先週のレポートから

前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

にあります。

 前回は、さらに以下のチェックテストの答えを書いてもらいました。

チェックテスト4

 無重力の宇宙空間内を宇宙船がA地点からB地点まで等速直線運動してきた。このままなら宇宙船はC地点に到着するところだったが、ロケットエンジンを噴射したため、宇宙船はD地点に到着した。D地点でロケットは噴射をやめた。

 宇宙船のB地点からD地点、およびその後の運動の軌跡を図に描き込め。

 この問題は後で説明する「MIF誤概念」を提唱したClementが行った試験で、「慣性についての高校生の素朴概念に関する教師の認知」(中山迅・猿田祐嗣、科学教育研究Vol.19 No.2(1996))に詳しく紹介されています。

 皆さんの回答にあった誤答例(これ、誤答ですよ!)を下に示します。
よくある誤答

よくある誤答

↑を読んで「えっ、これでいいんじゃないの?」と思っている人もいるかと思う。せっかくだから正解はアニメーションで体験してみよう。

 下ページに行って「10秒加速」というボタンを押すとロケットが10秒加速するので、それによってどのような動きが起こるかを確認しよう。終わったら「目次」ではなく「戻る」で戻ってくること。

アプリの使い方説明ビデオが↓

 なお、ロケットの運動の軌跡を見たい場合は、上の方にある「軌跡表示On/Off」のボタンを押すこと(消したいときはその隣の「軌跡消去」を押す)。

 ロケットの角度を0〜360度の範囲で変えられるので、いろいろな方向に加速して遊んでみて欲しい。「ピタッとロケットを静止させる」のは、結構難しい。

 このシミュレーションは「無重力で、空気の抵抗もない」という状況を計算で見せているもの。地球上ではそんな場所はないのだが、そういう場所でなら、普段実感できない(がゆえに誤概念が生まれる)「慣性の法則」や「運動の法則」を実感できるのである。

シュミレーションで感じて欲しいこと

 残念ながら大学生に対しても正解は半分以下であることが多い。「物理を理解している」ということは、「どういう運動をするのが物理法則に即しているのかが判断できる」ことである。「運動方程式を解いて計算できる」ということは二の次なのであるが、「計算できる」が「物理がわかってない」層が結構いることがわかる。

MIF誤概念

MIF誤概念

MIF誤概念

 「人間の直観は物理法則に合わない」という話をした。「運動の第2法則(運動方程式)は?」と聞かれたら、おそらくほとんどの人が「$F=ma$」と答えることができるだろう。だが、教える立場に立つ人は

「式が言える」だけではその本質がわかっているとは限らない。

ことに注意しなくてはいけない「式が言えるなら、問題が解けるんだからそれでいいじゃん」と思う人も、もしかしたらいるかもしれないが、それは全く違う。物理という教科(学問)の目標は「自然現象を理解すること」なのであり、式が言えたってそれだけでは目標は達成されていないのである。「それでいいじゃん」と思ってしまった人は、この後の「誤解の例」をよく見て「これでいいか?」を自問して欲しい。

 多くの人が陥ってしまう誤概念に「MIF誤概念」というものがある。MIFは「Motion implies a force」(運動があれば力がある、という意味)の略である。誤概念と名がついている通り、間違っているのだが、非常に強固に存在する間違いなのである。MIF誤概念は無理に式で書くなら「$F=mv$」となる。人間の直観はMIF誤概念をサポートする方向なので、「ちゃんと物理を勉強してない人」は皆この誤概念にハマると思っていい。教える側は「ここに『落とし穴』がある」ことを認識したうえで教えていく方がいい。

 MIF誤概念が現れている例として、2018年の11月に実施された「大学入学共通テスト試行問題」の物理基礎の問題(問題番号などは書き直した)を見てみよう。

 正解は次のページだが、答えを見るまえに自分でも考えてみること。

先週のレポートから 落体の問題の正解

落体の問題の正解

 よくある誤答と正解、MIF誤概念について、ビデオで解説する↓

 ビデオでも述べたように、正解はすべてである。どう運動しているかに関係なく、働く力は重力のみであり、それは下向きに決まっている(間違った人いるかな?)。

 物体が自由落下運動しているときにどのように力が働き、どのように速度が変化しているかを見るアニメーションが↓にあるので実行してみること。終わったら「目次」ではなく「戻る」で戻ってくること。
このページの下の方にある「目次」を押すと他の力学シミュレーションの目次のページに行けるので、なんなら他のシミュレーションでも遊んでみてください。

