先週のクイズと感想から

先週のクイズ

 の(a)点と(b)点にN極を置くと、どんんな力を受けるか(アプリで磁力線を描かせてみて考えてもよい)。

  1. (a)も(b)も上向きの力
  2. (a)は上向き、(b)は下向きの力
  3. (a)は下向き、(b)は上向きの力
  4. (a)も(b)も下向きの力

という問題も出してました。図を描くと

 (a)の方に置くと

のような磁力線、(b)の方に置くと

のような磁力線となり、正解は「(a)も(b)も上向き」でした。なぜか逆の「(a)も(b)も下向きの力」を選んでいる人がいくらかいました。

 磁石がない場合、

のように磁力線ができる(アプリでは磁力線の向きは出ないので書き足しています)ので、(a)でも(b)でも磁力線は上を向いています。

$\def\diff{\mathrm d}$

前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

にあります。

電磁誘導

電磁誘導

 電場と磁場の本当に面白いところは、この二つが絡み合っていることである。その一つの現れが電磁誘導で、「磁場の時間的変化が電場を発生させる」という現象である(もちろん、この逆の「電場の時間的変化が磁場を発生させる」という現象もある)。

 この「電磁誘導」という現象は発電の原理でもあり、実用性も大きい。

「電磁誘導」と呼ばれている現象には二つある。

  1. 一様な磁場中で導体が運動した場合に起電力が発生する
  2. 磁場が時間変化すると静止した導体に起電力が発生する

である(この両方が同時起こることも、もちろんある)。

 実際に起こる現象として代表的なのは次の二つである。

 この二つは実は物理法則としては全く別の現象であり、別々の物理法則から導かれることに注意しよう。

この二つは相対運動の考え方で結びつくのではないか、と考えるとアインシュタインの特殊相対性理論に達するのだが、それは後のお話である。

 コイルが動く方の法則は実は新しい物理法則ではなく、これまでも述べた「ローレンツ力」の結果である。

 磁場中で導線(ただし、回路の一部ではなく、ただ導線があるだけの状況を考える)を動かすという思考実験をしてみる。

上の図の説明ビデオが↓

 導線の中には電流のキャリア(金属の場合なら自由電子)がある。以下は金属の場合で考えよう。導線を動かすと、導線内の金属イオンも自由電子も動く。動いている電荷には磁場からの力が働く。しかし金属イオンの方は導線全体と同じ動きしかできない(でないと金属が破壊される)。電子の方は金属内部では動くことができるので、金属の中で一方向に偏ることになる。図の状況では$V=Bv\ell$の電位差が発生している。

 この現象を「自分で導線を動かしてみる」ことで実感することができるアプリがあるので、やってみてください↓
 ここで考えたのは動く導体に何もつながっていない場合であったが、抵抗などがつながっている場合も、このように電位差ができた時点で定常電流に落ち着くと考えられる。

 上の「コイルが近づく」場合の電位差発生は、本質的にこれと同じ状況である。

 一方、上の図の「磁石がコイルに近づく」現象の方では、コイルは動いてないのだからローレンツ力$qvB$はもちろん働かない。ここで発生する起電力はローレンツ力とは別の物理法則(具体的には、Maxwell方程式のうち${\rm rot} \vec E=-{\partial\vec B\over \partial t}$)から来る。

 高校物理では、どちらも$V=-{\mathrm d\Phi\over\mathrm dt}$という式で出てくるように説明している本が多いが、実は二つの現象は別ものと考えるべきなのである(相対論を使わない場合)。

 左辺$ \oint_{境界}\diff \vec \ell\cdot \vec E$は「単位電荷を境界線に沿って一周させたときに電場がする仕事」であり、それはつまり「コイルに発生する起電力」ということになる。右辺が$-{\diff \Phi\over \diff t}$となり、電磁誘導の法則が出てくる。

アンペールの法則の左辺$\oint\vec H\cdot\diff\vec\ell$が「単位磁極を一周させたときに磁場がする仕事」だったのと同様。

レンツの法則とエネルギー保存

 コイルを近づけたり遠ざけたり(あるいは磁石を近づけたり遠ざけたり)したときに電流が発生する現象を「自分で動かしてみる」アプリがあるので、やってみてください↓

 電磁誘導の起こるときの電流の向きを理解するには、自然は人間に逆らうという考え方が役に立つ。たとえば、

のような考え方で電流がどう発生するかがわかる(これをレンツの法則と呼ぶ)。

人間に逆らう

のように力が逆向きに働くと考えてもいい。

 この「逆向きの力が働く」というのはエネルギー保存則的にも大事なのである。というのは、「電流が流れる」ということは電流のエネルギーを誰かが供給しなくてはいけない。この「逆らう力」に対抗して磁石を動かす「手の力」がする仕事が、そのエネルギーの供給源なのである。こうして考えると「自然が人間に逆らう」というのは「電流を作る分のエネルギーの補給を求めている」という考え方もできる。つまりはエネルギー保存の概念がちゃんとできていれば、電磁誘導におけるレンツの法則の意味もわかってくるのである。

