先週のレポートから

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オンラインオフィスアワーに関するお知らせ

 ちょっと別の予定が入ったことと、あまり利用者がいないということで、この授業のオンラインオフィスアワーの時間を変えます。

 木曜と金曜の昼の11:50~12:50までにします。

 他の授業と合同ですが、質問や相談などがある人は来てください(zoomのアドレスなどはwebClassを見てください)。

 また、開いて欲しいときはメールなどで連絡をくれれば可能な時間に対応します。

 あと、webClassの掲示板は質問に使ってくれて構いません。

前回の感想・コメントシートから

 前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、

にあります。

 教科書の冊子が完成してます。まだの人は前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。

 ファイルのPDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。

 なお、前回の授業では以下のようなレポートを出していました。

 地球の周りを円運動している人工衛星(ISSとか)の中ではいわゆる「無重力状態」になる理由を、「誰の立場で見ると“無重力”なのか」が理解できるように、説明してください。

(注意:「地球から遠いので重力が0になります」というのは、「よくある誤概念」です!)

説明は、「将来自分が教えることになる中学生・高校生に対する説明」として書くこと。

 想定していた解答は以下のようなものでした。

 円運動している人工衛星の中の観測者は、観測者が円運動という加速度運動をしているので、みかけの力である慣性力(この場合は遠心力)がはたらく。この遠心力が地球からの万有引力とちょうど逆向きで同じ大きさになっているので、人工衛星内の観測者にとっては「重力がなくなった」ように観測される。なぜちょうど万有引力と遠心力が同じ大きさになるかというと、人工衛星全体が円運動するためには、人工衛星全体にはたらく万有引力と遠心力もつりあっていなくてはいけないからである。

 あくまで「人工衛星内の観測者からみると」という立場がちゃんと書いてあることが大事です(後半部分はなくても、立場の説明がちゃんとあれば正解です)。

 いくつか、

 自由落下している観測者からは重力がないように思われる。人工衛星は自由落下しているのと同じなので重力がなくなる。

という筋で説明している答案がありました。「人工衛星は自由落下しているのと同じ」という部分がちゃんと説明されていればいいのですが、中学生・高校生あたりに説明するのだとすると、「え、人工衛星は落ちてないよ!」という「新たな疑問」を生む可能性があります。その部分をちゃんと説明してないとまずいです。

 人工衛星の中で観測者(宇宙飛行士)は静止する。静止するということは力がつりあっている。ということは重力がなくなっている。

という説明をしている人がいましたが、ここで問われているのは「なぜつりあうのか?」という部分ですが、この説明だとその理由は「静止しているから」という観測結果だということになります。それは因果関係が変です。

 なお、問題文を誤解したのか、問題で問うているのは「人工衛星の中」で無重力状態になることの説明なのですが、「人工衛星にかかる力が(人工衛星が静止する座標系では)0になる」という説明で終わっている人がいました。人工衛星全体でなく、内部の物体(宇宙飛行士など)が「無重力だ」と感じるのはなぜ?というところまで説明してください。

 とっても残念なのは、何人かの人が速度が働いているという言葉を使っていたことです。力は「働く」ものですが、速度は「働く」ものではありません。こういう言葉は、MIF誤概念を助長します。この言葉を使ったあなたが誤概念を持っているかどうかも問題ですが、この言葉を使って説明された生徒さんがMIFを誤概念を持ってしまうという点で、とても問題のある表現です。

 同じように言葉が悪いのは慣性が働くというやつで、これでは「慣性力」と「慣性」がごっちゃになってしまいます。

 では、今日の授業から、力学、そして物理において重要な考え方である「保存則」に入ります。

 そのためにまず、以下のようなチェックテストを考えてみよう。

 以下の文章中の選択肢のうち、正しいものを選べ。

  • (A)作用反作用の法則は
    1. 他の法則からは証明できない「原理」またはこれまでの実験と観測から成立していると期待される「経験則」である。
    2. 力学の原理から証明できる「定理」である。
  • (B)力学的エネルギー保存則は
    1. 他の法則からは証明できない「原理」またはこれまでの実験と観測から成立していると期待される「経験則」である。
    2. 力学の原理から証明できる「定理」である。
  • (C)運動量保存則は
    1. 他の法則からは証明できない「原理」またはこれまでの実験と観測から成立していると期待される「経験則」である。
    2. 力学の原理から証明できる「定理」である。
 答えを考えてから次のページに進もう。
保存則