 大学入試センターが公表している、この問題の正解率はそれぞれ、30.1%, 23.0%, 34.2%である。驚くべきことにこれに「驚く」かどうかは人によるだろう。このテキストを読んでいる人の中でも、正解がすぐにわかる人(むしろこれの何が難しいのかわからない人)から、正解を聞いて「信じられない」と思った人まで、いろいろいると思う。物理を教える立場にいる人は「困ったことだ」と認識しなくてはいけないだろう。、正解できた生徒の数は3割を切っている。なお、この問題を含む物理基礎の問題の平均得点率は約58%なので、この試験を受けた人は「平均点60点ぐらいの得点はできる人」なのに、この大事なところがわかってないのである。

 「重力は下向きに働く」とか「力は加速度に比例する」とか、中学の理科の先生、高校の物理の先生は教えているはずであるが、この問題を見てすべて正しく解答できる人は23%より少ない---この現状に関して「教える側」の我々はどう思うべきだろう??---よく考えてみて欲しい。

 このMIF誤概念は非常に強固である。それは当然で、人間の直観はむしろこの誤概念を支持するのである。直観に反していても正しいことはある。むしろ「人間の直観をあてにすると危ない」というのが人類の歴史から学べる教訓だ。だからこそ、「理科を教える(物理を教える)」というのは難題なのだ。
 以上のような「さまざまな教訓」を持った上で、またチェックテスト3(爆撃機の問題)を考えてみて欲しい。それを今日のレポートにする(ただし、これも成績には反映しない)。

 レポートについては授業の最後に記述する。

MIF誤概念 チェックテスト1の解答

チェックテスト1の解答

第1回で問題だけ出して答えは書かなかった以下の問題について説明していこう。

図は、床の上に乗った物体の上にさらにもう一つ物体が乗っているところである。物体および床に働く力を全て図に書き込め。書き込み終わったら、どの力とどの力が作用・反作用の関係にあるかを示せ。

図は物体と物体、物体と床の間に隙間があるように描かれている。これは境界部分にどのように力が働いているのかがわかりやすくなるようにするためで、もちろん実際には物体どうしは密着している。そう考えて力の図を書くこと。

 やってみたら、下のビデオを見てましょう。

↓チェックテスト1の解答、前半

力の絵(作用点)

 ビデオの中でも言ったけど、こういう問題をやると多い間違いは、

のように力の矢印の始まる位置がおかしいもの。矢印の根元の○の部分は「作用点」なので、これだと「上の物体が下の物体を引っ張る」という図になってしまっている。

 力に三要素(向き・大きさ・作用点)があるが、その「作用点」がわかりやすいように絵を描かないと、せっかく描いた絵も「ただ描いただけ」になってしまう。力の絵を描くのは、この後つりあいの式なり運動方程式なりを立てるためである。作用点が明瞭でない図を描いていると、後の作業に支障をきたす。

 「作用点がどこなのか、わかりやすい図を描くことが大事!」と納得できたら、チェックテスト1の解答その2へ進もう。

落体の運動の正解 チェックテスト1の解答その2

チェックテスト1の解答その2

↓チェックテスト1の解答、その2(図を描き終わるまで)

そのほかの、よくある誤答

のように力が足りない例もよくある。

 図に書き込んだように「重力」「上の物体が下の物体から押される力(垂直抗力)」「下の物体が床から押される力(垂直抗力)」を書いたとすると、作用・反作用の法則(作用と反作用では「主語」と「目的語」が逆転する)からして「下の物体が上の物体から押される力」と「床が下の物体から押される力」が必要なのである。それも書くと

となる。これが正解である。自分の描いた絵と、見比べてみよう。

 どれとどれが作用と反作用か?という問いもあった。これについては、下の図の「誤った作用・反作用ペア」の方だと思ってしまう人が(残念ながら)多い。

 この間違いも頻出する間違いで、学生の皆さんが教員になったら、きっと多くの生徒がこの間違いをやらかすところを見ることになるはずである(その前に先生が間違えてはいけないので、今回間違えた人は作用・反作用をみっちり復習しよう)

