前回のクイズ

前回の感想・コメント

 前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、

にあるので見ておいてください。

 前回のクイズ

 図のような状況で、床と下の物体との間には摩擦がなく、上の物体と下の物体の間には摩擦がある。この物体の運動を考えるとき、上の物体が下の物体の上を滑らないならば、エネルギーは保存する。

 この問題を見てあなたの生徒が摩擦があったらエネルギーは保存しないのではないですか?と質問してきたら、あなたはどう答えるか?

というクイズを出しておきました。

 これの解答として、駄目な解答からまず書きます。

エネルギーは保存されませんね

と書いている人がいましたが、問題の設定からひっくり返されて困る。この場合、エネルギーは保存します。

摩擦力が働いても働いてなくても物体の関係が変形しなければがエネルギーは保存すると思う。

という解答がありましたが、間違いです。多くの場合、動摩擦力がはたらけばエネルギーは保存しません。

滑っていないならその力は働いていないと見なしてよいから

というのもありましたが、これは駄目です。この静止摩擦力は、上の物体には正の仕事を、下の物体には負の仕事をしますから、「働いてないとみなす」のは大間違いです。

摩擦力は仕事をしないため、エネルギーは保存されるから。

↑すこし、正解に近づきました。でも摩擦力は仕事をします。プラスの仕事をする摩擦力と、マイナスの仕事をする摩擦力があって、トータルを計算すると0です。これを「摩擦力は仕事をしない」の一言で片付けたら、生徒は納得しません。

摩擦があっても滑らないので、仕事を考えると、仕事をしていない。よって、エネルギー保存則が成り立つから、エネルギーは保存する。

で、だいぶ近くなりました。「滑らないので仕事をしてない」の中身をもっと丁寧に説明してあげれば、生徒は納得するでしょう。

上の物体が下の物体を滑らないということは、Δx=0、つまり仕事が0なので、エネルギーは増減しない。よって、エネルギーは保存する。

↑これも、だいぶよくはなってますが、Δx=0と言われても、生徒は困るでしょう。Δxはこういう量であるという説明をしないと、説明したことになりません。

 教員になったとき、困っている生徒をどんなふうに正解に導けばいいのか、ということを考えるようにしましょう。上のいくつかの例は「先生(あなたのことです)だけが納得している」説明になってます。

摩擦が発生しているのは上の物体と、下の物体の間でのみ。 床、滑車で摩擦が発生していないなら、摩擦がある2物体と滑車にぶら下がっている物体の三物体間では、エネルギーが保存している。 床か滑車に摩擦が発生すると、三物体間のエネルギーが外に逃げるので、エネルギーは保存しない。

という答えもありましたが、これも間違い。この問題で大事なことは「上の物体と下の物体の間で摩擦が発生している場合で、力学的エネルギーが保存する場合と保存しない場合がある」ということです。その二つの区別をちゃんと教えましょう。

 上と下の物体には同じ大きさ力の力が逆方向にかかっている。滑らないため動く場合、どちらも右方向にのみ動く可能性がある。両物体が静止摩擦力によって一体となって動く場合は両物体の仕事が打ち消し合いエネルギーは保存される。
両物体が動く距離の差分の仕事は力が打ち消しているため、全体で考えるとエネルギーは保存されている。

↑だいぶよくなりました。最後のは「力が打ち消している」ではなく「仕事が打ち消している」の方がいいでしょう。

 結局、上の物体への摩擦力のする仕事と下の物体への摩擦力のする仕事がプラスマイナスで消し合うということをちゃんと説明してあげればよい、というのが正解です。

 状況を説明する図は上の通り。こうして「摩擦力は確かにはたらいて、仕事もしているが、しかしその仕事のトータルは0なのだ」という説明が欲しいところです。

正解者は半分くらいかな。

 上のは「すべらない」例ですが「上の物体がすべっている」場合の図を描いておくと、

となる。上の物体の動く距離が$\Delta x\to\Delta x'$と短くなったためにトータルの仕事が0にならない(負になる)ので、全力学的エネルギーは減る。

