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極座標のラプラシアンの出し方いろいろ


「3次元の極座標のラプラシアンを計算せよ」

と言われると、経験のある人の多くが

「二度とヤダ

と反応するようだ。私も何度かやったことあるが、まじめに計算しようとすると確かにめんどくさい。



ラプラシアンとは??


 ラプラシアンは、3次元直交座標系であれば、 =2x2+2y2+2z2 である。単純に言えば「3方向の2階微分を足したもの」ということになる。

 あるいは、ナブラと呼ばれるベクトルを =exx+eyy+ezz と定義して(ex,ey,ezはそれぞれx,y,z方向の単位ベクトル)、のように自乗(スカラー積)したものと定義しても良い。

 極座標でのナブラは、 =err+eθ1rθ+eϕ1rsinθϕ と書かれている。なぜ =err+eθθ+eϕϕ じゃないのかというと、ナブラにおける微分は任意のベクトルをaとして、 af(x)=limh0f(x+ha)f(x)h と定義されているからである。aとして単位ベクトルを取るとすると、この式の右辺はa方向にhだけ離れた2点での差を取るという計算である。一方、θ方向にh進むためには、θをhrだけ変化させなくてはいけない。φ方向ならば、φをhrsinθ変化させなくてはいけないのである。よって、単なるθではだめで、 eθf(x)=1rθf(x),   eϕf(x)=1rsinθϕf(x) であるべきなのである。rΔθ,rsinθΔϕが「距離」という意味合いを持っていることを考えば、こうなることは納得できる。

 これを自乗すると、ベクトルの内積を取って、 =2r2+1r22θ2+1r2sin2θ2ϕ2 となると思いたいところだが、そうならない。実際には、 =1r2r(r2r)+1r2sinθθ(sinθθ)+1r2sin2θ2ϕ2 または =2r2+2rr+1r22θ2+1r2cotθθ+1r2sin2θ2ϕ2 となるのである。

 いったい、この余計な部分はどこから出てくるのだろう。学生の頃から不思議でしょうがなかった。

 そこでこの項目では、ラプラシアンの計算法の少し楽な方法を示すと同時に、「余計な部分はどこから来たのか?」を考えることにしよう。

 ほんとは「こうやれば簡単に出る!」という方法を伝授したいところなのであるが、「簡単」と言いきれるほどには簡単に出ない。しかし、少なくても、「なぜ単純に自乗してはいかんのか」ということを実感することはできる。

第1の方法:変分法を使え。

 一つの考え方として、「物理で使う計算方法で座標変換に強いものといえば?」と考えてみよう。答は「変分法」である。そこで、変分法を使って、ポアッソン方程式 f=ρ が出るような「作用」を考えてみる。直交座標ならこれは簡単に作れて、 dxdydz(12(f(x)x)2+12(f(x)y)2+12(f(x)z)2+ρ(x)f(x)) である。を使って書くならば、 dxdydz(12f(x)f(x)+ρ(x)f(x)) である。

 または、 dxdydz(12i(if(x))2+ρ(x)f(x)) と書いてもいいだろう。

 ここで、1=x,2=y,3=zである。iはもちろん、i=1,2,3の和を取る。

 この作用からオイラー・ラグランジュ方程式をつくるとf=ρになる。この計算を少しまじめに書いておく。オイラーラグランジュ方程式を作るには、作用のff+δfを代入したものを作り、それから元の作用を引く。そうしておいて出た答えのδfの一次までを取り、それが0になると置く。これを実行すると、 dxdydz(12i(i(f(x)+δf(x))2+ρ(x)(f(x)+δf(x)))dxdydz(12i(if(x))2+ρ(x)f(x))=dxdydz(i(if(x)iδf(x)+12+(i(δf(x)))2)+ρ(x)δf(x)) ここでδfの2次の項は無視して、 =dxdydz(i(if(x)iδf(x))+ρ(x)δf(x)) 次に部分積分して、 =dxdydz(i(iif(x)δf(x))+ρ(x)δf(x)) となる。これが任意のδfに対して0となるためには、iif(x)+ρ(x)=0でなくてはならない。

 では、この計算を極座標でやるとどうなるだろうか??

