前回のクイズ

前回の感想・コメント

 前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、

にあるので見ておいてください。

 前回のクイズ

 床の上に質量$M$の物体があり、その上に質量$m$の物体が乗っている。床と下の物体の間には摩擦がないが、上の物体と下の物体の間には摩擦がある。

 最初下の物体の初速度は$V$、上の物体の初速度は$v$だった($V < v$)。しばらくするとこの2物体の速度が一致した。

 このとき運動量は保存するが力学的エネルギーは保存しない。その理由として正しいものを選べ(複数個選んでもいいし、正しいものがないなら「なし」と答えてよい)。

  • A: 摩擦により熱が発生する。熱になったエネルギーの分、力学的エネルギーは減る。
  • B: 摩擦力が上の物体にする仕事と摩擦力が下の物体にする仕事が足して0になってないので力学的エネルギーは変化してしまう。
  • C: 上の物体にはたらく摩擦力と下の物体にはたらく摩擦力が足して0になってないので力学的エネルギーは変化してしまう。

というクイズを出しておきましたが、今回は全員正解とはいきませんでした。

 回答分布は以下の通り(5/21の朝集計)

ABCなし
Aのみ(14)14
Bのみ(2)2
Cのみ(0)
AとB(4)44
AとC(3)33
BとC(1)11
全部(1)111
なし(2)2

見事にばらついてますね^^;

 テキストではこの後、「永久機関」の話をしてからエネルギー保存則に入っていく、という流れなのですが、クイズを出したので、クイズの答えのために必要な部分だけ「エネルギー保存則はどのように導出されるか」を動画とテキストで説明しておこうと思います。

 力学において、原理となるのはニュートンの運動の法則です。これは

からなります(慣性の法則と作用反作用の法則は、この授業でもだいぶやりましたね)。

 まずクイズの題材である物体にどのような力がはたらいているか、図にしてみましょう。鉛直方向の力は今の話に関係ないので忘れることにして水平方向の力だけを書き込むと、

となります(上の物体の速さ$v$の方が下の物体の速さ$V$より大きいという設定なので、摩擦力は上の物体を遅くする方向にはたらく)。

 さて、ここで「作用反作用の法則」を思い出すと、この2つは「同じ大きさで逆向き」のはずです(なぜなら、それが物理法則だから)。


 「C」に○をつけた人、残念でした。

 「B」が正しいかどうかを判定するために「エネルギー」と「仕事」の関係を思い出しましょう(前回の最後で考えたものです)。

【質問】力学的エネルギーとはどのように「定義」されていたものか?
力学的エネルギーは、「仕事をする/されることによって増減する物理量」と定義されている。

【質問】では仕事とはどのように「定義」されていたものか?
仕事は「力×力の方向への移動距離」と定義されている。

 二つの力のする仕事を考えてみましょう。仕事を計算するには「移動距離」が必要です。短い時間$\Delta t$の間の移動を考えると、

のように、二つの物体の移動距離は違います($V < v$なので、上の物体の方が長い距離を進む)。

  1. 摩擦力が上の物体にする仕事$-Fv\Delta t$
  2. 摩擦力が下の物体にする仕事$FV\Delta t$

となり、全体にする仕事はこの和なので、足して0にならないのです。そしてこれが、力学的エネルギーが保存しない理由です(なぜ?の部分は後でもう少し詳しく説明)。

 最後にAですが、力学的エネルギーというのは上に書いたように保存しないこともあるものなのですが、「全エネルギー」(力学的エネルギーの他のエネルギーも足したもの)は保存します(そのあたりは、先の授業でまた話しますが)。この場合、「熱」という形で「他のエネルギー」に逃げるエネルギーがあるので、力学的エネルギーが保存しないのです。というわけで、Aは○です。

 では、エネルギーと仕事の関係についてもう少し詳しく説明します。
力学的エネルギーと仕事

力学的エネルギーと仕事

仕事と運動エネルギーの関係

 少し数式を使って説明すると、まず仕事は力を$\vec F$、移動距離を$\Delta x$とすると $$ W=\vec F\cdot \Delta \vec x $$ である(「力×力の方向への移動距離」は内積で表現される)。ここで、短い時間$\Delta t$間の移動距離は$\Delta \vec x=\vec v\Delta t$であることを使うと、 $$ W=\vec F\cdot \vec v\Delta t $$ で、さらにこれに運動方程式を使うと $$ W=m{\mathrm d\vec v\over \mathrm dt}\cdot \vec v\Delta t $$ となる。ここで、

 おおっ、この$m{\mathrm d\vec v\over \mathrm dt}\cdot \vec v$というのは、${1\over2}m\vec v\cdot \vec v$を時間で微分したものではないかっ!