 電流がどちらの向きに流れるかについてはいろいろな物理的考察から見つけることができる。以下の問題を考えてみよう。

 下の状況で、電流が流れる向きは(ア)(イ)のどちらになるかの説明を、2種類以上書け。図に描き込んで説明してもよい。

 問題では2種類以上としていれば、がんばれば3種類ぐらいの回答は作れるはずである。

 「教員になろう」と思っているからには一つの現象について可能ならいろんな方向から説明できるようであって欲しい。さらに言えば、生徒が「違う考え方」をしたときはそれを奨励して欲しい(科学をやるものにとっては「いろんな考え方を試す」のは重要だ!)。
考えてから、ここをクリックしよう。あるいは下のビデオを見る。

考え方1

 コイルを貫く「上向きの磁束」が増加する。すると、コイルはその増加を妨げる向きに電流が流れる。それは「下向きの磁束」を作る電流だから、上から見たら時計回り。すなわち電流は(イ)の方向。


考え方2

 コイルを近づけようとすると、それに反発するような磁場が発生するはず。ということは、コイルの上がS極になるような磁場、つまり「下向きの磁束」ができる。後は考え方1と同様に考えて、電流は(イ)の方向。


考え方3

 コイルの中に正電荷があると考える。その正電荷が上に動くと考えれば、それは上向きの電流である。フレミングの左手の法則を使えば、「コイルの内(S極がある方向)に向かう磁場」と「上向きの電流」があれば、力が時計回りに働くことがわかる。よって、電流は(イ)の方向。

先週の復習から 手回し発電機の問題

手回し発電機の問題

 電磁誘導とエネルギー保存則を考えるのに格好の問題として、センター試験で何年か前に出題され、最近大学共通テストの試行問題で再出題された手回し発電機の問題を考えてみよう。以下のようなものである。

次のページに解答があるが、よく考えてからページをめくること!
電磁誘導 手回し発電機の問題・解答編

手回し発電機の問題・解答編

 (5)が正解で、実は直結がもっとも重く、不導体をつなぐ(何もつながないのと同じ)がもっとも軽く、豆電球がその中間に入る。2017年に実施された大学共通テスト試行調査では、この問題の正解率は10.3%であった。非常に多くの人が勘違いする問題であることがわかる(選択肢は6個なのだから、ランダムに回答しても正解率は$100\div 6\fallingdotseq 16.7\%$なのだ)。

 この授業を受けている人の中でも、間違えた人は多いのではないかと思われる。
 エネルギー保存則から考えると、「電気が流れない」状態、つまりcの状態は手のする仕事が小さいから手ごたえは軽いだろう。

という部分は皆間違えなかったのではないかと推測する。

 ここでさらに豆電球を光らせるのにエネルギーがいるんだから、豆電球がついているaの状態が一番重いだろう。と考えてしまうと、間違える。

もし生徒から『豆電球でエネルギーを使っているんだから直結より重くなるんじゃ?』と質問されたらどう答えるか?---と考えてみよう。
答えはこちら。自分なりに答えを作ってからクリックすること。 bの「リード線どうしを接続」なら消費するエネルギーが小さいだろう、というのが間違いで、リード線もりっぱにエネルギーを使うのである。電球とリード線では、電球の方が抵抗が大きい。オームの法則を思い出せば、流れる電流はbのリード線>aの豆電球となる。電流をたくさん流す分、リード線の場合の方が、より大きな電力を消費することになるのである。よってbの方が重い。実はbの場合、回路全体が熱くなっているのである。
 なお、この「手ごたえ」はそもそも何なのかというと、手回し発電機の中にある磁石の磁場が手回し発電機に流れる電流に及ぼすローレンツ力である。だから、電流が大きいほど力が強く、手ごたえも大きい。

手回し発電機とコンデンサの問題

 手回し発電機とコンデンサを使うとちょっとおもしろい実験ができます。↓のビデオを見てください。

 手回し発電機とコンデンサをつないで充電して、コンデンサに溜まった電気が戻ってくると電球が光る、という仕掛けです。

 さて、手を離しているととうなるでしょう。答えを考えてから、次のページの解答編ビデオを見てください。
手回し発電機の問題 手回し発電機とコンデンサ・解答編

手回し発電機とコンデンサ・解答編

 まずはビデオを見てみよう。



 正解できたかな???