「熱」

「熱」

 今日はテキスト第4章の「熱力学」です。テキストの方もよく読んでおいてください。まず「熱とは何か?」を説明するビデオです↓。

 先週までの力学では、

(力学的エネルギーの増加)=(仕事)

という関係があった。あるいは「仕事をしたらその分エネルギーが減る」ということを強調して書くと

(力学的エネルギーの増加)= ―(した仕事)  $\Delta U=-W$

となる。この式はエネルギーというstock(貯蔵量)に対するflow(流れ込み・流れ出し)が仕事であるという話をしたが、現実世界を見ていると、それ以外の「エネルギーの流れ込み・流れ出し」があるように思われる。よって上の式を

(内部エネルギーの増加)=(もらった熱)―(した仕事)  $\Delta U=Q-W$

と直す。力学的エネルギーが「内部エネルギー」に変わったが、これは「物が熱い/冷たい」の差に対応するエネルギーも含めたエネルギーである。

 最初にこのような考え方が出てきたときは「内部エネルギー」の正体は完全にはわかってなかった(当時は原子や分子の存在についても懐疑的な人もいた)が、今の時代ではそれは「分子運動のエネルギーだった」とわかっている。次のページで分子運動のエネルギーと温度との関係について説明しよう。

前回のクイズ 分子運動のエネルギー

分子運動のエネルギー

 ビデオ内で使ったシミュレーションは以下のボタンから実行できるので、自分でも実行してみて、分子の運動の様子をじっくりと眺めて欲しい。

 まず、分子運動の様子を眺める↓

 熱い気体と冷たい気体で、分子運動はどう違うのかを見る↓

 壁を「熱を通す壁」にすると何が起こるのかのシミュレーション↓

 壁を外してしまうと何が起こるのかのシミュレーション↓

断熱膨張と断熱圧縮

断熱圧縮と断熱膨張

 気体を押したり引いたりすることで「エネルギーを与えたり、奪ったり」することができる。その現象のシミュレーション説明ビデオが以下にある↓

 このシミュレーションは↓のボタンで実行できる(いろいろ変数を変えたりもできる)ので、自分でやってみよう。

 この断熱圧縮の実験として、圧縮発火器というのがある。YouTubeに動画があるの興味ある人は見ておいてください(下は例で、いろいろ見つかるはず)。


第2種永久機関と熱力学第2法則

第2種永久機関と熱力学第2法則

 前に永久機関について考えた。あのときに考えた永久機関は

【第1種永久機関】

外部からエネルギーの補給を受けることなく仕事をし続けることのできる機関

である。実は永久機関には第2種もある。

【第2種永久機関】

一定温度の外部から熱を吸収してすべて仕事に変えることのできる機関

というものである。第2種永久機関はエネルギーは(熱の形で)補給されるので、エネルギー保存則は破らない。

 第2種永久機関は、高温状態を低温状態に変えて、その分のエネルギーを人間が取り出して使えるようにする、というものだ。

 内部エネルギーという「目に見えないエネルギー」があるのなら、それを取り出して使えばいいじゃないか、というのは人間の欲望としては自然な発想である。

 実在する「仕事をする機械」はモーターやガソリンエンジンなどのように、外部からエネルギーを供給される(第1種永久機関ではない)か、「一定温度でない外部(温度差のある外部)」から熱を吸収して仕事に変えている(第2種永久機関ではない

熱力学第2法則

 第2種永久機関が存在しないのは、熱力学第2法則がそれを禁じるからなのだが、この熱力学第2法則にはいろんな表現があるが、高校物理の範囲では次の二つの表現がよく使われている。

熱力学第2法則の二つの表現

  1. 熱をすべて仕事に変える熱機関は存在しない。
  2. 熱は自然には高温から低温に流れる。

 1.はつまり第2種永久機関が存在しないということ。

 2.は実は1と等価なのだが、それは少しわかりにくいかもしれない。また、この「自然には」という表現が「いったい何が自然なのか(どうなったら不自然なのか)」をちゃんと定義し理解しておかないと法則の意味が理解できない。