チェックテスト1の解答 今回のレポート

今回のレポート

 今回はチェックテスト4およびチェックテスト1の答えを示しつつ、MIF誤概念と作用・反作用の図の書き方について考えた。

 今日は、第1回で出題だけして解答をしてなかったチェックテスト3をレポート問題とするので、webClassの方で解答してください。いろいろ解説した後なので、正答率が上がることを祈ってます。

★<チェックテスト3>

 下の図は、爆撃を行っている爆撃機の写真である。

 下の図は写真の状況を模式的に表したもの(爆弾は代表して三つのみ描いた)である。

 三つの爆弾それぞれに働いている力を(●が作用点)を使って、速度をを使って矢印で表し、上の図に描き加えよ。

 以上で第2回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、「第2回授業感想・コメントシート」のアンケートに答えてください(今日の問題を見た感想の選択回答が一つ、自由記述の感想・コメント欄が一つあります)。これらは出席の代わりです(この授業は出席点はありませんが、皆さんがどの程度受講しているかも確認したいのと、反応もみたいので)。

 また、チェックテスト3がレポート問題としてwebClassに上がってますので、提出してください。

 ↑今回のレポートは成績に反映しません。みなさんがどれくらいできるかの「リサーチ」だと思ってください。点数とは関係ないので、びびらず安心して思う通りに解答してください。来週の授業は、これの解説から始めます。

 今回も図で答える問題ですが、きれいな画像にする必要は全くないので、適当に紙に書いて写真を撮るというやり方で十分です。パソコンなどで画像(jpg,png,gifなど)またはPDFファイルを作成して送ってくれても、もちろん構いません。

webclass↓


この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。

 なお、webClassに情報を載せていますが、授業があった日の午後8時より約1時間、オンラインオフィスアワーとしてzoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。

 テキストは印刷したものを配布する予定ですが、今回は印刷が間に合いませんでした。来週か再来週には印刷して配布します。同時にPDF版をこのページ内にアップします。
チェックテスト1の解答その2 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


