前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にあります。
「波動」の分野はかなり生徒に嫌われることが多い。だが一方で音・光という身近な現象に引き寄せて語ることができるという点では、電磁気よりは親しみやすく教えることができるはずである。
では、波の何がそんなに難しいのかということを考えつつ、波動の基本について考えていこう。
振動が起こるための条件として重要なものが二つある。
さらにその振動が「波」であるためには、
ことが必要である(一箇所で振動しているだけでは「波」とは呼ばない)。
↓は、波の進行の様子を表現するアプリである。まずはこれでじっくりと、波というのがどういう動きをするものかを実感しよう(ブラウザの「戻る」で戻ってくること)。
以下に文章による説明を入れるが、アニメーションを見ながら動きで理解しよう。
波が進行しているときの各媒質の速度を図に示すと以下のようになる。ここで$x$は場所を表す「座標」であり、$y$は波の媒質がつりあいの位置に対してどの程度動いているかを表す「変位」である。
図の黒線が「波の現在位置」、灰色の線が「波のしばらく後の位置」なので、その「しばらく」の間にどう運動しているかを考えれば、速度の矢印が図のようになることは納得できる。
素朴な間違いとして「波の進行方向が右だから、その場所にいる媒質も右に運動している」というものもよくある。実際には、進行方向と媒質の振動方向は一般には一致しない(縦波では方向は一致するが、向きは一致しない)。
加速度(およびそれに比例する力)は、速度の変化の様子を見ればわかる。それは
のようになる。図を見ると加速度および力は「中心より上にあると下向き、中心より下にあると上向き」となっている。これが「復元力」である。
波のグラフとしては、上に書いた$x$-$y$グラフの他に、時間を横軸にした$t$-$y$グラフがある。$x$-$y$グラフが「ある瞬間の波の形」を表したもの(いわばスナップショット)であるのに対し、$t$-$y$のグラフの方は「ある一点の場所での時間的変化の様子」を表したもの(いわば履歴)である。この2つのグラフについては後でまた述べよう。
波が嫌われる理由として「三角関数が出てきてややこしい」というのがある。実はこれは「単振動が嫌われる理由」でもある。
単振動で三角関数が出てくるのはもちろん、振動が三角関数によって表わされるからである。振動および波に三角関数が登場する理由は、復元力の多くが「つりあい点からの変位に比例する」という性質(こうなっていれば復元力になっている)を持つからである。そのとき運動方程式は \begin{equation} m{\diff^2 x\over \diff t^2}= -kx \end{equation} という形になる。あるいは \begin{equation} {\diff^2 x\over \diff t^2}= -{k\over m}x \end{equation} であるが、この式を「$x$は二階微分すると元の関数の負の定数倍に戻る」と読むと、「二階微分して元の負の定数倍に戻る関数といえば、三角関数である」と思いつけば、三角関数となることはわかる。ただし、これだけだと「三角関数以外にはないのか?」と心配になるかもしれない。線形な二階微分方程式の独立な解は二つしかないので、三角関数$\sin$と$\cos$が出た時点で、それ以外の解を心配する必要はない。
解は$\omega=\sqrt{k\over m}$として、 \begin{align} y=& A\sin \omega t+ B\cos \omega t\\ =& A\sin\left(\omega t+\alpha\right) \end{align} など、いろいろな表現方法がある。
ただし、この微分方程式を使った説明は慣れてない高校生には理解しにくいであろうから、教科書には「単振動は円運動の射影である」という説明がよくされている。
以下に単振動が円運動の射影であることを説明するアプリがある。
$\sin A$の$A$の部分を「位相」と呼ぶ。
「位相」という言葉も嫌われるのだが、要は「三角関数の引数」のことなので、「角度」と同じようなものだ。ただ、上の図に書いたような「架空の円運動の角度」なので「角度」とは別の言葉を当てている。
下に位相とはなにかを説明するアプリがあるので、「位相」という言葉のイメージをつかんでほしい。終わったらブラウザの「戻る」ボタンで帰ってくること。
たとえば $$\sin\left(A+{\pi\over 2}\right)=\cos A$$ という関係(他にもいろいろある。下のような図を描くと確認できる)があるので、「位相に${\pi\over 2}$を足せば$\sin$と$\cos$は入れ替わる」ということが言える。
$\sin$と$\cos$は平行移動を除いて同じ関数だと思っていいので、以下は$\sin$だけで話をしよう。
波長が $\lambda$ の波が $x$軸上に進行しているとき、ある瞬間( $t=0$とする)の波の変位の式を \begin{align} y=&A\sin\left( {2\pi x\over \lambda}+\alpha\right) \end{align} と書くことができる。これを「公式だ〜」と暗記しようとしてはいけない。こういう式が出てくる背景も含めて考えておかないといけない。