 「自然に」はより明確には、「それ以外には何の影響も及ぼさずに」と表現される。熱が低温から高温に流れるという現象の例はクーラー(低温の室内から高温の室外へ熱を移動させる)であるが、それは電力を投入するという「外部の影響」があるがゆえに起こっている(上の図でも、永久機関そのものの状態が変化してないことに注意)。

 この1.と2.が同じ法則だというのは最初はびっくりするかもしれないが、どのように同じ法則であるかが納得できるのかという点については、テキストの71ページを読んでおいて欲しい。

 熱が高温から低温へ移動するというのは「高温物体と低温物体が接触すると、高温物体の温度が下がり低温物体の温度が上がる」ということでもある。それは自然に起こるが、逆が起こらないということは日常経験からしても納得できるはずだし、今日使ったシミュレーション

をやってみると、高温から低温へと熱が流れる(エネルギーが移動する)現象は「起こりそうだ」と納得できても、逆はなさそだということが納得できる。

 同じく「元に戻らない」現象のシミュレーション(これも前にやってもらったものだが)がこれ↓

 この第2法則は、数ある物理法則の中で唯一「時間反転」ができない法則である(力学における動摩擦力は、熱が発生するという意味で熱力学第2法則が関与する現象である)。

 熱力学第2法則は、大学レベルの物理では、エントロピーという名前の状態量を考えて、

熱力学第2法則のエントロピーを使った表現

周囲から断熱された系のエントロピーが減少することはない。

と表現されることもある。エントロピーの意味についてはここでは説明しないが、テキストの72ページ以降にある程度説明してあるので、そちらを読んでおいて欲しい。

運動エネルギーが内部エネルギーになっていく例

 力学的エネルギーが内部エネルギーになってしまうと、元に戻すのは難しい、というのが熱力学第2法則である。そこで、「力学的エネルギー→内部エネルギー」と変化している様子のアニメーションが↓である。

 摩擦で摩擦熱が発生するのも、上と同様の現象である。

実際に動く熱機関の例

 永久機関はできないが、温度差があればそこからエネルギーを取り出して動く熱機関がある。例としては、スターリングエンジンや、平和鳥がある。

 スターリングエンジンは下のような仕組みになってます。

 部屋の中にディスプレーサーという断熱材が入れてあります。ディスプレーサーが上にあると下にある熱い物体(お湯とか)の影響が強く出て、部屋内の気体が膨張し、ピストンは上がります。ディスプレーサーが下にあると上にある冷たい物体の影響が強くでて、部屋内の気体が収縮し、ピストンが下がります。ピストンが下がりきってしまったらディスプレーサーを上げてやり、ピストンが上がりきってしまったらディスプレーサーを下げてやる(←このあたりはカムなどを使ったメカニズムで実現する)とピストンが往復運動を繰り返します。

↓スターリングエンジンが動いているところ。熱湯で下の部分を温めてあげると、反時計回りに回る。

↓同じスターリングエンジンで、下の部分を冷やしてあげると、働く力が逆になるので、さっきとは逆の、時計回りに回る。

もちろん、スターリングエンジンは(平和鳥も)第2種永久機関ではありません。温度差がないと動かず、もし誰かが温度差を作ってあげなければ、温度は一様になってしまうので止まってしまいます。

 以上で第8回の授業は終わりです。また一つクイズです。まず、下のシミュレーションをやってください。

 最後に、内部エネルギーはどうか?(増える?減る?変わらない?)という質問がありましたね? これに答えてください。

 各自のwebclassへ行って、

  • 第8回授業感想・コメントシート
に答えてください。上のクイズも入ってます(成績には反映しません)。

webclass↓


この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。
断熱圧縮と断熱膨張 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


