前回のクイズ

前回の感想・コメント

 前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、

にあるので見ておいてください。

 前回のクイズ

 以下のようなメカニズムはなぜ動き続けないのか、説明せよ。
  1. 鉄球が磁石に引っ張られて坂道1を登る。
  2. 坂道1の途中に穴が空いているので、そこで鉄球は落ちる。
  3. 落ちた鉄球は、今度は坂道2を転がっていく。
  4. 坂道2を転がってきた鉄球は坂道1の下に出る。後は同じことの繰り返し。

 実は、答えはものすご〜〜〜く単純です(この問題はほぼクイズです。物理とは言えないほど単純)。考えすぎないように。「エネルギー」とか「仕事」とかの言葉を使って説明する必要はありません(説明してもいいけど)。

というクイズを出しておきました。

磁石は重力の斜面方向の成分に勝てるほどの力は出せない。

という解答がありましたが、こう説明すると、小中学生から、

じゃあ、むっちゃくっちゃ強力な磁石を使ったらどうなるの!

という再質問が来そうです。

教員になる人は、↑のような質問を返してくる「好奇心旺盛な子供」を頭の中に勝っておきましょう。

坂道2の終わりで下に落ちるので元に戻らない。

という解答もありましたが、これも

むっちゃくっちゃ強力な磁石やったら引っ張り上げられる!

と言い返されてしまいそうです。

坂道2は水平だから転がらない。

って解答があったんですが、図の書き方が悪かったかなぁ。坂道2も傾いているという設定です。

 正解は、

 重力に逆らって鉄球を持ち上げるほどの磁石なら、「途中の穴」でも鉄球は落ちることなく吸い付いてしまう。

でした。図を描いてみると↓のような感じです。

「なぁ〜〜んだ」って言わないでね。最初から「答えはものすご〜〜〜く単純」って書いておいたんだから。

 これは、磁石の力の位置エネルギーを考えるとどうなるか、などの考え方でも落ちないと結論できます。

永久機関をもう少し

永久機関をもう少し

 図のように鎖を三角形に掛ける。右の辺の方がおもりの数が多いから、右側がおちるというのが「ステヴィンの鎖」という永久機関もどきである。

 これが動かない理由は、下の図のように力の分解をしてみるとわかる。

 一個一個のおもりに働く重力は同じ大きさでも、斜面に平行な方向の成分の力は異なる。図でもわかるように左側の方が水平方向の分力は大きい。これがおもりの数の少なさとちょうどバランスして、分力の和は左右で同じになることが計算するとわかる。

 なお、この三角形の問題を考えたのはステヴィンという物理学者だが、彼は「これは永久機関になる」と言ったのではなく、「これが動かないということは、力を分解するときは平行四辺形を使えばよい」と主張した。ステヴィンは力を分解して力のつりあいを考えるという手法を編み出したのである。

 次のページにその物理シミュレーションがあるので手で動かして「あ、これは動かんわ」ということを実感して欲しい。

前回のクイズ ステヴィンの鎖シミュレーション

ステヴィンの鎖のシミュレーション


 上のボタンを押しても、紐の張力は表示しないようになっている。


 最初は回るような初速度を持たせているが、すぐに止まるだろう。この玉は指またはマウスで動かせるので、動かしてみて(ああ、これは動かないなぁ)と実感してみて欲しい(このシミュレーションは空気抵抗が入っているので、どんな動きでもいつかは止まる。動きそうな気配がないということが大事)。

無闇矢鱈に動かすと変な動きをするので注意。困ったときはリロードせよ。

 しばらく待っていると、以下に示すような定常状態に達するはずである。

 この状態を注意深く見れば、回転を起こすような力にはなってないことがわかるだろう。

永久機関をもう少し 浮力を使った永久機関

浮力を使った永久機関

浮力を使った永久機関

 下の図のように、ベルトで結び付けられたピンポン玉をつないだものを、半分だけが水中にあるようにする。

 下の部分でピンポン玉が水中に入るときは、水が漏れてしまわないようにちょうどピンポン玉が通る分だけ開くようなメカニズムがあるものとする。

 すると水中にある左のピンポン玉は浮力で上昇し、空中にあるピンポン玉は重力で落ちるから、この機械は回り続ける・・・・はずがない。

 なぜ動かないのか、↓のビデオを見てみよう。

 これが動かないことを示すには、「浮力って何?」というところに戻らなくてはいけない。

 浮力は実は水の圧力(水圧)の合力である。物体が水中にあるときは、上の図のように「深いところほど強くなる水圧」が働く。これを足算すると上向きの力が残る。これが浮力。

