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いろもの書評・感想:SF長編

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 前ここにあった、野尻抱介「太陽の簒奪者」は、ネタバレありは別ファイルにしたほうがよかろうと思ったので、こっちの別ファイルに移しました。


武上純希 「ウルトラセブン EPISODE:0」 

2002年5月31日初版発行 ソノラマ文庫 ISBN4-257-76962-9

 NiftyのFSFでチャットしてたら「話題になってますよ」と言われたので買った。いい意味で話題になっているのか、悪い意味で話題になっているのか、どっちの意味で言われたのか忘れちゃったんだけど、どっちだったんだっけか。
 で、私自身の感想としては気にいりましたよ。いろいろ気になるといえばなるんだけど、「特撮映像作品を見るとき用フィルター」(何十年もかけてわしの心にいつしか生成されておるのです)をかけて読めば許せる範囲かと。
 感想に入る前に、この本の腰巻き(帯)なんですがね。「ウルトラセブンが罪人として裁かれる」とか「セブンの地球での戦いは許されざる犯罪だったのか……」なんて書いてあるんですわ。これ見たらてっきり、あのTV版「ウルトラセブン」のあの戦いのことだと思ってしまいますわな。しかし時代は動いているんですなぁ(わしは取り残されているんですなぁ)、この「戦い」ってのは1999年に出たビデオ版のウルトラセブンの時の戦いなんですな。わしはそのビデオ見てなかったんで、読み始めてしばらくして「しまった、ビデオ見てから読むべき本だったか」と思いつつ、まぁ最後まで読んでしまいました。そういうわけでこの本の元になっているビデオの方は見てないんですが、この本の話は「ウルトラセブン」の「ノンマルトの使者」の続編となっているんですな。
 ノンマルトと言えば、ウルトラセブンの中でも最高に後味悪い話じゃないかな。地球人の原住民だと主張するノンマルト(正確に言うと本人は主張してないんですけどね)が逆襲してくるという話。セブンが「ノンマルトが原住民だとすると地球人は侵略者ということになる」と悩みつつ地球人の味方をし、キリヤマ隊長は「我々の勝利だ!」と言いながらノンマルトの基地をたたきつぶす。最後で幽霊話に結びつけて、「これでええんですか?」という思いを視聴者に持たせたまま終わっちゃうという話。
 こういうふうに曖昧に終わらせた話をあえて、ノンマルト=先住民を事実だとして、さらに宇宙には先住民優先という法律があるらしく、その法律からするとノンマルトVS地球人の戦争となった時にセブンが地球人側にたつということは法律違反である、という話になる。ややこしい話にあえて挑戦したなぁ、と思いますな。残念なのは地球人がどのように宇宙社会の中での交流を行っているのか、というあたりをちゃんと描ききってないから、宇宙の法では地球人は地球から出て行かなくちゃならないとか言われてもちょっと唐突な感じがするんですな。一方で地球人はフレンドシップ計画なんて言いながらあちこちの星を攻撃してたりする。これじゃ「地球人は宇宙の法律守る気あるんか?」という気もしてくる。
 「宇宙社会の中の地球人」の描写をちゃんとやった上でドラマ作れば、「地球人=侵略者」を隠そうとする連中の動きとかも、もっと説得力あるんですが。

 で、この本で一番いいシーンは、キリヤマ隊長がなぜノンマルトを攻撃したのかを明かすシーンです。キリヤマさんあんた男やねぇ。よく考えてみればもちろん、キリヤマがそこまで考えての行動だったとは(正確に言うならば当時のスタッフがそこまで考えてあのシーンを撮ったとは)思えないんだけど、とにかく一つ「男だねぇ」という感想を持てる答をこの本の流れの中で出したということ。ここには素直に拍手。案外作者が一番書きたかったのはここじゃないの、と思ったりもするんだけど。

 ところでウルトラセブンの描写として、意思を持つ光の集合体だったり、ミュー粒子で通信したりしてます。なんでミューなんて寿命の短い粒子で通信するんだよ、と物理学者としてはつっこみたくなるところですが、妙に『科学的』(括弧つきであることに注意)描写をしていたり、アカシックレコードなんて話も出てきて、妙に精神世界っぽいキーワードを使いながらウルトラセブンがしゃべっているのも、『AΩ』の影響ですかねぇ。