熱が、分子運動のエネルギーであることが分かった。「熱は自然に高温から低温に流れる」ことは常識的に理解できるが、なぜ熱はこのように時間とともに均一になるのか疑問に思った。個体物質を構成する分子自体は周りと均一になろうとはしないけれど、分子運動エネルギーは均一になろうとするのは不思議である。
↑この書き方は、flowである「熱」とstockである「エネルギー」を区別しない書き方になっているので気をつけてください。均一になろうとする傾向は、「エントロピー」という「エネルギーとは別の物理量」を考えるとわかってきます。

受講前まで、熱がエネルギーそのものだと信じこんでいた。このように、ただなんとなく教科書を理解していれば、誤概念生じかねない。もう一度、今まで習ってきた内容を振り返り、熟考する必要性を感じた。
次の電磁気でも、仕事やエネルギーの考え方が大事だとわかります。

スターリングエンジンとはピストンを上げ下げさせている力の逆の力で動いているってことであってますよね。
「逆」ではないです。動かす力はピストンを上げ下げさせる力そのものです。ディスプレーサーはピストンと連動して動きますが、同じでも逆でもない動きです(タイミングをあわせて動く)。

力学的エネルギーや仕事に関しての復習をして、深い理解をできるようにしようと思った。
熱力学、電磁気でもエネルギーと仕事は大事です。

物理の問題であるが、化学的な要素もあり化学の理想気体の範囲で理解できないところを物理の熱のこの授業で理解を深めることができた。
このあたりは物理と化学の両方に関係してますね。

貯金とかの表の例えが分かりやすかったです。
いろんな物理量に関してこういう対応があります。

力学的エネルギーの一部が熱に変化し、失われるということは、運動エネルギーが内部エネルギーつまり分子運動のエネルギーに変化していると分かりました。
イメージは持っておいてください。

今回のクイズのような問題は凄く物理が面白く思えて面白いと思いました
いろいろ、考えてみてください。

前回のクイズで、満点の解答が出来なかったので残念です。しっかり復習します。  熱力学は正直苦手意識があるので、まずはその意味をなくして学びたい。  分子運動のシュミレーションは、とても分かりやすく面白いと感じました。ここで質問なのですが、あのシュミレーションは自作なのでしょうか?
自分で作ってますよ。ちなみに作るためのライブラリはjavascriptによる物理シミュレーションというページに公開してます。

熱とは何かということがとてもわかりやすかった。Stockとflowという説明を使うのはとてもいいと思った。自分も教える立場になったら参考にしようと思った。 また、自分自身熱の分野の復習ができてよかった。
お金の話にすると理解できる人が多いみたいです。

平和鳥という単語を初めて耳にしました。知らなくて気になったので実際に調べてみたところ, 気化熱を利用しているものということでしたが, このように身の回りで熱現象を利用している道具やおもちゃで有名なものがあれば知りたいです。
うーん、後は動画で見せたスターリングエンジンとか。

熱と温度の違いについて高校の時によく先生から解説されていたが今までいまいちピンとこなかったが今回の解説で長年の違和感が解消された。
熱と温度も違いをちゃんと抑えておかないと教えることができないですね。

熱をエネルギーとして視覚的にとらえることで、わかりやすかった。

エネルギーと熱の違いについて、stockとflowの違いだよというのは高校生の時に言われたことであったが、うまく呑み込めずにいた。今回、貯金と預入/引出額のように、物理以外のものに例えられていたことで理解する事が出来た。このように物理以外の具体例を用いることは、教師になった時に行いたいと思った。

導入の熱とは何かを考えるときに熱=エネルギーと考えていたのでエネルギーの移動量という正しい言葉を再確認できてよかった。また、その時のstockとflowの説明はとても分かりやすく理解を深められた。熱は日常的に接するので考えやすい単元であったがいくつか間違って考えていたところがあったのでしっかりと学びなおしていきたい。

説明する視点で考えると、エネルギーや仕事と熱の知識が混合してしまっていることに気づきました。動画、テキストを通して正しい理解に近づくことが出来ました。
「教える立場に立ってみる」というのは自分が理解するための早道でもあります。

第2種永久機関と熱力学第2法則