリルの部分でも「電流を流そうとする作用」は発生します(誘導電場ができる)が、アクリルは電流が流れないので落下を妨げる力は発生しません。
注意点をいくつか述べておきます。
「中学生・高校生にわかる説明」ということを書いたのですが、そうではなく「先生にわかる説明」を書いている人がいました。たとえば、磁石が落下するとそれによって磁束が変動し打ち消す方向に電流が流れる。という文章でどっちむきに電流が流れるか説明したつもりになっている人がいますが、よくわかってない中学生・高校生にこの説明をしたら、何%かは「磁束を打ち消す方向」つまり「磁束と逆向きに電流が流れる」と誤解します。言いたかったことは「電流が作る磁束が、磁束の変動を打ち消すことになるような方向」なのだと思います。すでにわかっている人なら間違わないですが、中学生など、「今から勉強する人」には明確に説明するという姿勢を持たなくてはだめです。
人に教える立場に立つからには、わかっている人にはわかるけど、まだわかっていない人には役に立たない説明はやめましょう。実際、ついついこれはやってしまうものではあります(私もよく失敗する)が、気をつけましょう。
図を見るとわかるように、電流の作る磁場は磁石より上と磁石より下では逆を向いていて、上では磁石の作る磁場と同じ向き、下では磁石の作る磁場と逆向きです。
これを雑に電流は磁石の磁場と逆向きに磁場を作ると説明していた人もいました。これを電流は磁石の磁場の変動と逆向きに磁場を作るなら正しいです(まだこれでもわかりにくい文章ではある)。雑な説明をすると生徒が混乱します。
説明不足というより、自分でもわかってないんじゃないかと心配になるような答案もありました。まずはちゃんと理解しましょう!
さて、では前回の続きで、波の話(今日は主に光の話)を考えよう。
光の屈折の応用である「レンズがどのような像を作るか」というのもちゃんと理解されていないことが多い現象なので、ここで考えておこう。まず以下のようなクイズを考えてみて欲しい。
凸レンズで 太陽光を一点に集めて黒い紙に火をつける、という実験をやったことがある人は多いと思う。同じことを蛍光灯でやってみたらどうなるんだろう?
3.が正解でした!
2.の光は一点に集まるものの、太陽光のときほど熱くはならないと答える人が多いのだが、これは「凸レンズは光を一点に集める」という言葉を文字通りに解釈してしまっているという一つの誤概念である。実は凸レンズを通った光が一点に集まるのは、(もちろんレンズは理想的なレンズであるとして)凸レンズを通る前の光が
だけである平行光線を「無限遠の一点から発した光」と考えれば、前者は後者に含まれる。。1.の場合の光の集まる点が「焦点」である。
上で説明したのは「実像」のでき方。図で描くと
のような感じである。太陽はすごく遠くにあるので、太陽からの光は焦点の位置の「ほぼ一点」に集まる。
アプリで、自分で物体を動かして、どんなふうに光が集まるか、物体が動くと実像がどう動くか、を実感してみてください(レンズの公式とかを覚えるより、この「実感」の方が大事!)。
実像は、上で示したように「実際にこの場所に光が集まることによってできる像」です。この場所にスクリーンを立てるとこの像が写って見えます。
これに対して虚像というのはアプリの下の説明にも書いた図の、
のように、実際とは違う場所から光が来るため、レンズの右側から見るとあたかもそこに物体があるように見える、というものです。
クイズに出した、蛍光灯を凸レンズに通すとどうなるか、というのは「実像」の方です。
蛍光灯の場合、一点から発したわけではない光が上の図のように進んで像を作るので、一点に集まらず蛍光灯の形になるのが正しい。
これはやってみればすぐにわかることである。ところが意外とやってみたことがない子(およびやってみたことがないまま大学生になっちゃった子)が多い。実際のところ「なんでもやってみる」のは理科の基本だと思う。だから生徒児童が「なんでもやってみよう」という姿勢でいるときは、危険がない限りは止めない方がよい。
レンズの問題も生徒に嫌われることが多く、また「とにかく公式だけ覚えておこう」という姿勢で勉強してしまいがちな分野である。現象と結びつけた理解を目指そう。
ではもうひとつクイズを。凸レンズを半分にしたら(あるいは下の図のように下半分を紙などで覆ったら)、像はどうなるだろう?
