前回の授業の「感想・コメント」の欄に書かれたことと、それに対する返答は、
にあります。
教科書の冊子が完成してます。まだの人は前野の部屋(A307号室)まで取りに来てください。
ファイルのPDF版はこちらです。ダウンロードして使ってくれて構いません。
前回は電場と電位の定義についてまで考えた。
もう一度書いておくと
が電場の定義、
$q$[C](クーロン)の電荷が電位$V$[V](ボルト)の電位の場所にいるときに持っている静電気力の位置エネルギーは$qV$[J]である。
が電位の定義である。
ここで「電場だの電位だの、新しいのが出てきて頭がごちゃごちゃになる」という人に注意しておきたいのは、
という関係にあるから(同様に「電位差」は「単位電荷あたりのエネルギー差」であり、エネルギーの差は多くの場合仕事だから、「電位差」は「単位電荷に及ぼされる仕事」になる)、「力」と「エネルギー」の間の関係は、そのまま「電場」と「電位」の関係と同じだということである。力学と電磁気は別々に存在しているのではなく、互いにつながっている。そのことを無視して「新しい言葉だからまた新しく考え直し(暗記し直し)」のような勉強をすると、不経済な勉強をすることになり理解が進まない。
前回でも述べたことだが、大事なことなのでもう一度説明しておく。電気力線に、
電気力線の力学的性質
という性質があると考えると、下の図で斥力や引力が働く理由を、この電気力線の性質から導かれるものと考えることができる。
正電荷どうしの電気力線は混雑を嫌うことで電荷を引き離そうとし、異符号の電荷の電気力線は短くなろうとすることで電荷を近づけようとする。
これは電気力線の密度すなわち電場の強さの増加関数であるような「電場のエネルギー」があると解釈しても理解できる。「短くなろうとする」のは電場が強い範囲を狭くしてエネルギーを下げるし、「混雑を嫌う」のは電場の強さを弱くしてエネルギーを下げる。電気力線自体がエネルギーを持っている力学的存在だと考えると、引力や斥力のイメージが理解できる。
電気力線は「電場」のイメージなので、エネルギーを持っているのは「電場」である。何もないように見える真空にも「電場」は存在し、エネルギーを持っている。だからいろんなものに力を及ぼすことができる。この「空間に物体を押したり引いたり、エネルギーを貯めたりすることができる力学的な「もの」があるというのが「場」の概念である。
実験的に見つかった「クーロンの法則」は
クーロンの法則
距離$r$離れた電気量$Q$の点電荷と電気量$q$の点電荷の間には、 $F={kQq\over r^2}$の力(同符号では斥力、異符号では引力)が働く。
という法則だが、これは点電荷どうしの式であることに注意が必要である。
この「距離の自乗に反比例」という性質は、「光源からの距離と明るさの関係」に似ている。
こう考えると、「電荷からなにかが放射されている」というイメージで電場の伝搬を考えたくなる(実際になにかが出てきているわけではない。以下で説明する電気力線は、あくまで「電場」というものを説明するためのイメージであって、実際にそういう「線」があるわけではない。また「電気力線が$n$本」という計算をすることもあるが、1本2本と数えられるものでもない。
その「なにかの放射」にあたる量として、電場の方向を向いて伸ばした線である「電気力線」を定義し、電気力線は正電荷で始まり負電荷で終わり、途中で合流・分裂したり電荷以外の場所では途切れないと考える。電気力線は各点各点で電場の向き(その場所に仮想的に正の試験電荷を置いたとしたら受ける力の向き)を向くように伸ばした線であり、単位面積あたりの密度が電場の強さに等しい(電気力線で電場の向きと強さを表現している)。
このように定義された電気力線は、途中で合流したり分裂したりすることがない(上の光源から出た光のアナロジーは、途中で電気力線が合流したり分裂したりすると成り立たない)。また、正電荷で始まり負電荷で終わる(それ以外の場所では発生も消滅もしない)。このことから、以下の法則が言える。
