前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にあります。
教科書の冊子が完成してます。まだの人は前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。
ファイルのPDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。
前回は磁場(磁界)を磁石の「N極(正の磁極)」と「S極(負の磁極)」によって作られるものと考えると、正負の磁極を正負の電荷と同様に考えて、磁極のつくる磁場の様子は電荷が作る電場と全く同様だ、ということを説明するところまでやった。
使ったアプリは↓
ここまでだと、磁場と電場の違いはなく、ある意味あまり面白くない。磁場の面白いところ、つまり磁場と電場の大きな違いは、磁極によってのみではなく、電流によっても作られるということである。そもそも磁極というのはなくて、すべて電流だと言った方が正しいかもしれない。磁石の磁場は、原子内に流れる電流が原因といってもいい。
電流の作る磁場の磁力線は、アプリで作ってやるとわかるが、
のように電流をめぐる形状となり、電気力線の場合の「正電荷で始まって負電荷で終わる」ような端点を持たない。途中で途切れたり分裂したり合流したりしないという性質は電気力線と同じである。
電気力線の力学的性質と同じ性質が、磁力線にもあり、
磁力線の力学的性質
とまとめることができる。上のビデオでも説明したように、この磁力線の力学的性質から磁極と電流の間に働く力を考えることができる。
↓の図は磁極(N極)による磁場と電流(裏から表へ)による磁場が重なった結果の磁力線である。
電流の左側では磁場が弱め合うことで弱い(磁力線の密度が小さい)磁場となり、右側では磁場が強め合うことで強い(磁力線密度の大きい磁場)ができる。
磁力線は「混雑を嫌い、短くなろうとする」ので電流と磁極には磁力線の混雑を緩和し、長さを短くする方向へと力が働くことになる。
働く力は
のようになる。磁極に働く力は電流の作る磁場による力と考えれば納得できる。電流に働く力はいわゆる「ローレンツ力」であり、別の物理法則として扱われることも多いが、今述べたように磁力線の力学的性質から導くこともできる。
興味深いのは、この力は作用・反作用の法則のうち「作用・反作用の作用線が一致する」という部分を満たしていないことである(逆向きで大きさが同じ、という点は満たしている)磁場(磁力線)を物理的実体のあるものと考えて、磁場に働く力まで考えてやれば、ちゃんと作用・反作用の法則を満たす。。
磁場の力は電場の力と似ているような違うような関係があるが、電気力線と磁力線の力学的性質にまで還元すると、この二つはほぼ同一と言える(電気力線や磁力線がどのように発生するかのメカニズムは違う)。
電気の法則と磁気の法則はそれぞれつながっており、別々に存在しているものではない(またこれが「エネルギーを低くする方向へと力が働く」という意味で力学ともつながっているわけである)。
すでに述べたことだが、もう一度、確認しておく。物理を理解して(そして教えて)いく過程ではこのような「つながり」を作っていくことが大事で「この問題はこの法則、この公式ね」のような「各個撃破」をやってはいけないのである(特に教える側は!)。
です。正解は「同行で引力、逆行で斥力」でした。
フレミングの左手の法則などを使って求める人が多いと思いますが、こういう「図形的理解」ってのも大事です。
電場と磁場は似ているが、決定的な違いは「電場は電荷が作るが、磁場は電流が作る」ということである。
というと、「磁場は磁石が作るのでは?」と思う人もいるかもしれないが、磁石の作っている磁場は「分子電流」と呼ばれる「物質内部に流れている電流」によると考えることができる。実際に磁石の磁場のほとんどを作っているのは電子のスピン(自転に対応する)であるが、これも電流の一部だと考えることにしよう。
磁石はループ電流が作っていると考えると、磁石の引力・斥力は以下の図のように、同行電流と逆行電流の引力・斥力と考えることができるのである。
ループ電流と磁石の作る磁場が同じものになるのを確認するには、 と(2次元の平面を上から下から1本ずつ電流が貫いているのが、3次元的なループ電流)がどのような磁場を作るかをアプリでやってみるとよい(アプリは2次元で、現実は3次元だけど、まぁそこはよいことにしよう)。
