前回の授業に対する皆さんの感想・コメント(抜粋)が、
にあるので見ておいてください。
まず、下のシミュレーションをやってください。
最後に、内部エネルギーはどうか?(増える?減る?変わらない?)という質問がありましたね? これに答えてください。
というものでした。
正解は「変化しない」です。だいたい正解でしたが、4名だけ「減る」と答えていた人がいました。
テキストの最初にあるチェックテスト
図のような回路で、電流は $I_1>I_2$になる、と思っている中学生がいます(もちろん、正解は $I_1=I_2$です)。この子になぜ$I_1=I_2$になるのか、説明をしてください。
また、この子は「もし $I_1=I_2$ならば、いったいどこから光のエネルギーはやってくるの?」という疑問も持っています。これにも答えてください。
を考えてみましょう。
この疑問、大学生でも結構持っている人がいて、「根が深い」疑問です。
なお、小中学生あたりだともっとすごい誤概念を持っているのもいて、
のように考えてるのもいたりするそうです(そもそも「電流の向き」という概念ができていない場合もありそうですね)。
この疑問に対する解答として、「よくない」例を挙げます。
ええ、その通りです。でもそれは$I_1=I_2$という式を言葉で言い直しただけです。この中学生はどうしてそうなるのか?がわからない状態なのですから、単に「そうなるからそうなる」という説明では不満でしょう。
これも全然ダメである。「一本道の回路では電流が一定」ということを知っているから我々は安心して$V=IR$を使うことができる。この中学生はその前提の部分を疑っている(「安心して$V=IR$を使えない」と言っている)のだから、そこに答えてあげなくては、単なるはぐらかしにしかならない。
これはなかなかおもしろい答えで、「実験して示す」というのは重要な視点でよいことなのではあるが、これも子供の疑問「なぜ?」に答えていることになってないので、その部分にも答えて欲しいところだ。
この解答は起こっている現象の説明としては正しいが、じゃあ、何が消費されているの?という疑問が返ってくると思うので、そこまで含めてちゃんと答えたいところである。
電流は同じ電気がぐるぐる回っているから、中を通る電気量は減らない。
という感じの、電荷の保存則を使って説明しようという解答もある。これはだいぶ「理由」になっている。
たとえば電球を通った後電流が減るのだとすると、(後ろの電流の定義をよく見ること)電球の中に電荷がどんどん溜まってしまう。これはありえない、ということは電流がなにかをわかっている中学生なら納得してもらえる(だから定義は重要なのだ)。
さて、問題は「それじゃどうして光るの?」という疑問がさらにやってきた場合である。
中学生がこういう疑問を抱く理由は「電球でエネルギーを放出しているから誰かがエネルギーを損しているはずなのに、電流が減らないとしたら誰も損していない(ように見える)」ことにある。したがってこの子の疑問を完全に解消するためには、
↑の2箇所にいる電荷は何が違うのか、をちゃんと説明してあげなくてはいけない。
実際中学生に説明はかなり難しい話になるが、せめて「大学生が納得する理由」を自分の中で持っていないと、説得力ある教員にはなれないだろう。
この説明をちゃんと行うために、電流の定義を思い出そう。
1秒あたり1C(クーロン)の電荷が流れてくるのが1A(アンペア)の電流である
時間ごとに流れてくる電気量で定義されている。
たとえば電球を通った後電流が減るのだとすると、のような状況になり、電球の中に電荷がどんどん溜まってしまう。これはありえない。このことは電流がなにかをわかっている中学生(わかってない中学生も、もちろんいるが、その場合は定義を説明すべきであろう)なら納得してもらえる。だから定義は重要なのだ。
中学生がこういう疑問を抱く理由は「電球でエネルギーを放出しているから誰かがエネルギーを損しているはずなのに、電流が減らないとしたら誰も損していない(ように見える)」ことにある。したがってこの子の疑問を完全に解消するためには、
をちゃんと説明してあげなくてはいけない。電流は同じなのだが、何かの状態が違っているのである(でなかったら、光のエネルギーの供給元がない)。違いは(先に説明したように)運動エネルギーではない。なにかの位置エネルギーである。
ここで電位の定義を思い出そう。
$q$[C](クーロン)の電荷が電位$V$[V](ボルト)の電位の場所にいるときに持っている静電気力の位置エネルギーは$qV$[J]である。
まず電位の定義とその意味について、ビデオで説明しよう。
ビデオの中で使った、電気力線と等電位線を描くプログラムが以下にあるので、実行してみよう。
さらにもう一つ、二つではなくてもっとたくさんの電荷を配置できるプログラムが以下にあるので、実行してみよう。
↑を使うと、
のようなコンデンサの作る電場などの絵が描ける。
電池が行うことは、化学反応を使って電荷を移動させ、陽極の電位を上げ、陰極の電位を下げることである。
導線でつながれた先は電位が等しくなるので、電球の左と右で電位差が生じる。
これが「電球を通る前の電荷と通った後の電荷の違い」である。電位差が高い方から低い方に正電荷が移動する実際には低い方から高い方へと電子が移動するが、エネルギーの収支は同じ。ことによってエネルギーが下がり、その分のエネルギーが電球から出る光となる。
電流の説明として、水の流れで説明しようというものがよくある(「電流の水流モデル」でgoogle画像検索)。これは電位を高さで、電流を水の流れで説明しようとしたもので「電池が電荷の位置エネルギーを上げ、抵抗(電球など)のところで位置エネルギーが下がる」ということを説明しようとする図である。