静電場に関するガウスの法則
電荷 $Q$から$4\pi k Q$本の電気力線が出る($Q$が負の場合は吸い込む)。
ガウスの法則は(電気力線の定義を含め)静電場に関する物理法則である。電気力線は途中で途切れることなく3次元に広がり、その面積密度が電場の強さに等しいとすれば、 $$ E={4\pi k Q\over 4\pi r^2}={kQ\over r^2} $$ となってクーロンの法則が導かれる。
歴史的な経緯を聞いているなら、実験からクーロンの法則が見つかるのが先。それが逆自乗則だったので「力線みたいなのが出ていると解釈すればいいのでは?」という考えが生まれて、ガウスの法則に至る。
理論的な筋道を聞いているなら、ガウスの法則が基本法則であり、それを点電荷の場合に適用するとクーロンの法則に至る。
ここで、コンデンサの極板の間の電場を求めるという問題を考えよう。
平行平板コンデンサとは、互いに平行な2枚の板(極板と呼ぶ)を向かい合わせたものである。このような板の一方に$+Q$、もう一方に$-Q$の電荷を帯電させた場合、電気力線のほとんどは極板間に集中する。
↓のアプリで、コンデンサを作ってみよう。
↑を使うと、
のようなコンデンサの作る電場などの絵が描ける。
コンデンサの極板間の電場の強さは、近似として「電気力線は極板と極板の間にしか存在しない」と考えれば非常に簡単に計算できる。
コンデンサの極板の面積を$S$とすると、面積$S$の中に電荷$Q$から出て電荷$-Q$に入る電気力線(全部で$4\pi k Q$本)が入っていることになる。したがって、極板の間にできる電場の強さは${4\pi k Q\over S}$となる。
なお、実際には図のように極板から外にも電場は染み出るものなので、この計算はあくまで近似である。
コンデンサの極板に溜まった電荷はもちろん「点電荷」ではないから、クーロンの法則は使えない。もし使うとしたら、極板を微小な部分にわけて点電荷とみなしてからその足し算(具体的には積分)を行う。こういう場合はガウスの法則の方が圧倒的に使い勝手がよい。
ここで以下のような問題を考えてみよう。
コンデンサの極板間の距離を2倍にしたら電場はどう変化するだろうか?
せっかく暗記したから公式を使いたい病にかかっていると、「距離が2倍だから${1\over4}$倍」という大間違いを起こす(実際高校生や大学生に質問してみると全体の3分の1ぐらいがそう答える)。
アプリでコンデンサを作って描いてみると、
のようになる。
この場合電気力線の密度が変わらないのだから電場も変わるわけがない。計算して${4\pi kQ\over S}$という(極板間距離によらない)答えが出てくるのだからそれを信じればいいのだが、ついつい「直感」に流されて間違える人が多い。もう一度強調しておくが、逆自乗の法則はガウスの法則と「点電荷から出た電気力線が遠方に行くほど広がる」ということからの「結果」である。電磁気学にとって「原理」であるのはガウスの法則の方だから、そちらを尊重して考えなくてはいけない。
なお、実際には変わらないわけではなく、距離が遠くなると「コンデンサーの境界部分で電気力線が染み出さない」という近似が使えなくなるから少し電場は弱くなる(上の図でも、少し弱くなっている)。
法則には「適用範囲」があるものが多い(クーロンの法則なら「点電荷」が条件である)。そこを考えないで「公式だから」と使ってはいけない。また、将来の生徒にそういう教え方をしてはいけない。
たくさんの電荷を配置できるプログラムが以下にあるので、実行してみよう。
ガウスの法則のイメージを掴むには、いろんな配置でできる電場と電位を理解するのがよいので、さっきのアプリ
を使っていろんな電荷配置を考えてみよう。
電気力線は
等電位線は
のようになる。