磁石
ループ電流
ここではもう少し、磁力線についてアプリと実験動画で見ていきましょう。
まず、以下の動画を見てください。最近は使われなくなったCRTによる実験です。CRTは別名ブラウン管。今ではパソコンもテレビも液晶などの平たい画面のものばかりですが、昔はこれを使っていたのです。電子を飛ばして画像を描く機械なのですが、電子の運動は磁場によって影響を受けるので、「磁場の変化を目で見る」のに使うことができます。
なお、これやるとCRTの画面に歪みが生じるので、本来は「良い子は真似しないでね」な実験です(このCRTは現役ではないので安心してやってます)。
磁力線がすぱっと消えてしまうところに「おおっ」と思ったんではないかと思いますが、それをアプリで確認しましょう。
↓はアプリの説明ビデオ。見なくてもわかった人は見なくていい。
↑のアプリを使って、のような磁石の配置を作って磁力線を描かせてみよう。
そのほか、いろんな磁石配置を試してみよう。
電流に働く力についても前回少し触れましたが、これは「モーターの原理」であり、実際の利用でもとても大事ですね。そこで、「世界でもっとも簡単なモーター」である単極モーターを見ましょう。以下のビデオです。
単極モーターとはどんなものか↓
単極モーターの原理の簡単な説明↓
図解すると↓こんな感じです。
こんな形でもOK↓
ビデオ内でも説明したように、割と安い材料で簡単に作れるので、元気な人は試してみよう(科学イベントなどでやってきた小学生などに作らせているけど、好評です)。
なお、ビデオでも触れましたが電池と導線が熱くなることがあるので注意。実は、(作り方が拙くて)動いてないときが一番危ない(熱くなる)。「なぜ動いてないと熱くなるの??」という話は、次回の授業で説明しましょう。
電荷が電場を作ることを表現するのがガウスの法則なら電流が磁場を作ることを表現するのが「アンペールの法則」です。ガウスの法則が「電荷から電場が湧き出す」という法則だったのにたいし、アンペールの法則は「電流を回るように磁場ができる」という法則になります。
電流$I$[A]の周りを回るように単位磁極を周回させると、磁場は一周の間にちょうど$I$[J]の仕事をする。 \begin{equation} \oint \vec H\cdot \diff \vec \ell =I \end{equation}
ただし、周回の方向は電流$I$に対して右ネジの方向をとる。なお、この式の微分形が${\rm rot}~\vec H=\vec j$である。
直線電流から距離$r$だけ離れた場所での磁場が$H={I\over 2\pi r}$になるのは、この法則から導ける。
高校物理の教科書ではアンペールの法則抜きでいきなりこの式を出していることが多い。
電荷の周りの「球」を考えるガウスの法則から出てくるクーロンの法則には分母に$4\pi r^2$(球の表面積)があり、電流の周りの「円」を考えるアンペールの法則から出てくる「直線電流の式」には分母に$2\pi r$(円周の長さ)がある、ということで対応が取れている(直線電流の周りの磁場が距離に反比例することのイメージができる)。
ソレノイドの磁場$H=nI$($n$は単位長さあたりの巻数)の式もこれから出るのだが、このあたりが天下りになってしまうのは高校物理の残念な部分である。
「電荷の作る電場」と「電流の作る磁場」は似ている性質を持っているものの、「源(場を作るもの)」の性質が本質的に違うので、支配される法則(ガウスとアンペール)も大きく違う。このことは意識しておいた方がいいだろう。
磁力線を描くアプリを使って、単極モーターの原理をもう一度見ておこう。
下のアプリで、のような配置の磁力線を描いてみよう。これは単極モーターを上から見たイメージになっている(真ん中にN極、両サイドを上から下に電流が流れる)。
磁力線は
のようになる。これを見ると、左の導線には図の上向きに、右の導線には図の下向きに力が働くとわかる(磁力線の張力と圧力を考えよう)。これが、導線をぐるぐる回す力になる。
今日のクイズ
の(a)点と(b)点にN極を置くと、どんんな力を受けるか(アプリで磁力線を描かせてみて考えてもよい)。
webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。