解析力学には『ネーターの定理』というものがある。『ラグランジュアンで記述される力学系に連続的対称性があると、それに対応する保存則がある』
という感じの定理で、ずいぶん難しいもののように言われることもある。特に
空間の並進対称性 ←(対応)→
運動量保存則
という対応は有名である。有名ではあるが、どういう意味で「対応」しているのかをわかりやすく図解するということは皆無ではないが、あまりされてない
ように感じる。
どこまでわかりやすくなったかは実は自信がない
が、とりあえず、保存則がどのように出てくるのかを図形的に表現してみた。
そこで、ここでは力学系の対称性と保存則がどう結びつくのかを説明していこう。そのためには、「運動量」や「エネルギー」を、別の観点から見て “定義”することが必要である。そこでまず、ラグランジュ形式の解析力学のおさらいから始めよう。
左図は横軸が時間、縦軸が位置座標xとして、運動方程式を満たす経路(1)と、それから少し変化させた(変分
させた)経路(2)を書いている。
最小作用の原理を使って運動方程式を出す時は、左図のように、両端(最初の位置と最後の位置)を固定して経路を変化させ、作用が極大もしくは極小になる
ところを
探す。そのような経路は実は「運動方程式を満足する経路」になっている。
なぜそうなっているかというと、そうなるように“作用”という量を定義したからである。このあたりが納得できないという人
は、まず「最小作用の原理はどこから来るか?」の方を読んでほしい。
このような経路の変更(変分)においては両端を固定して考える。固定しないと、運動はひとつに決まらないのだから、「運動方程式」(運動をひとつ
に定めるための方程式)が出てくるはず
がない。実際にはこのように両端を固定して経路をいろいろ考えると、ただひとつ(問題によっては複数個みつかる場合もあるが)、「運動方程
式を満たす経路(ということはつまり、実際に起こる運動の経路)」が見つかる。図では、運動方程式を満たす経路を黒で、満たさない経路を青で表現した。黒
い経路に関して計算した作用の値は極大値または極小値なのだから、青い経
路に関して計算した作用の値はδの2次以上は無視するという近似においては同じである(変分の1次の量までという近似をした場合であることに注意)。
以下では同様に、変分のパラメータについて2次以上については無視して話をする。
ここで、「端を固定しない経路の変化を考えると何が起こるのか?」と考えてみよう。この場合、到着する場所が変わっている
のだから、変更する前と変更した後の経路が両方ともが運動方程式を満たす経路で有り得る。だから、左の図でも両方を黒で表現している。
さてこのように到着点を変化させるような変分をとると、作用は(変分が微小だとして、その1次の量まで考えるという約束はこれまでと同じ)どのよ
うに変化するだろう。両端を固定した場合は「作用の値は(δの2次以上を無視すれば)変化しない」というのが答えだったが、今度は変化する。その変化量が
運動量と関係してくるのである。
図を見ていると、その変化は今考えている時間間隔(出発時刻から到着時刻まで)の全体に及んでいる。それゆえ、この変化によって作用がどう変わる
かを計算したとしたら、結果
は出発時刻から到着時刻までにおける経路の変化すべての情報が集約されたものになるだろう、と思うかもしれない。というか、そう考える方が自然だ。
ところがそうではないのである。
たとえば、左の図のような経路(4)を考えると、経路の変分(1)→(4)による作用の変化は0である(もちろん、δの2次以上を無視した場
合)。
この経路(4)(これは運動方程式を満たしていないので青で書いている)と上の図の経路(3)の違いは、最後だけである。経路(4)は最後にきていきな
り「おっと俺の到着点はこっちだった」とばかりに軌道修正を行って(1)と同じ到着点についてしまう。ゆえに(1)→(4)は両端を固定した変分であり、
(1)が運動方程式を満たす経路であるので、(1)からの微小な変分に対し、作用は変化しない。
(3)と(4)の差は最後(到着点)だけであり、(1)→(4)による作用の変化は0なのだから、(1)→(3)による作用の変化も、実は最後
(到着点)の違いだけになることになる。
(3)の経路から、(4)の経路の分を引いた結果の経路を図で書くと左のようになる。この経路(4)は、ずっと(1)と同 じ道を たどってきたのに、最後の最後になって「(1)と同じ道を行くのは嫌だぁぁ」とばかりに道を踏み外している。
結果として、(1)と、(3)−(4)の差は到着点xfでの量だけが問題になる。つまり、途中は関係なく、最後の瞬間がす
べてを決めるのである。
以上を数式で確認しよう。(1)→(3)の変分を考える。経路(1)がx(t)という関数で表され、経路(3)がx(t)+δ(t)で表されているとす
る。(1)→(3)による作用の変化は
∫L(x+δ,(dx/dt)+(dδ/dt)) dt - ∫L(x,(dx/dt)) dt
である。δが小さいとしてテーラー展開すれば、この式は
∫( |
∂L ∂x |
δ+ |
∂L ∂(dx/dt) |
dδ dt |
)dt |
となる。ここで、オイラー・ラグランジュ方程式
∂L ∂x |
= |
d dt |
( |
∂L ∂(dx/dt) |
) |
∫( |
d dt |
( | ∂L ∂(dx/dt) |
) | δ+ |
∂L ∂(dx/dt) |
dδ dt |
)dt |
= |
∫ |
d dt |
( | ( | ∂L ∂(dx/dt) |
) | δ |
)dt |
( | ∂L ∂(dx/dt) |
) | δ |
( | ∂L ∂(dx/dt) |
) |
【ちょっと脱線】 量子力学をすでに学んでいる人は、運動量が-i∂/∂xであって、定数倍を除いてまさに(x微分)であることを知っているだ ろう。これはもちろん偶然ではなく、量子力学と古典力学のある関連性(古典力学的作用を(-i)で割ったものが 「波動関数の位相」)に由来する。詳しいことはこちらを参照のこ と。 |
- |
∂L
∂(dx/dt) |
(dx/dt) | ε |
( | L- |
∂L
∂(dx/dt) |
(dx/dt) | ) | ε |
∂L
∂(dx/dt) |
(dx/dt) - L |
【ちょっと脱線その2】 相対論をすでに学んでいる人は、エネルギーが運動量の「時間成分」であることを知っているだ ろう。しかし、相対論以前にできあがった解析力学ですでに「エネルギーは時間方向の運動量なんだな」と思わせる結果が出ていたことになる。解析力学によっ て、後でできあがる量子力学と相対論のために準備が整えられていたわけである。 |
- |
∂L
∂(dx/dt) |
(dx/dt) | ε |
( | L- |
∂L
∂(dx/dt) |
(dx/dt) | ) | ε |