 図にも書いたようように左右方向の力もあるが、物体が完全に水中にあればこれは消し合っている。

 ところが今考えている機械の場合、水に入ろうとするピンポン玉は左半分しか水に浸かっていないから、

のように力が働き、この力は「ピンポン玉を外に押し出す方向」に働くのであった。この力のために、この機械は回らない。

ステヴィンの鎖のシミュレーション 運動量保存則と力学的エネルギー保存則

運動量保存則と力学的エネルギー保存則

保存則はどこから来る?

 運動方程式から運動量変化とエネルギー変化がどのように出てくるかの説明ビデオ↓
 ↑から、保存則がどのように導かれるかの説明ビデオ↓
 以下の説明に加え、テキストの56ページからの説明も読んでおいてください。

運動量保存則

 テキストと順番が逆だが、こっちの方が計算が楽なのでまず運動量保存則から。

 二つの物体が

のように力を及ぼし合っているとする。

 作用反作用の法則$\vec F_{\rm AB}+\vec F_{\rm BA}=0$から、運動方程式$\vec F=m{\mathrm d \vec v\over \mathrm d t}$を用いて $$ m_{\rm A}{\mathrm d\vec v_{\rm A}\over \mathrm d t} + m_{\rm B}{\mathrm d\vec v_{\rm B}\over \mathrm d t}=0 $$ が言える。これは $$ {\mathrm d \over \mathrm d t}\left(m_{\rm A}\vec v_{\rm A}+ m_{\rm B}\vec v_{\rm B}\right)=0 $$ と書き換えることができて、運動量保存則そのものである。

 次にエネルギーの方を考えよう。同様に二つの物体それぞれに働く力を$\vec F_{\rm AB}$と$\vec F_{\rm BA}$とする。この二つの物体が

のように同じ動きをしたとしよう($\Delta \vec x_{\rm A}=\Delta \vec x_{\rm B}$に注意)。

 この図の状況であれば、$\underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}$は正で、$\underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}$は負である(絶対値が等しい)。すなわち $$ \vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}+\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}=0 $$ が成り立つ。「Aにされた仕事」と「Bにされた仕事」の和は0となり、全エネルギーは保存する。

 しかし、物体に変形が生じるなどの理由で

のようになって二つの$\Delta\vec x$が一致しないならば、 $$ \underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}+ \underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}\neq0 $$ となることも起こり得る。図の状況で左辺の$\underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}$は正で、右辺にある$\underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}$は負であることに変わりないが、絶対値は後者の方が大きい。よってこの場合、「Aにされた仕事」と「Bにされた仕事」の和は負になる(エネルギーが失われる)ことになる。この失われたエネルギーは「物体の変形に使われた」と解釈される。

 変形などが起こってエネルギーが保存しないように見えるときも、物体の持つ内部エネルギーを考慮に入れて考えると全エネルギーは保存する。

 以上からわかることは、外力(系内の物体以外から及ぼされる力)が仕事をしないで、かつ内力(系内の物体同士の及ぼし合う力)のする仕事が消し合う(消し合うのは「力」ではなく「仕事」であることに注意)なら、その系のエネルギーが保存するということである。

ステヴィンの鎖のシミュレーション 仕事の原理

仕事の原理

仕事の原理

 ここで、重要な法則を一つ確認しておこう。

仕事の原理

 道具を使って力を増幅することはできるが、仕事を増加させることはできない。

 この原理が成り立つことが、仕事が便利な物理量である理由である。たとえばテコや動滑車などの道具を使うと、力を増幅することはできる。しかし、仕事は「道具による増幅」ができない。だからこそエネルギーを考えるときは力学の主役は「力」よりも「仕事」になるのである。