保存則

正解は「作用反作用については原理または経験則、他の二つの保存則については原理から導かれるもの」なのだが、理学部の大学生ですら、3割ぐらいずつ間違える。

 物理の力学での「原理」にあたるものは運動の三法則であり、上で問うた三つのうち、作用反作用の法則(運動の三法則に入っている)以外は、これらから導ける。ところが、「どの法則がどの法則(原理)からどのように導かれたか」という観点は、勉強しているうちにすっぽりと抜け落ちてしまう例が多い。

ということである。というのは物理法則というのは

に分かれるのだが、この二つを全く区別せずに「どっちにしろ法則でしょ」と理解している人が結構いる。

 勉強した最初はどうやって導いていたかを聞いたり読んだりしたはずなのだが、後になるとそんなことはすっかり忘れて「そういう法則なんだから成り立つんでしょ」といういいかげんな理解でいることが多いが、それは物理がわかっているとは言い難い状況なのである。

 教える立場に立つ人は特に「各々の法則の間のつながり」を意識していかなくてはいけない。でないと、「無駄な勉強」をさせてしまうことになる。

 たとえば

先生、この場合は運動量保存則使うんですか、エネルギー保存則を使うんですか?

と質問されたりするわけだが、どっちを使うか(あるいは両方使えるまたは両方使えないか)というのは、それぞれの保存則がどこから来るかを理解している人にとっては聞くまでもない「自明」なことである。

 この質問に対して摩擦があると力学的エネルギー保存則は使えないよとか衝突のときは運動量保存則を使おうねとか答えるのは、(その場面では真実であったとしても)効率が悪い。「どういう理屈で力学的エネルギー保存則が成り立つのか?」を正しく伝えるべきである。

 物理は「少ない原理からいかにいろんな現象が記述し予言できるか」という点が大事な学問である。「この公式を覚えればこの問題が解ける」という「各個撃破」モードに入ることは、物理にとっては効率も悪いし、物理という学問の便利で効率のよいポイントを自ら殺してしまっている行為なのである。もちろん、教える側がそちらに誘導するのはもってのほかである。

教えていると、「とりあえずこの公式覚えたら中間試験は通るから、覚えちまいな」というふうに教えたくなる気持ちはわからんでもない。でもやっぱりそれは学問の本道ではないし、長期的に見れば教える方も教えられる方も損をする指導方法である。

 しかし、大変残念なことではあるが、

ダメな勉強

ありとあらゆる場面に対して「この場合はこの公式」という「各個撃破モード」に入ってしまう。

というような勉強の仕方をしてしまっている(あるいは先生がさせてしまっている)状況が、時折見られる。実は統一した考え方をすれば理解は簡単だし憶えるべき公式も少なくて済むというのに、である。

 というわけで、力学の分野において「どのように保存則を位置づけて教えていくか」は重要である。これについて考えていこう。

 少しだけ、「力学的エネルギー」の意味がちゃんと理解されているかを確認しておこう。次の質問を、少し考えてから問題文をクリックして答えを開いてみて欲しい。

【質問】力学的エネルギーとはどのように「定義」されていたものか?
力学的エネルギーは、「仕事をする/されることによって増減する物理量」と定義されている。

【質問】では仕事とはどのように「定義」されていたものか?
仕事は「力×力の方向への移動距離」と定義されている。

 一つ注意しておくが、↑のエネルギーや仕事の定義は、中学理科の範囲である。中学理科教員志望の人は↑の意味するところを中学生に説明できないと、困る。

 実際、↑のような質問に対してさっと答えが出てこない生徒は多い。そういう人は上の「ダメな勉強」をしている可能性がある。

仕事と運動エネルギーの関係

 少し数式を使って説明すると、まず仕事は力を$\vec F$、移動距離を$\Delta x$とすると $$ W=\vec F\cdot \Delta \vec x $$ である(「力×力の方向への移動距離」は内積で表現される)。ここで、短い時間$\Delta t$間の移動距離は$\Delta \vec x=\vec v\Delta t$であることを使うと、 $$ W=\vec F\cdot \vec v\Delta t $$ で、さらにこれに運動方程式を使うと $$ W=m{\mathrm d\vec v\over \mathrm dt}\cdot \vec v\Delta t $$ となる。ここで、

 おおっ、この$m{\mathrm d\vec v\over \mathrm dt}\cdot \vec v$というのは、${1\over2}m\vec v\cdot \vec v$を時間で微分したものではないかっ!