と気づくと、 $$ W={\mathrm d\over\mathrm dt}\left({1\over2}m\vec v\cdot \vec v\right)\Delta t $$ とわかって、右辺は${1\over2}m|\vec v|^2$の変化量であることがわかる。

 大学生的にはさらに微分の記号を使って $$ W=\vec F\cdot \mathrm d\vec x=\vec F\cdot {\mathrm d\vec x\over\mathrm dt}\mathrm dt=\vec F\cdot \vec v \mathrm dt $$ として、さらに $$ W=m{\mathrm d\vec v\over\mathrm dt}\vec v \mathrm dt = \mathrm d\left({1\over2}m|\vec v|^2\right) $$ 書きたいところ。
 上ではわりと大学生向けの説明をしましたが、高校だとまず一直線の問題で上の式を説明するところから始めます。高校の物理の教科書に $$ v^2-(v_0)^2=2as $$ という式が載っていますが、これに${1\over2}m$を掛けると $$ {1\over2}mv^2-{1\over2}m(v_0)^2=mas=Fs $$ になります。これは「運動エネルギーの増加=仕事」という式ですこの式も「公式だから覚えましょう」と丸暗記して、運動エネルギーとの関連なんて考えたこともない、って人(各個撃破な人)が多い。

 大事なことは、数式により力学的エネルギーの増加=された仕事が証明できていることです。

 上で説明したのは運動エネルギーだけで、位置エネルギーなども含めてこうなることも、ちゃんと説明が必要です。

↓のビデオで、上の式の説明をします。

 もう一つ注意すべきことは、仕事が内積で定義されていること(だから、力と移動方向が逆向きだと仕事がマイナスになる)。中学生にもわかるような説明としては、

(仕事)=(力)×(力の方向への移動距離)

となっています。(力の方向への移動距離)とすることで「逆向きだとマイナス」「力と移動方向が垂直だと0」という情報もそこに入っているわけです。

 たいへん残念なことには中学理科では「運動エネルギー」という言葉は出てくるけどそれが${1\over2}mv^2$だという話は出てこないので、上のように仕事と運動エネルギーがつながっているということを中学生には「そういうものです」と天下りに教える形になってます。だから仕事とエネルギーの関係が成り立つ理由が中学生にはピンと来ないままなのです。教える側のあなたたちはここを理解した上で教えて欲しい。

 ここの話を逆に考えると、${1\over2}mv^2$がエネルギーだとして、それを時間で微分すると $$ {\mathrm d\over\mathrm dt}\left({1\over2}mv^2\right)=m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v $$ となり、これが「力$=m{\mathrm dv\over\mathrm dt}$」×「速度(単位時間あたりの移動距離)$v$」なので、「単位時間あたりの仕事」になる、ということになる。

 位置エネルギーについても説明しておこう。対応する位置エネルギーが存在する力を「保存力」と呼ぶが、保存力は$F=-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}$のように書ける(こう書ける力を保存力と呼ぶ)。

 すると保存力がする単位時間あたりにする仕事は(力)×(単位時間あたりの移動距離)で、$-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}v$になる。上の計算で、単位時間あたりの仕事は$m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v$とも書けたから、 $$ m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v=-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}v $$ である(なんのことはない、運動方程式$m{\mathrm dv\over\mathrm dt}=-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}$の両辺に$v$を掛けただけの式だ)。

 この式からちょっと計算すると、 $$ \begin{array}{rl} m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v+{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}\underbrace{\mathrm dx\over\mathrm dt}_v=&0\\ {\mathrm d\over\mathrm dt}\left({1\over 2}mv^2+U(x)\right)=&0 \end{array} $$ となって、運動エネルギーと位置エネルギーの和${1\over 2}mv^2+U(x)$が保存(時間微分が0)ということがわかる(この式がぱっとわかんない、という人は下の式を微分すると上の式になることを確認するとよいと思う)。これが力学的エネルギー保存則である。

 以上のようにして「力学的エネルギー保存則を作った」ことを思えば、

どんなときに力学的エネルギーは保存しなくなるのか?

