前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、
にあるので見ておいてください。
実は、答えはものすご〜〜〜く単純です(この問題はほぼクイズです。物理とは言えないほど単純)。考えすぎないように。「エネルギー」とか「仕事」とかの言葉を使って説明する必要はありません(説明してもいいけど)。
というクイズを出しておきました。
という解答がありましたが、こう説明すると、小中学生から、
という再質問が来そうです。
教員になる人は、↑のような質問を返してくる「好奇心旺盛な子供」を頭の中に勝っておきましょう。
という解答もありましたが、これも
と言い返されてしまいそうです。
って解答があったんですが、図の書き方が悪かったかなぁ。坂道2も傾いているという設定です。
正解は、
でした。図を描いてみると↓のような感じです。
「なぁ〜〜んだ」って言わないでね。最初から「答えはものすご〜〜〜く単純」って書いておいたんだから。
これは、磁石の力の位置エネルギーを考えるとどうなるか、などの考え方でも落ちないと結論できます。
図のように鎖を三角形に掛ける。右の辺の方がおもりの数が多いから、右側がおちるというのが「ステヴィンの鎖」という永久機関もどきである。
これが動かない理由は、下の図のように力の分解をしてみるとわかる。
一個一個のおもりに働く重力は同じ大きさでも、斜面に平行な方向の成分の力は異なる。図でもわかるように左側の方が水平方向の分力は大きい。これがおもりの数の少なさとちょうどバランスして、分力の和は左右で同じになることが計算するとわかる。
なお、この三角形の問題を考えたのはステヴィンという物理学者だが、彼は「これは永久機関になる」と言ったのではなく、「これが動かないということは、力を分解するときは平行四辺形を使えばよい」と主張した。ステヴィンは力を分解して力のつりあいを考えるという手法を編み出したのである。
次のページにその物理シミュレーションがあるので手で動かして「あ、これは動かんわ」ということを実感して欲しい。
上のボタンを押しても、紐の張力は表示しないようになっている。
最初は回るような初速度を持たせているが、すぐに止まるだろう。この玉は指またはマウスで動かせるので、動かしてみて(ああ、これは動かないなぁ)と実感してみて欲しい(このシミュレーションは空気抵抗が入っているので、どんな動きでもいつかは止まる。動きそうな気配がないということが大事)。
無闇矢鱈に動かすと変な動きをするので注意。困ったときはリロードせよ。
しばらく待っていると、以下に示すような定常状態に達するはずである。
この状態を注意深く見れば、回転を起こすような力にはなってないことがわかるだろう。
下の図のように、ベルトで結び付けられたピンポン玉をつないだものを、半分だけが水中にあるようにする。
下の部分でピンポン玉が水中に入るときは、水が漏れてしまわないようにちょうどピンポン玉が通る分だけ開くようなメカニズムがあるものとする。
すると水中にある左のピンポン玉は浮力で上昇し、空中にあるピンポン玉は重力で落ちるから、この機械は回り続ける・・・・はずがない。
なぜ動かないのか、↓のビデオを見てみよう。
これが動かないことを示すには、「浮力って何?」というところに戻らなくてはいけない。
浮力は実は水の圧力(水圧)の合力である。物体が水中にあるときは、上の図のように「深いところほど強くなる水圧」が働く。これを足算すると上向きの力が残る。これが浮力。
図にも書いたようように左右方向の力もあるが、物体が完全に水中にあればこれは消し合っている。
ところが今考えている機械の場合、水に入ろうとするピンポン玉は左半分しか水に浸かっていないから、
のように力が働き、この力は「ピンポン玉を外に押し出す方向」に働くのであった。この力のために、この機械は回らない。
テキストと順番が逆だが、こっちの方が計算が楽なのでまず運動量保存則から。
二つの物体が
のように力を及ぼし合っているとする。
作用反作用の法則$\vec F_{\rm AB}+\vec F_{\rm BA}=0$から、運動方程式$\vec F=m{\mathrm d \vec v\over \mathrm d t}$を用いて $$ m_{\rm A}{\mathrm d\vec v_{\rm A}\over \mathrm d t} + m_{\rm B}{\mathrm d\vec v_{\rm B}\over \mathrm d t}=0 $$ が言える。これは $$ {\mathrm d \over \mathrm d t}\left(m_{\rm A}\vec v_{\rm A}+ m_{\rm B}\vec v_{\rm B}\right)=0 $$ と書き換えることができて、運動量保存則そのものである。
次にエネルギーの方を考えよう。同様に二つの物体それぞれに働く力を$\vec F_{\rm AB}$と$\vec F_{\rm BA}$とする。この二つの物体が
のように同じ動きをしたとしよう($\Delta \vec x_{\rm A}=\Delta \vec x_{\rm B}$に注意)。