と気づくと、 $$ W={\mathrm d\over\mathrm dt}\left({1\over2}m\vec v\cdot \vec v\right)\Delta t $$ とわかって、右辺は${1\over2}m|\vec v|^2$の変化量であることがわかる。

 大学生的にはさらに微分の記号を使って $$ W=\vec F\cdot \mathrm d\vec x=\vec F\cdot {\mathrm d\vec x\over\mathrm dt}\mathrm dt=\vec F\cdot \vec v \mathrm dt $$ として、さらに $$ W=m{\mathrm d\vec v\over\mathrm dt}\vec v \mathrm dt = \mathrm d\left({1\over2}m|\vec v|^2\right) $$ 書きたいところ。
 上ではわりと大学生向けの説明をしましたが、高校だとまず一直線の問題で上の式を説明するところから始めます。高校の物理の教科書に $$ v^2-(v_0)^2=2as $$ という式が載っていますが、これに${1\over2}m$を掛けると $$ {1\over2}mv^2-{1\over2}m(v_0)^2=mas=Fs $$ になります。これは「運動エネルギーの増加=仕事」という式ですこの式も「公式だから覚えましょう」と丸暗記して、運動エネルギーとの関連なんて考えたこともない、って人(各個撃破な人)が多い。

 大事なことは、数式により力学的エネルギーの増加=された仕事が証明できていることです。

 上で説明したのは運動エネルギーだけで、位置エネルギーなども含めてこうなることも、ちゃんと説明が必要です。

↓のビデオで、上の式の説明をします。

 もう一つ注意すべきことは、仕事が内積で定義されていること(だから、力と移動方向が逆向きだと仕事がマイナスになる)。中学生にもわかるような説明としては、

(仕事)=(力)×(力の方向への移動距離)

となっています。(力の方向への移動距離)とすることで「逆向きだとマイナス」「力と移動方向が垂直だと0」という情報もそこに入っているわけです。

 たいへん残念なことには中学理科では「運動エネルギー」という言葉は出てくるけどそれが${1\over2}mv^2$だという話は出てこないので、上のように仕事と運動エネルギーがつながっているということを中学生には「そういうものです」と天下りに教える形になってます。だから仕事とエネルギーの関係が成り立つ理由が中学生にはピンと来ないままなのです。教える側のあなたたちはここを理解した上で教えて欲しい。

 ここの話を逆に考えると、${1\over2}mv^2$がエネルギーだとして、それを時間で微分すると $$ {\mathrm d\over\mathrm dt}\left({1\over2}mv^2\right)=m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v $$ となり、これが「力$=m{\mathrm dv\over\mathrm dt}$」×「速度(単位時間あたりの移動距離)$v$」なので、「単位時間あたりの仕事」になる、ということになる。

 位置エネルギーについても説明しておこう。対応する位置エネルギーが存在する力を「保存力」と呼ぶが、保存力は$F=-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}$のように書ける(こう書ける力を保存力と呼ぶ)。

 すると保存力がする単位時間あたりにする仕事は(力)×(単位時間あたりの移動距離)で、$-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}v$になる。上の計算で、単位時間あたりの仕事は$m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v$とも書けたから、 $$ m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v=-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}v $$ である(なんのことはない、運動方程式$m{\mathrm dv\over\mathrm dt}=-{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}$の両辺に$v$を掛けただけの式だ)。

 この式からちょっと計算すると、 $$ \begin{array}{rl} m{\mathrm dv\over\mathrm dt} v+{\mathrm dU(x)\over \mathrm dx}\underbrace{\mathrm dx\over\mathrm dt}_v=&0\\ {\mathrm d\over\mathrm dt}\left({1\over 2}mv^2+U(x)\right)=&0 \end{array} $$ となって、運動エネルギーと位置エネルギーの和${1\over 2}mv^2+U(x)$が保存(時間微分が0)ということがわかる(この式がぱっとわかんない、という人は下の式を微分すると上の式になることを確認するとよいと思う)。これが力学的エネルギー保存則である。

 以上のようにして「力学的エネルギー保存則を作った」ことを思えば、

どんなときに力学的エネルギーは保存しなくなるのか?