皆さんが理科の先生になってこの図を使うときも、電位の定義が「1Cあたりの静電気力位置エネルギーである」ということを理解した上で使うのでないと、おかしな説明になってしまうので気をつけよう。
なお、ついでながら電流の担い手である電子の運動エネルギーはこういう話ではほぼ関係ない。実際計算してみると電子は思っていたよりもずっと遅い(秒速1ミリ以下である)。
電位の概念が理解できてないことから来る困難について、以下のような例が報告されている\footnote{「中学校電気分野における電位概念の導入と学習機材の開発」(沖花彰、谷口進一)物理教育第57巻第2号 p97}。以下のような問題を中学生に出してみた結果である。
図の回路の電球のうち、もっとも明るいのはどれか。同じ明るさのものがある場合はいくつ答えてもよい。
もちろん、中学範囲なので電池や導線の内部抵抗は考えない。
↓正解について説明するビデオ
これは並列の場合でも「電流が分かれるから小さくなる」という誤解をしているのであろうと推測される。水流モデルを中途半端に理解してしまうと、この誤解が生じる。
さらに詳細な例として、以下のような回路で電球の明るさを問う問題を、
に出してみた例もある。
正しい答えは(1)がもっとも明るく(2)〜(5)はすべて同じ明るさである。
正解率はA群が30%、B群が3.9%、C群が10%と大変悪かった(悪い中でも中学生が一番いい)。
詳しく分析すると、「(1)と(3)では(1)の方が明るい」という点はあまり間違えていないが、「(1)と(5)では(1)の方が明るい」は判断できていない(正解率半分以下)という結果が出ている。電池にかかる電圧に比べ、電流にかかる電圧を判断するのが難しい(並列なのに電圧が分割されると考えている?)ということがわかる。
もう一度強調しておくが、電位の定義を知った上で「電流は電荷の運動エネルギーを運んでいるわけではなく、電位差のある間を電荷が移動することにより電荷の位置エネルギーの変化という形でエネルギーを運んでいる」という概念を持っていないと「電池から電球へとエネルギーが移動するのはどのようにしてか」ということが説明できない(もちろん、最初に書いた中学生の質問にも答えられない)。
以下で「電位差とはなんだろう」ということを考えていこう。もちろん「電位の差」なのだが、では「電位」とは何であろうか。この後で説明していくので、「ある程度勉強が進むと定義を忘れてしまう病」にかかってないか、チェックしよう。
電磁気学を理解するのに必要なのはまず「場の概念」であろう。
静電気力を考えるには二つの立場がある。
実際には近接作用論が正しいことが確認されている。
高校の物理の教科書には「電荷に力を及ぼす働きをもつ空間には電場(または電界困ったことに、同じ概念に対して電場と電界という二つの言葉が存在し、統一されていない。英語ではどちらもelectric fieldで、日本語訳が二つある。意味の違いは全くない。)があるという」と電場の概念が説明されている。そしてその電場を
電場の定義
$$\vec E={1\over q}\vec F$$ $\vec E$:電場ベクトル〔N/C〕, $q$:試験電荷〔C〕, $\vec F$:電場から受ける力〔N〕
という式で計算されるものとして定義する。
ここで「電場だの電位だの、新しいのが出てきて頭がごちゃごちゃになる」という人に注意しておきたいのは、
という関係にあるから(同様に「電位差」は「単位電荷あたりのエネルギー差」であり、エネルギーの差は多くの場合仕事だから、「電位差」は「単位電荷に及ぼされる仕事」になる)、「力」と「エネルギー」の間の関係は、そのまま「電場」と「電位」の関係と同じだということである。力学と電磁気は別々に存在しているのではなく、互いにつながっている。そのことを無視して「新しい言葉だからまた新しく考え直し(暗記し直し)」のような勉強をすると、不経済な勉強をすることになり理解が進まない。
まず電位の定義とその意味について、ビデオで説明しよう。
ビデオの中で使った、電気力線と等電位線を描くプログラムが以下にあるので、実行してみよう。
さらにもう一つ、二つではなくてもっとたくさんの電荷を配置できるプログラムが以下にあるので、実行してみよう。
↑を使うと、
のようなコンデンサの作る電場などの絵が描ける。
電池が行うことは、化学反応を使って電荷を移動させ、陽極の電位を上げ、陰極の電位を下げることである。
導線でつながれた先は電位が等しくなるので、電球の左と右で電位差が生じる。
これが「電球を通る前の電荷と通った後の電荷の違い」である。電位差が高い方から低い方に正電荷が移動する実際には低い方から高い方へと電子が移動するが、エネルギーの収支は同じ。ことによってエネルギーが下がり、その分のエネルギーが電球から出る光となる。
電流の説明として、水の流れで説明しようというものがよくある(「電流の水流モデル」でgoogle画像検索)。これは電位を高さで、電流を水の流れで説明しようとしたもので「電池が電荷の位置エネルギーを上げ、抵抗(電球など)のところで位置エネルギーが下がる」ということを説明しようとする図である。
皆さんが理科の先生になってこの図を使うときも、電位の定義が「1Cあたりの静電気力位置エネルギーである」ということを理解した上で使うのでないと、おかしな説明になってしまうので気をつけよう。
なお、ついでながら電流の担い手である電子の運動エネルギーはこういう話ではほぼ関係ない。実際計算してみると電子は思っていたよりもずっと遅い(秒速1ミリ以下である)。
以上で第9回の授業は終わりです。
各自のwebclassへ行って、
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。