前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にあります。
やっと教科書の冊子が完成しました。前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。
ファイルのPDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。
なお、前回の授業では以下のようなクイズを出していました。
第3回感想・コメントシートのクイズ
上の問題の逆を考えよう。等速直線運動していた電車が急停車して、人が前につんのめった。このとき、電車内の物理現象と電車外の物理現象、それぞれ正しいものを選べ。電車内で人がつんのめった理由
電車外から見て、人が電車内でつんのめった理由
今回は皆さん素晴らしい! ほぼ、全員正解でした。
正解は、上の問題は1.の「右向きに見かけの力が働いたから」で、下の問題は2.の「電車から人の足の部分に左向きの力が働いたが、人は右向きに運動を続けたから」でした。
ほぼ全員正解と書きましたが、少しだけ、下の問題で1.の「電車から人に右向きの大きな力が働いたから」を選んだ人がいました。電車と人の接点は人の「足」です。足に右向きの力が働いたらどうなるか、ちょっと考えてみてください。
恒星(たとえば太陽)の周りを惑星(たとえば地球)が等速で円運動している。
図に「速度」「加速度」「力」の矢印を描き込め。
正解は速度と加速度に関しては
の図のようになるのだが、これもしばしば、加速度が速度と同じ方向を向いている答えが出てくる。
円運動しているときの加速度が中心方向を向くことについては、下のような図を描いて理解すべきである。
つまり、
ということが図から読み取られる。
高校の教科書を見れば「速度のベクトルの変化が加速度ベクトル$\times\Delta t$」という説明が、
のような図とともに載っている。これを素直に適用すれば、速度ベクトルが回転している場合の加速度ベクトルは速度ベクトルと直交する方向を向くことが理解できるはずだ。加速度というベクトルは、「速度の大きさの変化」と「速度の向きの変化」の両方に依存している。
どちらかというと左の、「速度の大きさが変わる加速」の方がよく出てくるためだろうか、「速度の向きが変わる加速」の存在がすっぽり頭から抜けてしまっている人もいるので注意しよう。
円運動している惑星の例は速度の向きが変わる「加速」をしている。
なお、力も非常に間違いやすいのだが、正解はのように、加速度と同じ方向(中心向き)である(運動方程式は$\vec F=m\vec a$なのだから当然だ)。
ところが、これもMIF誤概念のためであると推測されるこれに関しては、上に書いたように「速度の変化」がベクトルの引き算で計算されるということが理解できてないという可能性もある。「等速円運動だから加速度は0」という誤答も結構ある。が、
のような「速度と同じ方向へ働く力」を描いてしまう人が結構な割合で存在する。「速度方向の力」だけ描いてしまう人もいるし「速度方向の力」と「中心向きの力」を両方描いてしまう人もいる。
間違いの例としてもう一つ多いのは「遠心力」を書いているもの。『遠心力』は回転する観測者からみるとあると思われる、見かけの力であるから、遠心力を感じる立場であればこの惑星の上に観測者がいることになり、その観測者から見たら惑星の速度も加速度も0である(つまり、速度も加速度も0とする立場ならば遠心力があって正しい)。下の2つの図は、どちらも(それぞれの立場で)正しい。
あなたが「どっちの人の立場」で見ているかが重要なのである。
遠心力は「見かけの力」であり、実在の力ではない。遠心力という力が発生しているようにみえる理由は、慣性の法則が関係している。上でも述べたように、円運動と直線運動の違い「運動の向きが変わっていくこと」である。
アプリ画面の下の方に「しばらく遊んだあとで、課題として考えてほしいこと」がある。特にそこの「突然万有引力が消失したら何が起こる?」のところは試してみよう。
日常用語と物理用語が乖離しているせいで生徒に誤解が生じたり生徒の理解が進まなくなったりすることはよくあるのだが、「遠心力」という言葉もよく誤解されている言葉である。
という言葉は、日常用語としては普通に使うし通じるが、物理用語の「遠心力」には合致していない。というのは、遠心力はあくまで「円運動している観測者の感じる見かけの力」である。上の文章は電車を外から見た人の視点で書かれているが、外から見た立場では「遠心力」という力は存在しない(日常用語としては、そういう立場を曖昧にした表現もよしとされている)。
それは正しい。というのはそのように言うときに視点は「車の中」にある。この場合の「車」という「加速している視点」で考えるとき(別の言い方をすれば「加速する座標系」でかんがえるとき)は遠心力というみかけの力が出現する。
車が曲がっているときに、壁に押し付けられるように感じる(遠心力を感じる)ことを車の外から見ると
のようになる。
車が曲がらなければ車に乗っている私もでそのまま運動するはずだったのだが、車が曲がったことによりその運動はできなくなり、速度がのように変えられてしまう。速度が変化するということは車の壁(ドア)からの方向に力を受けるということである。
これを我々は遠心力により壁に押し付けられたと表現することがある。
車の中の立場で考えると、
のように、私には「車の壁から押される力」と「遠心力」の二つの力が働き、それがつりあうことで(壁に押し付けられた形で)静止している、ということになる。
ここで、遠心力を考えなくてはいけなくなったのは、「車の中の立場」で考えたからである(車の外から見る立場に徹するなら、出番はない)。遠心力はあくまでこのような「加速している観測者」の立場で運動方程式を立てなくてはいけなくなったときに導入される「見かけの力」である。
「遠心力」という言葉を使いたくなったときは私(運動方程式を立てる人)はどの立場に立っているのか?と自問自答しよう。この点を明確にしておかないと、いろいろ間違える。