という疑問が湧いても「こういうときだな」とわかるはずだ(要は上で置いたいくつかの仮定が成り立たないのはどんなときかを考えればよい)。

 わかった人は、下の文章をクリックして、答え合わせしてみよう。

答えはここをクリック 上で「保存力である」ということを使った、ということは保存力ではない力が働いて仕事をすると、力学的エネルギーは保存しない。保存力でない力の例は、(今日の授業でも登場した)動摩擦力や空気抵抗などがある。

 もう一つクイズを。

のような振り子を考えて、エネルギー保存則を適用するとき、この張力$T$の影響は考えなくていいのか?

という問題です。エネルギー保存則を使って問題を解いている最中の高校生あたりに上の質問をぶつけると「え・・・いつも考えてないけどなんでだろう?」とフリーズしてしまうことがよくあります。

 皆さんフリーズしてませんよね?? フリーズした人は、上の「仕事の定義」をよく読んで(あるいは、上のビデオの最初の仕事の定義の話をよく聞いて)、張力の仕事を考えなくていい理由がわかってから↓の答えを開いてください。

答えはここ これも、「仕事の定義」に戻って考えれば簡単である。この場合、張力のする仕事は$\vec T\cdot\Delta \vec x$であるが、運動方向と張力が常に直角ならば内積の性質により、$\vec T\cdot\Delta \vec x=0$なのである。張力は仕事をしていない。
 これも、「そもそも仕事とはなんであったか」「仕事はエネルギー保存とどう結びついているか」という概念がちゃんとできていれば、フリーズせずにわかるはずです。定義や原理、法則とそのつながりを理解しておくことは大事。
 仕事とエネルギーの関係を理解するには「永久機関」というものを考えるとよいので、次のページで永久機関の例を説明します。
前回のクイズ 永久機関の例

永久機関の例

ググると出てくる永久機関の例

 YouTubeなどで「永久機関」を検索すると、以下のようなのが見つかります。

 全部見る必要はないですが、(騙されないように気をつけながら)見てみてください。

 一番下の動画の中でも作った人が「回りません!」と言っている永久機関について考えましょう。

アンバランスな車輪

 この車輪が「回る」と言ってる人の主張は「おもりをとりつけるレバーが可動なので、右の方では腕が長く、左の方では腕が短くなる。すると力のモーメントは右の方が大きくなるから右に回る」というものである。なるほど、てこの原理で考えると同じ力でも腕が長いと回そうとするトルク(力のモーメント)が大きいというのは本当である。

 では回るか、と言えば(実際作った人の証言の通り)回らない。少なくとも、回り続けることはない。

これが回り続けないことの説明は次のページに書くので、しばらく考えてみてから次へ進もう。
力学的エネルギーと仕事 永久機関と保存則

永久機関と保存則

エネルギーと仕事を使わない説明

 ビデオによる説明は↓の通り。

 文章でも説明を書いておく。まず、エネルギーとか仕事とかの言葉を使わない説明をしよう。下の図を見てみよう。

 車輪の左側にあるおもりと右側にあるおもりの数を比べると、左の方が多い。つまり一個ずつのおもりを比べるとのモーメントがつりあっていないように見えるが、全体を考えると数が多い分だけ左が巻き返して、結果として引き分けになり、動かない。

 一個一個の物体を見るのではなく、全体を見なくては間違える。

 しかしこの説明だと、まだ「いやうまく作れば右が勝つようにできるはず」とか「むしろ左の数がもっと多くなるようにすればいいのでは?」とか反論(?)されてしまうかもしれない。

エネルギーと仕事を使った説明

 ビデオによる説明は↓の通り。

 文章でも説明を書いておく。実は多くの永久機関は、先週考えた「エネルギーの定義」と「仕事の定義」を思い出せばすぐに「動かない」と判断できる。上のものも同じである。

 上の永久機関の場合、仕事をしてくれるのは重力である。重力が仕事をした分だけ、この機関のエネルギーが増えるわけである。では重力のする仕事はどれくらいだろう、と勘定してみると、

のように、行きと帰りの仕事が相殺する。これは仕事が$\vec F\cdot\Delta \vec x$のように内積で定義されているおかげである。

 先に「一個の物体を見るのではなく全体を」という話をしたが、ここでは「ある瞬間ではなく、一周回るという運動全体を見る」という視点が重要。こうすれば「全体で仕事は0じゃないか」ということが納得できるのである。

 エネルギーというのは、仕事をされたらされるだけ増える物理量である。そうなるように、仕事やエネルギーを定義する。我々のご先祖様たちが永久機関を作ろうと考えた結果、「エネルギー」という物理量を発明して「エネルギーという概念を使うと永久機関ができない理由がわかる」という結論に達したのである。

 さて、前回

先生、この場合は運動量保存則使うんですか、エネルギー保存則を使うんですか?

