前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にあります。
第4回で出したレポートの解答は、にあります。
教科書の冊子が完成してます。まだの人は前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。
ファイルのPDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。
力学の基本法則である運動方程式$m{\diff \vec v\over \diff t}=\vec f$から、エネルギー保存則と運動量保存則を出す過程を、大学物理の方法で説明しておく。
まず、$\vec v$を内積の意味で掛ける。 \begin{align} m{\diff \vec v\over \diff t}\cdot \vec v=\vec f\cdot\vec v \end{align} 右辺の$\vec v$を${\diff \vec x\over \diff t}$に直し、さらに左辺が${1\over 2}m\vec v\cdot \vec v$の時間微分であることを使うと、 \begin{align} {\diff \over \diff t}\left({1\over 2}m\vec v\cdot \vec v\right)=\vec f\cdot{\diff \vec x\over \diff t} \end{align} となる。これは(雑な言い方をすると「$\diff t$の分母を払うと」)
運動量保存の方は、普通の掛け算で$\diff t$を掛けると、
という式になる。
なお、以上の結果を高校物理で使っている記号で書くならば、
ということになる。微積分を使うかどうかは(大事な違いだが)本質ではなく、「運動方程式から導かれる」という観点が大事である。
二つの物体が
のように力を及ぼし合っているとする。
作用反作用の法則$\vec F_{\rm AB}+\vec F_{\rm BA}=0$から、運動方程式$\vec F=m{\mathrm d \vec v\over \mathrm d t}$を用いて $$ m_{\rm A}{\mathrm d\vec v_{\rm A}\over \mathrm d t} + m_{\rm B}{\mathrm d\vec v_{\rm B}\over \mathrm d t}=0 $$ が言える。これは $$ {\mathrm d \over \mathrm d t}\left(m_{\rm A}\vec v_{\rm A}+ m_{\rm B}\vec v_{\rm B}\right)=0 $$ と書き換えることができて、運動量保存則そのものである。
次にエネルギーの方を考えよう。同様に二つの物体それぞれに働く力を$\vec F_{\rm AB}$と$\vec F_{\rm BA}$とする。この二つの物体が
のように同じ動きをしたとしよう($\Delta \vec x_{\rm A}=\Delta \vec x_{\rm B}$に注意)。
この図の状況であれば、$\underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}$は正で、$\underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}$は負である(絶対値が等しい)。すなわち $$ \vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}+\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}=0 $$ が成り立つ。「Aにされた仕事」と「Bにされた仕事」の和は0となり、全エネルギーは保存する。
しかし、物体に変形が生じるなどの理由で
のようになって二つの$\Delta\vec x$が一致しないならば、 $$ \underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}+ \underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}\neq0 $$ となることも起こり得る。図の状況で左辺の$\underbrace{\vec F_{\rm AB}\cdot \Delta \vec x_{\rm B}}_{系{\rm A}が\atop 系{\rm B}にした仕事}$は正で、右辺にある$\underbrace{\vec F_{\rm BA}\cdot \Delta \vec x_{\rm A}}_{系{\rm B}が\atop 系{\rm A}にした仕事}$は負であることに変わりないが、絶対値は後者の方が大きい。よってこの場合、「Aにされた仕事」と「Bにされた仕事」の和は負になる(エネルギーが失われる)ことになる。この失われたエネルギーは「物体の変形に使われた」と解釈される。
変形などが起こってエネルギーが保存しないように見えるときも、物体の持つ内部エネルギーを考慮に入れて考えると全エネルギーは保存する。
以上からわかることは、外力(系内の物体以外から及ぼされる力)が仕事をしないで、かつ内力(系内の物体同士の及ぼし合う力)のする仕事が消し合う(消し合うのは「力」ではなく「仕事」であることに注意)なら、その系のエネルギーが保存するということである。
以下、保存則に関係する問題をいくつかあるのでそれをやってみよう。答えは隠してあるので、まず自力でやってみよう。
高校物理で運動量保存則が使われるのは衝突問題が多い。
のような衝突現象が起こったとき、運動量保存則 $$ m\vec v+M\vec V=(M+m)\vec V' $$ は成立するが、エネルギー保存則 $$ {1\over2}mv^2+{1\over2}MV^2={1\over2}(M+m)(V')^2 $$ は成立しない。この理由を説明できるだろうか?---ここまででエネルギー保存則と運動量保存則がどこから来たかをちゃんと理解している人なら、エネルギー保存則が成立しない理由を、少なくとも二つ述べることができるはずである。
の二つの観点から、上の例でエネルギーが保存しなかった理由を述べよ。
「弾丸がめり込む」という変形が起こっているから、その変形にエネルギーが使われている(熱も発生しているだろう)。
のように図を描いて考えると、弾丸の動いた距離の方が的の動いた距離より長いから、仕事に差ができている。仕事が消し合わない分、エネルギーは変化してしまう。
人間がボールを投げる。
投げる前と投げた後で、運動量の和が保存してないように思える。これはなぜか。
の二つの答え方ができるので、両方を答えよ。
絵を書くと↓こんな感じ。
運動量は保存しないのは、「人間とボール」以外である「床」から力が働いているから。人間はボールを投げるとき、足を踏ん張って床を蹴っていることに注意(ほんまかいなと思う人は自分の足がどんな力を出しているのか注意しながらボールを投げてみること)。この力がないと、人間は後ろに動いてしまう。
実は「床」も含めると運動量は保存している。つまり、このとき人間および床(というか、床につながった地球全体)がバックしているのである。
ただ、この地球の動きは人間には検知できない。
物理を(あるいは自然科学を)する人には、こういう「量の感覚」は大事だ。
ビデオ内でちょっと言った「宇宙飛行士による実験」は、検索すればたとえば授業で宇宙教育センター教材:宇宙飛行士と考える「作用・反作用の法則」などが見つかる。
こんな問題も考えてみよう。ここまでの話をちゃんとわかっている人なら、すぐに答えがわかるはず。
図のような状況で、床と下の物体との間には摩擦がなく、上の物体と下の物体の間には摩擦がある。この物体の運動を考えるとき、上の物体が下の物体の上を滑らないならば、エネルギーは保存する。
この問題を見てあなたの生徒が摩擦があったらエネルギーは保存しないのではないですか?と質問してきたら、あなたはどう答えるか?