ところで、これは人間が(というか、動物が)「物を見る」ためのメカニズムそのものである。人間が物を見て「あっ、あそこに○○がある」と判断するためには、やってきた光が「どこから来たか」を判断できなくてはいけない。ただ光を感じるだけではだめである。人間の目にもレンズにあたるものがあり、そのレンズが光を集めることで「光がこの方向からやってきた」ということを判断できるのである。人間の目のレンズが正しく働いていれば、一点から出た光は一点に集まる。
それがうまくできなくて、光を集めきれてないがゆえに像がぼやける、というのが近視/遠視という症状である。
近眼の人の目の中の光を図解したのが↓の図。
遠いところにある物体から出た光はピントが合わないが、近づくとピントがあってはっきり見えるようになる。遠視はこの反対である。
回折とは、波が隙間(スリット)を通り抜けたときに広がる現象のことである。しかし、波の代表例である「光」はふだんあまり回折現象を見せることはない(光は直進し、物体の背後に回り込んだりしない)。しかしもうひとつの代表例である「音」はかなり回折する。その違いは何にあるかというと、波の波長と、スリットの間隔の比である。
具体的に言うと、波長がスリット間隔程度の長いものであったときは回折がよく起こり、波長がスリット間隔に比べて短いものであったときはあまり回折しない。そのあたりを下のアプリでまず確かめよう。
まずはアプリで「波長が長い方が回折がよく起こる」というイメージを掴んでもらいたい。その上で理由を説明していこう。
ホイヘンスの原理を考えると、スリットに比べ波長が短い場合、なぜ波が広がっていかないかが理解できる。ビデオで説明したように、
のように(波長が短い場合)スリット幅から離れた場所にくる素元波は互いに消し合ってしまうのである。
のように(波長が短くても)スリットの内側に進む波では「消えず残る部分」がある。
スリット幅が狭いとその「消し合う効果」が少ないので離れた場所でも波は消えない(つまり、よく回折する)。
波が振動で位相がそろってない場合に互いに消し合うことがあるということを思い起こすと、この現象も理解できるのだが、なかなかイメージするのが大変である。こういう動画で波のイメージを作っていこう。
以上で、この「物理学概論」の授業は終わりです。おつかれさまでした。慣れない遠隔授業でみなさんも大変だったと思います。少しでも楽しんでもらえるよう、アプリを作ったり実験ビデオを撮ったりしました。この授業が今後教員になる(あるいは教員にならなくても、なにかを教えるという経験をする)うえで役に立ってくれたらいいな、と思っています。
この授業では、物理もしくは中学理科の教員となる人に向けて、「どのように物理を教えるか?」という点に注意しながら物理の概念の復習を行いました。特に「初学者はどういう点を間違うか」の部分を強調してきました。大変残念な予想ですが、受講者(いつか教員になる人を含む)の中にも見事に「初学者がやりそうな間違い」をやらかしてしまった人がいるだろうと思っています。
だが、今間違いに気づけたとしたら、それはそれで幸いなことだと思ってください。まだまだ間違ったところを直す機会はあります。直さないでいると「間違いの再生産」になってしまうので、ちゃんと修正していってくれればいいのです。実際のところ私も、教えた後で「しまった間違っていた」と思って冷や汗をかいたことはいくらでもあります。これを読んでいる皆さんが、将来かくことになる冷や汗を少しでも減らしたいと思ってます。
さらにもう一つ強調しておきたいのは、本来理科教員が伝えるべきなのはここで間違い(誤概念)が発生したような概念を正しく伝えることであって、「テストの問題が解けるようになる」というのは二の次(というより、概念理解の結果としてそうなるべき)だということです。自分は理科教員になったとき、何を子どもたちに伝えるのかそれを考えてみてください。
将来あなたの教える生徒が「ドリルでやったことがある問題は解けても、大事な物理概念はまるっきり頭に入っていない」ということがないように、正しく「理科(物理)を教える」ことができる教員となれるように、がんばって欲しい、という願いを伝えて、本授業を終わります。
自分に足りないことを感じた人は、ぜひ引き続き勉強して欲しいと思います。
必須問題
この授業を通じて、物理を学習する上での「よくある誤解」についていろいろ話してきました。授業で扱ったものでもそうでないものでもよいので、
について説明した後、自分が教える立場にたったとき、自分の生徒がそのような誤解をしないようにするためには教え方にどのような工夫をするかを論じてください(「論じて」欲しいのであって、「がんばる」とか「誤解させないように丁寧に」で終わるような具体性のない決意表明は要りません)。
選択問題:以下のうち、どれか1問について答えてください。選択問題はどれも「生徒など、物理を知らない人にどのように説明するか」という観点で書くこと。
選択問題A
「手回し発電機を回したときの手応えが強さの順番は
何もつないでないとき < 電球をつないだとき < 導線を直結したとき
である」という実験がある。この実験結果を見て、 「電球をつないだときは光という形でエネルギーを出しているのに、直結したときよりも手応えが軽いのは納得できない!」と言っている中学生がいる。この子になぜそうなるのかを説明してください。
選択問題B
あなたの家族が、「永久機関」という触れ込みの機械を買おうとしているので、「エネルギー保存則があるから永久機関なんてのは存在しない」と言うと、「おまえは教科書を信じているが、教科書が正しいとは限らんぞ。理学部の学生は頭が固くていかん」と言われてしまった。さてどう説得しよう?
選択問題C
あなたが自分の生徒に「机の上に物体が一つ置いてある。物体および机にはどんな力が働いているかを描いてごらん」と指示すると、下の図のような絵が描かれた。 この図の問題点を指摘せよ。
以上で第15回の授業は終わりです。
今回は最後の授業なので、授業評価アンケートもあります。
いつもやっている授業最後の授業評価アンケートは、今期は教務情報システムから行うことになっています。そちらからアンケートに入力してください。
各自のwebclassへ行って、
に答えてください。最終レポートの提出もあります。
最終レポートの締切は二週間後の8/10の正午としますので注意してください。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。