機動戦士ガンダムのおかげで「スペースコロニーのあるところ」として有名なラグランジュ・ポイント。物理的に言うと「3体問題の特殊解」という奴になる。有名だから地球と月の場合で説明する。
地球と月は互いの共通重心の周りを公転している。そこにもう一つ、地球や月に比べて十分軽い物体を置いた時、安定して存在できるのはどんな軌道かという問題の特解を考えると、この図のL1からL5までの5つが解としてみつかるわけである。
L1からL3までは直線解と言って、地球の万有引力、月の万有引力、回転による遠心力の3つがうまくつりあう点、ということで地球−月を結ぶ直線上にそういう場所がありそうだな、ということは計算しなくてもだいたい予想できる。
ところがあと二つ解があって、それが図のL4とL5なのだが、これは地球と月を2頂点とする正三角形のもう一つの頂点の位置に存在する。
この話を最初に聞いた時に不思議だったのは、地球と月の質量比だとか公転の速度とかのパラメータにはいっさい関係なく、必ず正三角形の頂点に来る、ということだ。だって単純に考えると、地球が実際より重ければもっと地球の方に、月が実際より重ければ月の方に寄っていってもよさそうではないか。あるいは逆に地球の方が重いのだから、その地球の影響は少なくなる、より地球から遠い場所に平衡点があってもよさそうなものだ(互いに矛盾することを言っているが(^^;))。
というわけで、以下、どうして地球と月の質量比とは無関係につねに正三角形の位置にL4とL5が来るのか、ということを考えてみる。
そこでまず、スペースコロニー(図ではマゼンタの●で表した)に働く力を考えた。ここでは地球と月が静止しているとして考えたので、回転による遠心力(赤い矢印)が働いている。
この図を見ると「おかしい、これでは釣り合わないではないか」と思う。図では遠心力(回転の外を向く)と地球の万有引力が一直線で、この力がどうなっているにせよ、もう一つの力である月の万有引力を相殺してくれる力がどこにもないように思える。最初に「地球が重かったら地球の方に近づかないのか?」という疑問を出したが、図を書いたことでもっと疑問が湧いてくる。
実はこの図は間違っているのである(^^;)。どこが間違っているかというと天動説なのである。地球が回転の中心であるかのように書いている。実際にはそうではなく、地球と月の重心が回転の中心であり、遠心力は当然、重心から離れる方向に働くのである。
というわけで正しい図は左の通りである。もっとも、実際には地球と月の重心は地球の内側にあるのだがそう書くと図が煩雑になるので大袈裟にずらしてある。これで遠心力と地球の万有引力は一直線でなくなったので、3つの力の和がゼロになる可能性が出てきた。
ここで、人工衛星だかスペースコロニーだか、とにかく●から地球へ向かうベクトルをA、●→月へ向かうベクトルをBとする。●→重心へ向かうベクトルを式で表すと、
(MA+mB)/(M+m)
となる。重心は地球=月間をm:Mに内分した点にあるからである。
地球からの万有引力(図の緑矢印)と月からの万有引力(図の黄色矢印)の合力は重心方向を向かなくてはいけない。ちなみにこの二つの大きさは、●の質量をwとすれば、
GMw/A^2 と Gmw/B^2
である。ただしAとBはそれぞれAベクトルとBベクトルの長さである。万有引力の合力が重心方向を向くためには、この力もM:mの大きさの比になっていなくてはいけない。このことからA=Bであることがわかる。
つまり結局どういうことかというと、地球と月などの2天体の万有引力の合力が、うまくその2天体の重心の方向に向くためには、万有引力の大きさの比が質量の比と一致する必要があって、それが満たされることから三角形は二等辺三角形でなくてはならない、ということである。万有引力は重い天体の方が大きいので、そっちへ近づきたいわけだが、遠心力は重心から離れるように働き、その重心は重い物体の近くにある。地球が重ければ重いほど万有引力が強くなるが、その時には重心もより地球に近くなるので遠心力も増える。このバランスのおかげで常に正三角形位置が安定点に保たれる。
上の図は、地球の質量が軽くなったとしたら、重心位置、万有引力などがどのように変化するかを書いた図である。●と●の質量の比と、緑矢印と黄色矢印の長さの比が一致しないとこうならないのだが、そのためにはA=Bでないと困るのである。
ここまでで、とりあえず地球・月・L4またはL5の作る三角形が二等辺三角形であることがわかった。後は力のつりあいを考えれば正三角形であることもわかる。
3つの力をベクトルで表すと、
地球の万有引力:GMw/A^3 A
月の万有引力:Gmw/A^3 B (AとBの長さは等しいことを使った)
遠心力:−wω^2 (MA+mB)/(M+m)
この3つの和が0になることから出る式は
GMw/A^3 A + Gmw/A^3 B −wω^2 (MA+mB)/(M+m)=0
なのだが、ちょっと整理するとこれは
G/A^3 = ω^2 /(M+m) ・・・・(あ)
となる。
ところで、月と地球の間の距離をRとすると、月と地球の公転の角速度ωを求める式は
GMm/R^2 = mM/(M+m) R ω^2
である(重心の周りの回転運動なので、月の場合なら半径はM/(M+m)Rとなることに注意)。
整理すると
G/R^3 = ω^2/(M+m)
となる。これと上の(あ)式が両立することからR=Aでなくてはいけない。つまり、正三角形であることが確認できた。