困ったときは原理に戻ろう。 エネルギーが保存しないのは「保存力でない力が仕事をしたとき」だった。静止摩擦力は保存力ではない。では仕事をするだろうか?---図の$f$を見て、物体が横に移動するところを思い浮かべると仕事をしそうに思うかもしれないが、
のように、よく見ると二つの静止摩擦力(作用と反作用ペア)が、$f\Delta x$と$-f\Delta x$の仕事をしていて、トータルは0なのである。
こんなことを言う人がいたら上記を説明した上で「保存するときはなぜ保存するのか(保存しないときにはなぜ保存しないのか)」をじっくりと理解しよう、と言うべきである。
SNS上で知らない人(高校生かもしれないし大学生かもしれない)から質問された、保存則に関する面白い問題があるので紹介しよう(質問された問題より、少し簡単な問題に修正してあります)。
初速度0で斜面を滑り降りた物体が、速度$\vec v$になったとすると、エネルギー保存則から${1\over2}m|\vec v|^2=mgh$が成り立つという話があります。
これを横向きに速度$-\vec V$で運動した人(Aさん)から見ると、物体は最初$\vec V$の速度を持っていて、最後は$\vec v+\vec V$の速度を持っていることになります。このエネルギー差を計算すると、 $$ {1\over2}m\left(|\vec v+\vec V|^2 -|\vec V|^2\right)={1\over2}m\left(|\vec v|^2 +2\vec v\cdot \vec V\right) $$ となって、$m\vec v\cdot\vec V$だけ、さっきと違います。しかし位置エネルギーが$mgh$減っているのは同じはず。ということはエネルギー保存則は成り立たないのでしょうか??
エネルギーを変化させるのは仕事だから、重力以外の何かが仕事をしているはず。物体に働く力はもう一つ、垂直抗力しかないのだから、仕事をするのはそれである。
と思った人もいるかもしれない。多くの場合そうなのだが、それは「垂直抗力は物体の運動方向と垂直に働くが多い」からである。しかし、今の状況では物体の運動方向は垂直抗力と垂直ではないのだ!
これは斜面が運動しているからである。
垂直抗力のする仕事を計算しておくと、$\vec N\cdot (\vec V\Delta t)$となる($\Delta t$は滑り降りるまでの時間。この間、$\vec N$は一定なので積分ではなく掛算でいい)。$\vec V\Delta t$が斜面の変位で、力と変位の内積で仕事を計算した。
ここで掛算の順番を変えて$(\vec N\Delta t)\cdot\vec V$とする。$\vec N\Delta t$は垂直抗力の力積である。物体には重力と垂直抗力の合力$\vec F=\vec N+m\vec g$が働いたのだが、$m\vec g$は鉛直なので$\vec V$と直交する。よって垂直抗力のした仕事は $$(\vec N\Delta t)\cdot\vec V=((\vec N+m\vec g)\Delta t)\cdot\vec V=(\vec F\Delta t)\cdot \vec V$$ と書き換えていい。
力積と運動量変化の関係から、$\vec F\Delta t=m\vec v$である(これはAさんからみてもBさんから見ても同じ)。
よって垂直抗力のした仕事は$m\vec v\cdot \vec V$となる。これはちょうどさっき出てきた違いに一致する。
以上で第6回の授業は終わりです。各自のwebclassへ行って、と「第6回授業感想・コメントシート」の、以下の問題といつものアンケートに答えてください。
問題ボール投げの問題の説明が終わったところで、生徒の一人が、
と言ってきたとします。
この問いに答えてあげてください。なお「十兆年も生きられるか、ボケ!」というツッコミは無しでお願いします。
なお、webClassに情報を載せていますが、オンラインオフィスアワーの時間を木金の11:50〜12:50に変えました。zoomを開いてます。質問や相談などがある人は来て話してください。
webclassでのアンケートによる、感想・コメントなどをここに記します。
青字は受講者からの声、赤字は前野よりの返答です。
主なもの、代表的なもののみについて記し、回答しています。