という疑問が湧いても「こういうときだな」とわかるはずだ(要は上で置いたいくつかの仮定が成り立たないのはどんなときかを考えればよい)。

 わかった人は、下の文章をクリックして、答え合わせしてみよう。

答えはここをクリック 上で「保存力である」ということを使った、ということは保存力ではない力が働いて仕事をすると、力学的エネルギーは保存しない。保存力でない力の例は、(今日の授業でも登場した)動摩擦力や空気抵抗などがある。

 もう一つクイズを。

のような振り子を考えて、エネルギー保存則を適用するとき、この張力$T$の影響は考えなくていいのか?

という問題です。エネルギー保存則を使って問題を解いている最中の高校生あたりに上の質問をぶつけると「え・・・いつも考えてないけどなんでだろう?」とフリーズしてしまうことがよくあります。

 あるいは「張力は小さいので無視できる」とか「糸はエネルギーを持ってないから仕事ができない」とか、珍回答が出てきます(これが珍回答であることはわかりますね??)。

 皆さんフリーズしてませんよね?? フリーズした人は、上の「仕事の定義」をよく読んで(あるいは、上のビデオの最初の仕事の定義の話をよく聞いて)、張力の仕事を考えなくていい理由がわかってから↓の答えを開いてください。

答えはここ これも、「仕事の定義」に戻って考えれば簡単である。この場合、張力のする仕事は$\vec T\cdot\Delta \vec x$であるが、運動方向と張力が常に直角ならば内積の性質により、$\vec T\cdot\Delta \vec x=0$なのである。張力は仕事をしていない。
 これも、「そもそも仕事とはなんであったか」「仕事はエネルギー保存とどう結びついているか」という概念がちゃんとできていれば、フリーズせずにわかるはずです。定義や原理、法則とそのつながりを理解しておくことは大事。
 仕事とエネルギーの関係を理解するには「永久機関」というものを考えるとよいので、次のページで永久機関の例を説明します。
先週のレポートから 永久機関の例

永久機関の例

ググると出てくる永久機関の例

 YouTubeなどで「永久機関」を検索すると、以下のようなのが見つかります。

 全部見る必要はないですが、(騙されないように気をつけながら)見てみてください。

 一番下の動画の中でも作った人が「回りません!」と言っている永久機関について考えましょう。

アンバランスな車輪

 この車輪が「回る」と言ってる人の主張は「おもりをとりつけるレバーが可動なので、右の方では腕が長く、左の方では腕が短くなる。すると力のモーメントは右の方が大きくなるから右に回る」というものである。なるほど、てこの原理で考えると同じ力でも腕が長いと回そうとするトルク(力のモーメント)が大きいというのは本当である。

 では回るか、と言えば(実際作った人の証言の通り)回らない。少なくとも、回り続けることはない。

これが回り続けないことの説明は次のページに書くので、しばらく考えてみてから次へ進もう。
保存則 永久機関と保存則

永久機関と保存則

エネルギーと仕事を使わない説明

 ビデオによる説明は↓の通り。

 文章でも説明を書いておく。まず、エネルギーとか仕事とかの言葉を使わない説明をしよう。下の図を見てみよう。

 車輪の左側にあるおもりと右側にあるおもりの数を比べると、左の方が多い。つまり一個ずつのおもりを比べるとのモーメントがつりあっていないように見えるが、全体を考えると数が多い分だけ左が巻き返して、結果として引き分けになり、動かない。

 一個一個の物体を見るのではなく、全体を見なくては間違える。

 しかしこの説明だと、まだ「いやうまく作れば右が勝つようにできるはず」とか「むしろ左の数がもっと多くなるようにすればいいのでは?」とか反論(?)されてしまうかもしれない。