 道具を使って力の大きさを変える例は上の図のようなものがある。 シーソーでも動滑車でも、移動距離に反比例して力が変わるので、(力)× (移動距離)の積である仕事は変化しない。

↓仕事の原理の説明ビデオ

 仕事の原理があるおかげで「道具を使えば力は増やせる。しかし仕事は増やせない」ということがわかる。これが成り立ってなかったらエネルギー保存則は成立しない。

とまぁ、仕事の原理は重要で、中学理科で登場するが、中学理科の範囲ではエネルギー保存則が筋道立てて教えられる部分が少ないので、今ひとつ「この原理は何の意味があるのか?」が伝わっていないのが残念である。

運動量保存則と力学的エネルギー保存則 保存則に関する問題

保存則に関する問題

 テキストの65ページから後に、いくつか問題があるのでそれをやってみよう。答えは隠してあるので、まず自力でやってみよう。

 高校物理で運動量保存則が使われるのは衝突問題が多い。

のような衝突現象が起こったとき、運動量保存則 $$ m\vec v+M\vec V=(M+m)\vec V' $$ は成立するが、エネルギー保存則 $$ {1\over2}mv^2+{1\over2}MV^2={1\over2}(M+m)(V')^2 $$ は成立しない。この理由を説明できるだろうか?---ここまででエネルギー保存則と運動量保存則がどこから来たかをちゃんと理解している人なら、エネルギー保存則が成立しない理由を、少なくとも二つ述べることができるはずである。

  • 保存しない分のエネルギーはどこへ行くのかを考える
  • エネルギーの変化は何によってもたらされるかを考える

の二つの観点から、上の例でエネルギーが保存しなかった理由を述べよ。

答えはここをクリックすると出てくるが、自分で答えを考えてからクリックすること。
  • 保存しない分のエネルギーはどこへ行くのかを考える

の方で考えると「弾丸がめり込む」という変形が起こっ>ているから、その変形にエネルギーが使われている(熱も発生しているだろう)。

  • エネルギーの変化は何によってもたらされるかを考える

の方で考えると、

のように図を描いて考えると、弾丸の動いた距離の方が的の動いた距離より長いから、仕事に差ができている。仕事が消し合わない分、エネルギーは変化してしまう。

人間がボールを投げる。

投げる前と投げた後で、運動量の和が保存してないように思える。これはなぜか。

  • 運動量は保存してないが、その理由は〜
  • 考え方を変えると、運動量は保存している。なぜかといえば〜

の二つの答え方ができるので、両方を答えよ。

 答えはここをクリックすると出てくるが、自分で答えを考えてからクリックすること。

 絵を書くと↓こんな感じ。

 運動量は保存しないのは、「人間とボール」以外である「床」から力が働いているから。人間はボールを投げるとき、足を踏ん張って床を蹴っていることに注意(ほんまかいなと思う人は自分の足がどんな力を出しているのか注意しながらボールを投げてみること)。この力がないと、人間は後ろに動いてしまう。

 逆に考えると「床」も含めると運動量は保存している。つまり、このとき人間および床(というか、床につながった地球全体)がバックしているのである。

ただ、この地球の動きは人間には検知できない。

 最後にもう一つの問題をレポート問題とするので、webClassの方で解答して欲しい(成績に反映しません)。

 図のような状況で、床と下の物体との間には摩擦がなく、上の物体と下の物体の間には摩擦がある。この物体の運動を考えるとき、上の物体が下の物体の上を滑らないならば、エネルギーは保存する。

 この問題を見てあなたの生徒が摩擦があったらエネルギーは保存しないのではないですか?と質問してきたら、あなたはどう答えるか?