と質問されたりするわけだが、どっちを使うか(あるいは両方使えるまたは両方使えないか)というのは、それぞれの保存則がどこから来るかを理解している人にとっては聞くまでもない「自明」なことである。

という話をした。今日の「エネルギーはなぜ保存するのか」という話を聞いたあとなら、この質問にどう答えるべきかも変わってくるのではないかと思う。

 以下のクイズ問題を出しておく。

 以下のようなメカニズムはなぜ動き続けないのか、説明せよ。
  1. 鉄球が磁石に引っ張られて坂道1を登る。
  2. 坂道1の途中に穴が空いているので、そこで鉄球は落ちる。
  3. 落ちた鉄球は、今度は坂道2を転がっていく。
  4. 坂道2を転がってきた鉄球は坂道1の下に出る。後は同じことの繰り返し。

 実は、答えはものすご〜〜〜く単純です(この問題はほぼクイズです。物理とは言えないほど単純)。考えすぎないように。「エネルギー」とか「仕事」とかの言葉を使って説明する必要はありません(説明してもいいけど)。

以上で第6回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、
  • 第6回授業感想・コメントシート
に答えてください(「第6回感想・コメントシート」には上のクイズ問題が付いてます)。今回のクイズ問題の解答の正誤は、成績に反映しません。

webclass↓


この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。
永久機関の例 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


前回のクイズで私はBを選びました。なぜBが違うのか、なぜAが正しいのか理解することができました。 今回の内容の永久機関を考えるには力学エネルギーと仕事が理解できていないと難しいと思いました。
前回のクイズはAとBが正しいんだけどな。

前回のクイズ問題でBとCの選択肢でどこに着眼して考えればいいのかが理解できた。こういう正誤問題が苦手だが、しっかりと定義や意味を分かっていれば何が間違えか理解できることを実感した。
BとCの違いは「力」と「仕事」の違いなんですが、関連する保存量としては「運動量」と「エネルギー」の違いになります。このあたりはまた今度やります。

前回のクイズで間違えてしまったので、解答で理解できて良かった。仕事やエネルギーといった言葉を曖昧に理解していたことがこの問題で分かった。だから、これからはしっかり言葉の意味を理解していきたい。永久機関の説明で、YouTubeのリンクを貼ってくださり見たが、どれも面白かった。YouTubeは使い方次第で学びを得ることが出来ると改めて感じた。仕事と運動エネルギーの関係は理解していたつもりだが、完全ではなかったことが分かった。中学生に教える時には、難しい言葉を使わずに理解してもらう必要があるので、まずは自分が完璧に理解したい。
仕事やエネルギー、中学生に理解してもらえるように、理解を深めてください。

前半の問題や振り子問題の解説を聞いて、力学的エネルギーと仕事の関係が整理しやすくなりました。永久機関でおもりの数や腕の長さに注目した解説では腑に落ちなかったのですが、仕事で考えることですっきりしました。ところどころ理解できていないこともあったので、法則や原理のつながりや出所を意識しながら学びなおしていきたいです。
物理法則をいかに「すっきり」と理解していくか(理解させていくか)、考えてみてください。

永久機関がなぜ動き続けることができないのか考えたとき、永久機関の一部のみを見て考えていましたが、説明を聞き全体の動きを見ることによってなぜ動き続けられないのかわかることができました。 いろんな視点で考えていきたいと思います。
物理に限らず、いろんな視点を持つことは大事ですね。

永久機関が存在しない理由をきちんと理解することはできたが、動画で見た永久機関のように動いているやつの仕組みはわからなかった。ノートを見返したり、調べてみたりして理由を考えたい。
動いている永久機関は、どこかに「モーター」かなにかが隠してあるだけだと思います。

永久機関というロマンのある話を物理で考えるとなんだか物知りになった気分だった。
どっちかというとロマンがない話ですけどね。

保存則