前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、
にあるので見ておいてください。
なお、前回の最後の問題
第3回感想・コメントシートのクイズ
上の問題の逆を考えよう。等速直線運動していた電車が急停車して、人が前につんのめった。このとき、電車内の物理現象と電車外の物理現象、それぞれ正しいものを選べ。
電車内で人がつんのめった理由
電車外から見て、人が電車内でつんのめった理由
は、見事ここまで答えてくれた人全員が正解でした!ちょっと簡単過ぎたか。
慣性の法則でも、「人間の直観は物理法則に合わない」という話をした。運動の3法則のうち、第1法則(慣性の法則)と第3法則(作用・反作用の法則)はどちらも直観に反する(しかし、正しい)。では残った第2法則(運動方程式)はといえば、これも直観に反する点を含んでいる。「運動方程式は?」と聞かれたら、おそらくほとんどの人が「$F=ma$」と答えることができるだろう。だが、教える立場に立つ人は
ことに注意しなくてはいけない「式が言えるなら、問題が解けるんだからそれでいいじゃん」と思う人も、もしかしたらいるかもしれないが、それは全く違う。物理という教科(学問)の目標は「自然現象を理解すること」なのであり、式が言えたってそれだけでは目標は達成されていないのである。「それでいいじゃん」と思ってしまった人は、この後の「誤解の例」をよく見て「これでいいか?」を自問して欲しい。。
多くの人が陥ってしまう誤概念に「MIF誤概念」というものがある。MIFは「Motion implies a force」(運動があれば力がある、という意味)の略である。誤概念と名がついている通り、間違っているのだが、非常に強固に存在する間違いなのである。MIF誤概念は無理に式で書くなら「$F=mv$」となる。人間の直観はMIF誤概念をサポートする方向なので、「ちゃんと物理を勉強してない人」は皆この誤概念にハマると思っていい。教える側は「ここに『落とし穴』がある」ことを認識したうえで教えていく方がいい。
MIF誤概念が現れている例として、2018年の11月に実施された「大学入学共通テスト試行問題」の物理基礎の問題(問題番号などは書き直した)を見てみよう。
正解は次のページだが、答えを見るまえに自分でも考えてみること。
ビデオでも述べたように、正解はすべてオである。どう運動しているかに関係なく、働く力は重力のみであり、それは下向きに決まっている(間違った人いるかな?)。
大学入試センターが公表している、この問題の正解率はそれぞれ、30.1%, 23.0%, 34.2%である。驚くべきことにこれに「驚く」かどうかは人によるだろう。このテキストを読んでいる人の中でも、正解がすぐにわかる人(むしろこれの何が難しいのかわからない人)から、正解を聞いて「信じられない」と思った人まで、いろいろいると思う。物理を教える立場にいる人は「困ったことだ」と認識しなくてはいけないだろう。、正解できた生徒の数は3割を切っている。なお、この問題を含む物理基礎の問題の平均得点率は約58%なので、この試験を受けた人は「平均点60点ぐらいの得点はできる人」なのに、この大事なところがわかってないのである。
「重力は下向きに働く」とか「力は加速度に比例する」とか、中学の理科の先生、高校の物理の先生は教えているはずであるが、この問題を見てすべて正しく解答できる人は23%より少ない---この現状に関して「教える側」の我々はどう思うべきだろう??