$\lambda$ は「波一個の長さ」である。 $x$ は「原点からの距離」だから、 ${x\over\lambda}$は「原点からここまでに入っている波の数」を表現している。
位相の中の${x\over \lambda}$に$2\pi$が掛かる理由は「波1個で位相変化$2\pi$」という関係があるからである。
今考えている状況では、「$x$が$\lambda$増加すると、$\sin$の位相が$2\pi$増える」という関係になっているので、それを表現する式もそれを反映した形になっている。
ここで描いたグラフ、および使った式$y=A\sin \left({2\pi x\over \lambda}+\alpha\right)$は、「ある瞬間の波を表現する式」であって、波の時間的変化は表現できていない。そこで
という問題を考えてみよう。
今度は時間の経過による位相変化だが、ここでも「波1個は位相変化$2\pi$」という関係がある。時間$t$が周期$T$だけ経過すると、${t\over T}$個の波が出るから、${2\pi t\over T}$だけ位相が減少する。
ここで「なぜ減少する?」と疑問が湧く人は、もう一度アプリを見直してみよう。
よって式は \begin{align} y=A \sin\left(2\pi\left({x\over \lambda}-{t\over T}\right)+\alpha\right)\label{naminosiki} \end{align} となる。
波の進行方向が逆($x$軸の負の向き)であるときは、位相は時間が経つと増加するので、$ y=A \sin\left(2\pi\left({x\over \lambda}+{t\over T}\right)+\alpha\right)$になる。
この式は \begin{align} y=A \sin\left(2\pi\left({x-{\lambda\over T}t\over \lambda}\right)+\alpha\right) \end{align} と書き直すことができる。 ${\lambda\over T}$が波の伝搬速度(もちろんこれもなぜこうなるのかを納得しなくてはいけない。意味を考えれば納得できる式なのだから!)だから、 \begin{align} y=A \sin\left(2\pi\left({x-vt\over \lambda}\right)+\alpha\right)\label{naminosikivt} \end{align} と書くことができる。
この式は、
という数学の知識を思い出せば、
と考えて出すこともできる(いろんなやり方を理解して、将来教えるときに使えるようにしよう)。
下の図のように考えても同じ式が出せる。考えてみよう。
$\omega={2\pi \over T}$と代入してやると上の図から作られる式はほぼ上の式と同じになる。実は符号が逆になっているが、それは位相が$\pi$ずれているだけのことなので本質的に違いはない。$\sin\left(\theta+\pi\right)=-\sin\theta$という式がある(図を描けばすぐ出てくる)ので、「位相が$\pi$違う」というのは「符号が逆」というのと同じこと。波の反射の話で「位相が$\pi$ずれる」という言葉がしばしば出てくるが「変位の符号が反転する」と言っているのと何も違わない。
2つ以上の波が重なるときに何が起こるか、というのも面白い現象である。
以下のようなインタラクティブアニメーションがあるので動かしてみてほしい。
波の重ね合わせは、2つの三角関数の足し算で起こるので、
のように、
上の式は計算でも出せるが、次のように図を描いて考えた方がわかりやすいだろう。
この図の角度の$\alpha$が「位相差」である。$\alpha$が(偶数)$\times\pi$だとどうなるか、(奇数)$\times\pi$だとどうなるかを見てみるとよい。
教科書などにはよく、
のような図がある。山と谷、一つずつのパルス波が左右からやってきて、途中の時刻(C)で一旦消えるものの、波の独立性によりまた「復活?」して(D)に示したように「何事もなかったかのように」先へ進んでいく。
これを見た生徒は素朴が疑問として、
と考えるかもしれない。いかにもありそうな疑問だから、これに対する答えを持っていなくてはいけないだろう。
この疑問に答えるには、波動という現象であれ、やはりそれは力学の支配するところなのだということを思い出す必要がある。あるいは、先に述べた波が起こる条件の一つ「慣性がある」に注意しなくてはいけない。
このような疑問を持つ子は「初期位置だけでその後の運動が決まる」という誤概念を持っていることになる。ところが、力学のところでさんざんやったように、「初期位置と初速度でその後の運動が決まる」というのが正しいのである。よって、ここでも「媒質の速度」に注目する必要がある。たとえば(A)の時刻における媒質の速度を考えると、
のようになっている。時刻(C)で重なったときは、
のように速度を持ち、変位は0でもその瞬間の速度は0ではない(だからこの後も波は続く)。「波が一瞬消えた状態」は「最初から波が起こってない状態」と、変位は同じでも初速度が違う状態なのである。
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