円状に配置した電荷の内側には電気力線はいなくなり、電位は一様になる(電位を「架空の高さ」と考えると「平地」になる)。これはガウスの法則を考えると「内側には電荷はいないのだから出ていく電気力線もない」ということである。なお、それは対称性がいい場合の話で、対称性がくずれると、
のように「漏れ」が生じる。
もう一つ、以下をやってみてもらいたい。
電気力線は
等電位線は
のようになる。
つまり、正電荷から出た電気力線は全部負電荷に吸われる。結果として外側と中央部は電気力線がなく、電位は平坦になる。
前のページで説明したように正電荷と負電荷を配置すると、電気力線が湧き出し(あるいは吸い込み、そこに電位の差ができる。電位のイメージは、
のようなものだ。正電荷は電位を上げ(正電荷に近づくには仕事が必要)、負電荷は電位を下げる。
というような「電位の説明」を聞いていると、以下の点が疑問になるかもしれない。
電荷に働く力として静電場だけを考えていると、回路を一周する間に電場が電荷にする仕事は必ず0になる(マックスウェル方程式で言うと、${\rm rot}~ \vec E=0$または$\oint \diff\vec x\cdot \vec E=0$がこの法則に対応する。
静的でない場合、この式は${\rm rot}~ \vec E=-{\partial\vec B\over \partial t}$また$\oint \diff\vec x\cdot \vec E=-{\diff \over \diff t}\int\vec B\cdot\diff\vec S$になる。この場合の電位の定義にはややこしい問題がある。
電位という単位電荷あたりのエネルギーが一周回ってきたら元の値に戻っているはずなので、仕事は0になるはずなのである。
電流が流れたときの消費エネルギー(抵抗で発生するジュール熱であったり、モーターが外部にする仕事であったり)はどこから来るかというと、電源(電池)が電荷に対してする仕事である。電池の起電力とは、電池が単位電荷に対してなす仕事である。これは(内部抵抗を無視する場合)電池のプラス極とマイナス極の間の電位差に一致する。
起電力は「力」とついているが「力」ではなく、「電位差(電圧)を作り出す能力」という意味であり、起電力を測る単位はボルトである(作り出せた電圧の値そのものが起電力の値)。
電池は、陰極から陽極へと正電荷を送り込む(または、陽極から陰極へと負電荷を送り込む)能力がある(図ではで示した)。その能力は化学反応で得られているので、中の物質の化学反応が終わってしまうと電池の起電力もなくなる。結果としてできる電位差が$V$ボルトであれば、「この電池は起電力$V$ボルトである」と言う。
別の言い方をすれば、起電力とはその回路の中を単位試験電荷が一周する間に電池(もしくは発電機など)がその単位電荷に対してする仕事である(つまりそれだけ電荷にエネルギーが入ってくる)。
だから、上の図に示したように、電池の中では正電荷は「電位の低い方から高い方へ」と進む。負荷(抵抗や電球など)の場所では「電位の高い方から低い方へ」である。電流は常に電位が高い方から低い方へと流れると思ってはいけないケースである。
次に磁場(磁界)について考えていく。磁石を「N極(正の磁極)」と「S極(負の磁極)」でできているものと考えて、正負の磁極を正負の電荷と同様に考えれば、磁極のつくる磁場の様子は電荷が作る電場と同様である。
磁力線を描くアプリが↓あるのでいろいろやってみて欲しい。
上のアプリで、N極とS極だけを出してやってみると、それは正電荷と負電荷の作る電気力線と全く同様であることがわかる。
ここまでだと、磁場と電場の違いはなく、ある意味あまり面白くない。磁場の面白いところ、つまり磁場と電場の大きな違いは、磁極によってのみではなく、電流によっても作られるということである。そもそも磁極というのはなくて、すべて電流だと言った方が正しいかもしれない。磁石の磁場は、原子内に流れる電流が原因といってもいい。
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