エネルギーと仕事を使った説明

 ビデオによる説明は↓の通り。

 文章でも説明を書いておく。実は多くの永久機関は、先週考えた「エネルギーの定義」と「仕事の定義」を思い出せばすぐに「動かない」と判断できる。上のものも同じである。

 上の永久機関の場合、仕事をしてくれるのは重力である。重力が仕事をした分だけ、この機関のエネルギーが増えるわけである。では重力のする仕事はどれくらいだろう、と勘定してみると、

のように、行きと帰りの仕事が相殺する。これは仕事が$\vec F\cdot\Delta \vec x$のように内積で定義されているおかげである。

 先に「一個の物体を見るのではなく全体を」という話をしたが、ここでは「ある瞬間ではなく、一周回るという運動全体を見る」という視点が重要。こうすれば「全体で仕事は0じゃないか」ということが納得できるのである。

 エネルギーというのは、仕事をされたらされるだけ増える物理量である。そうなるように、仕事やエネルギーを定義する。我々のご先祖様たちが永久機関を作ろうと考えた結果、「エネルギー」という物理量を発明して「エネルギーという概念を使うと永久機関ができない理由がわかる」という結論に達したのである。

永久機関の例 永久機関をもう少し

永久機関をもう少し

 図のように鎖を三角形に掛ける。右の辺の方がおもりの数が多いから、右側がおちるというのが「ステヴィンの鎖」という永久機関もどきである。

 これが動かない理由は、下の図のように力の分解をしてみるとわかる。

 一個一個のおもりに働く重力は同じ大きさでも、斜面に平行な方向の成分の力は異なる。図でもわかるように左側の方が水平方向の分力は大きい。これがおもりの数の少なさとちょうどバランスして、分力の和は左右で同じになることが計算するとわかる。

 なお、この三角形の問題を考えたのはステヴィンという物理学者だが、彼は「これは永久機関になる」と言ったのではなく、「これが動かないということは、力を分解するときは平行四辺形を使えばよい」と主張した。ステヴィンは力を分解して力のつりあいを考えるという手法を編み出したのである。

 次のページにその物理シミュレーションがあるので手で動かして「あ、これは動かんわ」ということを実感して欲しい。

永久機関と保存則 ステヴィンの鎖シミュレーション

ステヴィンの鎖のシミュレーション


 上のボタンを押しても、紐の張力は表示しないようになっている。


 最初は回るような初速度を持たせているが、すぐに止まるだろう。この玉は指またはマウスで動かせるので、動かしてみて(ああ、これは動かないなぁ)と実感してみて欲しい(このシミュレーションは空気抵抗が入っているので、どんな動きでもいつかは止まる。動きそうな気配がないということが大事)。

無闇矢鱈に動かすと変な動きをするので注意。困ったときはリロードせよ。

 しばらく待っていると、以下に示すような定常状態に達するはずである。

 この状態を注意深く見れば、回転を起こすような力にはなってないことがわかるだろう。

永久機関をもう少し 浮力を使った永久機関

浮力を使った永久機関

浮力を使った永久機関

 下の図のように、ベルトで結び付けられたピンポン玉をつないだものを、半分だけが水中にあるようにする。

 下の部分でピンポン玉が水中に入るときは、水が漏れてしまわないようにちょうどピンポン玉が通る分だけ開くようなメカニズムがあるものとする。

 すると水中にある左のピンポン玉は浮力で上昇し、空中にあるピンポン玉は重力で落ちるから、この機械は回り続ける・・・・はずがない。

 なぜ動かないのか、↓のビデオを見てみよう。

 これが動かないことを示すには、「浮力って何?」というところに戻らなくてはいけない。

 浮力は実は水の圧力(水圧)の合力である。物体が水中にあるときは、上の図のように「深いところほど強くなる水圧」が働く。これを足算すると上向きの力が残る。これが浮力。

 図にも書いたようように左右方向の力もあるが、物体が完全に水中にあればこれは消し合っている。

 ところが今考えている機械の場合、水に入ろうとするピンポン玉は左半分しか水に浸かっていないから、

のように力が働き、この力は「ピンポン玉を外に押し出す方向」に働くのであった。この力のために、この機械は回らない。

ステヴィンの鎖シミュレーション 仕事の原理

仕事の原理

仕事の原理

 ここで、重要な法則を一つ確認しておこう。

仕事の原理

 道具を使って力を増幅することはできるが、仕事を増加させることはできない。

 この原理が成り立つことが、仕事が便利な物理量である理由である。たとえばテコや動滑車などの道具を使うと、力を増幅することはできる。しかし、仕事は「道具による増幅」ができない。だからこそエネルギーを考えるときは力学の主役は「力」よりも「仕事」になるのである。