この図の状況であれば、$\underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}$は正で、$\underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}$は負である(絶対値が等しい)。すなわち $$ \vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}+\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}=0 $$ が成り立つ。「Aにされた仕事」と「Bにされた仕事」の和は0となり、全エネルギーは保存する。
しかし、物体に変形が生じるなどの理由で
のようになって二つの$\Delta\vec x$が一致しないならば、 $$ \underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}+ \underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}\neq0 $$ となることも起こり得る。図の状況で左辺の$\underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}$は正で、右辺にある$\underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}$は負であることに変わりないが、絶対値は後者の方が大きい。よってこの場合、「Aにされた仕事」と「Bにされた仕事」の和は負になる(エネルギーが失われる)ことになる。この失われたエネルギーは「物体の変形に使われた」と解釈される。
変形などが起こってエネルギーが保存しないように見えるときも、物体の持つ内部エネルギーを考慮に入れて考えると全エネルギーは保存する。
以上からわかることは、外力(系内の物体以外から及ぼされる力)が仕事をしないで、かつ内力(系内の物体同士の及ぼし合う力)のする仕事が消し合う(消し合うのは「力」ではなく「仕事」であることに注意)なら、その系のエネルギーが保存するということである。
ここで、重要な法則を一つ確認しておこう。
仕事の原理
道具を使って力を増幅することはできるが、仕事を増加させることはできない。
この原理が成り立つことが、仕事が便利な物理量である理由である。たとえばテコや動滑車などの道具を使うと、力を増幅することはできる。しかし、仕事は「道具による増幅」ができない。だからこそエネルギーを考えるときは力学の主役は「力」よりも「仕事」になるのである。
道具を使って力の大きさを変える例は上の図のようなものがある。 シーソーでも動滑車でも、移動距離に反比例して力が変わるので、(力)× (移動距離)の積である仕事は変化しない。
↓仕事の原理の説明ビデオ
仕事の原理があるおかげで「道具を使えば力は増やせる。しかし仕事は増やせない」ということがわかる。これが成り立ってなかったらエネルギー保存則は成立しない。
とまぁ、仕事の原理は重要で、中学理科で登場するが、中学理科の範囲ではエネルギー保存則が筋道立てて教えられる部分が少ないので、今ひとつ「この原理は何の意味があるのか?」が伝わっていないのが残念である。
テキストの65ページから後に、いくつか問題があるのでそれをやってみよう。答えは隠してあるので、まず自力でやってみよう。
高校物理で運動量保存則が使われるのは衝突問題が多い。
のような衝突現象が起こったとき、運動量保存則 $$ m\vec v+M\vec V=(M+m)\vec V' $$ は成立するが、エネルギー保存則 $$ {1\over2}mv^2+{1\over2}MV^2={1\over2}(M+m)(V')^2 $$ は成立しない。この理由を説明できるだろうか?---ここまででエネルギー保存則と運動量保存則がどこから来たかをちゃんと理解している人なら、エネルギー保存則が成立しない理由を、少なくとも二つ述べることができるはずである。
の二つの観点から、上の例でエネルギーが保存しなかった理由を述べよ。
の方で考えると「弾丸がめり込む」という変形が起こっ>ているから、その変形にエネルギーが使われている(熱も発生しているだろう)。
の方で考えると、
のように図を描いて考えると、弾丸の動いた距離の方が的の動いた距離より長いから、仕事に差ができている。仕事が消し合わない分、エネルギーは変化してしまう。
人間がボールを投げる。
投げる前と投げた後で、運動量の和が保存してないように思える。これはなぜか。
の二つの答え方ができるので、両方を答えよ。
絵を書くと↓こんな感じ。
運動量は保存しないのは、「人間とボール」以外である「床」から力が働いているから。人間はボールを投げるとき、足を踏ん張って床を蹴っていることに注意(ほんまかいなと思う人は自分の足がどんな力を出しているのか注意しながらボールを投げてみること)。この力がないと、人間は後ろに動いてしまう。
逆に考えると「床」も含めると運動量は保存している。つまり、このとき人間および床(というか、床につながった地球全体)がバックしているのである。
ただ、この地球の動きは人間には検知できない。
最後にもう一つの問題をレポート問題とするので、webClassの方で解答して欲しい(成績に反映しません)。
図のような状況で、床と下の物体との間には摩擦がなく、上の物体と下の物体の間には摩擦がある。この物体の運動を考えるとき、上の物体が下の物体の上を滑らないならば、エネルギーは保存する。
この問題を見てあなたの生徒が摩擦があったらエネルギーは保存しないのではないですか?と質問してきたら、あなたはどう答えるか?
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。