 「電流が逆に戻ってくるんだから、逆回転する」と思ってしまった人もいるんじゃないかと思う。だが、手回し発電機がモーターとして働くときと発電機として働くときでは、電流の向きが逆のときに回転の向きが同じになる。下の図は発電機とモーターを思いっきり簡略化して描いたものである。この図を見ながら左手の法則で向きを確認して欲しい。電流が逆向きだが、動く向きは同じである(発電機の場合は外から動かす、モーターの場合は自発的に動く)。

 ここはむしろ、電磁誘導現象の肝である変化を妨げる向きに力が働くの方に注目して欲しい。同じ速度で回転を続ける方向に力が働くのである。

よく間違える問題

 なお、電磁誘導ではよく出題され、かつ高校生がよく誤解する問題があるので、それについても考えておこう。

 前問(コイルが動く問題)で、「下の図の端子Aと端子Bはどちらの電位が高いか?」というのは、高校生がよく間違える問題である。高校生が誤解しそうな点を予想して、その誤解が生じないように注意しつつ、どちらの電位が高くなるかを説明せよ。図に描き込んで説明してもよい。

答えはここをクリック

 前問で(イ)の方向、つまり時計回りの電流が流れていることがわかった。コイルの中で見るとこれは端子A→端子Bの方向である。高校生は「A→Bと電流が流れているからAの方が電位が高い」と誤解しやすい。しかし、これにつけられた抵抗(電球)の方を見ると端子B→端子Aへと電流が流れている。コイルが起電力を作っているのだから、コイルは「電池」とみなすべきである。よって端子Bが電池の+極と考えるので、電位はBの方が高い。

 電磁誘導について考えていくと、一つの現象の中で電磁気学、電気回路、エネルギー保存につりあいと、いろんなことが入っていて、しかも絡み合っている。問題の解き方も一つではない。物理現象を考えたり教えたりするときは、そこを整理して考えて伝えていくことが大事。こういう、力学・電磁気が絡み合った現象を考えるときには、物理全体の理解、それも「繋がった理解」が必要である。

手回し発電機の問題・解答編 電磁誘導の実験

電磁誘導の実験

 電磁誘導を使った実験が以下のビデオにあります。

 実験で使っているリング状ネオジム磁石は以下の図のような磁力線を出してます。

 説明ビデオが↓

 磁石が落下すると、それによって磁場が時間変化します。時間変化する磁場があるときは、「その磁場の変化を妨げるような磁場を作る電流を流そうとする」というのが物理法則(レンツの法則)なので、流れることが可能な場合は、図に示したように電流が流れます。

 →   → 

 ちょっと注意。上では「どちら向きに電流ができるか」という説明の都合上、まず「電流がどういう磁場を作るか?」を考えました。つまり磁場の時間変化→電流の作る磁場→電流という順番に考えて(説明して)いきました。しかし、実際に起こる物理現象の順番としては


磁石による磁場(磁束密度)の時間変化 → 電磁誘導による起電力の発生 → 電流が流れる → 電流により磁場が発生

です。因果関係は磁場時間変化→電流→電流の作る磁場であること(説明の順番とは違うこと)に注意しましょう。

 電流によって作られた磁場は、ちょうど

のようなN極、S極を持つ電磁石ができたのと同じになります。上の電磁石は落ちる磁石をひっぱりあげる力を、下の電磁石は落ちる磁石を支えるような力を、リング磁石に及ぼすので、リング磁石の落下は何もないところで落ちるよりも遅くなります。

 アクリルの部分でも「電流を流そうとする作用」は発生します(誘導電場ができる)が、アクリルは電流が流れないので落下を妨げる力は発生しません。

 以上で第11回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、「第11回授業感想・コメントシート」に答えてください。



webclass↓

この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。
手回し発電機とコンデンサ・解答編 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