 道具を使って力の大きさを変える例は上の図のようなものがある。 シーソーでも動滑車でも、移動距離に反比例して力が変わるので、(力)× (移動距離)の積である仕事は変化しない。

↓仕事の原理の説明ビデオ

 仕事の原理があるおかげで「道具を使えば力は増やせる。しかし仕事は増やせない」ということがわかる。これが成り立ってなかったらエネルギー保存則は成立しない。

とまぁ、仕事の原理は重要で、中学理科で登場するが、中学理科の範囲ではエネルギー保存則が筋道立てて教えられる部分が少ないので、今ひとつ「この原理は何の意味があるのか?」が伝わっていないのが残念である。

 以上で第5回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、上のレポートの提出と、「第5回授業感想・コメントシート」のアンケートに答えてください(いつもの感想・コメントがあります)。これらは出席の代わりです(この授業は出席点はありませんが、皆さんがどの程度受講しているかも確認したいのと、反応もみたいので)。



webclass↓

この感想・コメントシートに書かれたことについては、代表的なものに対しては次のページで返答します。

 なお、webClassに情報を載せていますが、オンラインオフィスアワーの時間を木金の11:50〜12:50に変えました。zoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。

 最初のページにも書きましたがもう一度。テキストは印刷したものを配布しています。前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。PDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。
浮力を使った永久機関 受講者の感想・コメント

受講者の感想・コメント

 webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。

 青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。

 主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。


永久機関の話で、どうして動かないのかを自分で考えた時に説明が全然出てこなくて悔しかったです。他の問題は説明がちゃんとできたので、応用して考えるのが苦手だと自覚しました。授業は分かりやすくて永久機関などの議題は面白かったです。
応用的な考えというのは、結局は訓練(普段からいろいろと考えていること)が物を言います。なにか現象を見たときに物理を考えるようにしましょう。
浮力を使った永久機関がなぜ回り続けないかという理由が水中と空中の間にあるピンポン玉にかかる水圧に関わっていた。私は、水圧を上向きの力(合力)だけを見ていて、その他の下向きの圧力や横向きの圧力を無視していた。それでは答えを導くことができない。そのことから、改めて原理の重要性を理解することができた。
浮力は「原理は忘れて、とにかく浮く」というふうに理解しちゃう人が多いみたいです。でも教える側の人はそれでは困るよね。
永久機関の浮力の話が印象的でした。恥ずかしながら、浮力が働く=浮くと考えていたため、回転すると思っていました。浮力は水圧の合力であると読んだとき、正直想像がつかなかったけれどピンポン玉にかかる力、浮力を書いたときにはじめて納得がいきました。 講義を受けていてあまりにも自分が分かっていない範囲が多いと痛感しています。何度もテキストやサイトを読み返してどこが分かっていないのか、確認しています。一旦整理をしてから質問をしに行きたいと思います。その時はよろしくお願い致します。
「自分のわかってないところ」を自覚してもらうのも授業の目的のうちなので、大変結構なことです。質問はお気軽にどうぞ。
高校で物理を学んでいなかったことと、大学で物理は履修したが、オンライン授業でしっかり覚えていないものがあったので、今日の講義はすぐには理解できなかった。大学で学んだことをしっかり復習しておく必要があると感じた。公式は知っていても、なぜその公式が成り立つのかを分かっていなかった。
そこで「しっかり覚えていない」と出てくる時点で間違いで、物理(というか学問は)「理解する」もので「覚える」もんじゃないのです。特に「教える側」に立つつもりなら「覚えている/覚えてない」というレベルではない理解を目指してください。人間、「覚えた」ことはすぐ忘れますが、「理解した」ことは身につくもので、なかなか忘れません。「覚えている/覚えてない」というレベルだと、「教える」ことはできないです。
永久機関はできそうで、できないというところがおもしろい
なぜできないのか、を突き詰めていくと物理がわかってくるところが面白いです。
今日のレポート
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