第2回のアンケートでいうチェックテストとは、どのチェックテストを指しているのですか?第1回のアンケートと同じアンケート内容だったので、少々混乱し、どう答えれば良いのかわかりませんでした。なので第1回のものと同じ回答を送りました。
すいません、消したつもりの消し忘れでした。
私もMIF誤概念にはまっている一人でした。速度と力がごちゃごちゃになっていて、今日の講義で整理ができてよかったです(汗) チェックテスト1の力を書き込む際の作用点も曖昧だったのでこれから先気をつけます。
力と速度が混ざっていてよく分からなくなっていました。 復習頑張ろうと思います。
私は、今回の授業のMIF誤概念の問題を間違えました。運動が起こるところに力が働くと考えてしまいました。物理は公式を覚えるだけでなく、その公式を用いて問題を解き、自然現象を理解することが重要だと分かりました。
大学入試の問題でこれが答えだと自信をもって答えたのに全然物理を理解できてなくて残念だった。落ち着いて問題を見て答えていきたい。。
私はまさに、MIF誤概念に当てはまっていた。 物理は計算だけの学問というイメージが強かったが、考え方を改めたい。。
今回も問題自体は簡単だと思って解きましたが、見事に間違えてしまいました。 MIF誤概念の怖さを知りました。 自分が中高校生の時にこのような事も知っていたらもう少し物理の事を知れたのかなと思いました。同時に、自分が教える立場になった時教える人にはこういう事をしっかりと伝えたいと思いました。
とまぁこんな調子↑で、沢山の人が「間違えた」「はまっていた」と答えているのは、面白いといえば面白いけど、哀しいといえば哀しい。大事なことは「教える立場になったとき」にどうなっているかなので、今は安心して間違えつつ、将来の生徒がはまらないようにする方法を考えていきましょう。
やはり”物理”という科目の性質上、誤概念は他科目に比べ大きいと思うので、教える側のしっかりとした概念習得が重要なんだと再確認させられた。
ちゃんと理解して授業に臨まないと、生徒の誤概念に引っ張られてしまうのです。
自然においてはスムーズな変化が起こるという言葉が印象に残った。図を書くとき、これは物理の世界で起こっていることだというイメージがあった。しかしこれは日常生活で起こっている現象を図式化したものだという考えに変えていかなければならないと思った。 今回はどちらのチェックテストも正解できた。自分が物理をしっかりと学んでいたということがわかり嬉しかった。。
「物理の世界」とはまさに「日常の世界」なのですよ。
今回の講義では、運動と力は全く別物であることを再認識させられました。また、MIF誤概念にとらわれないよう、教師側が物理とはなにかをしっかり理解し、誤った概念を教えないようにすることが大切だと感じました。。
教える側はしっかりした理解を持っていくことが大事ですね。
前回のチェックテスト4は少しだけ自信があったのですが、よくある誤答として紹介されていたのでショックでした。今回のチェックテストは答えを記入した後に自分で調べましたが、やはり自信はありません。
自信を持って回答できるよう、じっくり学んでください。
高校では物理を選択していなかったので、作用、反作用の法則があるのは中学校で教わったが、しっかりと理解してなかったことがわかったのでよかった。失礼ですが高校で少しやる物理の基礎は公式だけは教えて、具体的な説明は適当な先生だったので物理に苦手意識が少しあったが、今日の講義を受けてそんなに難しいことではないと感じた。
物理は基礎を抑えていけば、後は自然な応用をしていくだけで理解が広がっていきます。
リモート授業ならではの力学シュミレーションを使って学ぶのが本当に面白くて分かりやすかったです。リモート授業の中で1番有意義な授業だと思いました。 私自身、物理に苦手意識があるのですが、この授業が終わる頃には物理の基礎が完璧になり、応用もしっかり根拠を持って答えられるようになると想像できる授業でした。 これからも力学シュミレーションなど、自分で色々試すことができるものを授業で活用して欲しいです。。
シミュレーションは今後も入れていく予定です。
今日の講義を受けた上で、改めてチェックテスト3を考えてみました。意識するべきところが分かったので、以前考えたときよりも考えやすかったです。 が、自信はありません、、、。 自然現象は飛躍しない 速度と力を混同しない この2つを意識して解いてみました。 チェックテスト1に関しては、全部描けていたので、 安心しました。ですがチェックテスト2の作用反作用を間違えていたので、もう一度復習してきます!。
いろんな問題で、自分をチェックしていってください。
感覚的に間違ってしまうというのは、自分自身時々あるので思考する癖をつけたいなと思う。
物理に限らず、科学は思考することから始まりますから。
私は物理の中でも電磁気学分野が苦手なのですが、電磁気以前に作用反作用などの基本的な力学の理解が足りていないのかもと思いました。「物理基礎くらいできる」と思ってその先を勉強したにもかかわらず、基本的なところでまだ悩んでしまうのだと気付くことができて良かったです。自分の理解度を正しく認識するのは、とても大事なことだと思いました。。
力学も電磁気も、統一的に理解していくことが大事です。
今日も面白かった。物理が分からない人に物理を教えるのは大変だなと思った。。
ええ大変です。だからこそ物理を教えるのは面白い。
MIF誤概念の共通テスト問題について、過去に同じような問題を高校生のときに物理の先生がニヤニヤしながら出題した問題に似ていて、その当時はまんまとひっかけられ(私の理解が足りていなかったのですが(笑))、速度と力の向きをすべて同じにしていました。一体、重力はどうなっているのかと、今ではその時の私に言いたいことばかりです。円運動とかどうするんですかね(笑)しかしこのようなご概念を持ちながらもテストではそこそこの点数を取れるということはとても怖いことだと思います。そのほかにもこのような自分が普通だと思っている、本当は間違っている誤概念があるのだろうと思うと可笑しくて。今後のためにも見つけたいです。。
教えるという立場に立つと、可笑しいとばかりも思っていられないのがつらいところです。
MIF誤概念は、確かに混同して説明をしてしまう場合が多いので、力と速度(主にベクトル的な意味で)をしっかりと把握して使わなければと思いました。
説明する側が混乱していると、正しいことが伝わりませんからね。
今日のレポート