私が中学生か高校生の頃、リング状のネオジム磁石を銅とアクリルの棒に通して落下させる実験をやったことがありました。なぜ銅の部分では速度が減少するかが、今回の授業で電磁誘導によって起こると理解することができた。また、電磁誘導を実験によって説明したことでとても分かりやすかったので、自分が教師になった時には、実験をなるべく多く活用して、生徒がより理解できるように努めたいと思いました。
実験はぜひしましょう。ちなみにこの実験、実際に自分の手でネオジム磁石を動かすと、すご〜〜〜く「電磁誘導」を実感できていいのです。今対面授業ができないので皆に手で触ってもらえないのがとても残念です。
1つの結果に対して多方面から考えることが出来るようになってきて物理に対して自信がついてきました。手回し発電の手応えの問題はまんまと引っかかってしまったので、引き続き学習を頑張ります。
いろんな方向から考えていけるようになると、教員としての説明の仕方も拡がります。頑張っていきましょう。
自然は人間に逆らう、という考え方をもつと、レンツの法則の際に、電流の発生の仕方を学ぶのに理解しやすかったです。 また、手回し発電機の際に、初めは、豆電球があるためより電力が大きくなると安直な考えだったのですが、抵抗があることにより、電力の消費が小さくなることを学びました。
エネルギーとその保存という考え方をするといいですね。手回し発電機の豆電球がない場合は「導線が熱くなっている」ということに気づきにくいというのも落とし穴になってますが。
電磁誘導にも物理の色々な分野が絡み合っているというのがわかってすごく感動した。この感動を自分が教師になった際に少しでも生徒に伝えられるように努力したい。
そうですね。「こんなつながりがあるのか」という驚きを大切にしたいですね。
手回し発電機の仕組みがわかって面白かった。高校の時には知らなかったので、教師になった際にはぜひ生徒に教えたい。
手回し発電機は小学校などの理科実験などでも使われることが多いのですが、いろいろと授業で応用できるものだと思います。
今日の講義で出てくる単語、知識は頭に入ったと思うのですが、それを説明するとなったらまだぎこちないです。断片的な知識を繋げ、組み合わせて説明をすることで理解をさらに深めていきます。 手回し発電機の問題は自分も間違えていたので、「あっ!」と気づかされるものがありました。解説をみたら確かにと思うけれど、いざ別の聞かれ方をすると分からなくなるので、まだまだ理解不足であるなと感じます。 実験について触れながらの講義は毎回わかりやすいです。ありがとうございます。
実験や現実での応用などを考えながら、物理現象を理解しておくと、間違えることは少なくなっていくと思います。がんばりましょう。
今回の講義を受けて、中学校の理科で学習したフレミングの法則や右ネジの法則が講義でも出てきていたので、いつもそうだが、基礎基本を理解していることが重要だと改めて感じた。そして、今回の講義で、自分は電気の分野がほかの分野よりも苦手だということが分かった。
そうなんです。基本は大事。逆に基本がしっかりできていれば、応用も対応できるものです。
今回は電磁誘導に次いで学びましたがレンツの法則のところで2通りの解法を考えるというところがありましたが自分は正直高校の時に習った電束が増えてそれを妨げようとする電束が発生してという解法しか頭に出てきませんでした。答え自体は当たっているので良いと最初は思いましたが、生徒に教えるという意味では他の解法も知らないと生徒に十分なことを教えきれないし、自分の物理に対する理解も低くなってしまうと思ったので様々な角度から問題を読み取るということの重要性を改めて感じました。
生徒の思考回路は(大学生でもなんですが)教える側が思いもしなかったような方向に伸びているということがよくあることなんで、柔軟に対応できるようにしておきたいですね。
電磁誘導はまだ今までに授業でやった内容よりも理解できていてよかった。 あと、今迄みたいに安易に考えずにしっかり考えることができるようになったように感じた。
安易でなくなったのはいいことですね。
モーターの仕組みをしっかり理解することができたし、教える立場として説明できるようにしていきたいと感じた。
「説明できる」ってのはなかなか大変なことです。しっかり理解しよう。
電磁誘導が発電に使われているという話を聞いても、手回し発電機しか思い浮かばずピンとこなかったのですが、授業後に調べてみたら水力・火力・原子力発電でタービンを回すことが磁石を回すことに繋がっていたと知ってとても驚きました。iPhoneの置くだけで充電できる充電器も電磁誘導を利用していると聞いたことがありますが、こういう身近な所と繋げて授業できたら生徒も楽しめるかもしれないと思いました。
はいそうなんです。発電というのはほぼ「タービン回す」を介して電磁誘導です(太陽電池は違う例)。いろんなところに物理があります。
電磁誘導の実験