 記号iを、1=r,2=1rθ,3=1rsinθϕとおくことにする(この記号は一般的に使われているものではないので注意。この項目の説明に関してはこういう記号を使った方が楽なのである)。すると、作用を直交座標の場合と同じように drdθdϕr2sinθ(12f(x)f(x)+ρ(x)f(x))=drdθdϕr2sinθ(12i(if(x))2+ρ(x)f(x)) と書くことができる。

 この式からオイラー・ラグランジュ方程式をつくると、直交座標と同様の計算になるように思うかもしれない。しかし、最後の部分積分で直交座標と極座標の差が出るのである。なぜなら、極座標の場合、積分要素はdxdydzではなく、drdθdϕr2sinθである。ゆえに、作用の変分は drdθdϕr2sinθ(iif(x)δf(x)+ρ(x)δf(x))=drdθdϕ(ii(r2sinθif(x))δf(x)+r2sinθρ(x)δf(x))=drdθdϕr2sinθ[i1r2sinθi(r2sinθif(x))+ρ(x)]δf(x) となる。

 ここで、部分積分によってδfについていたifの方につけかえているが、それは一般の場合でもやっていいのか、例えば2=1rθの前には1rがあるのに部分積分に問題はないのか? 極座標の場合は心配ない。2=1rθ,3=1rsinθϕのどちらも、微分と前についている係数(θ1rϕ1rsinθ)は交換するからである。
 一般の座標系でOKかというと、それは座標系による。たとえばシュワルツシュルト計量の場合はこのままではだめ。


 括弧内をδfで割って、 1r2sinθii(r2sinθif(x))+ρ(x)=0 が極座標でのポアッソン方程式だということになる。この式の第一項はf(x)である。 とはつまり、

  1. iをかけて微分して、
  2. r2sinθをかけ、
  3. もう一度iをかけて微分した後、
  4. r2sinθで割る。
  5. iで和を取る。
という計算なのだ。i=1では、 1r2sinθr(r2sinθrf(x))=1r2r(r2rf(x)) という計算になる。sinθr微分を通り抜けるから、関係なくなる。同じことをi=2,i=3でやると、 1r2sinθ1rθ(r2sinθ1rθf(x))=1r2sinθθ(sinθθf(x)) および 1r2sinθ1rsinθϕ(r2sinθ1rsinθϕf(x))=1r2sinθ2ϕ2f(x) となる。i=1,2,3で和を取れば、求めたかった極座標のラプラシアンのできあがり。

 結局おつりの出る理由は、 直交座標の体積積分はdxdydzだが、極座標ではdrdθdϕr2sinθであって、部分積分の時にrr2sinθがひっかかる。 ということで納得できる。


 他の座標系でもこの方法は使える。
 たとえば、三次元円筒座標を使うならラプラシアンはdxdydz=drdθdzrであり、1=r,2=1rθ,3=zである。この場合も、上と同様の計算ができて、 =1rr(rr)+1r22θ2+2z2 となる。

 なお、iの中の微分と、その前についている係数は交換しない場合は、その点を注意しながら部分積分をやり直せばよい。少し手間が増えるだけで同様の計算は可能。

 このようにして一見変なおつりが出てくる理由をちゃんと理解してしまえば、どんな曲線座標が出てきてもラプラシアンがどうなるかはすぐにわかるはずである。


第2の方法:ちゃんと基底ベクトルも微分しろ。


 では次にもう少しストレートな方法で「なぜ単純に自乗しちゃいかんのか?」を考えよう。とりあえず、の自乗というのをまじめに書いてみると、直交座標では =(exx+eyy+ezz)(exx+eyy+ezz) 極座標では =(err+eθ1rθ+eϕ1rsinθϕ)(err+eθ1rθ+eϕ1rsinθϕ) となる。この式をみて早とちりのあわてものが「er,eθ,eϕは互いに直交して長さが1だから、ererのような同じもの同士の内積を残して計算すればいい」とやってしまうと、 =2r2+1r22θ2+1r2sin2θ2ϕ2 となるが、実際には =2r2+2rrおつり+1r22θ2+1r2cotθθおつり+1r2sin2θ2ϕ2 と、この早とちり計算法では出てこないおつりが出てきたものが正解である。

 この早とちり計算法は何がまずいのだろう???