以上で第7回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、
  • 第7回授業感想・コメントシート
に答えてください。上の問題もついていますので解答してください(成績には反映しません)。

webclass↓


この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。
エネルギー保存則と運動量保存則 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


浮力の永久機関は水の抵抗だと思った。
抵抗ももちろん関係はする。

物体の衝突のときの仕事のエネルギーに差ができるときと保存されるときの違いを理解することができたが、それ以外の時(摩擦など)の理解がまだあやふやだった。
ちゃんと理解して、さらに人に説明できるようになろう。

前回の問題の答えをみて確かに言われてみればその通りだと思いました。永久機関についてもっとみていくと永久機関を作るのは難しいと思いました。 運動量保存則とエネルギー保存則の違いを忘れていたので復習できてよかったです。今まで公式を丸暗記していたので丸暗記はやっぱり良くないと思いました。

ステヴィンの鎖のシミュレーションがとても興味深かった。
 エネルギー保存則と運動量保存則について、式を使ってさらに理解することができた。しかし、保存則に関する問題を考えたとき、なぜそのようになるのかを頭で理解していても、それを言葉で上手く説明するのが難しかった。
難しいのはそうなんだけど、そこを説明するのが教員の腕だからね。

エネルギー保存則が作用・反作用の法則や運動量保存則から導くことができることが学べたので良かった。
そういう学びを与えられる教員になろうね。

運動量の変化が力積に等しいという式は高校の時にも運動方程式から導出した。だがエネルギーの変化が仕事に等しいという式も運動方程式から導出できることを初めて知り、ばらばらで習っていたものがつながった。高校でもこのように教えたら物理を毛嫌いする人が減るのではと思った。

普段、浮力と何気なく言うが、水圧の差によって生じる力であることを思い出した。 質問です。空気でも水の中の浮力のような力は働くのですか。
もちろん空気にも浮力は働きます。水よりは弱いけど。

運動方程式から、運動量保存則や力学的エネルギー保存則が導かれることは知っていたが、仕事の原理も関係があることはあまり考えたことはなかったので、この授業で押さえておきたい。
エネルギー保存則はどうやって出てくるのか、ちゃんと押さえておこう。

前回のクイズで正解出来なかったので、もっと頭が柔らかくなりたいと思った。  浮力とは何か?を簡単に考えてしまっているので、基本に戻ってきちんと理解できた。  運動方程式から、運動量変化とエネルギー変化がどのように出て来るかは、今までに何度も出てきたので理解していたが、改めて上書きで理解することが出来た。
 道具を使って力は増幅できるが、仕事を増幅させることは出来ない。これが仕事の原理だが、仕事は力学にとって大事な概念だと思った。
 保存則に関する問題で、2問目を正解出来なかったので色んな考え方を出来る様になりたいと感じた。
物理はいろんな方向から考えていきましょう(物理に限らない話だけど)。

道具を使って仕事を増価させることはできないという前提を理解してから永久機関を考えると理科しやすいと思った。
そのために「仕事の原理」というのを教えているわけです。

レポート問題に関して、自分でも納得のいく説明が出来ていないと思う。何か良い勉強法はありませんか
高校の物理からきっちりとやり直しましょう(これは高校の物理です)。

運動方程式から二つの式を導き、活用していく過程はかなりおおしろい単元と言えるが、中学高校の生徒に教えるのは少し難しいため、教え方に工夫が必要であると考えた。
これを高校生にちゃんと教えられないと「物理を教えた」とは言えないです。

一つの公式から様々な公式へ応用できるところが面白かった。教師になったら生徒に物事のつながりを教えていきたい。
世界のつながりを理解させていけるように、がんばりましょう。

今まで学習してきたこととのつながりが見え、より楽しく授業を受けることができました。まだ誤概念に引きずられてしまうことが多いので、テキストと講義の復習を通して正しく理解していきたいと思います。
じっくりと関連を見ていきましょう。

保存則について運動方程式とはそれぞれ別個にとらえていたので一緒くたになってちょっと混乱した。でも別々にとらえるのではなくつながっているものとして認識することでやっているこの物理という学問を体系的により理解し各分野を結び付けて考えることができるのではないかと今回で思った。
物理はつながりを理解していくと考えることはあっても覚えることは少ないです。そういう理解の仕方をしましょう。

保存則に関する問題