「遠心力」を「物体が円運動しているときにどこからともなく湧いてくる外向きの力」というふうに誤解してしまうということはよくある。ハンマー投げの選手がハンマーを投げたとき、どちらに飛ぶかという問題(下の図)
に対してc(つまり外側)と答えてしまうのはそのような誤解による(さらに、MIF誤概念がここでも顔を出している可能性もある)。
同様に、糸をつけてぐるぐる回して、糸をパッと離す(張力が消える)とどうなるか?やってみた実験のスローモーション撮影があるので見てください。
手を離した後のボールがどの方向に動いたか、よく観察しておいてください。
加速度の方向を考えるための問題として、円運動よりもさらに一般的な運動を考えよう。以下の問題を考えてほしい。
惑星の軌道が楕円であり場合、恒星に近いところの方が速くなる。なぜかを図解せよ。
なお、このとき惑星に働く引力は恒星へと向かう方向を向く。
もちろん、ケプラーの法則のうち、第2法則である「面積速度一定の法則」からも「遠いところほど遅い」ということはわかる。ケプラーの法則は観測により発見されたものだが、ニュートン力学ができあがった今の目からは観測によってではなく、物理的考察から導かれるべきものである(ここでは完全に導くのではなく「遠いほど遅くなりそうだ」という雰囲気だけでも、理解しておきたい)。
そのためには、次のような力と加速度(この二つは同じ向きを向く)を含めた図を描いてみるとよい。
のように考えると、「図の上側に惑星がいるときは加速度と速度が(おおむね)逆向きなので遅くなる。図の下側にいるときは加速度と速度が(おおむね)同じ向きなので速くなる」ということわかる。こういうことが「図から」直観的にイメージできるようであってほしい。もちろん、計算から$\vec v\times \vec r$($\vec v$は速度、$\vec r$は恒星の位置を起点ととした惑星の位置ベクトル)が一定であることは微分と運動方程式を使うと示すことができるが、「図でわかる」こと大事である。
円運動のイメージを持つために、以下のアプリをしばらく動かしてください。
アプリで見せているのは
と思ってもいいし、
と思っても、
と思ってもいいです。
もう一度最初から見たいときは、右のボタンを押すこと→
回転座標系で見た水平方向の初速度(この場所の回転速度の何%か):
回転座標系で見た垂直方向の初速度(この場所の回転速度の何%か):
左側は「円運動している系の内側から見た視点」、右側は「円運動している系を外側から見た視点」です。
人間が物体(リンゴだと思ってもいいしボールだと思ってもいい)を離すとどんなふうに運動するかを、初速度をいろいろ変えながらやってみてください。いろいろ、面白い動きが見られると思います。
初速度を設定すると、やのような不思議な動きをさせることができます。とにかくいろいろやってみて。
感じ取って欲しいところは、
ということです。「遠心力」は高校物理の力学の難所の一つです。難所になるのは上の感覚がなかなか身につかないからです。「見かけの力でしかない」という視点を持って考えないと、いろいろ間違うのです。
ガンダムのスペースコロニーもそうですが、宇宙で人類が過ごすときに「人工重力」が欲しいとき、この回転による見かけの力を使います。少し変なところはあるけど、左の「回転している座標系」で見ると「物が下に落ちる」という現象が見えます(ただし、この場合の「下」は「外に向かう方向」です)。
なお、この運動をじっくり見ると、「右へ曲がろうとしているなぁ」と感じるかもしれません。これは地球の北半球上の物体が(地球の自転のせいで)感じる見かけの力が「速度を右に曲げようとする方向」に働く(これを「コリオリ力」と呼びます)のと同じです。台風が渦を巻く現象はこのコリオリ力によります。
たとえば真上に投げても(水平方向初速度を0にして垂直方向の初速度を正にしても)元に戻ってきません。こうしてみると、スペースコロニーの中で球技をやるのは難しいかもしれません。
運動方程式に関する話がだいたい終わりました(次回から保存則)ので、レポート問題(今回は成績に反映します)を出しておきます。提出期限は、5/20までとします。
地球の周りを円運動している人工衛星(ISSとか)の中ではいわゆる「無重力状態」になる理由を、「誰の立場で見ると“無重力”なのか」が理解できるように、説明してください。
(注意:「地球から遠いので重力が0になります」というのは、「よくある誤概念」です!)
説明は、「将来自分が教えることになる中学生・高校生に対する説明」として書くこと。
解答は文章のみでもいいですが、図を使って説明してくれてもかまいません(その方がわかりやすくなるはずです)。提出方法は、これまで同様、画像(ノートに書いて写真でも可)でもいいし、テキストファイルなどにして提出しても構いません。
上に書いたように「わからない生徒への説明」のつもりで丁寧に書いてください。「わかっている人向け」の雑な説明は減点します。また、「誰の立場で見ると“無重力”なのか」が明確でない説明も、減点します。
以上で第4回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、上のレポートの提出と、「第4回授業感想・コメントシート」のアンケートに答えてください(いつもの感想・コメントの他、感想の選択回答が一つ、自由記述の感想・コメント欄が一つあります)。これらは出席の代わりです(この授業は出席点はありませんが、皆さんがどの程度受講しているかも確認したいのと、反応もみたいので)。
なお、webClassに情報を載せていますが、授業があった日の午後8時より約1時間、オンラインオフィスアワーとしてzoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。
webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。