 ここで「左にある微分は、右の括弧内を微分しないのか?」ということに気がつけば正解に一歩近づく。たとえば最初にあるrが、後ろにある1rを微分したら??

 この部分からおつりが出てくるのでは?と一瞬期待するが、ここからは出ない。確かにr(1r)=1r2となるが、この項はeθに比例している。一方rerについているから、内積を取ると0になって効かない。θ,ϕも同様である。

 ここで「じゃあやっぱりおつりは出ないじゃないか」と落胆してはいけない。θ,φに依存するものは他にもあるのである。あからさまに書いていないものだからつい見落としがちなのだが、実はer,eθ,eϕは場所によって違う方向を向いているので、その微分は0ではない場合があるのである。


e_r,e_θ,e_φのイメージ

 では以下で一つずつおつりの出方を確かめよう。まず第1項のerrの部分。この部分はおつりを出さない。なぜなら、er,eθ,eϕの全てが、r方向に移動しても向きが変わらないからである。

 第2項のeθ1rθについては、erθ微分は0ではないことが以下のようにわかる。図にあるように、θΔθ変化すると、新しいer(図では、赤で書いているのが新らしい方)は元のベクトルで書くと、 er=cosΔθer+sinΔθeθ となる。これから、ererを計算してΔθで割ってからΔθ0の極限をとれば、 θer=eθ である。limΔθ0cosθ=1に注意。

 
なお、別の計算方法としては、 er=1r(xex+yey+zez)=sinθcosϕex+sinθsinϕey+cosθez と書き表しておいてθで微分するという方法もある。やってみると、 θer=cosθcosϕex+cosθsinϕeysinθez であって、これはeθである。

 つまりは、 eθ1rθerr から eθ1reθr となって、さらにeθの内積を計算して、 1rr というおつりが出ることになる。

 eθをθで微分すると答えはerになる。よって、 eθ1rθeθ1rθ は、 eθ1rer1r である。しかし、eθと内積をとると0になり、ここは効かない。eϕはθで微分しても変化しないから答えは0である。

 次に、左の括弧内の微分 eϕ1rsinθϕ が後ろにかかるとどうなるかを考えてみる。同じように図を描いて考えるなりしてみれば、 eϕ1rsinθϕerr のところからは、 ϕer=sinθeϕ による結果として 1rr というおつりが出ることになる。

 また、 eϕ1rsinθϕeθ1rθ からは、 ϕeθ=cosθeϕ のおかげで、 eϕcosθrsinθeϕ1rθ となって、 cosθr2sinθθ というおつりが出る。以上、3つのおつりをあわせると、正しいラプラシアンのできあがり。

 こちらの方法で、なぜおつりが出るのかという理由は

基底ベクトルが場所によって違う方向を向いているから、微分しても0じゃないことを忘れるな!

とまとめられるだろう。


第3の方法:一般相対論の公式(参考までに)

 ちなみに、一般相対論になじみのある人ならば、 =gμνμν=gμνμν+gμνΓμνρρ と共変微分を使って定義やればおっけい。ちなみにここでのμはいわゆる共変微分で、Γμνρはクリストッフェル記号。もっとも、一般相対論になじみのある人は少ないし、なじみがあったとしてもクリストッフェル記号をささっと計算できる人は少ないだろう。しかし、 gμνΓμνρ=1gα(ggαρ) ということを知っていると、 =1gμ(ggμνν) と書き直せることがわかって幸せである。実は一般の座標系でこの式を計算すればラプラシアンが出せる。このようなラプラシアンを出す作用は、 dVggμνμfνf である。

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