MIF誤概念が効く問題として、テキストの最初に載せたチェックテスト3を、まずやってみてください。
下の図は、爆撃を行っている爆撃機の写真である。
下の図は写真の状況を模式的に表したもの(爆弾は代表して三つのみ描いた)である。
三つの爆弾それぞれに働いている力を(●が作用点)を使って、速度をを使って矢印で表し、上の図に描き加えよ。
考えましたか??---では次のページで、「どういう答えが出てくるものなのか」を説明します。
例によって以下は君たちの先輩の答えです。先輩たちは最初の授業でこのチェックテストをやってもらってから授業に入りました。君たちは慣性の法則などの授業の後でこの問題をやっているので、先輩たちよりは有利であることに注意。
速度に関する解答は、大きく分けて、
のような3種類が出現する(まれに、左斜め下も現れる)。3種類の解答(細かく分けるともっと種類は多い)が出るのは面白いところである。
人数分布がどんな感じかは、テキスト35ページにありますから見ておいてください。
力に関する解答は、だいたい、以下の2つに分けられる。
では、こういう解答が出る、ということを踏まえた上で、自分の解答を見直して、もう一度正解がどうなるかを考えよう。考え終わったら、次のページへ(正解があります)。
正解として、下のアニメーションを用意した(見終わったらブラウザの戻るボタンで帰ってきてください)。
正解を図解しておくと以下の図で、速度は白い矢印である。
速度は、水平方向の成分(図の、右を向いたピンクの矢印)は一定で、鉛直方向の成分(図の、下を向いた水色の矢印)が増加していく(よって水平成分と垂直成分の足し算である速度は右斜下を向く)という絵が描ける。
動画の中でも説明した、爆弾一個一個の軌跡を見たい人は、↓のアニメーションを実行すること(見終わったらブラウザの戻るボタンで帰ってきてください)。
無重力の宇宙空間内を宇宙船がA地点からB地点まで等速直線運動してきた。このままなら宇宙船はC地点に到着するところだったが、ロケットエンジンを噴射したため、宇宙船はD地点に到着した。D地点でロケットは噴射をやめた。
宇宙船のB地点からD地点、およびその後の運動の軌跡を図に描き込め。
という問題を考えようこれは「MIF誤概念」を提唱したClementが行った試験。「慣性についての高校生の素朴概念に関する教師の認知」(中山迅・猿田祐嗣、科学教育研究Vol.19 No.2(1996))に詳しく紹介されている。。
下ページに行って「10秒加速」というボタンを押すとロケットが10秒加速するので、それによってどのような動きが起こるかを確認しよう。終わったら「目次に戻る」ではなくブラウザの「戻る」で戻ってくること。
なお、ロケットの運動の軌跡を見たい場合は、上の方にある「軌跡表示On/Off」のボタンを押すこと(消したいときはその隣の「軌跡消去」を押す)。
ロケットの角度を0〜360度の範囲で帰らられるので、いろいろな方向に加速して遊んでみて欲しい。「ピタッとロケットを静止させる」のは、結構難しい。
このシミュレーションは「無重力で、空気の抵抗もない」という状況を計算で見せているもの。地球上ではそんな場所はないのだが、そういう場所でなら、普段実感できない(がゆえに誤概念が生まれる)「慣性の法則」や「運動の法則」を実感できるのである。
シュミレーションで感じて欲しいこと
アプリ画面の下の方に「しばらく遊んだあとで、課題として考えてほしいこと」がある。特にそこの「突然万有引力が消失したら何が起こる?」のところは試してみよう。
円運動を作っている引力(↓のビデオの場合は糸の張力)が突然消えるとどうなるか、をやってみた実験(去年の授業)のスローモーション撮影があるので見てください。
手を離した後のボールがどの方向に動いたか、よく観察しておいてください。
来週の5/7は水曜日授業なので、この「物理学概論」の授業はありません。次回の第5回は5/14です。
というわけで、二週間空くので、レポート問題(今回は成績に反映します)を出しておきます。テキスト49ページの練習問題2-4です。提出期限は、5/13までとします。
上の図の現象で、回していれば水がこぼれないのはなぜかを「遠心力」という言葉を使わずに説明せよ。
(注意:外から見ている立場ならば、「遠心力」なんて言葉は一切使わないのが正しい考え方である。どうしても「遠心力」を使いたいなら、あなたは「バケツの中にいる人」にならなくてはいけない)
注意にも書きましたが、あくまで「外から見た人の立場」で説明してください。説明は、「将来自分が教えることになる中学生・高校生に対する説明」として書くこと。解答は文章のみでもいいですが、図を使って説明してくれてもかまいません(その方がわかりやすくなるはずです)。
遠心力を使って説明するなら、
バケツが人の真上に来たとき、水には下向きの重力が働くが、(バケツの中にいる人から見ると)外側すなわち上向きに遠心力が働くので、遠心力の方が大きければ水は落ちない。
という感じになるでしょう。でもこれは「バケツの中の人」の立場の説明だから、この問題の解答にはなりません。
ヒントは、テキストをよく読むといろいろ書いてあるんじゃないかな、と思います。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。